金色の粉
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俺の誕生日は11月3日。
その日から今日まで、ずっと、自販機の前でマネークリップを出せば「おごってよお兄様」カレンダーを見るたびに「今日もまだ、小野瀬の方が年上ね」残業で疲れた顔なんて見せようものなら「やっぱり、ワタシよりおっさんなのよね」と、事あるごとに言われ、からかわれ続けてきたのだ。
絶対、このまま無事に誕生日を終わらせてなんかやるものか。
RRRRR……
黒電話のベルを模した着信音は、穂積のケータイだ。
穂積
「あら、明智から着信だわ。悪いわね小野瀬、電話出ていい?…はい、穂積」
さっきまで普通だったのに、部下から電話がかかってきた途端、声が裏返って喋り方がオネエになる男ってどうなんだ。
もう、職場=オカマというのが条件反射になってるんだろうけれど(それに関しては少なからず、責任を感じないでもないけれど)。
穂積
「ケーキ?」
ああ。
明智くんは料理が得意で、いつも、メンバーの誕生日にはケーキを焼いて持って来てくれる。
きっと、今日もそのつもりで準備してきたのが、降って湧いた慌ただしさの中で、穂積に手渡すのを失念してしまったんだろう。
穂積
「いいえ、これから小野瀬のとこ」
穂積が、助手席から、ちらりと横目で俺を見た。
ハンドルを握っているのは俺なので、穂積の今夜の行動には、俺の許可が必要なわけだ。
そう考えると、明智くんには悪いけれど、少しだけ気分が良かった。
小野瀬
「届けてもらってもいいよ、でも、せっかくのケーキだから、俺たち3人で、ってのも、ねえ。明日、みんなで食べる方がよくない?」
俺は、つとめてさりげなく、明日、みんなで、というところに力を込めて、答えた。
穂積
「そうねえ。……明智、悪いけど、明日に出来る?……うん、ありがとう」
真面目な明智くんの事だ。
分かりました、作り直してまた明日、とでも答えたんだろう。
穂積はそのまま、通話を切った。
おそらく明智くんの今日のケーキは、実家にいる3人のお姉さんたちのお腹の中に納まるに違いない。
すると。
穂積
「藤守からも着信してたわ」
画面を見た穂積が指を動かす。
ほとんど同じタイミングで2人から電話がかかってきたのだけれど、明智くんが一瞬早くて、そのため、藤守くんからの電話は繋がらず、履歴に残ったというところか。
穂積
「藤守?ごめんなさいね話し中で。どうかした?」
まだオネエなのかよ。
穂積
「今?車の中よ。これから小野瀬のとこ。え?…来たい?」
小野瀬
「だめだめ、どうせ如月くんも一緒なんだろ?お前らが集まると、絶対大騒ぎするだろ。管理人さんに叱られちゃう」
運転席で、前を向いたまま俺が即答すると、穂積が、くすくすと笑った。
穂積
「ワタシたち、集まると騒ぐからだめ、ですって。強く否定は出来ないわねえ」
自覚はあるんだな。
穂積
「仕方ないわよ。小野瀬のとこはほら、先週も、泊まりに来た女の子たちが、マンションの部屋の前で鉢合わせしちゃってさあ。それも、3人!当然、修羅場でしょ。危うく警察沙汰よ。そりゃ、管理人さんに目をつけられちゃうわよねーえ!」
とんでもないことを暴露して、穂積は大笑いしている。
小野瀬
「余計な事は言わなくていいの!」
実際は4人だった。
穂積
「で、アンタたちは今、どこにいるの?ああ、あの店ね。じゃあ、ワタシの名前でボトル入れていいわよ。好きなだけ飲んで、今日はお帰りなさい。いいのいいの、また、明日ね」
『ゴチになります!』という大きな声が、電話越しなのに、俺の耳にまで届いた。
穂積が、はいはい、と、笑いながら通話を切る。
穂積
「ん?」
小野瀬
「どうしたの、また電話?」
穂積
「小笠原からメールだわ。『誕生日おめでとう』ですって。ふふ、シンプルだけど嬉しいわねえ。明日会ったら、捕まえてハグしてやろうかしら」
小野瀬
「嫌がられると思うから、やめとけば?」
小笠原が真っ赤になって、必死に穂積を振りほどこうとする姿が容易に目に浮かぶ。
もちろん、嬉しいくせに素直になれないだけなのだけれど。
あの、引きこもりだった小笠原が、宴会に参加したり、自分から、他人の誕生日にメッセージを送るようになるなんて、ちょっと前なら想像も出来なかったな。
そんな事を考えて、俺は、知らず知らずのうちに頬を緩めていた。