金色の粉
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~小野瀬vision~
12月18日。
今日は穂積の誕生日。
俺の車のトランクには、段ボール箱に溢れるほど積まれた酒とつまみ、そして、助手席には、これからそれらを消費する予定の、大酒飲みの大食漢が乗っている。
穂積
「お前と家飲みとか、久し振りだな」
さっきから微かに聴こえていたハミングが途切れて、思い出したようにぽつりと呟いた穂積の声が聞こえた。
小野瀬
「そうだね」
俺の返事に続く会話はなかったけれど、やがて、心地良い旋律のハミングが再び緩やかに車内に流れ始めて、俺はそれに耳を澄ませた。
軽やかなワルツのリズム。
窓ガラス越しに通り過ぎてゆく夕暮れの雑踏を眺めている穂積のご機嫌は、まずまずといったところらしい。
本来なら今夜は、穂積が室長を務める、警視庁緊急特命捜査室のメンバーたちが、いつもの居酒屋で、鍋を肴に誕生日祝いの宴会を開いてくれるはずだった。
ところが、今朝になって、予約してあった居酒屋から連絡が入った。
なんでも、従業員やアルバイトたちが、インフルエンザに集団感染してしまったのだと言う。
女将だけはインフルエンザウィルスにも恐れられたらしく(失礼)、いつも通り元気なのだそうだけれど、さすがに1人で12月半ばの、繁忙期の居酒屋は回せない。
お店は急遽、臨時休業と相成った。
もちろん、その連絡を受けた明智くんたちは、すぐさま、代わりの店を探す為に四方八方へ問い合わせて奮闘してくれたものの、この時期、手頃な飲食店はどこも忘年会シーズン。
そんな時期に、予約もしてない飛び込みの客に、はいどうぞと貸し切りの座敷を用意してくれる店を確保するのは、至難の技だ。
まして、捜査室のメンバーときたら、大柄な若い男が何人も店内をうろつくだけでも邪魔なのに、牛飲馬食で大騒ぎし、終いには服まで脱ぎだして、支払いを賭けて腹筋競争を始めるような筋肉馬鹿の集まりだ。
男子校みたいなノリには付き合いきれない、と、普段なら呆れている小笠原まで、一緒になって腹筋やら腕立て伏せやらしてしまうのだから、その馬鹿騒ぎの勢いときたら相当なものだ。
生来の勝ち気さが刺激されてしまうのか、それとも、こんな連中に付き合わされたうえ、自分はろくに食べないのに莫大な支払いまでさせられるなんて、理不尽だと思うのか。
多分、両方だと思うけれど。
唯一、最年少の櫻井さんが楽しそうな事だけが救いかな。
でもまあ、彼女は、穂積と結婚を前提にお付き合いをしていて(俺以外のみんなには、まだ内緒)、穂積がいる所へなら、どこへでも喜んで付いて来るだろうから、これは別枠。
一方で、俺が、毎回、この面子に加わる羽目になるのは、酔っ払いばかりで収拾がつかなくなるのを防ぐ為、常識人枠、あるいはストッパー役として、呼び出されるからだ。
酒を飲めないから仕方ないんだけど、損な役回りだよね。
さらに迷惑な事に、金髪碧眼で美形の穂積を筆頭に、全員、見た目だけは並以上だから、無駄に目立つ事この上ない。
さらにさらに、全員が警察官。
多種多様なお客さんたちが、楽しく寛ぐ為に集まる飲食店にとっては、何か起きた時こそ頼もしいけれど、そうでなければ、どちらかと言えば煙たい存在だろう。
それも、よりによって刑事だ。
ひとたび事件が発生すれば、宴会なんてすっぽかされてしまうリスクもある。
そうなったら、たとえ弁償されたところで、店にとってはメリットより、デメリットの方が大きいかもしれない。
……そんなこんなで、代わりの店を見つける事は、無理だった。
俺たちは今まで、いつものあの居酒屋だからこそ、あの女将の、文字通りに広い胸と(失礼)懐の深さがあってこそ、安心して宴会を楽しんでこられたのだ。
改めてそれを痛感する羽目になって、藤守くんなどは、敬愛する穂積を祝う場所を準備出来ないなんて、自分たちはなんて不甲斐ないんや、と男泣きしたものだ。
もっとも、穂積の方は、なにしろ穂積だから、そんな藤守くんや如月くんの頭をよしよしと撫でて労いながら、
穂積
「アンタたち、ありがとう。祝ってくれる気持ちだけで充分よ。インフルエンザが収まったら、また、あの居酒屋に厄介になりましょう」
なんて言って、とりあえず、今日は解散になった。
だけど、だ。
それでは、俺の気が済まない。