アメリカ外伝・1
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~*アメリカ外伝・1*~
~小野瀬vision~
穂積が渡米して、約半年。
俺も相変わらず忙しかったけど、何とか予定通りに仕事と休みを工面して。
やって来ましたニューヨーク。
国際電話で話した時、穂積は、住んでいるのはNY市警に近い、安価なアパートだと言っていた。
けれど、聞いた番地を頼りに辿り着いたのは、小振りだけれど瀟洒な建物。
周りと比べると、高級な部類に入ると言っていい。
入室にはカードか英数字のパスワードが必要だし、セキュリティもなかなかのものだ。
小野瀬
「……穂積って、やっぱり日本人なんだな」
妙なところで納得し、独り言など呟きながら、俺は穂積の部屋を目指した。
エントランスやエレベーターも綺麗で、さすがに廊下に花まで飾られてはいないものの、安全で清潔な感じ。
これなら、俺でもここを選ぶかも。
穂積の部屋の前に立って、メモとルームナンバーを照らし合わせていると、いきなり、内側からドアが開いた。
出て来たのは、ビシッとパンツスーツを着こなした、ブルネットの短髪に青い目の美女。
小野瀬
『あ、失礼』
俺は反射的に一歩引いたが、なんと、彼女はいきなり俺のシャツの胸倉を掴んだ。
美女
『身分証明書を提示しなさい』
俺は、手探りでパスポートを探った。
小野瀬
『ま、マイ ネーム イズ、アオイ・』
穂積
「小野瀬!!」
俺と彼女の問答の最中に、部屋の中から、今度は男が飛び出して来た。
小野瀬
「穂積!!」
こちらは明らかに部屋着で、記憶より少し髪が伸びているが、俺が見間違えるはずがない。
懐かしい笑顔に、俺も思わず破顔一笑する。
小野瀬
「元気?」
穂積
『おう。ジョー、手を離せ。俺の知り合いだ』
穂積の説明で、ジョー、と呼ばれた女性は、俺を掴んでいた手を離した。
ジョー
『あら。ごめんなさい。変質者かと思っちゃって』
穂積
『まあ変質者だけど』
小野瀬
『日本の鑑識官だよ!』
それから俺は部屋の中に通されて、ジョーにコーヒーを淹れてもらった。
穂積
『出勤しなくていいのかよ』
心配する穂積に対して、ジョーはニコニコ笑っている。
ジョー
『ルイの恋人が日本から来たのよ。コーヒーくらい出さなくちゃ』
穂積
『恋人じゃねえ!』
小野瀬
『え?俺はてっきり、ジョーさんの方が穂積の恋人かと思ったんだけど?』
男女が早朝同じ部屋にいれば、普通はそう思うだろう。
穂積
『部屋をシェアしてるだけだ』
ジョー
『ルイは散らかすから困ってるの』
ジョーさんは苦笑いして、肩をすくめた。
ジョー
『呼び捨てでいいわよ、アオイ。ルイと肉体関係は無いから、心配しないで』
小野瀬
『いや、そんな心配はしてないけど』
ジョー
『私は男性に興味が無いの。好きなのは、女性』
穂積
『小野瀬と同じだな』
小野瀬
『ややこしくするな!』
その後の2人の説明によれば、ジョーは、NY市警の職員のひとりだという。
穂積がこの部屋を先に借りたが、ほとんど寝る為だけにしか使わないと知って、ジョーがシェアを申し込んだのだそうだ。
穂積
『そしたらこいつ、初日に女連れ込んでやがってよ』
ジョー
『ルイに物凄く怒られた』
小野瀬
『……だろうね』
穂積
『帰って来たら、部屋が百合の花園だぞ。そんな所に居られるか!』
ジョー
『3日間帰って来なかったのよ』
小野瀬
『どこに行ってたの、穂積?』
俺は、コーヒーを啜っている穂積に訊いた。
穂積
『モーテルから出勤してた』
家主なのに。
優しいよね、とジョーが笑う。
ジョー
『で、謝って許してもらって、それ以来、ここに彼女を連れてくるのはやめたの。ついでに言うとヌーディストなんだけど、ルイがいる時は服を着るようにしてるのよ』
穂積
『当たり前だ!』
さすがは穂積と暮らすだけあって、図太い。
ジョーは高笑いしてから、腕時計を見た。
ジョー
『さ、もう仕事に行かなきゃ。アオイ、今夜は私がモーテルに泊まるから。遠慮なく、ルイとメイクラブしてね』
小野瀬
『ありがとう』
穂積
『しねえよ!お前も、ややこしくするな!』
俺が穂積に小突かれるのを見ながら、ジョーは微笑む。
ジョー
『本当に仲良しなのね。アオイが来てくれて、ルイ、とても嬉しそう』
小野瀬
『穂積は俺が好きだからね』
穂積
『誤解を招く発言はやめろ!』
穂積が真っ赤になった。
ジョー
『ははーん、なるほど。やっぱりね』
穂積
『やっぱりって何だ!』
ジョー
『だって、私といてもムラムラしないみたいだし。若い男のくせに、変だと思ってたのよ』
それは、穂積には、何年も前から片想いしている女の子がいるからだよ。……これは、言わないけど。
ジョーはニコニコしながら、俺に向かってウインクした。
ジョー
『でも、それはアオイがいるからだったのね。みんなに教えてあげましょ。ロバートやポールが泣くわよ。それとも喜ぶかしら』
穂積
『待てー!』
追い掛ける穂積の腕が空振りして、ジョーは、高笑いと共に出勤していった。
穂積
「小野瀬ー!」
今度は穂積に胸倉を掴まれる。
穂積
「お前は、余計な事をベラベラと!」
小野瀬
「事実だからいいじゃん。ロバートやポールには悪いけど」
穂積
「両方ゲイだよ!……ああ、半年かけて築いた、俺のクールでドライなイメージが」
穂積が、両手で顔を覆った。
小野瀬
「ジョーの話を聞く限り、そのイメージ戦略は成功してないよ」
人の本性なんて、そうそう隠し切れるものじゃないし。
クールでドライなんて、穂積の本性には程遠いしな。
小野瀬
「それに、研修中の行動はNY市警から報告される。お前は、警視庁ではオカマで通ってる。急に男に戻ったら、魔女に怪しまれる。俺の恋人だと言っておくほうが賢明だと思うけど」
穂積
「……お前、いつの間にそんなに前向きになったんだ……」
顔を覆った指の隙間から、穂積が溜め息をつく。
小野瀬
「まあまあ。どうせ、もうじきロスに異動でしょ」
穂積
「まあ、そうだけど……しかし、明後日からどんな顔をして……」
まだぶつぶつ言っている穂積に、俺は、スーツケースから1升瓶を2本、取り出した。
小野瀬
「はいこれおみやげ」
穂積
「あっ!」
俺が差し出したのは、『森伊蔵』2本。
鹿児島の、幻と呼ばれる焼酎だ。
穂積の喉が、ごくりと鳴った。
穂積
「これ……お前……大変だっただろう……?」
穂積は恐る恐る、厳重に梱包した瓶に触ってみている。
予想以上の反応に、俺も嬉しくなった。
小野瀬
「まあ、ね。幻って言われてるだけあって、なかなか手に入らないものなんだね」
穂積
「いや、入手もそうだが、これを……割らないように、アメリカまで……」
小野瀬
「穂積が喜ぶ顔を直接見たかったからね。手荷物で持ってきた」
穂積
「ありがとう。持つべきものは友だなあ!」
穂積が、梱包の上から抱えるようにして、瓶に頬擦りした。
友だって。
俺は自分が頬擦りされているようで、くすぐったくなる。
小野瀬
「イメージを崩壊させた件は許してくれる?」
穂積
「許す許す」
穂積の無邪気な笑顔を見ているのは飽きない。
日本にいたら、お互いに事件に縛られて、こんなに寛いだ気分でのやり取りは滅多に出来ないだろう。
穂積
「早速一杯やりたいところだが、お前、飲めないしな。何か食いに行くか?」
小野瀬
「うん。ニューヨーク名物を食べさせてよ」
穂積は声を立てて笑った。
穂積
「俺はジョーから、それはベーグル、ホットドッグ、ピザ、クラムチャウダー、チーズケーキだと教わった。だが、ここでは世界中の料理が食えるよ。俺には近所のベンダーのホットドッグが一番だけどな」
小野瀬
「じゃあ、それで」
穂積
「おう。待ってろ」
スーツではなくシャツとデニムに着替える穂積を見ていると、俺はまだここが外国なのだと自覚する。
明日の夜には俺だけが帰国して、また、退屈な日常が始まるのだ。
穂積が日本に帰って来るまでの、あと半年が待ち遠しい。
~END~
~小野瀬vision~
穂積が渡米して、約半年。
俺も相変わらず忙しかったけど、何とか予定通りに仕事と休みを工面して。
やって来ましたニューヨーク。
国際電話で話した時、穂積は、住んでいるのはNY市警に近い、安価なアパートだと言っていた。
けれど、聞いた番地を頼りに辿り着いたのは、小振りだけれど瀟洒な建物。
周りと比べると、高級な部類に入ると言っていい。
入室にはカードか英数字のパスワードが必要だし、セキュリティもなかなかのものだ。
小野瀬
「……穂積って、やっぱり日本人なんだな」
妙なところで納得し、独り言など呟きながら、俺は穂積の部屋を目指した。
エントランスやエレベーターも綺麗で、さすがに廊下に花まで飾られてはいないものの、安全で清潔な感じ。
これなら、俺でもここを選ぶかも。
穂積の部屋の前に立って、メモとルームナンバーを照らし合わせていると、いきなり、内側からドアが開いた。
出て来たのは、ビシッとパンツスーツを着こなした、ブルネットの短髪に青い目の美女。
小野瀬
『あ、失礼』
俺は反射的に一歩引いたが、なんと、彼女はいきなり俺のシャツの胸倉を掴んだ。
美女
『身分証明書を提示しなさい』
俺は、手探りでパスポートを探った。
小野瀬
『ま、マイ ネーム イズ、アオイ・』
穂積
「小野瀬!!」
俺と彼女の問答の最中に、部屋の中から、今度は男が飛び出して来た。
小野瀬
「穂積!!」
こちらは明らかに部屋着で、記憶より少し髪が伸びているが、俺が見間違えるはずがない。
懐かしい笑顔に、俺も思わず破顔一笑する。
小野瀬
「元気?」
穂積
『おう。ジョー、手を離せ。俺の知り合いだ』
穂積の説明で、ジョー、と呼ばれた女性は、俺を掴んでいた手を離した。
ジョー
『あら。ごめんなさい。変質者かと思っちゃって』
穂積
『まあ変質者だけど』
小野瀬
『日本の鑑識官だよ!』
それから俺は部屋の中に通されて、ジョーにコーヒーを淹れてもらった。
穂積
『出勤しなくていいのかよ』
心配する穂積に対して、ジョーはニコニコ笑っている。
ジョー
『ルイの恋人が日本から来たのよ。コーヒーくらい出さなくちゃ』
穂積
『恋人じゃねえ!』
小野瀬
『え?俺はてっきり、ジョーさんの方が穂積の恋人かと思ったんだけど?』
男女が早朝同じ部屋にいれば、普通はそう思うだろう。
穂積
『部屋をシェアしてるだけだ』
ジョー
『ルイは散らかすから困ってるの』
ジョーさんは苦笑いして、肩をすくめた。
ジョー
『呼び捨てでいいわよ、アオイ。ルイと肉体関係は無いから、心配しないで』
小野瀬
『いや、そんな心配はしてないけど』
ジョー
『私は男性に興味が無いの。好きなのは、女性』
穂積
『小野瀬と同じだな』
小野瀬
『ややこしくするな!』
その後の2人の説明によれば、ジョーは、NY市警の職員のひとりだという。
穂積がこの部屋を先に借りたが、ほとんど寝る為だけにしか使わないと知って、ジョーがシェアを申し込んだのだそうだ。
穂積
『そしたらこいつ、初日に女連れ込んでやがってよ』
ジョー
『ルイに物凄く怒られた』
小野瀬
『……だろうね』
穂積
『帰って来たら、部屋が百合の花園だぞ。そんな所に居られるか!』
ジョー
『3日間帰って来なかったのよ』
小野瀬
『どこに行ってたの、穂積?』
俺は、コーヒーを啜っている穂積に訊いた。
穂積
『モーテルから出勤してた』
家主なのに。
優しいよね、とジョーが笑う。
ジョー
『で、謝って許してもらって、それ以来、ここに彼女を連れてくるのはやめたの。ついでに言うとヌーディストなんだけど、ルイがいる時は服を着るようにしてるのよ』
穂積
『当たり前だ!』
さすがは穂積と暮らすだけあって、図太い。
ジョーは高笑いしてから、腕時計を見た。
ジョー
『さ、もう仕事に行かなきゃ。アオイ、今夜は私がモーテルに泊まるから。遠慮なく、ルイとメイクラブしてね』
小野瀬
『ありがとう』
穂積
『しねえよ!お前も、ややこしくするな!』
俺が穂積に小突かれるのを見ながら、ジョーは微笑む。
ジョー
『本当に仲良しなのね。アオイが来てくれて、ルイ、とても嬉しそう』
小野瀬
『穂積は俺が好きだからね』
穂積
『誤解を招く発言はやめろ!』
穂積が真っ赤になった。
ジョー
『ははーん、なるほど。やっぱりね』
穂積
『やっぱりって何だ!』
ジョー
『だって、私といてもムラムラしないみたいだし。若い男のくせに、変だと思ってたのよ』
それは、穂積には、何年も前から片想いしている女の子がいるからだよ。……これは、言わないけど。
ジョーはニコニコしながら、俺に向かってウインクした。
ジョー
『でも、それはアオイがいるからだったのね。みんなに教えてあげましょ。ロバートやポールが泣くわよ。それとも喜ぶかしら』
穂積
『待てー!』
追い掛ける穂積の腕が空振りして、ジョーは、高笑いと共に出勤していった。
穂積
「小野瀬ー!」
今度は穂積に胸倉を掴まれる。
穂積
「お前は、余計な事をベラベラと!」
小野瀬
「事実だからいいじゃん。ロバートやポールには悪いけど」
穂積
「両方ゲイだよ!……ああ、半年かけて築いた、俺のクールでドライなイメージが」
穂積が、両手で顔を覆った。
小野瀬
「ジョーの話を聞く限り、そのイメージ戦略は成功してないよ」
人の本性なんて、そうそう隠し切れるものじゃないし。
クールでドライなんて、穂積の本性には程遠いしな。
小野瀬
「それに、研修中の行動はNY市警から報告される。お前は、警視庁ではオカマで通ってる。急に男に戻ったら、魔女に怪しまれる。俺の恋人だと言っておくほうが賢明だと思うけど」
穂積
「……お前、いつの間にそんなに前向きになったんだ……」
顔を覆った指の隙間から、穂積が溜め息をつく。
小野瀬
「まあまあ。どうせ、もうじきロスに異動でしょ」
穂積
「まあ、そうだけど……しかし、明後日からどんな顔をして……」
まだぶつぶつ言っている穂積に、俺は、スーツケースから1升瓶を2本、取り出した。
小野瀬
「はいこれおみやげ」
穂積
「あっ!」
俺が差し出したのは、『森伊蔵』2本。
鹿児島の、幻と呼ばれる焼酎だ。
穂積の喉が、ごくりと鳴った。
穂積
「これ……お前……大変だっただろう……?」
穂積は恐る恐る、厳重に梱包した瓶に触ってみている。
予想以上の反応に、俺も嬉しくなった。
小野瀬
「まあ、ね。幻って言われてるだけあって、なかなか手に入らないものなんだね」
穂積
「いや、入手もそうだが、これを……割らないように、アメリカまで……」
小野瀬
「穂積が喜ぶ顔を直接見たかったからね。手荷物で持ってきた」
穂積
「ありがとう。持つべきものは友だなあ!」
穂積が、梱包の上から抱えるようにして、瓶に頬擦りした。
友だって。
俺は自分が頬擦りされているようで、くすぐったくなる。
小野瀬
「イメージを崩壊させた件は許してくれる?」
穂積
「許す許す」
穂積の無邪気な笑顔を見ているのは飽きない。
日本にいたら、お互いに事件に縛られて、こんなに寛いだ気分でのやり取りは滅多に出来ないだろう。
穂積
「早速一杯やりたいところだが、お前、飲めないしな。何か食いに行くか?」
小野瀬
「うん。ニューヨーク名物を食べさせてよ」
穂積は声を立てて笑った。
穂積
「俺はジョーから、それはベーグル、ホットドッグ、ピザ、クラムチャウダー、チーズケーキだと教わった。だが、ここでは世界中の料理が食えるよ。俺には近所のベンダーのホットドッグが一番だけどな」
小野瀬
「じゃあ、それで」
穂積
「おう。待ってろ」
スーツではなくシャツとデニムに着替える穂積を見ていると、俺はまだここが外国なのだと自覚する。
明日の夜には俺だけが帰国して、また、退屈な日常が始まるのだ。
穂積が日本に帰って来るまでの、あと半年が待ち遠しい。
~END~