アメリカ
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~小野瀬vision~
アメリカに行く事になった、と穂積から聞かされたのは、出発する3ヶ月前の、火曜日だった。
この頃、穂積は刑事二課にいた。
詐欺や贈収賄など、いわゆる知能犯罪を扱う部署だ。
警察庁採用でキャリアの穂積は、初年度から、警察大学を皮切りに、教育研修や訓練などで出向続きだった。
実際、入庁式での初対面以来、ほぼ1年、俺は穂積の顔を見なかったほどだ。
警視庁に来て俺と再会してからも、警備部や刑事部などの中で、再三、配置を変えられていた。
幹部候補生だから、将来の為だから、と言えばそれまでだが、ようやく新しい仕事や環境に慣れた頃、全く違う部署に移らなければならないというのは辛いものだ。
だが、穂積という男は、俺の知る限り、上からの命令には粛々と従ってきた。
仕事に関して天賦の才を持ちながら、いつでも驕らず真面目に取り組み、人間関係にも気を遣う。
どんな環境でも、どんな仕事を与えられても、穂積が必ず頭角を現すのはその成果だと、この頃の俺には分かってきていた。
その穂積に、今度はアメリカへの辞令が出た。
こちらは技官である鑑識官、穂積は警察官だという違いはもちろんある。
だが、穂積と俺とでは時間の流れが違ってきている気がして、俺は、穂積からアメリカ行きの話を聞かされ、その夜バーに誘われた時も、何となくもやもやしていた。
穂積
「急に誘って悪かったわね」
俺の車の助手席に乗り込むなり、穂積はそう言って謝った。
小野瀬
「どう致しまして。ちょうど、急ぎの分析が終わったからね。タイミングが合って良かったよ」
穂積
「鑑識も大変よね。あんな緻密な仕事なのに、毎日『早く早く』って急かされて」
穂積がシートベルトを装着したのを確かめて、俺は車を発進させた。
小野瀬
「まあね。でも、俺たちがぐずぐずしてたら、刑事が犯人を逮捕出来ないから」
確かにそうだわ、と、穂積が頷いている。
小野瀬
「それより、アメリカのどこだって?」
穂積
「1年間の予定で、ニューヨーク市警とロス市警ですってよ」
俺は口笛を吹いた。
小野瀬
「凄いね。一般の警察官なら、何度も申請を出して、しかも、筆記と面接の試験に合格しなきゃ行けない場所じゃない?」
穂積
「らしいわね。ワタシの場合は否応無しだけど」
穂積は、にこりともせずに答えた。
穂積
「ま、FBIやICPOの見学も日程に含まれてるし、滅多に行けない場所なのは間違いないわ」
それに、と穂積が付け加えた。
穂積
「向こうにいる間は、この忌々しいおネエ言葉も封印出来るしね」
俺は、声を立てて笑ってしまった。
小野瀬
「穂積にはアメリカの空気が合うんじゃない?」
穂積の軽口に合わせて、何の気なしに出た言葉だった。
穂積の実力なら、きっと、向こうでも充分通用する。
警視庁というしがらみから解放されて、もっと自由に力を発揮出来る。
そういうつもりだった。
穂積
「どういう意味?」
だから、穂積が真顔でこちらを向いた時も、俺は、穂積の態度が変わった事に気付くのが遅れた。
小野瀬
「向こうなら金髪も普通だし、お前単身赴任だろ。日本にいるより気楽かもしれないよ」
穂積
「……そうかもな」
穂積は静かにそれだけ言った。