出逢い
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
~穂積vision~
小用を足して洗面所で手を洗っていると、小野瀬が入って来た。
少し赤い長い髪と、整った顔には見覚えがある。
同期だから顔と名前は知っているが、今までに親しく会話をした記憶はない。
あれ?
こいつ、何故、警視庁にいるんだろう。
科学警察研究所にいるんじゃなかったのか。千葉の。
……そう言えば、だいぶ前に、鑑識官が不足しているという話を聞いた気がする。
そのために、科警研から何人かが、警視庁に出向するのだという話も。
こいつ、それに選ばれたのか?
それとも研修か。
まあ、どうでもいいけど。
ハンカチをしまい、廊下に出ると、後ろから声を掛けられた。
「なあ。穂積、だよね」
振り向くと、小野瀬は含みのある表情で、俺を見た。
「今度、一緒に合コン行かないか」
「はあ?」
「今は警備部だってね。配属が決まったのなら、少しは時間あるだろ?」
小野瀬はニコニコ笑っているが、同期とは言え初対面に近い相手を、いきなり合コンに誘うか普通。
…それにしても、合コンて。
こいつ、女にモテそうな顔をしているのに。
どうしてそんな場所に行く必要があるんだろう。
もしかして、何か欠陥があるのかな。そうならちょっと気の毒だな。
「……お前、何か誤解してるみたいだけど」
小野瀬は一瞬不機嫌な顔をしたが、すぐにまた、やわらかい笑顔に戻った。
「俺は、まだ特定の相手を作るつもりがないだけ。だから、色々な女の子と遊んでみてもいいだろ?」
「……まあな」
頷いてはみせたものの、正直、同意する気にはならなかった。
小野瀬の言うように、お互い遊びと割り切れるものだろうか。
おそらく俺には、小野瀬の真似は出来ない。
煩わしいのはごめんだ。
「で、どう?合コン」
俺は、首を横に振った。
「悪いが断る」
「どうして?」
「興味が無い」
小野瀬は、少し困ったような顔をした。
「穂積が来てくれると、助かるんだけどな」
「何で」
「あれ、自覚無し?」
「何が」
俺たちはトイレを出てから、廊下で話をしていた。
時々、女性職員も通るが、例外なく、こっちをちらちら見ながら歩いて行く。
俺は、小野瀬を見ているのだろうと思っていたのだが。
「お前、目立ってるよ。背は高いし、美形だし」
小野瀬が言って、指先で俺の髪をひとつまみした。
「……あれ?これ……、染めてるんじゃないんだ」
俺が軽く睨むと、小野瀬は真顔でじっと俺を見返した。
「目の色も……本物?」
「当たり前だ」
小野瀬は驚いた顔をしていたが、しばらくすると、俺を見る眼が変わった。
「……そっか。それで。分かったよ」
「何が」
「お前がいつも喧嘩腰な理由」
……この野郎。
「可哀想に。小さい頃はイジメられたんじゃない?さぞかし可愛い子供だったはずなのに」
俺は小野瀬を睨んだ。が、小野瀬は、不敵な笑みを浮かべている。
「お前も喧嘩売りに来たのか」
今度は俺が、真顔で小野瀬を見据えた。
「だてに長年因縁つけられてきたわけじゃない。暴力を振るう奴の顔は分かる」
俺が言うと、笑っていた小野瀬の切れ長の目が開き、次いで、すうっと細くなった。
「お前も荒れたクチだろ。今は大人ぶってるだけ、利口ぶっているだけだ」
「……」
小野瀬はじっと黙り込んだ。
しかし、廊下の先に人影が見えたのをきっかけに、小野瀬はまた、あの、人を食ったような笑顔を浮かべた。
「凄いね、穂積。見抜かれたのは初めてだよ」
「……」
一瞬だけ見せた殺気は、もう、笑顔に隠されてどこにも見えない。
小野瀬は「ごめん」と頭を下げた。
「初対面で、失礼だったよな。今のは俺が悪かった。謝るよ。ごめん」
俺は、ひとつ深呼吸をして、小野瀬を見た。
「いや……俺も、悪かった」
すると、小野瀬は顔を上げて、にっこり笑った。
「じゃあ、お互い様って事で。改めて合コンの件、考えておいてくれる?」
「はあ?」
嘘だろ。
この雰囲気で合コン続行かよ。
言い返そうとした時、後ろから呼ばれた。
「穂積、ちょっといいか?」
「え、はい」
振り返ると、警備の先輩が立っていた。
小野瀬がぺこりと会釈する。
「あっと、友達と話してたか」
「「友達じゃないですから」」
小野瀬と俺の台詞がシンクロすると、先輩は苦笑した。
「そうか。昼休みを奪って悪いが、警備対策の会合に、急遽行かなきゃならなくなったんだ。一緒に来てくれるか?」
「はい」
俺は先輩に返事をしてから、小野瀬を見た。
「悪いな」
小野瀬は肩をすくめた。
「分かった。また今度誘うからね」
「誘われても、合コンなんか行かないからな」
「頑固だなあ」
「頑固はお前だ」
言い捨てて背を向け、しばらく歩いてから振り返ってみると、小野瀬はまだそこにいた。
何故か、少し寂しそうな顔をしているように見える。
しかし、俺に気付くと、小野瀬は笑って手を振り、そして背中を向けた。
……何か事情があるのかな。
……断って悪かったかな。
小野瀬の姿を見てちょっと後悔したが、気を取り直して、俺は先輩を追った。