LILLY
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小野瀬
「じゃあ、今夜7時、二丁目の『LILLY』でね」
穂積
「行かないわよ!」
こちらの言いたい事だけ伝えて、くるりと踵を返して手を振れば、背中に穂積の怒声が浴びせられた。
穂積
「絶対に、行かないから!」
が、俺には確信がある。
穂積は絶対、来てくれる。
***
穂積
「……ひとつ訊いてもいいかしら」
その夜、『LILLY』の店先で妖しく輝くネオンサインの看板を見上げながら、やっぱり来てくれた穂積がぽつりと呟いた。
穂積
「ここ、いわゆるゲイバーよね?」
小野瀬
「うん。でも安心して。追加料金払えば、女性もノンケもOKな店らしいから」
穂積
「問題はそこじゃねえよ!」
合コン相手がゲイだと察した瞬間に、穂積の口調からオカマモードが吹き飛んだ。
穂積
「帰る!」
小野瀬
「待って、せめて話を聞いて!」
穂積
「何だよ、借金でもしたのかよ!」
小野瀬
「実は……」
当たらずとも遠からず、と言うところか。
実は、先週の夜、仕事帰りに立ち寄ったバーで、カウンターの奥のスツールにすごい美人が座っていた。
薄暗い店内でもハッとするくらいに整った目鼻立ち、年齢も俺とそう変わらないだろう。
俺と目が合うとにっこり笑ってくれて、豊かな髪がゆったりと揺れてそれはもう……
穂積
「もしかして、その美女が」
小野瀬
「そう、その美女が、実は」
穂積
「お前を誘惑してきて?」
小野瀬
「そう、誘惑してきて」
穂積
「まさか、ヤっちゃったのか」
小野瀬
「未遂だよ。いい雰囲気になってタクシー乗ってホテルに行って、明るい部屋で彼女を見て気が付いた」
穂積
「ギリギリじゃねえか!」
そう、ギリギリだった。
本当に、危なかった。
裸体にバスタオルを巻いただけの『彼女』が、バスルームを出て近付いて来るのを見た途端、俺は戦慄した。
でかい。
ヒールを脱いでも俺よりも背が高いどころか、身体の厚みも幅も一回り大きい。
広い肩はストールで、がっちりした体格は着ていた服のデザインや身のこなしで、魔術のように上手に隠していたのだ。
筋肉質な女性に「何かスポーツやってるの?」と質問してみる事はあるけど、今回は「何の格闘技?」と訊く必要がありそうだった。
穂積
「何の格闘技だった?」
小野瀬
「大学レスリングで、地方大会三連覇」
穂積がくるりと回れ右をして、『LILLY』の扉に背を向ける。
穂積
「帰ろう。そんな奴に寝技に持ち込まれたら勝てない」
そう言った後、ふと、穂積が俺を振り返った。
穂積
「ちょっと待て。お前、どうやってその状況から逃れて来たんだ?」
小野瀬
「いやその」
穂積
「まさか」
小野瀬
「『あっと急用を思い出した。ごめんね!今度、俺なんかよりもずっと綺麗できみに似合いの男を紹介するから、今日はここまでで』って言って……」
穂積
「バカ野郎!」
今度こそ殴られた。
穂積
「お前って時々そういうとこあるよな!!」
小野瀬
「ごめん、本当にごめん!反省してる!」
穂積
「嘘つけ!じゃあ、何で、合コンだと言いながら、こっちは俺とお前だけなんだよ!」
小野瀬
「一応、他の奴も誘ったんだよ!でも、みんな、俺との合コンは嫌だって!」
穂積
「断られた理由を教えてやろうか。それはな、お前と合コンに行くと、目欲しい女はみーんなお前が持って帰っちまうからだよ!」
小野瀬
「分かった、それについても反省する!謝るから助けて穂積!」
穂積
「知るか!お前なんかオカマに喰われちまえ!」
縋ろうとする俺を振り払い、さらに何か言おうとしたのか口を開きかけたところで、急に、穂積が動きを止めた。
小野瀬
「どうしたの?」
穂積
「シッ。……中で、何か揉めてる」