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~小野瀬vision~
穂積
「合コンなんて興味無い」
穂積の返事は、予想通りのものだった。
穂積
「悪いけど行かないわ」
そう言い捨ててつんと前に向き直り、歩き去ろうとした穂積の腕を、俺は急いで掴んで引き止める。
小野瀬
「待て待て、ちょっと待ってくれって」
穂積
「離してちょうだい。総務課の女子たちが見てるじゃないの」
周囲を気にして俺の腕を振り払おうとする穂積だが、ここで離すわけにはいかない。
小野瀬
「穂積、お前が合コンに興味が無いのは知ってる。女性に興味が無いのも知ってる」
穂積
「……その通りよ」
総務の女子をちらりと見てから、穂積が嫌そうな顔をして言い返す。
穂積
「不本意だけど、アンタのせいでしょ」
同時に、俺と穂積を遠巻きにして眺めていた女子たちの方角から、密やかな悲鳴が上がった。
総務女子A
(きゃー!)
総務女子B
(今のどういう意味?)
総務女子C
(穂積さん、やっぱり噂通り、小野瀬さんが好きなの?!)
穂積
「……」
小野瀬
「……」
穂積には悪いけど、今日ばかりは、彼女たちの、深読みしがちで邪な妄想力と、下世話な好奇心に協力してもらおう。
小野瀬
「……そうだね、ごめんね。俺のせいだよ。だってお前は、俺の事が好きだから、オカマをカミングアウトしたんだもんね」
総務女子A・B・C
(きゃー!)
穂積の頬に、一気に赤みが差す。
人目が無ければ、ここで「違う!」と殴られていただろう。
何故なら、穂積のオカマは演技で偽装だからだ。
もちろん、俺の事なんか好きでもなんでもない。
ただ、穂積が自らオカマだと宣言するきっかけになったのが俺だ、というのは本当だ。
心境としては思い出したいような思い出したくないような複雑な記憶だが、あれは、ほんの数か月前の事。
庁内の親睦会で、俺は、若い男を漁るのが趣味だという噂の、とある上司の奥さんに目をつけられてしまった。
そして彼女に迫られた時、我が身を守ろうと、咄嗟に「俺なんかよりも、穂積があなたを好きみたいですよ」と言い逃れしてしまったのだ。
俺と同期にキャリア採用されたばかりの若さで金髪碧眼の美形、仕事も出来ると評判の穂積に好かれていると仄めかされて、のぼせ上がった奥さんは、それから毎日穂積を追いかけ回した。
何も知らずに巻き込まれた穂積にしたら天災のようなものだが、上司の妻からの猛アプローチなんて、まともな警察官なら受け止められるはずもない。
穂積はひたすら逃げ回った。
しかし、自分に好意を寄せているはずなのに、何故かなかなか一線を越えてこないターゲットに業を煮やした奥さんは、とうとうある日、穂積をホテルに呼び出した。
行くも破滅、行かないも破滅。
責任を感じた俺は、足取り重くホテルに向かった穂積に同行したものの、名案は浮かばないまま。
ついに窮地に追い込まれてしまった穂積は、彼女を傷付けず、上司の面目も潰さず、事態を収めるにはどうすればいいか……悩んだ挙げ句、自らのプライドを捨てる道を選んだ。
すなわち。
穂積
「ごめんなさい、奥様!実は、ワタシ、オカマでコッチの人なの!」
ホテルで待ち受けていた奥さんに向かってそう叫ぶや否や、驚く彼女の目の前で、俺に熱烈なキスをしたのだ。
穂積は、オカマだと宣言して俺への同性愛を白状する事で、奥さんからの大笑いと引き換えに、警察官としての矜持を守った。
しかしそれによって、誇り高い穂積が男として人間として失った何かの計り知れない大きさを思えば、今でも目頭が熱くなるけれど。
穂積
「……思い出し笑いしてるんじゃないわよ」
俺の思考を正確に読み取ったらしい穂積の不機嫌な声で、俺は現実に引き戻された。
小野瀬
「あはは、ごめんごめん。あまりにも強烈な思い出だったからさ」
あの時の穂積の必死な顔を思い出すと、可笑しさと同時にそれを上回る申し訳無さとが込み上げてきて、つい、笑ってごまかしたくなってしまうんだ。
小野瀬
「とにかく、頼むよ」
穂積
「だから、お断りだってば」
振り出しに戻ってしまった。
穂積がこんなにも合コンを嫌がる理由は、二つある。
ひとつは、ただ単に面倒臭いからだ。
みんなで酒を飲むのは好きだが、それは気心の知れた相手とだからいいのであって、興味の無い女性たちに囲まれて質問攻めにされる合コンなんて、穂積にとっては気疲れするばかりで退屈な場所でしかないらしい。
もうひとつは、穂積には、そもそも既に好きな女の子がいるからだ。
それも、数年前から一方的に好意を持っているだけで、会話したことも無いどころか相手は穂積を知らないはずだというから、筋金入りの片想いだ。
穂積じゃなければアブナイ恋だと言われても反論出来ない案件で、俺から見れば信じられないような純愛だが、どうやら穂積は本気らしい。
俺としても、悪友の恋を応援してやりたいのはやまやまだけど……、それはそれ、これはこれだ。