とある鑑識官の分析
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穂積
「小野瀬」
ひょい、と顔を覗かせたのは、穂積だった。
穂積
「あれ?何だよお前、一人で残業してんのか?」
何だよ、と言った穂積の声色からは、俺を残して帰った先輩たちへの非難や、残業を断りきれなかった俺への同情を、充分に感じ取る事が出来たけれど。
同じ事を考えていただけに、俺は苛立ちを募らせてしまった。
穂積
「手伝うから指示しろよ。何をすればいい?」
小野瀬
「ありがとう、でも、大丈夫だよ」
笑顔を浮かべ、形通りの返事をした俺に、コートを脱ぎかけていた穂積は、微かに表情を曇らせた。
普通の相手なら、「遠慮するなよ」とか何とか言いながら、さらに手伝おうとする素振りだけでも見せるだろう。
けれど、穂積は敏感だ。
俺が、遠慮から断ったのか、やんわりと拒絶したのかを、ちゃんと聞き分けている。
穂積
「俺、邪魔か」
小野瀬
「そうじゃない。自分のペースで片付けたいだけ」
穂積を傷つけた事に俺の方が焦って、つい、また余計な事を言ってしまった。
これでは言い訳どころか、なおさら追い返すようにしか聞こえないじゃないか。
でも、だからって、言えないだろ。
手伝ってもらうのが恥ずかしい、なんて。
我ながら、子供じみたつまらない意地とプライド。
小野瀬
「……心配させてごめん。……あと二時間だけ、にする。無理はしない。だから、心配しないで。穂積は帰って」
今度は本当に思った事を言うと、それをまた敏感に察した穂積の表情が、寂しげに、ではあるけれど、諦めたように解れた。
穂積
「……そうか、分かった。役に立てなくて悪かったな。これ、差し入れ」
穂積はそれだけ答えて、買い物をしてきたらしいコンビニの手提げ袋を俺の机の上に置いてから、ラボを出て行った。
胸の中が苦い。
せっかくの善意を素直に受け取れなかった俺は幼稚なんだろうか。
いや、仕方ないだろう?
穂積だって、鑑識に所属していない警察官が鑑識業務を手伝えば、厳密には規定に反する事ぐらい知ってるはずだ。
もし逆の立場だったらきっと、穂積だって同じように俺を拒んださ。
それは相手の為だ。
……もし、あの時、『手伝うよ』じゃなく『ここで話し相手になろうか』と言ってくれていたら、ひょっとしたら俺は頷けたかもしれないけど。
でも、それでは穂積の方が、居づらさに耐えられなくなったかもしれないじゃないか……。
……そもそも、俺と穂積はまだ、そこまで親しくもないんだから。
穂積の背中を見送った後、俺はまたひとしきりもやもやしたけれど、それでも、手を動かして分析を進める事で気を紛らせるしかなかった。