水ナス検事奮戦記
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櫻井家で夕食をごちそうになった、帰り道。
色々とあった今日の出来事を回想しながら歩いていると、ふと、隣を歩いていた櫻井が足を止めた。
藤守兄
「?」
翼
「そろそろ、帰りますね」
気付けば、見送りのはずが、櫻井の家からはだいぶ遠くまで来ている。
前方に目を向ければ駅が見えており、櫻井が一人で折り返す道程を考えれば、確かにもう、そろそろ帰してやらなければならない。
藤守兄
「気を付けて帰れよ」
翼
「はい。今日は、ありがとうございました」
藤守兄
「何を言う。ご馳走になったのは、こちらの方だ」
奥様と櫻井の手料理を存分に堪能し、存分に酒を飲んだ。
櫻井判事とも和解したどころか、「娘を頼むぞ」とまで言っていただけた。
今日はもう満足だ、満足しなければバチが当たる。
だが……
櫻井と離れるのが惜しい。
鼓動が速まっているのは、酒のせいばかりではあるまい。
相伴した櫻井も少し頬が赤いが、それも、酒のせいばかりではないと思いたい。
俺は準備してきた小さな箱を、上着のポケットの中で握り締めた。
上滑りしていた会話は続かなくなり、櫻井は帰る帰ると言いながら一向に俺の手を離さない。
……今か?
今でいいのか?
ああ経験則が働かない!
自分の心臓の音ばかりがうるさく聞こえ、喉が乾いて火を噴きそうだ。
だが……
藤守兄
「櫻井」
櫻井が、訝しむように顔を上げた。
ああこっちじゃない、と経験則がダメ出しをする。
藤守兄
「翼」
俺は握り締めていた箱をポケットから出し、櫻井の前に突き出した。
藤守兄
「俺は、お前が、好きだ」
櫻井が息を飲む音が聞こえた。
藤守兄
「好きだ」
くそう、声が掠れている。
藤守兄
「俺は、お前の為に、正しくあり続ける」
翼
「……」
藤守兄
「だから、結婚したければ俺としろ。他の男など許さん。俺にしろ。俺に、ついて来い」
翼
「……」
……
藤守兄
「何か言え!」
何でもいいから言ってくれ!
……
翼
「慶史さん」
長い沈黙の後、ふわり、と、柔らかい両手が、突き出した俺の拳を包んだ。
翼
「慶史さん」
その手が開いて、俺の肩の上に乗せられる。
翼
「慶史さん……」
小さな両手に頭を引き寄せられて、ようやく俺はハッとした。
いつの間にか固く瞑っていた目を開けば、すぐそこに、涙に頬を濡らした櫻井の顔がある。
俺と目が合うと、櫻井は泣き笑いの表情を浮かべた。
翼
「私、慶史さんに、ついて行きます。でも、そんなに固く握り締めてたら、指輪が受け取れませんよ」
藤守兄
「え?……あ」
櫻井に指摘されて自分の失態に気付き、慌てて拳を開こうとしていたら、口元に柔らかいものが触れた。
今のは。
視線を櫻井に戻せば、可笑しそうに微笑んで、もう一度、口元に唇を押し当ててくる。
俺は顔の角度を変えて、その唇に唇を重ねた。
櫻井に向き直り、口づけを交わしながら、しっかりと抱き締める。
藤守兄
「このまま俺の家に来い」
もう離せない。
家に着いたら、愛し合おう。
酔いが覚めたら、指輪を渡そう。
不器用?
残念?
そんな事はない。
お前さえいてくれれば、これから先もこの俺は、いつだって傲岸不遜で天下無敵だ。
~END~
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