青息吐息桃色吐息
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~翼vision~
今夜の私は超ご機嫌。
何故なら、時任豪の事件が解決して、かねてからの約束通り、室長と小野瀬さんが、私にゲイバーを初体験させてくれる事になったから。
しかも、「この二人に任せると心配だから」と、こーちゃんも一緒に来てくれた。
穂積
「お前の方が心配なんだけどな、俺は」
小野瀬
「如月くんは、そっちの組合のお姉様方にモテそうだからねえ」
如月
「やめてくださいよ。俺、プライベートで六本木の夜を歩いた事が無いんで、不安なんですから」
実は私も。
小野瀬
「新宿よりは大人しいと思うよ」
如月
「マジすか?……俺、さっきからすでに、道行く人たちに肩とか尻とか、すげえ触られてるんですけど!」
室長と小野瀬さんは、同情するどころか、ゲラゲラ笑う。
如月
「笑い事じゃないですよ!……あれ?お二人は触られないんですか?」
室長と小野瀬さんは笑って、二人の肩が接する側の腕を挙げた。
二人の手は、しっかりと握られている。
翼
「あっ!」
穂積
「不本意だが、小野瀬の考えた予防措置だ。結構効果あるぞ」
小野瀬
「名付けて、擬装カップル作戦」
慌てて私と手を繋ごうとするこーちゃんに、小野瀬さんが追い討ちをかける。
小野瀬
「ちなみにこの作戦、男女のカップルでは効果を発揮しないから。……あ、ほら。そろそろ、メインストリートかな」
小野瀬さんの指し示す先には、左右に妖しいネオンサインの輝く街並み。
着飾って歩く、性別不明な大勢の人たち。
豪華な造りの大きな扉がいくつも並び、その扉の前には必ず、黒いスーツ姿の男性が立ち番をしている。
私ひとりなら、ここでもう引き返すに違いない。
如月
「……かなりアブナイ雰囲気だよね。よく、室長が翼ちゃんを連れてくるのを許可したよなあ」
小野瀬
「確かにね。穂積だって、最初は反対してたのに。何で?」
小野瀬さんのストレートな問い掛けに、室長は笑顔を浮かべていた。
穂積
「最初に反対したのは、櫻井が『ゲイバーに行きたい』って言ったからだ」
翼
「?」
これから行くのはゲイバーじゃないの?
穂積
「だが、『如月の女装がキレイだから、本物が見たい』って言っただろう?だったらそれは『ニューハーフ』だ。『ゲイ』じゃない」
ああなるほど、と言ったのは小野瀬さんだけ。
穂積
「つまり櫻井は、キレイなオカマが見たいんだよな。だから今夜観に行くのは、ニューハーフのショー。それなら、団体客のツアーが組まれているくらいには安全だ」
私は、こーちゃんと顔を見合わせた。
こーちゃんには若干、意味が分かっているようだけど、私にはよく分からない。
小野瀬
「まあ、世の中には、知らない方がいい事もあるよ」
小野瀬さんは苦笑いした。
小野瀬
「本物のゲイは、正直言って、櫻井さんには見せたくないしね」
穂積
「俺も思い出したくない」
そう言いながらも思い出してしまったのか、室長が顔をしかめた。
小野瀬
「今は、男性でもお洒落でピアスを付けるから、だいぶ意味は薄れてきたけどね。俺たちの新人時代は、まだ、ピアスと言えばゲイが付けるものだった」
穂積
「やめろー」
如月
「それは聞いた事あるかも。右耳のピアスはゲイのしるし、とか」
小野瀬
「両方の耳はバイだとか、でしょ」
背後から室長が、両手で、私の耳を塞いだ。
穂積
「うちの娘に、品の無い会話を聴かせるな!」
小野瀬
「穂積は両耳にピアスでしょ。で、穂積も当時の上司も、ピアスの噂なんか知らなくて。そのまま捜査で歌舞伎町の二丁目を歩かせたら、さあ大騒ぎだ」
如月
「うわー、なんか想像がつくなあ。室長みたいな金髪碧眼の超美形が、両刀使いだとアピールしながら歩いたら、そりゃもう、アッチの人たち大喜びですよね」
小野瀬
「通りの入り口からもうナンパだよ。今の如月くんみたいに、尻を撫でられるなんて当たり前。前を触られる、腕を組まれる、耳朶を甘噛みされる、そこらじゅうキスされる、路地に引っ張り込まれる」
翼
「……小野瀬さん、見てたんですか?」
小野瀬
「見逃しちゃいけないイベントだと思ったからね。理由をこじつけて、現場にいた」
小野瀬さんは、心底楽しそうに思い出し笑いをしていた。
如月
「あれ?そもそも、室長や小野瀬さんが歌舞伎町に行った目的は何ですか?」
小野瀬
「摘発の為の内偵だよ、もちろん」
……それは……
如月
「人選ミスでしたね」
穂積
「……」
こーちゃんにずばりと言われ、小野瀬さんに高笑いされて、室長の頭が、私の肩の上に落ちた。
慰めてくれ、と言われている気がして、私はその、さらさらの髪を撫でる。
如月
「でも、小野瀬さんも現場にいたなら、同じような目に遭ったんじゃないですか?」
小野瀬
「ああいう人たちは鼻が良くてね。俺みたいな、女の移り香がプンプンしてるようなのはダメらしいんだね」
如月
「うーん、奥が深いなぁ」
そこで、こーちゃんが、すっかり凹んで、私に撫で撫でされている室長に気付いた。
如月
「室長、今だけは翼ちゃんを譲ってあげますから。予約した店に行きましょうよ。ショータイムが始まりますよ」
穂積
「ああ、やだやだもう萎えた。今日はずっと櫻井に撫で撫でされていたい。このまま現実から逃げてしまいたい」
ごねる室長を三人がかりで押したり引いたりしながら、私たちは、ようやく、予約した、ニューハーフショーの観られるお店にやって来た。
黒い服の大きな人の脇を抜け、こーちゃんを先頭に店に入った途端……
綺麗なお姉様
「あーっ!ルイちゃん!」
一列に並んでいたので、室長の背を押していた私と最後尾の小野瀬さんは、室長がリアルに数cm跳び跳ねたのを目撃した。
くるりと声に背を向けたものの私と小野瀬さんがいたので逃げ切れず、室長は、素早く伸びてきた腕にがっちりと肩を掴まれてしまった。
穂積
「離せ、大五郎!」
綺麗なお姉様改め大五郎
「本名はやめてよー。でも、覚えててくれて嬉しいわん!」
大五郎さんの語尾の「ん」は、室長の頬にべっとりとキスマークを付けた。
同時に、室長の裏拳が大五郎さんの鼻先に炸裂した。
綺麗なお姉様改め大五郎
「ふが!」
顔面を押さえて、のけぞる大五郎さん。
指の隙間から赤い色が見えたけど、それも一瞬の事。
綺麗なお姉様改め大五郎
「ふふふ……、相変わらずやるわね、ルイちゃん!」
穂積
「ルイちゃんはやめろ!お前、何故六本木にいる!」
綺麗なお姉様改め大五郎
「全身工事の費用を稼ぐ為に、ショーに転身したのよん。まさかまたルイちゃんに会えるなんて。シ・ア・ワ・セ♪」
穂積
「だからルイちゃんはやめろ!」
怒鳴りあい、プロレスのようにがっちりと両手を組んで向かい合う大男二人。
いえ、見た目には、超のつく美男美女なんだけど。
穂積
「こ、の、馬鹿力……」
綺麗なお姉様改め大五郎
「だって、まだ、下半身はオトコですもの。胸はFカップだけど♪」
如月
「……凄え。あの室長が、力負けしそう」
こーちゃんの言う通り、大五郎さんの唇が、じりじりと室長のそれに近付いてゆく。
綺麗なお姉様改め大五郎
「いっただきまーす!」
穂積
「……!」
まさに唇が重なる、その刹那。
室長の体勢がついに崩れた!
と同時に、私の両目は、小野瀬さんによって塞がれた。
小野瀬
「はい、きみはここまで」
ぎゃあああっ、という何かを絞め殺すような悲鳴が響き渡ったのは、その直後だった。
思わず身を乗り出した私が見たのは、猛スピードで、今来た扉を飛び出してゆく室長。
そして、……その……下半身の、大事な所を押さえてうずくまり、脂汗を流して悶絶している、大五郎さん。
綺麗なお姉様改め大五郎
「……ルイちゃあん……」
声が男に戻ってる。
大五郎さんは芋虫のように床を這いながら、携帯を取り出して何かを始めた。
どうやら、携帯でメールを打っているらしい。
綺麗なお姉様改め大五郎
「……『ルイちゃん六本木を逃走中』……一斉送信」
わあっ。
私は急いで止めさせようとしたけれど、もはや大五郎さんの携帯画面は『送信しました』。
綺麗なお姉様改め大五郎
「……オカマのネットワークを舐めるんじゃないわよ……」
大五郎さんはそれだけ言い残すと、がくりと倒れた。
残された私たちは、小野瀬さんに率いられて大五郎さんの横をすり抜け、店内に入り、お姉様たち手作りのお弁当を食べて、素晴らしいショーを堪能した。
翼
「凄かったです!素晴らしかったです!私、目から鱗が落ちました!」
小野瀬
「女装した男性だという事を差し引いても、じゅうぶん価値のあるショーだったね」
如月
「一流のエンターテイメントですよね!俺、すっかりファンになりましたよ!」
小野瀬
「さー、帰ろうか」
如月・櫻井
「はい!」
こうして、私たちは満足して家路についた。
だから、この夜、室長の身に何が起きたのかは、誰も知らない。
~END~
おまけ
翼
「室長、昨夜はありがとうございました!」
穂積
「……喜んでもらえたなら、良かったわ……」
明智
「室長、今日は朝から座りっぱなしですが、どうかされましたか?」
穂積
「…………ちょっと、筋肉痛……」
~おしまい♪~
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