前途多難
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~如月vision~
如月
「おっ待たせー、……って、どうかしたんですか?何か、二人がモメてるんですけど!」
『バニラ』の閉店時間まで働いた俺が、ベッキーの化粧を落として出てくると、路地に停まった小野瀬さんの車の後部座席で、室長と翼ちゃんが言い争っていた。
俺は、運転席で笑いながら手を振ってくれた小野瀬さんに駆け寄り、助手席に乗り込んだ。
穂積
「お、如月。ご苦労だったな」
翼
「如月さん、お疲れ様でした」
俺に笑顔を向けて労ってくれた二人は、けれど、すぐにまた口論に戻った。
穂積
「ゲイバーなんていかがわしい場所に、お前を連れて行けるわけがないだろ!」
翼
「だからお願いしてるんじゃないですか!それに、キャバクラでは働かせたくせに!」
穂積
「それとこれとは話が別だ!」
翼
「何でも叶えてくれるって言ったじゃないですか!」
穂積
「あのなあ、ゲイバーなんて妖怪の巣窟だぞ?俺には、悪夢のような思い出しかないぞ!」
翼
「普段、悪魔の上司と小悪魔な彼氏に挟まれて暮らしてますから平気です!」
なんか、翼ちゃん凄い事言ってる。
小悪魔な彼氏って俺だよね。
しかも……
如月
「その、悪魔の上司の方が、口喧嘩で負けそうなんですけど……」
俺は、小野瀬さんに囁いた。
穂積
「小野瀬、車出せ!」
室長が、いきなり後部座席から身を乗り出してきて、言った。
了解、と、小野瀬さんがエンジンをかける。
穂積
「そもそも、どうしてゲイバーなんかに興味があるんだ!」
翼
「だって、如月さんのベッキーを見てたら、本物を見てみたくなっちゃって」
如月
「……(複雑)……」
小野瀬さんが笑った。
小野瀬
「なるほど。穂積も職場ではおネエだけど、ニセモノだしねえ」
穂積
「却下。そんなしょーもない理由で、愛娘を怪しい場所には連れて行けない」
翼
「お父さんは横暴です!過保護です!」
穂積
「まだ言うかこの娘は!」
室長に遠慮なく文句を言い続ける翼ちゃんにヒヤヒヤしながらも、俺は、内心、ちょっとホッとしていた。
室長も小野瀬さんも、俺と彼女が付き合っているのを知ってる。
その上で、店内では彼女にあれこれちょっかいを出していたのだから、俺としてはドキドキさせられたけど、今の室長と翼ちゃんはもう、完全に父親と娘だ。
穂積
「如月!こいつ欲求不満だぞ!何とかしろ!」
翼
「そんなんじゃありません!」
穂積
「へえ。そりゃ失礼。だよな。お前ら、ところ構わずチューしてるもんなあ」
翼
「……」
ちょっとちょっと翼ちゃん!
そこは黙り込んじゃダメだから!
穂積
「たとえば『バニラ』のロッカールームで、とか」
ぎく。
小野瀬
「水族館でのデートの時に、とか」
ぎくぎく!
穂積
「昼休みの捜査室で、とかな」
ぎゃー!
如月
「なな、何で知ってるんですかー?!」
翼
「如月さんっ!」
真っ赤になった翼ちゃんの声と、ニヤニヤ笑う室長と小野瀬さんの表情で、俺は、自分が二人の誘導尋問に引っ掛かった事に気付いた。
小野瀬
「へーえ」
すると、翼ちゃんと俺とを見比べていた室長が、不意に真顔になって、彼女の肩を抱いた。
穂積
「……気が変わった。櫻井、ゲイバーに連れてってやる」
翼
「ホントですかっ?」
如月
「え?!急に何で?!」
穂積
「ムカついたからだ」
室長が、俺に向かって舌を出す。
翼
「嬉しい!室長大好きです!」
穂積
「そうかー?やっぱりお父さんがいいかー?」
そう言って彼女の頭を撫でる室長に、俺は焦った。
小野瀬
「近いうちに、きみの彼女は、俺たちとゲイバーを初体験する事になりそうだね」
小野瀬さんは、ずっとクスクス笑っている。
冗談じゃない!
如月
「翼ちゃん!ゲイバーに行きたいなら、俺が連れてってあげる!」
小野瀬
「あー、無理無理。如月くんじゃあ、ゲイに喰われちゃう」
く、喰われる?
俺はゾッとした。
小野瀬
「あいつら、心は女だけど、力は男だからね。如月くんは柔道黒帯だけど、たぶん、組む前に卑劣な手段で寝技を掛けられて、『the end』だ」
翼
「室長と小野瀬さんが一緒なら大丈夫ですよね?」
穂積
「ま、多分な。お前は俺が守ってやるし」
翼
「お願いします!」
如月
「……」
和気あいあいと計画を立て始める三人を呆然と眺めていた俺は、やがて、ハッと我にかえった。
如月
「あの!俺も行きますからね!」
穂積
「いいのか?お前、野郎共にモテちゃうぞ」
小野瀬
「俺たちに任せとけばいいのに」
如月
「そんな危険な場所に、二匹のオオカミと彼女を行かせるなんて出来ませんよ!」
穂積
「誰が狼だ。俺はお父さんだぞ」
小野瀬
「ひどいな。俺は紳士だよー?」
澄ました顔の二人に、俺は渾身のツッコミを入れる。
如月
「だから、信用出来ないんだって!!」
なんで、いつもこうなるんだ?!
元凶はこの三十路の二人。
いや、本当にアブナイのは、当の彼女本人かも。
素直で無邪気で鈍感で。
可愛すぎる俺の恋人。
だからこそ、室長も小野瀬さんも、こうして時々教えてくれる。
君との恋に、油断は禁物だって。
翼
「如月さんも一緒に行ってくれるなんて嬉しいです。『バニラ』で頑張った甲斐がありました!」
穂積
「あ、もちろん、この事件が解決してからよ」
小野瀬
「如月ベッキーにはもうひと頑張りしてもらわないとね」
如月
「……ははは」
俺と彼女は恋も仕事も、まだまだ前途多難みたい。
~END~