虎視眈々
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~小野瀬vision~
小野瀬
「ほーづーみ♪」
着替えを終えて鑑識室から廊下に出た俺は、同じように緊急特命捜査室を出て来た穂積に、笑顔で手を振った。
穂積は捜査室の扉を施錠し、その鍵を胸の内ポケットに入れてから、怪訝な顔で振り返る。
穂積
「連れて行かねえぞ」
小野瀬
「あら」
正確に俺の意図を読み取った穂積に感心しつつ、俺は、ニコニコしながら歩み寄った。
小野瀬
「いいじゃない、連れてってよ。今夜はこれから『バニラ』に行くんでしょ?運転してあげるからさ」
穂積は、俺を置いてさっさと歩き出す。
穂積
「お前は櫻井をエロい目で見るから駄目だ」
悪態をつく穂積の早足に並んで歩きながら、俺も切り返した。
小野瀬
「だって可愛いんだもん」
穂積
「否定しないのかよ」
じろりと睨まれた。
小野瀬
「穂積こそ、キャバクラなんかに櫻井さんを潜入させてるくせに」
穂積
「裏方だ。接客はさせるなと支配人にきつく言い渡してある」
小野瀬
「脅したんだ」
穂積
「脅してない。胸倉を締め上げて、笑顔でお願い申し上げただけだ」
再現するように、穂積はこちらに向いて俺の胸倉を掴み、美しい笑顔を作って見せた。
穂積
「『営業を続けたいなら、ワタシの部下にいかがわしい仕事をさせるんじゃないわよ』」
見慣れているはずの俺でさえ、背中がぞくりとするほどの凄まじい美貌と殺気。
まさしく悪魔の笑顔だ。
これでは、頷くしかないだろう。
……支配人も気の毒に。
穂積
「そもそも、櫻井は女装の如月を潜入させる為のダミーだ。今夜で任を解く」
穂積は悪魔の笑顔を消して俺から手を離し、再び前に向き直る。
小野瀬
「だから最後に、櫻井さんに接客させるつもりでしょ?」
俺はにっこり笑って、先を行く穂積の手を握り、強引に腕を組んだ。
小野瀬
「俺が監視してないと、穂積は櫻井さんを膝に乗せちゃうかもしれないじゃない」
穂積の足が止まった。
穂積
「お前じゃあるまいし。仕事中に、部下を膝には乗せねえよ!」
小野瀬
「でもさ」
腕を振りほどかれながらも、俺はまた穂積にくっついて囁く。
小野瀬
「穂積は女の子を膝に乗せるのが好きでしょ」
穂積
「小野瀬は女を後ろから抱くのが好きだよな」
小野瀬
「……」
穂積
「……」
二人して、ひきつった笑いでお互いの顔を見る。
相手の性癖まで知り尽くしてるって、どんな腐れ縁だよ。
穂積
「……言っておくが」
しばらく睨み合った後、穂積がわざとらしく溜め息をついた。
穂積
「櫻井は如月と付き合ってるんだ。からかうだけなんだから、本気で二人の仲がこじれるような真似はするなよ」
小野瀬
「分かってますって」
真顔の穂積に、おどけながらも俺は頷く。
穂積は自分の車のキーを俺に放り投げて、再び歩き出した。
これは、穂積が俺の同行を許した証だ。
小野瀬
「やっぱり、あの、ラインの綺麗な白いドレス着せようと思ってる?」
穂積
「お前は、大胆なスリットの入った赤いドレスを着せたいんだろう?」
小野瀬
「うーん、正直、どちらも捨て難いなあ」
俺は、数日前、潜入が決まった時に捜査室で開いた、櫻井さんのキャバクラドレスファッションショーを思い出しながら言った。
実際に店では着ない事が分かっていながら開催した穂積ら一同の悪ノリだったが、楽しそうだったので、俺も加わって、鑑識から持ち出した布で部屋の隅に試着室を作ってやったものだ。
プロ並みの手際で、何故か張り切って彼女の世話をやく如月くんが面白かった。
小野瀬
「そうだ、ピンクのホルターネックも良かったね。彼女、肩も背中も綺麗だし」
穂積
「あー、胸が目立つとか言って、なんか薄いストールみたいなのを羽織ってたやつか?」
穂積も思い出したらしく、楽しげに目を細めた。
穂積
「あれ可愛かったな」
小野瀬
「じゃあ、あれで」
穂積
「いいだろう」
櫻井さんと如月くんの知らない所で、交渉成立。
穂積
「だが、任務で行くのは本当だからな。油断するなよ」
穂積は真っ直ぐに俺を見つめた。
小野瀬
「分かってるって。俺は、店の女の子から情報を聞き出せばいいんでしょ?」
穂積
「お前、そういうの得意だろ」
小野瀬
「了解」
駐車場に着き、俺たちは、揃って穂積の車に乗り込んだ。
俺はイグニッションキーを回して、エンジンをかける。
小野瀬
「さーて、如月くんをドキドキさせてやりましょうか」
穂積
「ほどほどにな」
助手席で、穂積が長い脚を組む。
穂積
「櫻井を大事にしないと奪われる、と思う程度に、だ」
穂積は笑っているが、目は笑っていない。
きっと俺も、同じ表情をしているだろう。
俺はアクセルを踏み込んだ。
穂積にとっては愛しい娘。
俺にとっては可愛い姫君。
櫻井さんが如月くんを選んだなら、
俺たちは如月くんを信じて彼女を託す。
だけど油断はさせないよ。
彼女を愛して欲しいから。
俺たち二人の分までね。
穂積が窓の外を見る。
『バニラ』は、もうすぐそこだった。
穂積
「さあ」
穂積が微笑んで、ネクタイを締め直した。
穂積
「如月にドキドキしてもらうとするか?」
俺も微笑んで、髪を掻き上げる。
小野瀬
「櫻井さんにも、ね」
俺たちは顔を見合わせて車を降り、笑いながら、キャバクラ『バニラ』の扉を開けた。
~END~