如月の悲劇
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このお話は、敬愛する神楽坂ちい様の「complacence:prelude 1.5season」からインスピレーションを頂きましたm(__)m
~如月vision~
如月
「おっはよーございまーす!」
地域部の女の子たちとの合コンの翌日、俺はゴキゲンで出勤した。
明智
「おはよう、如月。朝から機嫌がいいな」
如月
「さっすが明智さん、分かりますぅ?」
明智さんの机の横でくるりとターンすると、小笠原さんがぼそりと言った。
小笠原
「昨夜の合コンで成功した確率、95%」
如月
「ふっふっふー」
俺は小笠原さんに向かって、ちっちっち、と人差し指を振る。
如月
「100%でーす」
小笠原
「へえ」
明智
「凄いじゃないか。良かったな」
如月
「ありがとうございまーす!」
俺は姿勢を正して、二人にビシッと一礼した。
如月
「昨夜は俺、そりゃもう夢のようにモテちゃいまして!」
明智
「ほう」
藤守
「そもそも、相手が、如月目当てで合コンをセッティングしたらしいんですわ」
のっそりと出勤してきた藤守さんが、俺の言葉を代弁してくれた。
明智
「おはよう、藤守」
明智さんが振り返った。
藤守
「おはようございます……」
小笠原
「如月狙いと言うことは、藤守さんはダメだったんだ」
藤守さんは、小笠原さんの頭をがしがし撫でた。
藤守
「すんませんね!年下好みのお嬢様ばっかりで、俺なんか、俺なんか、どーせ食事の注文係や!」
翼
「藤守さんはステキですよ」
捜査室の扉が開いて、花を活けた花瓶を抱えた翼ちゃんが入って来た。
翼
「おはようございます、藤守さん、如月さん」
おっとっと。合コンの話なんか聞かれちゃったよ。
如月
「おっはよー、翼ちゃん。もしかして、俺がモテモテだと心配?」
翼
「いいえ。如月さんがゴキゲンだと私も嬉しいです」
ミーティングテーブルに花瓶を置きながら、翼ちゃんが笑顔を向けてくれた。
俺はちらりと藤守さんを見た。
やっぱり複雑な顔をしている。
この子、藤守さんはステキだとか、俺がゴキゲンで嬉しいとか言ってくれるけど、深い意味は全く無いんだよね。
俺も、複雑。
……でも!
今日ばかりは、翼ちゃんに華麗にスルーされても平気。
今日の俺はいつもと違う。
だってモテてるんだもーん。
今夜だって、待ち合わせしてデートだよ!
昨日の合コンで意気投合した、キレイめ彼女がデートしてくれるんだもんね!
ああ、早く定時にならないかなあ。
今出勤したばっかだけど。
時間が惜しいから、近くのレストランで食事して。
少し街を歩いてもいいな。ウィンドウショッピングとか、女子は好きでしょ?
それから夜景のキレイなホテルのラウンジで軽く一杯。
でもってそのまま上の階のステキなお部屋へ。最上階は俺の給料じゃ無理だけど。
ああいうホテルだと、ワインとかいくらぐらいするのかな。
あっそうだ、予約入れとかなきゃ。こういうのはスマートじゃないとね。
いやあ、モテるって忙しいな!
穂積
「楽しそうねえ、如月」
聞き慣れた声に反射的に顔を上げると、俺はいつの間にかミーティングの円陣に加わっていて、正面で、室長がニコニコ笑っていた。
穂積
「ごめんなさいねえ、楽しい妄想の邪魔しちゃって」
如月
「……げ」
慌てて周りを見回すが、どうやらすでに解散がかかっていたらしい。
藤守
「あー、俺は一日、少年課の応援や!ちょっと遠いから今日はそのまま直帰しまーす」
小笠原
「……俺は……鑑識の手伝い。……多分泊まり込み……じゃあね」
全員、俺と視線を合わせないようにしながら、それぞれ持ち場へ散っていく。
俺を見つめているのは、皮肉にも室長の笑顔だけだ。
穂積
「今までの説明、聴いてた?」
如月
「……すみません」
穂積
「あっそう。如月、残業決定」
くるりと背を向けた室長の背中に、俺は悲鳴を上げてしがみついた。
如月
「キャー!室長!残業は、本日の残業だけは、どうかカンベンしてください!」
穂積
「しがみつくな!残業はイヤだ?お前は、明智、か!」
言うと同時に、室長は、鮮やかな払い腰で俺を投げ飛ばした。
如月
「痛ったー!」
明智
「一本」
明智さんが冷静に審判する。
穂積
「残業がイヤなら、昼休み無し!今日の聴取の調書を出すまでは帰さないわよ!」
ビシッと指を突き付けられたけど、とりあえず残業は回避出来たみたい。
如月
「あ、ありがとうございます」
穂積
「ふん」
いててて。
咄嗟に受け身を取ったけど、固い床に投げられたのは、時間が経ってもやっぱり痛い。
ちゃーんと服を掴んで引いてくれてたけどさ。
手加減してもらってこれだもんな。やっぱり、人類は悪魔には勝てないのかな。
俺、柔道黒帯なんだけど。何故か、あの人にだけは勝てない気がするんだよなあ。
午前中の聴取を終え、ぶつぶつ言いながら調書を書いてると、明智さんが近付いて来た。
明智
「大丈夫か、如月」
如月
「あれ、明智さん。お昼食べに行かないんですか?」
明智さんは、俺の前にコンビニの袋を置いた。
如月
「あっ!買って来てくれたんですか?ありがとうございます!」
そこには、おにぎりやサンドイッチがたっぷり入っている。
明智
「これなら、調書を書きながら食べられるだろう?」
明智さん!俺もう一生付いていきます!
翼
「如月さん、はい、お茶です」
如月
「翼ちゃん!うう、ありがとう!二人は優しいな。悪魔な上司とは大違いだよ」
すると、明智さんと翼ちゃんは、何となく間が悪そうに顔を見合わせた。
明智
「……実はな、如月。俺たちにこれを買いに行くように言ったのは、室長だ」
如月
「ええっ?」
室長が?!
明智
「お前が昼飯を食い損ねないように、ってな。支払いも、室長のポケットマネーだよ」
翼
「湿布も買って来るよう、頼まれました」
明智
「いいか、秘密だぞ。本当は、お前には言うなって口止めされてるんだから」
如月
「……」
ズルいなあ。
こういうの、アメとムチって言うんだよな。……室長の場合、圧倒的にムチが多いけど。
今日叱られたのだって、元はと言えば俺が悪いのにさ。
何だか、泣けてくるよ。
明智
「頑張って終わらせろよ、如月」
翼
「そうですよ。今夜はデートでしょ」
如月
「うんっ、ありがとう!俺、頑張ります!」
穂積
「はい、上出来。よくまとまってるわよ、如月」
如月
「ありがとうございます!」
室長に向かって、俺はぺこりと頭を下げた。
穂積
「明智と櫻井の報告書も終わったし、藤守と小笠原は帰って来ないし。今日はもう終わりにしましょうか」
明智
「はい」
翼
「賛成です!」
二人も身仕度を始めた。
室長はトントンと書類をまとめて、立ち上がった。
穂積
「ワタシはこれを提出して来るから、三人とも先に帰っていいわよ。じゃ、お疲れさま」
如月
「お疲れさまでした!」
振り返ると、明智さんと翼ちゃんが、俺に向かって手を振っていた。
俺もガッツポーズを返して、気合いを入れる。
よっし!ついにデートだ!
待ち合わせのエレベーターホールに着くと、彼女はまだ来ていなかった。
壁にもたれて待っていると、エレベーターが再び昇って行き、しばらくすると、また降りて来た。
扉が開いて、出てきたのは室長だ。
穂積
「あら、如月?」
如月
「お疲れさまでーす」
俺が身体を起こして会釈すると、室長は微笑んで、俺の方へ歩いて来た。
穂積
「待ち合わせ?」
如月
「えへへ、デートです」
穂積
「それはおめでとう。成功を祈るわ」
室長がにっこりと笑った、その時。
##NAME3##
「あの、如月さん……」
如月
「あっ、こんばんは」
彼女はおずおずと近付いて来て、俺と室長を見比べた。
如月
「室長、##NAME3##さんです。##NAME3##さん、こちら穂積室長。俺の上司です」
##NAME3##さんが、ささっと髪を直して会釈する。
##NAME3##
「あの……初め、まして」
室長は彼女に向き直り、丁寧にお辞儀を返してくれた。
穂積
「穂積です。如月がお世話になっております」
固い!固いよ室長!
穂積
「これからも、どうかよろしくお願いします」
とは言え、俺のために頭を下げてくれる室長に、ちょっぴりじーんとくる。
穂積
「じゃ、如月、##NAME3##さん。私はこれで」
##NAME3##
「はい……」
如月
「お疲れさまでした!」
室長の長身が駐車場の方へ遠ざかっていくのを見送って、俺は彼女を振り返った。
如月
「じゃあ、俺たちも行こっか。##NAME3##さん、何、食べたい……?……」
彼女は俺を見ていなかった。
その視線は、室長の消えた先をじっと見つめている。
嫌な予感がして、俺は、彼女の視線を遮るように、目の前で手をひらひらさせた。
##NAME3##
「……穂積さんて……ステキな方ですね……」
げ。
完全に、目がハートになっている。
嘘だろ。
あんな一瞬で、室長に惚れちゃったの?
如月
「##NAME3##さん、目を覚まして!」
##NAME3##さんはぽーっとしたまま、俺に頭を下げた。
##NAME3##
「ごめんなさい、如月さん。私、やっぱり、穂積さんのような、大人の男性が好きみたいなの」
がーーーんっ!!
走り去っていく##NAME3##さんの背中を目で追いながら、俺は、自分の足からヘナヘナと力が抜けていくのを感じた。
昨日一晩かけて口説いたのに。
再会して一分でフラれたって……。
カンベンしてよ。
そりゃ、室長は背も高いし、大人だし、金髪碧眼で超イケメンだけどさ。
数秒間で初対面の女の子をオトしちゃうって、どんなフェロモン出してんだよ。
……ダメだ。
泣きそう。
もう、帰ろう。
その日、涙で濡れた俺の枕元で、『警視庁超危険人物リスト』なるメモ帳が作成された。
筆頭はもちろん、穂積室長。
危険度はMAXだ。
あのフェロモンはヤバイ。
室長が意識してないのが余計にヤバイ。
挨拶しただけだったのに、アレだよ?
室長が本気を出したらいったいどうなるのか、考えただけで恐ろしい。
好きな子が出来ても、あの人の5m以内には絶対に近寄らせないようにしよう。
俺は手帳に、『危険度:レベル7』と書き込んだ。
~穂積編END~
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