キスの日・明智編
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~*キスの日 ・ 明智編*~
~翼vision~
穂積
「アンタってさー。明智と付き合い始めたんでしょ?」
早朝。
出勤した私が荷物をロッカーにしまうや否や、室長は私を促して席につかせた。
そうして、私の机に肘をついて上半身を屈め、私に顔を寄せてくる。
……で、冒頭の発言。
どうして知ってるんですか?!
それだけでも赤面しそうなのに、間近に室長の端整な顔を見せられて、心臓が爆発しそう。
穂積
「明智ならワタシも安心よ。いいやつだし、真面目だわ」
あ、ああ、明智さんの話だった。
でも、室長が近過ぎて。
さらさらの金髪が私に触れそうで。
室長の体温と、おまけになんだかふわりといい匂いまで伝わってきて。
考えがまとまらない。
穂積
「唯一心配なのは、明智とアンタで、ちゃんと出来るのか、って事」
……?
翼
「何がですか?」
小野瀬
「例えば、キスとか」
翼
「ひゃああっ!」
いつ来ていたのか分からなかった小野瀬さんから、いきなり耳元にふっ、と息を吹き込まれて、私はおかしな悲鳴を上げてしまった。
穂積
「明智は小野瀬と違って余計な事は言わないし、分かりにくいでしょ?アンタだって、仕事の時は鋭いのに、普段はこの鈍さだしねえ」
私と話している間も全く視線を逸らさなかった室長は、当然のように、小野瀬さんの登場にも微動だにしない。
私はと言えば、机の反対側から室長と同じように肘をつき、私の顔を覗き込んでくる小野瀬さんの綺麗な顔と、柑橘系の香りで気が遠くなりそうなのに。
小野瀬
「あの明智くんと、どうやって恋を育んでいるのか疑問だよ。これが穂積なら、実力行使でガンガン行くんだろうけど」
穂積
「まあ、明智が『とりあえずお互いを知る事が大切だよね。まずはベッドで語り合わない?』なんて言ったら気持ち悪いよな」
小野瀬
「明智くんが『お前の食べたいものを食べに行くところから始めるか。俺はお前が食いたいけど』とか言い出したらどうする?」
翼
「あの」
穂積
「身の上話なんか始めちゃったりしてな。で、お前が『そんな事が……』なんて同情したところで」
小野瀬
「『ずっと前から好きだった』なんて言うんだよね。ダメだよ、騙されちゃ」
ドン!と室長が机を叩いた。
穂積
「誰が騙したんだよ?!」
小野瀬
「いつ身の上話をしたって?!」
いきなり2人が立ち上がった。
私の頭の上で小野瀬さんが室長のネクタイを掴み、室長が小野瀬さんの白衣の襟首を掴んで捻り上げる。
2人が一触即発で睨み合ったところで、「おはようございます」と、いつもの感じで明智さんが出勤してきた。
明智さんは真顔のまま立ち止まり、室長と小野瀬さんを見比べて……頭を下げた。
明智
「……すみません、お邪魔しました」
穂積・小野瀬
「出て行くな!」
明智
「いや、自分はてっきり、……おふたりがキスする寸前なのかと」
穂積・小野瀬
「殴り合う直前だよ!」
室長と小野瀬さんは乱暴にお互いから手を離し、「ちょっと顔を貸せ」みたいな感じで、睨み合いを続けたまま、揃って出ていってしまった。
喧嘩になりませんように、と思う間もなく、扉が閉まると同時に、廊下で怒鳴りあいが始まる。
明智
「……朝からどうしたんだ、あの人たち?」
翼
「ははは……」
私は乾いた笑いを返すしかない。
と、明智さんが不意に、私の横で身を屈めた。
翼
「?」
明智
「気の毒だが、扉の前であれじゃ、当分、誰も出勤して来られないだろ」
耳元でそう囁くと、明智さんは、指先で私の顔を上向かせた。
ちゅ、と唇が触れ合う。
翼
「?!」
明智さんが、職場で、すぐそこに人がいるのに、キスするなんて!
私が驚いたまま見つめていると、明智さんは、ふ、と笑って身体を起こした。
明智
「おはよう、翼」
翼
「……おはようございます」
優しい眼差しに、ようやく、自分の頬が、かあっと熱くなるのが分かった。
でも、その時にはもう、明智さんはいつもの仕事モードで。
明智
「さあ、そろそろ止めに入るか」
翼
「はい!」
室長、小野瀬さん、ご心配ありがとうございます。
でも、きっと大丈夫です。
だって、私、こんなにドキドキしちゃうほど、明智さんが大好きだから。
私は緩んでしまう頬を押さえながら、腕捲りをして扉に向かって行く明智さんの背中を追い掛けた。
~END~