明智家の午後三時 *ニコ様のリクエスト
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~明智vision~
翼
「えへへー」
ティーポットと温めたカップをお盆に載せて部屋に戻って来ると、翼は床にぺたんと座り、左手を高くかざして、ニコニコしていた。
その左手の薬指には、俺の編んだレースの指輪。
明智
「また見てるのか?」
翼
「嬉しいんだもん」
翼は指輪を見つめたまま、返事をする。
翼
「まーくんが、いつも手を繋いでいてくれるみたいで、安心するの」
……俺、今、どんな顔をしてるんだろう。だらしなく、にやけていないだろうか。
お盆をテーブルに置いてから床に胡座をかき、俺は彼女を手招きした。
明智
「おいで」
彼女は猫のように歩いて来て、俺の脚の間に納まる。
軽く腕をまわすと、嬉しそうに身体をすり寄せてきた。
彼女の髪は、日なたの匂い。
胸いっぱいに吸い込むと、彼女はくすぐったそうにした。
明智
「翼」
顔を上げるのを待って、チュッ、とキスした。
頬を染める翼の笑顔は可愛くてとろけそうで、たまらない。
翼
「まーくん」
明智
「ん?」
翼
「……もっと」
そう言うと瞼を閉じて、唇を尖らせた。
理性が。
ああ、紅茶が出過ぎてしまう。
でも、彼女が瞼を開けてしまう。
俺は本能に屈した。
翼にキスすると、唇が開いた。
今日、いつになく積極的だな。
……大歓迎だけど。
舌を入れて絡めると、翼は身体を震わせた。
腕を伸ばして、俺の頭を抱いてくる。
求められるまま、俺は口づけを深くした。
翼
「……ん……」
服の上から胸に触れてみると、吐息が甘くなってきた。
俺の方も感じてる。
唇を滑らせ、鎖骨から首すじを舐め上げてやると、翼はびくんと震えて、背中を強張らせた。
嘘だろ。
翼
「……ぁっ……」
続けて痙攣し、涙ぐむ翼。
慌ててキスに戻ると、彼女はすがりついて来た。
翼
「んっ……まーくん、まーくん……、まーくんっ」
明智
「翼……っ」
俺の声と同時に、彼女は達してしまった。
抱き締めて髪を撫でてやっていると、腕の中から、翼が泣きそうな声を出した。
翼
「ごめんなさい」
明智
「ん?」
顔を見ようとすると、彼女は下を向いて、丸くなってしまった。
耳が真っ赤だ。
どうして謝るんだろう。
明智
「翼、すごく、可愛い」
翼
「もう、やめて……」
さらに縮こまるので、何だか可哀想になってきた。
今は、そっとしておいてやろうかな。
明智
「紅茶を淹れ直してくるよ」
俺は丸くなったままの彼女を膝から下ろし、お盆を持って立ち上がった。
翼
「あっ、紅茶……ごめんね、まーくん、私ったら」
彼女はベッドに顔を突っ伏し、枕を被る。
翼
「もうやだ、恥ずかしい」
そんなに恥ずかしがる事じゃないのに。
俺はクスクス笑いながら、階下のキッチンに向かった。
出過ぎた紅茶をミルクティーに淹れ直して二階に上がって来ると、何やら部屋が騒々しい。
開けっ放しのドアに胸騒ぎがして飛び込むと、案の定、彼女が三人の姉に囲まれていた。
こいつら何処から来たんだ。
明智長女
「ねえ翼ちゃん、その指輪、誠臣が編んだんでしょ?」
翼
「はい。私の宝物です」
明智次女
「宝物だって、かっわいーい」
次女が翼の頭を撫でる。
明智三女
「まーくんが、どんな顔で渡したのか、興味あるぅ」
翼
「明智さんは、いつでも真面目で凛々しいお顔です」
明智長女
「きゃー!」
明智次女
「真面目だって!」
明智三女
「凛々しいだって!」
明智
「こら!」
俺はずかずかと部屋に入って、乱暴に、お盆を置いた。
明智長女
「はい、まーくんがお茶を淹れてくれたわよ」
全く動じない長女が、翼にカップを手渡す。
明智次女
「まーくん、あたしにも淹れて」
明智三女
「あたしにもー」
明智
「お前らの分は無い!」
言いながら、自分の分のティーカップを次女に渡してしまう俺が悲しい。
明智次女
「翼ちゃん、まーくんは優しいねー」
翼
「こういうところが好きなんです」
翼はニコニコしている。
明智長女
「きゃー!」
明智次女
「まーくん、聞いたぁ?」
明智三女
「『こういうところが好きなんです』だって!」
キャーキャー転げ回る三姉妹相手に、自分の頭に血が昇るのが分かる。
落ち着け俺。
俺は柔道有段者で警察官で、相手は邪悪とは言え実の姉たちだ。
投げ飛ばしたら犯罪だ。
明智長女
「ねえねえ、二人の馴れ初めを聞かせてよ」
翼
「最初は怖かったんですよ」
翼も話さなくていいから!
翼
「でも、いつも真剣で、仕事熱心で、だからこそ、私が女性で、刑事である事を心配してくれました」
頬を桜色にして、一生懸命話す翼の姿に、三人の姉は目を細めている。
多分、俺も、同じ顔をしているだろう。
翼
「そのうち、甘いものが好きで、手先が器用で、家事が上手だって知って。……それを必死で隠してるのが、何だか可愛いなって」
明智長女
「可愛い、だって!」
明智次女
「まーくん、隠してたの?」
明智三女
「呆れられないで良かったねえ!」
明智
「うるさい!」
俺が怒鳴ると、翼は悲しそうな顔をした。
翼
「明智さん、お姉さんたちに『うるさい』だなんて」
翼に庇われて、姉たちが調子づく。
明智長女
「まーくん、怖ーい」
明智次女
「お姉ちゃん達、悲しーい」
明智三女
「翼ちゃん、優しーい」
こいつら。
明智長女
「ねえねえ、初めてチューしたの、いつ?」
明智次女
「どっちから告白したの?」
明智三女
「まーくんて、上手い?」
翼
「……ええと」
勘弁してくれ。
明智
「もう、お茶は飲み終わっただろ。出てけ!」
明智長女
「翼ちゃん、誠臣ったら、『出てけ』だってー」
明智次女
「お姉ちゃん達、悲しーい」
明智三女
「こんな男でいいのー?」
明智
「うるさいっ」
俺は止める翼に構わず、三人の襟首を掴んで、部屋から放り出した。
内側から二重鍵をかける。
もちろんチェーンも。
翼
「まーくんのお部屋って、どうしてそんなに戸締まりが厳重なの?」
部屋の外で、姉達が笑っている。
俺は翼の手を引いて、ベッドに押し倒した。
翼
「ま、まーくん、廊下にお姉さんたちが」
明智
「あいつらなら、すぐに消える」
下世話な姉達だが、断じて、弟の房事に聞き耳を立てるような野暮で下品な女達ではない。
その証拠に、話し声はどんどん遠ざかり、間もなく、玄関に鍵がかかり、三人の気配は外へ出て行った。
その間に、俺はほとんど彼女のブラウスを脱がせている。
翼
「まーくん」
明智
「うん?」
性急なキスの合間に、彼女が笑った。
翼
「私、お姉さんたちと同居でも、楽しく暮らせそうな気がする」
それは、有り難い言葉だ。
明智
「だが断る」
翼
「え?」
明智
「たとえ翼が一緒でも、この家に俺の安息は無い」
翼は可笑しそうに笑った。
翼
「まーくんたら」
子供っぽい意地を笑われたようで、ちょっと照れ臭い。
明智
「……でも、ありがとう」
想いを込めてキスをすると、彼女はもう喋らなくなった。
本当は俺にも分かってる。
自分が愛されている事。
自分が愛している事。
俺と同じで、不器用な姉達。
それを理解してくれる恋人。
翼の左手薬指に、俺の贈ったレースの指輪が見えた。
いつも手を繋いでいてくれるみたいで、安心する。
彼女はそう言ってくれた。
編みながら込めた想いがちゃんと届いて、安心したのは俺の方。
熱っぽい眼差しで見上げてくる翼にキスで応えながら、俺は少し不安になる。
俺は今、どんな顔をしてるんだろう。
幸せで幸せで、泣きそうな顔をしていないだろうか。
~END~