スポットライト明智編
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~明智vision~
年明け早々。
捜査室から一番近い小会議室で、俺は女装させられていた。
如月
「明智さーん、んぱっ、てしてみて下さい」
右手に、掌に収まるほどの小さい筆(リップブラシというらしい)を持った如月が、そう言いながら唇を閉じ、続いて、開く仕草をしてみせた。
よく分からなくて口をもごもごしていると、如月と顔を並べて俺を見つめていた翼が、微笑みながら、如月のした仕草を繰り返してくれた。
翼
「こうするんですよ」
きれいな桜色の唇の動きを真似してみる。
……ん、ぱっ。
翼
「上手ですー」
翼が褒めてくれた。
如月も満足そうに頷く。
如月
「ハーイ完成。キレイですよー、明智さーん」
如月はニコニコしながら、俺に手鏡(ミラー##23##というらしい)を差し出した。
如月渾身のメイクを施した俺の顔に、背後から、翼が長い黒髪のカツラ(ウィッグというらしい)を被せてくれた。
手鏡を覗き込むと、その中にいたのは……
どこかで見た顔。
同じ鏡の中、俺の後ろで、翼が声を殺して笑っている。俺は眉をひそめた。
如月
「あれっ?……すみません、気に入りませんか?」
表情を曇らせた如月の顔を見て、俺は慌てて首を横に振った。
明智
「あ、いや、違うんだ、すまん。……気に入らないというか、その、」
翼
「三つ子のお姉さんたちにそっくりなんです!」
とうとう、翼が噴き出した。
如月
「え?あっ?!」
如月は、大きな目をパチパチした。
こいつは、俺の姉たちに直接会った事はない。
だが、いつも俺がぼやくのを聞いているので、それがどんな存在なのかは知っているはずだ。
如月
「世田谷の……」
言いかけて、口を押さえた。
明智
「そう、世田谷のゴーゴン三姉妹だ」
俺が、如月と翼の言葉を肯定するように頷くと、如月は、慌ててウィッグの箱を掻き回し始めた。
その間も、翼は真っ赤になって涙を流している。
如月
「あー、……じゃあ、ウィッグを変えましょうか?えーと、茶髪のボブか、ゆるふわカール、ソバージュ、金パ縦ロール、それから……」
明智
「もう……今被ってるやつでいい」
俺はげんなりして、溜め息をついた。
よく考えたら、姉に似ていようが金髪縦ロールだろうが、もはやどうでもいい。
俺が、今、こうして恥を晒しているのは、新年会の余興、刑事部合同のカラオケ大会の為だ。
男が女装して歌う、ただそれだけのしょうもないイベント。
せいぜい、小一時間我慢すればいい。
我慢、我慢だ。
新年会の会場になっている大広間は、すでに異常な盛り上がり。
宴会場は酔っぱらいで溢れ、舞台とその裏側(俺のいるこの場所だ)は、出演者たちでごった返している。
出演するのは全員が女装した男ばかりなので、ほとんど妖怪大集合だ。
しかも、刑事部所属のごっつい連中勢揃い。
自分もその中に加わっているのが恐ろしいが、内心、仲間がいるのは有り難い。
小野瀬さんのラボで、勢いとはいえ小笠原や櫻井に約束してしまった以上、やらなければならない。
だが、ああ、出来ればやりたくない。
俺はまだ悶々ぐるぐるとし、どんよりと溜め息を繰り返していた。
係員
「明智さん、準備お願いします」
手招きされて、仕方なく舞台の袖まで行くと、幕の陰から、宴会場の様子が目に入った。
酔客の中には、室長や小野瀬さんの姿も見える。
小野瀬さんの手にはビデオカメラ。
……後で絶対に消去してやる。
司会
「続きまして、緊急特命捜査室より、明智誠臣の登場です!」
拍手が起きる中、大広間の舞台の袖から、係の誰かが背中を押した。
少しふらついたものの、覚悟を決めた俺は、大きく息を吸い込んで、眩い光の中へ出ていく。
センターマイクの前に立てば、後は歌って引っ込むだけだ。
俺が登場すると、会場がどっとウケた。
平常心、平常心。
目を閉じて、歌い始める。
ざわめきが少しずつ収まってきたので目を開けると、最前席でビデオを撮っている小野瀬さんが見えた。
思わず顔をしかめるが、近くに室長の姿が無い。
俺は思いがけず動揺して、目線だけで室長を探す。
室長は、宴会場の隅で、ステージに背を向けて丸くなっていた。
しかも、カーテンにしがみついて震えている。
あ。
さっきの翼の反応を思い出した俺は、その瞬間、頭が真っ白になった。
俺の姉たちを知っている室長が、女装して姉そっくりになって現れた俺を見たらどうなるか。
声を失った俺を残して、会場にはメロディーだけが流れ始めた。
異常を察して室長が振り返る。
その時。
如月
「えるおーぶいいー、らぶりーまさおみ!」
翼
「頑張れ頑張れ明智さん!」
小笠原
「だいじょぶ、すごくキレイだよ!」
小笠原までいる。
小野瀬
「明智くーん、可愛いよ!」
穂積
「明智、最高!」
立ち直った室長が、立ち上がって声援をくれる。
俺も歌詞を取り戻して、再びメロディーに声を乗せた。
再び会場が盛り上がる。
沸き上がる仲間たちの歓声、目の眩むようなスポットライト。
こうして俺の、熱唱の幕は降りた。
穂積
「いやー、ホント、感動したわ」
ステージ終了後、着替えて捜査室に戻った俺を、室長が満面の笑顔で迎えてくれた。
穂積
「でも、ごめんなさいね。ワタシが笑いの発作を起こしちゃったから、明智、調子が狂ったんでしょう?」
明智
「あ、いや……」
穂積
「本当にごめんなさい。必死で我慢したんだけど」
室長が、拝むように手を合わせた。
翼
「無理もないですよ。私も、控え室で明智さんを見た時には笑っちゃいましたもん」
俺が軽く睨むと、翼は急いで口を押さえた。しかし、完全に目が笑っている。
小笠原
「でも、女装部門では一位だったから」
明智
「それは、如月のメイクのお陰だな」
如月
「素材がいいからです!俺も、鼻が高いですよ」
小野瀬
「藤守くんが用事から帰って来たら、改めて一杯やろうよ。VTRを見ながら」
小野瀬さんは超ご機嫌だ。
穂積
「小野瀬、あまり苛めると、次回逆襲されるわよ」
小野瀬
「えっ?」
穂積
「えっ?じゃないわよ。今回の女装カラオケ、本来はアンタにやらせるつもりだったの、忘れたの?」
小笠原
「そう言えばそうだ」
穂積
「明智に感謝しなさい」
翼
「小野瀬さんの女装も見たいです!」
如月
「俺、お手伝いしますよ!」
小野瀬
「旗色が悪くなってきたなあ」
小野瀬さんは苦笑して、それでも、俺に向かってきちんと頭を下げてくれた。
小野瀬
「今回はありがとう、明智くん。感謝するよ」
明智
「小野瀬さんに頭を下げてもらうほどの事では……」
顔を上げた小野瀬さんが、にっこり笑う。
小野瀬
「ちなみにコレ、バックアップしてあるから。消去しても無駄だから」
……やっぱり、この人嫌いだ。
如月
「藤守さんはいないけど、今日も一杯やりませんか?明智さんの活躍を祝って」
穂積
「いいわね」
小野瀬
「昔の穂積のVTRもあるよ。見たい?」
小野瀬さんの発言に、室内は一瞬静まり返り、それから爆発した。
翼
「見たい見たい見たい!」
如月
「俺も見たい見たい見たい!」
小笠原
「俺も」
俺も、見たい。
穂積
「小野瀬!てめえっ!」
小野瀬さんと室長のいつもの追いかけっこを見ながら、俺は、他のみんなと一緒に、声を立てて笑った。
藤守、早く帰って来いよ。
捜査室は今年も大騒ぎだ。
たまには事件の無い、こんな日があってもいいよな。
~END~
室長の女装カラオケが気になる方は↓
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