いいから黙って甘やかさせてくれ





 目に見えてわかりやすい酔い方ではなかったが、いつもの距離で言葉を交わすカムイルからほんのりとアルコールの匂いを感じられると、まだ飲酒について何もわからないリーンにもカムイルが酔っているのだということはわかった。体温が上がったせいか控えめな香水の香りもいつもよりわかりやすくなっていて、何より、何度もカクテルをおかわりしていた姿を近くで見ていたのだ。
 普段は最初の一杯だけで止めてしまうカムイルが、原初世界で親しい人達と飲んでいるときと同じようにリーンの前で飲んでくれた。その姿が見たいというリーンの我儘を聞いてくれた。それが嬉しくて、リーンは部屋に戻ってすぐにカムイルの腰へと後ろからぎゅっと抱きついた。
「うわ…っ、マジでめっちゃ甘えてくれるじゃん。どうしたの?」
「……噛みしめているんです、嬉しさを」
 抱きついた体温が、いつもよりも高い。腰に近いと香水の匂いは尚更だ。それが、ついさっきまでいた酒場のアルコールと煙草の香りと混ざっているのが部屋の中だとわかりやすくて、いつもと違うカムイルの体温と匂いにくらりと頭が揺れそうになる。
「大人のカムイル…って、感じがする」
「ふふっ…なぁに、それ」
 リーンが抱きついていた両腕がカムイルにやんわりと解かれ、振り返って膝を折ってくれたカムイルが正面からリーンを抱きしめてくれる。やはり感じるのは、酒場に満ちていたアルコールと煙草の匂い。特に髪や衣服につきやすいそれに気付いたのはリーンだけではなかったようで、カムイルもすんすんと鼻を鳴らすと、リーンの両肩を掴んで抱きしめてくれていた体をぐっと離した。
「ごめん。隣の席の人達が煙草吸ってたから、匂い移っちゃってるね。シャワー浴びて着替えておいでよ。俺は水飲んだりして、ちょっとアルコール抜けてから入るから」
「わかりました。では、お先に借りますね」
 本当はその匂いが普段と違っていいのに、とは口にしないことにした。
 アイスボックスから冷やしておいたミネラルウォーターを出して飲むカムイルを横目に、着替えを持って脱衣所へと素直に向かう。リーンの洗濯物を入れる籠がそこに当たり前のように置かれるようになったのは、いつのことだったか。外から見えないように気を遣ってカムイルが蓋つきでつくってくれたそれに脱いだ衣類を入れて、自分の部屋のものよりもすっかり見慣れてしまったバスルームへ入る。
 リーンの部屋のバスタイルは白と淡いブルーのモザイクになっているが、カムイルの部屋のものは一面真っ白だ。シャワースタンドの横の棚にはリーン用にカムイルが調合してくれたシャンプー、トリートメント、ボディソープ、洗顔用ジェルのボトルが順番に並んでいる。それらで爪先から髪の毛一本一本の毛先まで丹念に全身を洗うと、カムイルが手ずから揃えてくれた香りに包まれる。毎日シャワーを浴びて変わらない香りに包まれるたび、自分はカムイルのものなのだと言ってもらえているようで。カムイルに対して言葉にしたことはないが、リーンは彼が揃えてくれたソープで髪や体を洗うのが大好きだった。

「…うん、今日もいい香り」
 肌と髪から水気をとって、ソープの香りを閉じ込めるようにナイトドレスを着る。リーンが居室へ戻って顔を覗かせると、カムイルはソファに座って相変わらずグラスの水を飲んでいた。
「シャワー、空きました」
「ん、おかえり」
「ねえカムイル、昨日のドライヤー…自分で使ってみてもいいですか?」
 きっとカムイルはこのまま入れ違いでシャワーを浴びに行くだろう。昨日のドライヤーがあれば待っている間に髪を乾かしきれるかもしれない、と思ったのだ。カムイルもリーンがドライヤーを使ってみたいと言うであろうことは予想していたのか、すでにテーブルの上に置いてあったそれを手に取ってリーンに渡してくれる。
「そんなに強くエーテルを込めなくても動くよ。あと、ずっと同じところに温風を当て続けていると肌にも髪にもよくないから、昨日俺がやってあげたみたいに小まめに動かしながら使ってみて」
「わかりました」
「じゃあ、俺もシャワー浴びてくるね」

 腰を上げたカムイルと入れ替わるようにソファへ座り、脱衣所へ続く扉を閉める背中を見送ってから改めて手の中のドライヤーを見る。試しにほんの少しだけ掌からエーテルを込めてみるとすぐに音を立てながら温風が吹き出てきたので、リーンは昨日と同じように「わっ」と声を上げて肩を竦めてしまった。
「うわ…自分で持っていると、少しあたたかいかも…」
 気を取り直して、昨日カムイルに乾かしてもらっていた時のことを思い出しながら、温風の吹き出し口を髪の根元に向けて乾かし始める。
 自分の指で直接触れながらだと髪が乾いていく様子がさらにわかりやすく、なんとも便利な日用品が原初世界にはあるものだ、と感心してしまう。カムイルも話していたが、これを安定して生産、供給できるようになればクリスタリウムの暮らしはさらに豊かなものになるだろう。
 初めてのリーンでもドライヤーは使いやすく、カムイルがやってくれたように櫛を一緒に通しながらのブローは難しくてうまくいかなかったが、髪全体を乾かしてから梳かすとそれだけでもタオルドライのときより綺麗な仕上がりになった。
「今度、ガイアにも使ってあげたいな」
 自分と同じように長い髪を持つ友人のことを思い出しながら、次の準備のためにヘアオイルとボディクリームの容器が置かれている収納棚へと向かう。再びソファに戻り掌へ適量出したヘアオイルを体温で温めてから手櫛で髪に馴染ませ始めると、ちょうどそのタイミングで居室へと戻ってきたカムイルが「あ、」と声を上げた。
「仕上げは俺がしてあげようと思ってたのに…」
「昨日カムイルがお手本をしてくれたから、初めてでも使いやすかったんですよ」
 風呂上がりのカムイルの髪型は例の幼さを感じさせるもので、軽くタオルドライをしただけで水気をまだ含んでいる毛がぺったりと下がっているため、幼い印象がさらに強い。リーンは予めテーブルの上に用意しておいた乾いたタオルを手に取ると、昨日カムイルに招かれたときと同じようにそれを広げて見せる。そのリーンの所作で言わんとすることを察したカムイルは、何とも言えない困った表情になったリーンを見つめた。
「えぇ……いや、いいよ。今日は俺がリーンのお願いに応える日なんだから」
「だから、ですよ。私にもやらせてください」
「でも、」
 他の事なら快くリーンのお願いを聞いてくれるカムイルが躊躇う理由が、リーンにはわかっている。頭に行儀悪く乗せたままのタオルをきゅっと握ってソファへ近寄ろうとしないカムイルに、リーンは駄目押しの言葉を重ねた。
「カムイルもいつも言ってるじゃないですか。私を甘やかさせてほしい、という我儘を聞き入れて甘やかしてくれ、って」
「うっ…」
「だから……ね?カムイルを甘やかさせてほしい私の我儘、叶えてくれませんか?」
 それを言われたらぐうの音も出ない、と。カムイルは握ったタオルの下で苦しそうに唇を噛んだものの、折れて素直にリーンの隣に座ってくれた。座高差を埋めるためにリーンが膝立ちになってタオルを取り換え、新しいタオルの上から頭の天辺を撫でるように乾かし始めると、思わず、といった様子でカムイルの唇から小さな溜息がこぼれる。
「嗚呼……駄目だ、これ……」

 ――カムイルは、リーンに頭を撫でられるのに滅法弱いのだ。

 髪の表面を撫でられているときとはまた違う、掌を頭のかたちに寄せて、いい子いい子と子供があやされているときのような――そうやってリーンが頭を撫でるとカムイルの中で何かの箍が外れそうになる、と当人は言っていた。
きっと、元来の甘えたがりな性分が触発されてしまって抑えがたくなるのだろう。
 でも、それと同時にとてつもなく癒されるとも言ってくれていた。その証拠に、素直に甘えてきてくれるときはカムイルからリーンにタオルドライを頼んでくることが多い。そしてリーンも、甘えたがりのスイッチが入ったカムイルをそのまま甘やかしながら就寝までの時間を過ごすのが大好きだった。
 だからリーンは、ずっとこの機会を窺っていたのだ。昨日の夜は会えなかった分の淋しさを埋めるようにリーンを甘やかしてくれたのだから、もらいっぱなしではなく今夜こそ自分の番である、とリードを握るために。

「ねえ……もしかして、これがしたくて俺に酒飲ませたの…?」
 すっかり脱力しきった声で、タオルの下からカムイルが問うてくる。言葉こそ拗ねた様子だが内心はすっかり観念していて、ソファの上に伸ばした尻尾が先程からゆらゆらと気持ちよさそうに揺れていた。
「俺、頭撫でてもらうと駄目になるって…リーンもわかってるのに…」
「駄目なんかじゃないですよ。原初世界でのお仕事が大変だったんですから、頑張ったカムイルのこと、私にも労わらせてください」
「ん…」
 タオルドライで粗方の水分を拭き取り、湿ったタオルからドライヤーへと持ち替える。その頃にはカムイルも不満を漏らすことはなく、リーンが温風を当てて本格的に髪を乾かし始めると「あー…」と気持ちよさそうな声を漏らしてくれた。
「これ…人にやってもらうと、めっちゃ気持ちいいね」
「そうでしょう?私も昨日は、温風の温かさと指先で触れてもらっている心地よさで、つい眠くなってしまいそうで」
「わかる。気ぃ抜いたらうとうとしそう」
 うまくできているか不安なリーンだったが、カムイルが昨日の自分と同じように心地よさを感じてくれているとわかって思わず笑みを溢してしまう。手は止めないままちらりと覗き込んだカムイルの表情はうっとりと瞼を閉じていて、恋人が自分の手でリラックスしてくれているのだとわかると余計に嬉しかった。
 カムイルはよく、自分はリーンを甘やかしたいという我儘を受け入れてもらっている側だと言葉にしているが、それはリーンだって同じだ。カムイルにしてもらったのと同じように自分もお返しをしたいというリーンの我儘を聞き入れて、今のように受け入れてくれる。カムイルが本当に我儘で融通の利かない性格だったら、絶対にリーンに主導権を握らせてくれないはずだ。
「……カムイルは、本当に優しい」
 だからリーンも、何度も言葉にする。自分の恋人はとても優しい人なのだと。その魅力に当の本人がなかなか気付いてくれないから、これからも、カムイルが胸を張って「そうだよ」と言ってくれるまで、何度でも伝えたい。
「うーん…俺、やっぱり優しいってのとは少し違うと思うけど」
「もう。カムイルったら、こういうときは素直じゃないんだから」
「ごめんね、捻くれた性格で」


 短髪のカムイルの髪が乾く時間はロングヘアのリーンよりもずっと早くて、他愛ない会話を少し交わす間に完全に乾ききってしまった。ドライヤーを置いたリーンが仕上げのヘアオイルを手櫛で馴染ませ終えると、それまで大人しくされるがままになってくれていたカムイルの手がリーンの頬へと伸びてきた。
「カムイル…?」
「ねえ、俺の膝に来て」
 普段の身長差では滅多に見られない上目遣いで、ぽんぽん、とカムイルが招くように腿を叩く。リーンがその招きに応じてカムイルの膝の上へ横向きに座ると、リーンの体を包み込むように抱き寄せられてそのまま唇が重なった。薄らいでいるけど、まだほんのりとアルコールの匂いが残っている口づけ。いつも通りのカムイルの香りにいつもと異なるアクセントが加わって、抱き寄せられたままぴったりと触れ合っている胸元がいつも以上にドキドキと高鳴ってしまう。
「ん…っ、」
 触れ合うだけのキス。それを何度か交わしてから、睫毛が触れ合う距離で見つめ合う。
「ねえ…本当に甘えていいなら、聞いてほしいお願いがあるんだけど」
「うん…、」
 至近距離で、甘い声で囁かれると、艶っぽい雰囲気にはまだまだ慣れないリーンはさらにドキドキしてしまう。消え入りそうな声で小さく頷いたリーンに、カムイルは艶っぽい空気を打ち消すように「やった」と無邪気に笑って見せてからリーンを解放した。

「…よし。じゃあ、ちょっと寒くなるかもしれないから、ブランケット持ってくるね」
「寒くなる…?」
 一体、カムイルは何をするつもりなのか。見当がつかずきょとんとしてしまうリーンが見守る中、一度リーンを膝の上から降ろしたカムイルがソファを離れてベッド脇に収納してある大ぶりのブランケットを抱えて戻ってくる。戻ってきたカムイルに再び膝の上へ抱えられるとその上から二人の体を包み込むようにブランケットで覆われ、その下でカムイルに手繰り寄せられた手をぎゅっと握られる。
「俺と繋いでる手に、エーテル込められる?ほんの少しずつで大丈夫だから」
「えっと……こう、ですか…?」
「……うん、いい感じ」
 リーンとカムイルの手の間に簡易的なエーテルのパスが繋がると、それを確認したカムイルが満足そうに瞳を閉じてリーンを抱え直す。まるで、寒い季節に二人でくっついて暖をとっているときのようだ。カムイルは目を閉じたまま黙ってしまうのでリーンも大人しくされるがままになっていると、不意に視界の端で何かが煌めくのが見えた。
(あ…――)
 まさか、と抱えられた腕の中で小さく顔を上げる。そうしてリーンが室内の空気――そこへ満ち始めたエーテルの気配を感じ取っている間に、部屋の中の温度がみるみる下がっていく。凍えるほどではないが、少し肌寒い。カムイルと二人でブランケットに包まっているのがちょうどいいくらいの涼しさになって、部屋の中にはらはらとダイヤモンドダストが舞い始めた。
「カムイル、これ…っ」
 きっと、カムイルが繋いだ手からリーンのエーテルを取り込んだことによる影響だ。すぐ傍でリーンが感じるカムイルの体内エーテルのバランスが少しだけ霊極性に偏っていて、かつて彼の姉が第一世界を救うためにその身に光を取り込み過ぎたときのことを思い出したリーンが反射的に手を離そうとするが、それを逃さずカムイルがしっかりと握り込んでくる。
「大丈夫。心配するようなものじゃないよ」
「でも…、」
「エーテルのバランスが傾き過ぎないところで調整してるから……だから、ちょっとだけこのままでいてほしいんだ」
 お願い、と角を擦りつけられる。リーンにはハイデリンとの繋がりがあった影響で今も光を操る力が残っているとはいえ、魔法や魔道に関してはまだまだ勉強不足で、黒魔道士であるカムイルに比べればエーテル操作に関わる知識も少ない。きっと今は黒魔法を使う際のアンブラルブリザード状態に近いのだろうと察することができる程度で、ならばカムイルの大丈夫だという言葉を信じてみようと大人しく腕の中に収まり直すと、角を擦りつけてきたリーンのこめかみのすぐ近くに嬉しそうな吐息を感じた。
「一回、ね…リーンのエーテルを俺の内側で感じてみたかったんだ。でもリーンは俺の魂のこととかエーテル相性のこととか知ってるし、そこに来て相性がよすぎるリーンのエーテルを取り込みたいって言ったら、きっと心配させちゃうだろうなぁ…って」
「…今だって、少しだけ心配です。魔法やエーテル操作についてはまだまだ勉強不足の私でも、カムイルの中に流れているエーテルの偏りはわかるから」
「だよね。でも、本当に大丈夫だから安心して」
 カムイルがリーンのエーテルを取り込んで、それがカムイルの中で循環して、ダイヤモンドダストに姿を変えて空気中へと流れていく。冬の夜のように凍みて澄んだ空気は自然と室内に穏やかな静寂を与えて、リーンもカムイルと同じように瞳を閉じると、抱えられた胸にそっと自らの頬を寄せた。


 光――それがかつてこの世界に満ちたとき、未来を望めない『停滞』というかたちで人々に牙を剥いた。
 リーンの心もそうだった。ミンフィリアという生き方しか与えられず、でも本物のミンフィリアには程遠く――いっそ自分自身の存在を消せと言われてしまった方がいいのに、なんて考えていた時期もあった。
 でも今、カムイルの中で巡っているエーテルはとても穏やかで。光とは『鎮静』、そして『平穏』をも司るものなのだと思い出させてくれる。意識を集中させれば、カムイルの中へと巡っていったリーンのエーテルが彼の疲弊したエーテル循環路を癒していく様子も感じることができた。

 ほんの少し、囁き合うようにエーテルを交わすだけ。それだけでもカムイルを労わることができるのだとわかり、リーンはカムイルへと送り込むエーテルに少しだけ治癒の力を乗せた。受け取り手のカムイルもそれを敏感に感じ取って、リーンを抱えたまま「ありがとう」と小さく囁き返してくれる。
「カムイル、気持ちいいですか…?」
「うん、気持ちいいよ。エーテルに込められた感情って、思っている以上に強く残るものだから……俺を労わってくれるリーンの気持ちが伝わってきて、それが、すごく心地いい」
「ふふっ…それなら、嬉しい」
 ブランケットが落ちないように慎重に身じろいで、繋いでいない方の手をカムイルの後頭部へと伸ばす。リーンに顔を寄せてくれているおかげで難なく届くそこをまたよしよしと撫でると、瞼を閉じたままのカムイルがふにゃりと緩んだ笑顔を見せてくれた。
「こうしてエーテルの循環に意識を集中させると、わかります。昨日カムイルが話していたように、肉体よりもこちらの疲労の方が溜まっていて…黒魔法をたくさん使った後だって、こんなふうにならないのに」
「そりゃあね、使う魔法が違えばどうしたってエーテルの使い方も変わってくるから…それに、そもそも黒魔みたいな高速吸収と瞬間的な放出のほうが珍しいんだよ。あの使い方に慣れてるとどうしても、アンブラルブリザードの回復前提で立ち回っちゃうんだよね」
「じゃあ今のこれは、賢者のときにできなかった分ですね」
「うん、そんな感じ」
 そう言って、カムイルはずっと離さず繋いでいたリーンの手を解放した。それが終わりの合図になってリーンがエーテルの繋がりも解くと、空気中のダイアモンドダストが次第に見えなくなって室温も元に戻る。二人でくっついてブランケットに包まれるには少し暑い体感温度になり、カムイルは雑にブランケットを剥ぐとリーンは膝の上に乗せたままで両腕ごと大きく上体を伸ばした。
「ん~…っ、めちゃくちゃすっきりしたぁ…!」
「お役に立てたならよかったです」
「役に立ったどころの話じゃないよぉ…ほんとにありがとね」
 はつらつとした笑顔で、言葉で語る以上に本当にあらゆる疲労や凝りが吹き飛んだのであろう。リーンが膝の上から降りて隣に座り直すと、空いた膝に頬杖をついてカムイルがリーンの顔を覗き込んでくる。微かに残っていたアルコールも気にならないところまで抜けきったのか、随分とすっきりとした顔になってリーンにこう告げた。
「おかげでめちゃくちゃ元気になったから、明日からはまた覚悟してね」




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