21. 憧れのあなた②
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「な……フォーラ、それは違う。どうあっても私が悪い。そもそも論で言うなら、あの日私が脱狼薬さえ飲んでいれば」
「いいえ、私が―――」「いいや、私のほうが―――」
二人は短い口論を何度か交わしたが、ふとした瞬間に改めてお互いの顔を見合わせた。そして何をこんなところで『自分が悪い』と張り合っているのかと我に返るや否や、どちらからでもなく自然と声量が抑えられていった。ルーピンが溜息交じりに首を横に振った時、フォーラが先に口を開いた。
「……私、本当に先生には、今回の件を気負ってほしくないんです。確かに先生に噛まれそうになった時は怖かったです。だけど、先生は狼姿の時に私を傷つけまいとして懸命に葛藤していました。先生は正気を失っていても、それくらい生徒のことを大切に思ってくれているんだって分かって、私は嬉しかったから……。」
ルーピンはじっとフォーラの話を聞いていた。彼女が続けた。
「それに……先生は、私が貴方の心を傷つけたと知っても、私に歩み寄ってくれました。こんな噓つきの私に。だから私も先生に同じようにしたいんです。」
ルーピンはつい先程自身がフォーラを許した時と似たような言葉を返されて、思わず降参の意を含んだ笑みを零した。
「はは、それはそれは……。分かったよフォーラ、……ありがとう」
ルーピンのその優しい表情につられて、この時のフォーラは本当に随分久しぶりに、ルーピンの前で素直な笑みを見せたのだった。
さて、それから間もなくルーピンは自身のトランクを拾い上げた。そろそろもう本当に馬車に乗らなくてはならない時間だ。
「正門の方に馬車を止めてもらっているんだ。よかったらそこまで見送ってくれないかな」
「はい、勿論。」
フォーラは玄関ホールから正門までの道のりをルーピンと並んで歩いた。
「ルーピン先生は、これから何処へ向かうのですか?」
「さあ、何処だろうね。とりあえずは魔法省の人狼支援科に行ってみようと思っているよ」
いい仕事が見つかればいいんだが。そのように苦笑いするルーピンをフォーラは励ました。
「先生なら、きっと大丈夫です。私……上手く言えないけれど、そんな気がするんです。」
「そうか。ありがとう。何とか頑張ってみるよ」
そうして談笑しているうちに、二人はあっという間に正門に到着してしまった。そこには姿の見えない馬の引く馬車がルーピンのことを待っていた。ルーピンがフォーラに向き直った。
「フォーラ、ここまで来てくれてありがとう。それから……一つ聞きそびれていたことがあってね。もし違ったら申し訳ないんだが」
「ええ、何でしょうか?」フォーラはルーピンが濁した言葉の続きを促すように、優しく尋ねた。
「いや、その……最後の満月の夜、君が私の名を何度も呼んでくれていた気がしてね。私の都合のいい妄想だったとしてもお礼を言わせてほしい。それくらい私にとっての君は、私の存在を認めてくれる、数少ない大切な人たちの中の一人だから」
フォーラはあの夜、確かにルーピンの名前を呼んだ。そして彼が好きだとも伝えた。恐らく彼がその事を覚えていないという事実に、フォーラは心臓が脈打つのを感じた。
「私、あの……はい、確かに先生の名前を呼びました。」フォーラの回答にルーピンは柔らかな笑みを零した。
「やっぱりそうだったのか。……ありがとう。君みたいな魔女に出会えて、本当に良かった」
握手を求めるルーピンに応えてフォーラも右手を差し出した。ぎゅっと握れば、ルーピンのしっかりした手が彼女の小さな手を包み込むように握り返してきた。
「私……私も、先生にお会いできて良かったです……。」
フォーラには今朝ドラコに背中を押された時からずっと考えていたことがあった。とても大切なことだ。言うなら今しかない。今言わなければ、ルーピンに改めて告白するチャンスはもう二度と来ないだろう。
フォーラは唇をきゅっと結んだ。ルーピンの手が自分の手から離れていく。
「それじゃあ、ここで。またいつか、何処かで会おう」ルーピンはそう言って軽く手を振り、身体を馬車の方へ向けた。今目の前にいる彼には、これでもう会えなくなってしまう。このままでは、何も言えずに見送ることになってしまう。
「……っ……ルーピン先生……!」フォーラは馬車に向かって歩くルーピンを呼び止めた。
思わぬ呼びかけにルーピンは足を止めてフォーラを振り返った。彼女の胸の鼓動は早鐘を打っていた。自分が今から何を言おうとしているのか考えただけで頭が真っ白になりそうだったし、胸は張り裂けそうだった。
「わ、私……その……」
けれど、今言わなければ。
「……私、……ずっと、先生に会った時からずっと、先生のことが……」
ルーピンは唯々じっとフォーラを見つめ、彼女の言葉の続きを待った。フォーラの方は焦りを帯びながらも、何とかかろうじてルーピンを見つめ返していた。彼女は自分でも真っ赤な顔をしていることに気付いていたし、心臓はうるさく落ち着かなかった。
しかしそれ程高揚した状況にあっても、フォーラは心の何処か落ち着いたところで、ルーピンから返される言葉をもう知っているような気がした。彼女はルーピンと合わせていた目を少し俯いて逸らすと、唇をもう一度きゅっと結んだ。そして顔を上げて笑顔を見せた。
「私、先生のこと、ずっと……尊敬しています!これからも、ずっと……。」
ルーピンは少し驚いた様子だったが、直ぐに表情を綻ばせると彼女の言葉に応えた。
「……ああ、ありがとう。期待に添えるよう、これから頑張るよ。フォーラ、元気で。」
そう言ってルーピンは改めてフォーラに手を振った。彼女は何も言わず彼に手を振り返した。
ルーピンが馬車に乗ると直ぐに車輪が動き始めた。馬車は門を通り抜け、その先に続く道を進んでいった。フォーラはその場に立ち尽くし、馬車が見えなくなるまで見送ったのだった。
馬車が視界から消えても、フォーラはその場を動かなかった。見えなくなった辺りをぼんやりと眺め、その場に立ち尽くしていた。とうとう告白することは叶わなかった。寸前のところで怖気づいてしまった。
(どうして言わなかったの?)
フォーラは自分の目から自然と涙が零れ落ちるのを止めることができなかった。もうきっとルーピンに会うことはそうそう叶わないだろう。そう思うと余計に溢れる涙を抑えきれなかった。
一方のルーピンは馬車に揺られながら窓の縁に肘をつき、車窓を眺めていた。
『……私、……ずっと、先生に会った時からずっと、先生のことが……』
(正直、自分でも何となくフォーラの気持ちには気付いていた。本当は、彼女は私に違うことを言おうとしていたんじゃないだろうか。だけど、もし本当に私が予想したことを言われていたら、私はどう対応した?受け入れただろうか?教師であった私が、人狼の私が、私と一周りも歳の違う、私の生徒であった彼女を?―――いや、そんな筈はない。あってはいけないことだ。これでよかった。それに、私の方は彼女を生徒として大切だとは思っているが、それ以上の特別な感情なんて―――)
ルーピンはどんどん離れていく城を眺めた。
「……違う。特別な感情はあった。本当は、私は―――……」
「いいえ、私が―――」「いいや、私のほうが―――」
二人は短い口論を何度か交わしたが、ふとした瞬間に改めてお互いの顔を見合わせた。そして何をこんなところで『自分が悪い』と張り合っているのかと我に返るや否や、どちらからでもなく自然と声量が抑えられていった。ルーピンが溜息交じりに首を横に振った時、フォーラが先に口を開いた。
「……私、本当に先生には、今回の件を気負ってほしくないんです。確かに先生に噛まれそうになった時は怖かったです。だけど、先生は狼姿の時に私を傷つけまいとして懸命に葛藤していました。先生は正気を失っていても、それくらい生徒のことを大切に思ってくれているんだって分かって、私は嬉しかったから……。」
ルーピンはじっとフォーラの話を聞いていた。彼女が続けた。
「それに……先生は、私が貴方の心を傷つけたと知っても、私に歩み寄ってくれました。こんな噓つきの私に。だから私も先生に同じようにしたいんです。」
ルーピンはつい先程自身がフォーラを許した時と似たような言葉を返されて、思わず降参の意を含んだ笑みを零した。
「はは、それはそれは……。分かったよフォーラ、……ありがとう」
ルーピンのその優しい表情につられて、この時のフォーラは本当に随分久しぶりに、ルーピンの前で素直な笑みを見せたのだった。
さて、それから間もなくルーピンは自身のトランクを拾い上げた。そろそろもう本当に馬車に乗らなくてはならない時間だ。
「正門の方に馬車を止めてもらっているんだ。よかったらそこまで見送ってくれないかな」
「はい、勿論。」
フォーラは玄関ホールから正門までの道のりをルーピンと並んで歩いた。
「ルーピン先生は、これから何処へ向かうのですか?」
「さあ、何処だろうね。とりあえずは魔法省の人狼支援科に行ってみようと思っているよ」
いい仕事が見つかればいいんだが。そのように苦笑いするルーピンをフォーラは励ました。
「先生なら、きっと大丈夫です。私……上手く言えないけれど、そんな気がするんです。」
「そうか。ありがとう。何とか頑張ってみるよ」
そうして談笑しているうちに、二人はあっという間に正門に到着してしまった。そこには姿の見えない馬の引く馬車がルーピンのことを待っていた。ルーピンがフォーラに向き直った。
「フォーラ、ここまで来てくれてありがとう。それから……一つ聞きそびれていたことがあってね。もし違ったら申し訳ないんだが」
「ええ、何でしょうか?」フォーラはルーピンが濁した言葉の続きを促すように、優しく尋ねた。
「いや、その……最後の満月の夜、君が私の名を何度も呼んでくれていた気がしてね。私の都合のいい妄想だったとしてもお礼を言わせてほしい。それくらい私にとっての君は、私の存在を認めてくれる、数少ない大切な人たちの中の一人だから」
フォーラはあの夜、確かにルーピンの名前を呼んだ。そして彼が好きだとも伝えた。恐らく彼がその事を覚えていないという事実に、フォーラは心臓が脈打つのを感じた。
「私、あの……はい、確かに先生の名前を呼びました。」フォーラの回答にルーピンは柔らかな笑みを零した。
「やっぱりそうだったのか。……ありがとう。君みたいな魔女に出会えて、本当に良かった」
握手を求めるルーピンに応えてフォーラも右手を差し出した。ぎゅっと握れば、ルーピンのしっかりした手が彼女の小さな手を包み込むように握り返してきた。
「私……私も、先生にお会いできて良かったです……。」
フォーラには今朝ドラコに背中を押された時からずっと考えていたことがあった。とても大切なことだ。言うなら今しかない。今言わなければ、ルーピンに改めて告白するチャンスはもう二度と来ないだろう。
フォーラは唇をきゅっと結んだ。ルーピンの手が自分の手から離れていく。
「それじゃあ、ここで。またいつか、何処かで会おう」ルーピンはそう言って軽く手を振り、身体を馬車の方へ向けた。今目の前にいる彼には、これでもう会えなくなってしまう。このままでは、何も言えずに見送ることになってしまう。
「……っ……ルーピン先生……!」フォーラは馬車に向かって歩くルーピンを呼び止めた。
思わぬ呼びかけにルーピンは足を止めてフォーラを振り返った。彼女の胸の鼓動は早鐘を打っていた。自分が今から何を言おうとしているのか考えただけで頭が真っ白になりそうだったし、胸は張り裂けそうだった。
「わ、私……その……」
けれど、今言わなければ。
「……私、……ずっと、先生に会った時からずっと、先生のことが……」
ルーピンは唯々じっとフォーラを見つめ、彼女の言葉の続きを待った。フォーラの方は焦りを帯びながらも、何とかかろうじてルーピンを見つめ返していた。彼女は自分でも真っ赤な顔をしていることに気付いていたし、心臓はうるさく落ち着かなかった。
しかしそれ程高揚した状況にあっても、フォーラは心の何処か落ち着いたところで、ルーピンから返される言葉をもう知っているような気がした。彼女はルーピンと合わせていた目を少し俯いて逸らすと、唇をもう一度きゅっと結んだ。そして顔を上げて笑顔を見せた。
「私、先生のこと、ずっと……尊敬しています!これからも、ずっと……。」
ルーピンは少し驚いた様子だったが、直ぐに表情を綻ばせると彼女の言葉に応えた。
「……ああ、ありがとう。期待に添えるよう、これから頑張るよ。フォーラ、元気で。」
そう言ってルーピンは改めてフォーラに手を振った。彼女は何も言わず彼に手を振り返した。
ルーピンが馬車に乗ると直ぐに車輪が動き始めた。馬車は門を通り抜け、その先に続く道を進んでいった。フォーラはその場に立ち尽くし、馬車が見えなくなるまで見送ったのだった。
馬車が視界から消えても、フォーラはその場を動かなかった。見えなくなった辺りをぼんやりと眺め、その場に立ち尽くしていた。とうとう告白することは叶わなかった。寸前のところで怖気づいてしまった。
(どうして言わなかったの?)
フォーラは自分の目から自然と涙が零れ落ちるのを止めることができなかった。もうきっとルーピンに会うことはそうそう叶わないだろう。そう思うと余計に溢れる涙を抑えきれなかった。
一方のルーピンは馬車に揺られながら窓の縁に肘をつき、車窓を眺めていた。
『……私、……ずっと、先生に会った時からずっと、先生のことが……』
(正直、自分でも何となくフォーラの気持ちには気付いていた。本当は、彼女は私に違うことを言おうとしていたんじゃないだろうか。だけど、もし本当に私が予想したことを言われていたら、私はどう対応した?受け入れただろうか?教師であった私が、人狼の私が、私と一周りも歳の違う、私の生徒であった彼女を?―――いや、そんな筈はない。あってはいけないことだ。これでよかった。それに、私の方は彼女を生徒として大切だとは思っているが、それ以上の特別な感情なんて―――)
ルーピンはどんどん離れていく城を眺めた。
「……違う。特別な感情はあった。本当は、私は―――……」