19. 月下の告白
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(まさか、近くに魔法使いか魔女がいるの?)
フォーラは地に残る匂いと足跡、そしてルーピンの遠吠えを頼りに彼を捜した。あと少し、あと少しでルーピンの元に辿り着く筈だ―――。
そうして黒猫姿のフォーラがガサリと草木を抜けると、そこには一匹の狼が小高い崖のきわに立ち、辺りを見渡しているところだった。フォーラは身動きがとれなかった。何故なら視線の先にいる狼がこちらを振り向いたからだ。今まで見たルーピンからは想像もつかない程に荒れ狂った姿の彼は、フォーラの存在を視界に捉えると小さくグルグルと唸った。
フォーラは彼を止めたい一心でここまで走ってきた。そんな彼女は人狼に対する恐ろしいイメージを授業で習ってはいたものの、どうしても普段の落ち着いたルーピンの姿が頭の中で先行していた。それに人狼は動物を襲わない筈なのだ。そのため彼女はきっと動物の姿でルーピンに話し掛ければ、彼は再び元の落ち着きを取り戻してくれると踏んでいた。
しかし既に人を見て興奮したせいだろう、今のルーピンの荒れた様子から察するに、フォーラは初めから安易な考えでここへ来るべきではなかったのだ。目の前の狼はあまりにも黒猫との体格差がありすぎる大きな背格好をしていて、低く唸りながらジリジリとこちらに近付いてきていた。フォーラは必死に訴えかけた。
〈しっかりして!人間を捜しては駄目!〉
ルーピンにはフォーラの言葉など到底届いていないようだった。そのうちに彼は猫のフォーラまであと数メートルというところまで接近していた。
(先生に追われていた人がまだ近くにいるなら、何とかして今のうちにその人が逃げられる時間を稼がなきゃ)
〈しっかりして……お願い、先生……!ルーピン先生!!〉
その時だった。ルーピンは身体をビクリと跳ねさせて歩みを止めると同時に、その場で少々よろめいたかと思うと頭を左右に振ったのだ。どうやら彼は何かに混乱しているようだった。
(もしかしたら……)
フォーラはジリジリと後ずさると、途端に猫の変身を解いた。これはフォーラにとって賭けだった。もし彼女の推測が正しければ、次に彼女が取る行動でルーピンは再び意識を朦朧とさせるだろう。攻撃はできるだけしたくなかったが、やむを得ない場合は彼に呪文を発するしかない。しかし攻撃系の魔法が苦手な彼女にとって、それが上手くいく確率は随分低いように思われた。
(だけど、やるしかないわ)
ルーピンは曖昧な意識をハッとさせて再びフォーラの方を見た。そして今度は目の前に人間がいると認識するや否や、彼はブルブルと頭を振って先程とは比べものにならない程の形相で彼女目掛けて突進した。
「ルーピン先生!」フォーラの大声にルーピンは再度ビクリと反応し、その場で足を止めた。
(やっぱり……!)
フォーラの膝は震えていたが、彼女は杖を取り出したまま何とかルーピンから距離を取ろうとゆっくり後ずさった。しかしルーピンは直ぐに幾らか意識を引き戻し、混乱する頭でフォーラの方に近付いた。彼女とルーピンは少しの間、円を描くようにジリジリと距離を取り合った。
「先生、お気を確かに持って……!本当の貴方は人を襲いたくないんでしょう!?」フォーラがそのように声を掛けると、やはりルーピンは足を止めて小さく頭を振った。
(ルーピン先生は生徒の呼び掛けに反応して、人間の時の正常さを取り戻そうとしているのかもしれない。もしかするとこのままいけば、彼を落ち着かせることができるかも……)
フォーラがそのように思案しつつ次に一歩動いた時、彼女は偶然足元にあった小枝を踏んだ。パキッと枝の折れる乾いた音が響いたその瞬間、ルーピンは今度こそフォーラの方に向かって駆け出した。
「あ……!ペトリフィ―――」
フォーラが石化呪文を唱え終える前に、ルーピンはとうとう彼女を両前脚で仰向けに押し倒していた。今や彼女のすぐ横は崖だった。彼女は目の前の狼の瞳に、彼女自身の姿や、崖の向こうに続く森が月明かりに照らされてうっすらと反射しているのを見た。
大きな犬歯をギラつかせ、狼はフォーラの上に覆いかぶさっていた。今にもルーピンが彼女の身体を噛もうとしているのが目に見えて分かった。そして彼が大きく口を開けたその時、フォーラは何処か意識の彼方で、ルーピンになら噛まれてもいいと思っている自分がいることに気が付いた。
(……ううん、駄目よ。先生は自分が生徒を噛んだなんて知ったら、きっと正気でいられなくなってしまうわ)
フォーラは震える唇を嚙み、意を決して大きく息を吸い込んだ。そして力を振り絞って彼に訴えかけた。
「ルーピン先生、しっかりして!私、貴方のこと怖くない……!だって……だって私、先生のことが好きだもの!」フォーラは涙が出そうになりながら大声で叫んだ。
ルーピンはその声にビクリと身体を動かし、イヤイヤと頭を左右に振った。彼がそのような反応を見せた理由は、近くで大声を発されて驚いたせいだけではなかった。
ルーピンはその後も何かに耐えるようにもがいた。彼はフラフラとフォーラの上から退いたと思うと、先程よりも狂ったように頭を振って何とか正常な意識を保とうとしているようだった。フォーラは突然の事態に怯えが勝 ってしまい、何とか上体だけを起こして座ったまま彼から後ずさることしかできなかった。そして次の瞬間、彼は思い切り彼自身の前脚の付け根を噛んだ。
ルーピンは自分の中の何かと闘っているかのようにもがき苦しんでいた。そして彼がもう一度大きくふらついた時、なんと彼は片足を崖から踏み外してしまったのだ。その光景にフォーラは思わず息を呑んだ。そして彼はそのまま崖の下へガラガラと音を立てながら落ちていってしまった。
「そんな……先生!!」
フォーラはよろめきながらも何とか立ち上がるとすぐさま猫に変身した。そしてルーピンが消えていった崖下へと、何の躊躇いもなく飛び込んだのだった。
フォーラは地に残る匂いと足跡、そしてルーピンの遠吠えを頼りに彼を捜した。あと少し、あと少しでルーピンの元に辿り着く筈だ―――。
そうして黒猫姿のフォーラがガサリと草木を抜けると、そこには一匹の狼が小高い崖のきわに立ち、辺りを見渡しているところだった。フォーラは身動きがとれなかった。何故なら視線の先にいる狼がこちらを振り向いたからだ。今まで見たルーピンからは想像もつかない程に荒れ狂った姿の彼は、フォーラの存在を視界に捉えると小さくグルグルと唸った。
フォーラは彼を止めたい一心でここまで走ってきた。そんな彼女は人狼に対する恐ろしいイメージを授業で習ってはいたものの、どうしても普段の落ち着いたルーピンの姿が頭の中で先行していた。それに人狼は動物を襲わない筈なのだ。そのため彼女はきっと動物の姿でルーピンに話し掛ければ、彼は再び元の落ち着きを取り戻してくれると踏んでいた。
しかし既に人を見て興奮したせいだろう、今のルーピンの荒れた様子から察するに、フォーラは初めから安易な考えでここへ来るべきではなかったのだ。目の前の狼はあまりにも黒猫との体格差がありすぎる大きな背格好をしていて、低く唸りながらジリジリとこちらに近付いてきていた。フォーラは必死に訴えかけた。
〈しっかりして!人間を捜しては駄目!〉
ルーピンにはフォーラの言葉など到底届いていないようだった。そのうちに彼は猫のフォーラまであと数メートルというところまで接近していた。
(先生に追われていた人がまだ近くにいるなら、何とかして今のうちにその人が逃げられる時間を稼がなきゃ)
〈しっかりして……お願い、先生……!ルーピン先生!!〉
その時だった。ルーピンは身体をビクリと跳ねさせて歩みを止めると同時に、その場で少々よろめいたかと思うと頭を左右に振ったのだ。どうやら彼は何かに混乱しているようだった。
(もしかしたら……)
フォーラはジリジリと後ずさると、途端に猫の変身を解いた。これはフォーラにとって賭けだった。もし彼女の推測が正しければ、次に彼女が取る行動でルーピンは再び意識を朦朧とさせるだろう。攻撃はできるだけしたくなかったが、やむを得ない場合は彼に呪文を発するしかない。しかし攻撃系の魔法が苦手な彼女にとって、それが上手くいく確率は随分低いように思われた。
(だけど、やるしかないわ)
ルーピンは曖昧な意識をハッとさせて再びフォーラの方を見た。そして今度は目の前に人間がいると認識するや否や、彼はブルブルと頭を振って先程とは比べものにならない程の形相で彼女目掛けて突進した。
「ルーピン先生!」フォーラの大声にルーピンは再度ビクリと反応し、その場で足を止めた。
(やっぱり……!)
フォーラの膝は震えていたが、彼女は杖を取り出したまま何とかルーピンから距離を取ろうとゆっくり後ずさった。しかしルーピンは直ぐに幾らか意識を引き戻し、混乱する頭でフォーラの方に近付いた。彼女とルーピンは少しの間、円を描くようにジリジリと距離を取り合った。
「先生、お気を確かに持って……!本当の貴方は人を襲いたくないんでしょう!?」フォーラがそのように声を掛けると、やはりルーピンは足を止めて小さく頭を振った。
(ルーピン先生は生徒の呼び掛けに反応して、人間の時の正常さを取り戻そうとしているのかもしれない。もしかするとこのままいけば、彼を落ち着かせることができるかも……)
フォーラがそのように思案しつつ次に一歩動いた時、彼女は偶然足元にあった小枝を踏んだ。パキッと枝の折れる乾いた音が響いたその瞬間、ルーピンは今度こそフォーラの方に向かって駆け出した。
「あ……!ペトリフィ―――」
フォーラが石化呪文を唱え終える前に、ルーピンはとうとう彼女を両前脚で仰向けに押し倒していた。今や彼女のすぐ横は崖だった。彼女は目の前の狼の瞳に、彼女自身の姿や、崖の向こうに続く森が月明かりに照らされてうっすらと反射しているのを見た。
大きな犬歯をギラつかせ、狼はフォーラの上に覆いかぶさっていた。今にもルーピンが彼女の身体を噛もうとしているのが目に見えて分かった。そして彼が大きく口を開けたその時、フォーラは何処か意識の彼方で、ルーピンになら噛まれてもいいと思っている自分がいることに気が付いた。
(……ううん、駄目よ。先生は自分が生徒を噛んだなんて知ったら、きっと正気でいられなくなってしまうわ)
フォーラは震える唇を嚙み、意を決して大きく息を吸い込んだ。そして力を振り絞って彼に訴えかけた。
「ルーピン先生、しっかりして!私、貴方のこと怖くない……!だって……だって私、先生のことが好きだもの!」フォーラは涙が出そうになりながら大声で叫んだ。
ルーピンはその声にビクリと身体を動かし、イヤイヤと頭を左右に振った。彼がそのような反応を見せた理由は、近くで大声を発されて驚いたせいだけではなかった。
ルーピンはその後も何かに耐えるようにもがいた。彼はフラフラとフォーラの上から退いたと思うと、先程よりも狂ったように頭を振って何とか正常な意識を保とうとしているようだった。フォーラは突然の事態に怯えが
ルーピンは自分の中の何かと闘っているかのようにもがき苦しんでいた。そして彼がもう一度大きくふらついた時、なんと彼は片足を崖から踏み外してしまったのだ。その光景にフォーラは思わず息を呑んだ。そして彼はそのまま崖の下へガラガラと音を立てながら落ちていってしまった。
「そんな……先生!!」
フォーラはよろめきながらも何とか立ち上がるとすぐさま猫に変身した。そしてルーピンが消えていった崖下へと、何の躊躇いもなく飛び込んだのだった。