15. 猫と狼と犬
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フォーラのその姿を見て黒い犬は急に低く唸り始めた。まるで怯えと敵意を同時に向けているようだ。むき出した牙はギラついて光っていたし、鼻っ面には威嚇の時に見受けられる皺がグッと寄っていた。
フォーラはこうなる可能性を予想しなかったわけではないし、本当は怖かった。しかし彼女はどこかこの犬と狼人間のルーピンの姿が重なってしまい、放っておけなかったのだ。ルーピンは狼人間としての孤独を経験してきたと言っていた。そして目の前の犬が明らかに飼い犬ではないことから察するに、きっとたった一匹でこの城に迷い込んでしまったのかもしれない。その上こんなに酷い怪我まで負っているとあっては、彼が随分心細い思いをしているであろうことが想像できた。
「大丈夫、貴方を治療したいだけなの。」
フォーラは止血のために勇気を出して杖をかまえ、もう一方の手を犬の前脚の方にそっと伸ばした―――。するとその時、黒い犬はガブリと彼女の左腕を噛んだのだ。それと同時にその腕に激痛が走った。彼女を見る犬の瞳は、まるで自分に近付くなとでも言うかのような興奮と不安を混ぜた色をしていた。
「っ……!」フォーラは痛みで叫びそうになったが何とか声を殺して耐えた。今大きな音を発してしまっては、きっとこの犬を今以上に怯えさせることになるし、誰か教員に見つかってしまうかもしれない。
「大丈夫……怯えなくていいわ。」
フォーラはまだ腕に噛みつかれたままの状態で、何とか犬の怪我している方の前脚を掴んだ。犬は最初こそ暴れてその牙を彼女の腕に食い込ませていたが、「エピスキー、癒えよ」と呪文が前脚に向かって唱えられると、少ししてようやくその牙をフォーラの腕からそっと抜いた。
「もう少しだから、待っていてね……。」
脚の傷の深さからして呪文だけでは出血を止めきれなかったが、痛み止め程度にはなったようだった。そしてフォーラは駄目押しでポケットから取り出したハンカチを彼の脚にきつく巻き付けた。処置を終えてみると、彼の足取りは先程よりも随分軽くなっていることが伺えた。
フォーラはホッと胸を撫で下ろすと黒い犬に道を開けた。すると彼は先程とは打って変わって、どこか申し訳なさそうな様子で彼女を見上げた。そして先程噛みついていた彼女の腕に鼻っ面を一度あてがうと、その場から走り去っていったのだった。
翌朝、フォーラが目を覚ますとそこは自分のベッドの上だった。
(うう……ん……。頭がボーっとする。寝不足かしら。私……確か昨日の真夜中に黒い犬に遭って、噛みつかれて……。そのせいか左腕が痛い。寝る前に応急処置はしたけれど。そもそも私、あの犬に出会う前は何をしていたんだったかしら。……そうだわ、狼姿のルーピン先生に会いに、先生の部屋に行ったのよ。そういえば今日の一限目はルーピン先生の授業だったわね。今、一体何時なの―――)
フォーラは時計を見て愕然とした。あと五分で一限目が始まってしまう。彼女は大急ぎで身支度した。自分のベッドを囲うカーテンが開いていたことから、きっとパンジーたちは自分のことを起こそうとしてくれたのだろう。
その後、フォーラは寮から教室までフラフラになりながら走り、教室の後方に構える扉の前で両膝に両手を突いた。全力疾走したからだろうか、随分と息切れが酷く先程よりも顔が熱かった。
「お、遅れてすみません……!」
フォーラが扉を開けて謝罪すると、教室中の生徒全員が彼女を振り返った。フォーラは自身の頬が一層熱を帯びるのを感じた。ルーピンは驚いた様子で彼女に返答した。
「フォーラ、ルニーから君は熱があって起きられないと聞いていたんだが……大丈夫かい?」
「え、熱……?」
確かに先程から顔が熱いが、それはきっとここまで急いで走ったことが原因だろう。それに意識は幾らかボーっとしたが、そちらについては単なる寝不足のせいだと思った。彼女としてはどちらかというと、そういった熱っぽさよりも腕の痛みの方が気にかかった。
「……い、いえ。多分大丈夫です。授業に遅れてしまってごめんなさい……。」
大好きな先生の授業に遅刻するなんて泣きたくなる。フォーラは近くの空いた席に座るよう言われ、そそくさと腰掛けた。どうやらまだ授業は本題に入っていないようだった。すると、彼女の丁度後ろに座っていたパンジーとルニーが、身を乗り出して小声で話し掛けてきた。
「フォーラ?熱がないなんて嘘でしょう。起こそうとしても全然起きないなんて、普段のあなたなら絶対にありえないんだから」ルニーが言った。
「起きないのを変だと思って、あなたの首元を触ってみたら凄く熱かったのよ。今だって顔が赤いし……。安静にしていないと駄目じゃない。無理矢理来たんでしょ?」パンジーも心配そうな様子だ。
「二人とも、迷惑かけてごめんなさい……。今朝は確かに身体に違和感があったけれど。昨日は寝つきが悪くって、それで少し体調を崩しただけだと思うの。それに、ここまで走ってくることはできたし、きっと大丈夫。……何より先生の授業に遅刻したくなかったの……。」
フォーラはそのように心配不要だということを二人に伝えた。しかしようやく息が整って落ち着きを取り戻してくると、次第に彼女の身体に疲れが襲ってきた。それに昨日噛まれた左腕の痛みも増していた。先程までは教室に一刻も早く到着することで頭が一杯だったため、つらさが麻痺していたのかもしれない。
ドラコはフォーラから離れた席に座っていたため、彼女に心配の声を掛けることができなかった。彼は遠目からでも彼女の体調が優れないことを容易に把握した。
(フォーラの馬鹿、何であんなにつらそうなのに授業に出たんだ!)
フォーラはこうなる可能性を予想しなかったわけではないし、本当は怖かった。しかし彼女はどこかこの犬と狼人間のルーピンの姿が重なってしまい、放っておけなかったのだ。ルーピンは狼人間としての孤独を経験してきたと言っていた。そして目の前の犬が明らかに飼い犬ではないことから察するに、きっとたった一匹でこの城に迷い込んでしまったのかもしれない。その上こんなに酷い怪我まで負っているとあっては、彼が随分心細い思いをしているであろうことが想像できた。
「大丈夫、貴方を治療したいだけなの。」
フォーラは止血のために勇気を出して杖をかまえ、もう一方の手を犬の前脚の方にそっと伸ばした―――。するとその時、黒い犬はガブリと彼女の左腕を噛んだのだ。それと同時にその腕に激痛が走った。彼女を見る犬の瞳は、まるで自分に近付くなとでも言うかのような興奮と不安を混ぜた色をしていた。
「っ……!」フォーラは痛みで叫びそうになったが何とか声を殺して耐えた。今大きな音を発してしまっては、きっとこの犬を今以上に怯えさせることになるし、誰か教員に見つかってしまうかもしれない。
「大丈夫……怯えなくていいわ。」
フォーラはまだ腕に噛みつかれたままの状態で、何とか犬の怪我している方の前脚を掴んだ。犬は最初こそ暴れてその牙を彼女の腕に食い込ませていたが、「エピスキー、癒えよ」と呪文が前脚に向かって唱えられると、少ししてようやくその牙をフォーラの腕からそっと抜いた。
「もう少しだから、待っていてね……。」
脚の傷の深さからして呪文だけでは出血を止めきれなかったが、痛み止め程度にはなったようだった。そしてフォーラは駄目押しでポケットから取り出したハンカチを彼の脚にきつく巻き付けた。処置を終えてみると、彼の足取りは先程よりも随分軽くなっていることが伺えた。
フォーラはホッと胸を撫で下ろすと黒い犬に道を開けた。すると彼は先程とは打って変わって、どこか申し訳なさそうな様子で彼女を見上げた。そして先程噛みついていた彼女の腕に鼻っ面を一度あてがうと、その場から走り去っていったのだった。
翌朝、フォーラが目を覚ますとそこは自分のベッドの上だった。
(うう……ん……。頭がボーっとする。寝不足かしら。私……確か昨日の真夜中に黒い犬に遭って、噛みつかれて……。そのせいか左腕が痛い。寝る前に応急処置はしたけれど。そもそも私、あの犬に出会う前は何をしていたんだったかしら。……そうだわ、狼姿のルーピン先生に会いに、先生の部屋に行ったのよ。そういえば今日の一限目はルーピン先生の授業だったわね。今、一体何時なの―――)
フォーラは時計を見て愕然とした。あと五分で一限目が始まってしまう。彼女は大急ぎで身支度した。自分のベッドを囲うカーテンが開いていたことから、きっとパンジーたちは自分のことを起こそうとしてくれたのだろう。
その後、フォーラは寮から教室までフラフラになりながら走り、教室の後方に構える扉の前で両膝に両手を突いた。全力疾走したからだろうか、随分と息切れが酷く先程よりも顔が熱かった。
「お、遅れてすみません……!」
フォーラが扉を開けて謝罪すると、教室中の生徒全員が彼女を振り返った。フォーラは自身の頬が一層熱を帯びるのを感じた。ルーピンは驚いた様子で彼女に返答した。
「フォーラ、ルニーから君は熱があって起きられないと聞いていたんだが……大丈夫かい?」
「え、熱……?」
確かに先程から顔が熱いが、それはきっとここまで急いで走ったことが原因だろう。それに意識は幾らかボーっとしたが、そちらについては単なる寝不足のせいだと思った。彼女としてはどちらかというと、そういった熱っぽさよりも腕の痛みの方が気にかかった。
「……い、いえ。多分大丈夫です。授業に遅れてしまってごめんなさい……。」
大好きな先生の授業に遅刻するなんて泣きたくなる。フォーラは近くの空いた席に座るよう言われ、そそくさと腰掛けた。どうやらまだ授業は本題に入っていないようだった。すると、彼女の丁度後ろに座っていたパンジーとルニーが、身を乗り出して小声で話し掛けてきた。
「フォーラ?熱がないなんて嘘でしょう。起こそうとしても全然起きないなんて、普段のあなたなら絶対にありえないんだから」ルニーが言った。
「起きないのを変だと思って、あなたの首元を触ってみたら凄く熱かったのよ。今だって顔が赤いし……。安静にしていないと駄目じゃない。無理矢理来たんでしょ?」パンジーも心配そうな様子だ。
「二人とも、迷惑かけてごめんなさい……。今朝は確かに身体に違和感があったけれど。昨日は寝つきが悪くって、それで少し体調を崩しただけだと思うの。それに、ここまで走ってくることはできたし、きっと大丈夫。……何より先生の授業に遅刻したくなかったの……。」
フォーラはそのように心配不要だということを二人に伝えた。しかしようやく息が整って落ち着きを取り戻してくると、次第に彼女の身体に疲れが襲ってきた。それに昨日噛まれた左腕の痛みも増していた。先程までは教室に一刻も早く到着することで頭が一杯だったため、つらさが麻痺していたのかもしれない。
ドラコはフォーラから離れた席に座っていたため、彼女に心配の声を掛けることができなかった。彼は遠目からでも彼女の体調が優れないことを容易に把握した。
(フォーラの馬鹿、何であんなにつらそうなのに授業に出たんだ!)