15. 猫と狼と犬
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それから幾日か経って二月に入った。この日、フォーラは偶然にも廊下で一匹の猫に出会った。その見覚えのあるオレンジ色の毛並みについて記憶を辿ってみると、ハーマイオニーの猫であることを思い出した。クルックシャンクスという名の彼はライオンを小さくしたような外見をしていて、体中が長めの毛で覆われていた。
クルックシャンクスはばったり出会ったフォーラの周りを一周し、その間じっと彼女を見上げていた。フォーラは彼が何かおやつを欲しがっているのかと思い、今は何も手持ちがないことを詫びようと腰を屈めた。しかし彼はフォーラが言葉を発する前にスタスタとその場を離れていってしまったのだった。
フォーラが一体何だったのだろうと首を傾げた時、今度はその直ぐ後からロンがやって来た。彼はぎこちなくフォーラに挨拶した。
「や、やあ、フォーラ」
「あら、ロン。こんな所で会うなんて偶然ね。」
「ウン、そうだね?僕はオレンジ色の猫を追いかけてここまで来たところなんだ。そうしたら、君と猫が一緒にいるのを遠目に見かけてさ」
「さっきの猫のこと?ハーマイオニーの飼っている子よね?あの子がどうかしたの?」
「あー……その。ついこの間の事なんだけど。実はあの猫、僕のペットのネズミを食べたんだ」
ロンが哀しみと怒りを混ぜたような声色で言ったものだから、フォーラは驚いて思わずハッと口を両手で抑えた。
「それ、本当なの……?」
「ウン、僕はそう思ってるよ。あの猫はずっと僕のスキャバーズを狙ってたんだ。僕はそんな気がしてハーマイオニーに注意し続けていたのに、彼女は聞いてくれやしなかった。そうしたら結果、僕のベッドに血が付いてた!確実にスキャバーズのだよ、きっと。それからあいつの姿を見てないんだから……」
「そうだったの……。でも、もしかしたら怪我していただけで、本当は何処かに隠れているのかもしれないわ。まだ可能性はあるわよ、きっと。」
「ありがとうフォーラ。でも、あいつは死んだと思うよ。僕だってあいつが何処かで生きてるって信じたいけど、それが長引けば長引くほど惨めな気持ちになる気がしてさ。あいつの帰りを待つのがつらいんだ」肩を落としてそのように話すロンがあまりにもいたたまれなくて、フォーラは何も気の利いた励ましの言葉を掛けられなかった。
「あっゴメン。辛気臭くなっちゃったね」
「あの……あまり気を落とさないでね。」
「うん、ありがとう。―――それにしても、どうしてクルックシャンクスは君のことをジロジロ見てたんだろうね」
「私は、あの子がお腹を空かせているんだと思ったけれど。」
そのような事があったが、フォーラはクルックシャンクスの行動をそこまで気に留めなかった。猫の気まぐれ程度に捉えていたからだ。そのため彼女はオレンジ色の猫にジロジロ見られていたことなんて何日かすればすっかり忘れてしまっていた。しかしクルックシャンクスはフォーラと出会ったことを忘れはしなかった。
それから更に数日が経ち、再び満月の夜がやって来た。フォーラがルーピンの元を訪れるのはこれで三回目となり、彼は満月のその日だけ現れる黒猫を待ちわびていた。
〈僕が人間の時にも、ここへ遊びにきてほしいと思っているんだけどな〉
フォーラはその要望にハッキリとは頷かなかった。何故なら彼女は『狼のルーピン』だけでなく『人間のルーピン』にも猫の自分が求められていることに、心苦しさのようなものを感じていたのだ。自分でも当初の目的と考えが矛盾してきているのは十分に気付いていた。最初は見返りなど求めていなかった筈なのだ。それなのに今は……。
(本当の私を、見てほしいと思っているなんて)
そんなことをすればどうなるかは容易に想像がついた。しかしどうしてもフォーラは自分の中で、猫の自分に対する羨みのようなものが膨れる状況から目を逸らすことができなかった。
(本当に私はどうしてしまったのかしら。こんなこと考えていては駄目なのに。先生は黒猫の私を必要としてくれているんだから……)
その後、フォーラはルーピンと幾らか時間を共にして部屋を後にした。彼女は相変わらず少々落ち込む気持ちを抱えながら寮に続く廊下を黒猫の姿のまま進んだ。そうして暫くすると、彼女は廊下の物陰に何かがうごめくのを見た。今の自分の姿は人間の時よりも視界が随分明るかったため、暗がりの中にいたその物体が何なのか直ぐに理解した。
〈黒い、犬……?〉
その大きな犬は、突然聞こえた声に身体をビクッと強張らせた。フォーラはその犬がこちらを振り返った拍子に、その姿を以前も何処かで見かけたことがあると思った。
(ホグズミードで似た犬を見たけれど……もしかして、その時の子かしら?)
その犬はおぼつかない足取りをしていて、フォーラが見る限りでは何とかこの場から急いで立ち去ろうとしている様子だった。黒猫姿の彼女が恐る恐る近付いてみると、その黒い犬の図体が自分の何倍もの大きさであることが分かった。犬の身体は随分と薄汚れていて野良であることを彷彿とさせたし、その身体に似つかわしくない程に綺麗で澄んだ灰色の瞳は焦りの色を帯び、どういうわけか視線がチラチラと犬自身の足元の方に向いていた。
フォーラはその犬の―――彼の視線の先を見てハッとした。彼が片方の前足から血を流していたからだ。彼女は目の前の彼に話し掛けた。
〈前足が痛むの?〉
黒い犬は頷かなかったし何も言わなかった。フォーラの質問を無視して、ただがむしゃらにその場を離れようとぎこちない足取りで廊下を進んでいた。そうして彼がフォーラのそばを横切った時、咄嗟に彼女はその犬の前に立ちはだかった。彼にとっては目の前の黒猫など容易に跨ぐことができる程の小ささだったが、その犬は立ち止まった。何故なら彼が黒猫を跨ぐかよけて通ろうとした次の瞬間、その猫が人間の姿に戻ったからだ。
クルックシャンクスはばったり出会ったフォーラの周りを一周し、その間じっと彼女を見上げていた。フォーラは彼が何かおやつを欲しがっているのかと思い、今は何も手持ちがないことを詫びようと腰を屈めた。しかし彼はフォーラが言葉を発する前にスタスタとその場を離れていってしまったのだった。
フォーラが一体何だったのだろうと首を傾げた時、今度はその直ぐ後からロンがやって来た。彼はぎこちなくフォーラに挨拶した。
「や、やあ、フォーラ」
「あら、ロン。こんな所で会うなんて偶然ね。」
「ウン、そうだね?僕はオレンジ色の猫を追いかけてここまで来たところなんだ。そうしたら、君と猫が一緒にいるのを遠目に見かけてさ」
「さっきの猫のこと?ハーマイオニーの飼っている子よね?あの子がどうかしたの?」
「あー……その。ついこの間の事なんだけど。実はあの猫、僕のペットのネズミを食べたんだ」
ロンが哀しみと怒りを混ぜたような声色で言ったものだから、フォーラは驚いて思わずハッと口を両手で抑えた。
「それ、本当なの……?」
「ウン、僕はそう思ってるよ。あの猫はずっと僕のスキャバーズを狙ってたんだ。僕はそんな気がしてハーマイオニーに注意し続けていたのに、彼女は聞いてくれやしなかった。そうしたら結果、僕のベッドに血が付いてた!確実にスキャバーズのだよ、きっと。それからあいつの姿を見てないんだから……」
「そうだったの……。でも、もしかしたら怪我していただけで、本当は何処かに隠れているのかもしれないわ。まだ可能性はあるわよ、きっと。」
「ありがとうフォーラ。でも、あいつは死んだと思うよ。僕だってあいつが何処かで生きてるって信じたいけど、それが長引けば長引くほど惨めな気持ちになる気がしてさ。あいつの帰りを待つのがつらいんだ」肩を落としてそのように話すロンがあまりにもいたたまれなくて、フォーラは何も気の利いた励ましの言葉を掛けられなかった。
「あっゴメン。辛気臭くなっちゃったね」
「あの……あまり気を落とさないでね。」
「うん、ありがとう。―――それにしても、どうしてクルックシャンクスは君のことをジロジロ見てたんだろうね」
「私は、あの子がお腹を空かせているんだと思ったけれど。」
そのような事があったが、フォーラはクルックシャンクスの行動をそこまで気に留めなかった。猫の気まぐれ程度に捉えていたからだ。そのため彼女はオレンジ色の猫にジロジロ見られていたことなんて何日かすればすっかり忘れてしまっていた。しかしクルックシャンクスはフォーラと出会ったことを忘れはしなかった。
それから更に数日が経ち、再び満月の夜がやって来た。フォーラがルーピンの元を訪れるのはこれで三回目となり、彼は満月のその日だけ現れる黒猫を待ちわびていた。
〈僕が人間の時にも、ここへ遊びにきてほしいと思っているんだけどな〉
フォーラはその要望にハッキリとは頷かなかった。何故なら彼女は『狼のルーピン』だけでなく『人間のルーピン』にも猫の自分が求められていることに、心苦しさのようなものを感じていたのだ。自分でも当初の目的と考えが矛盾してきているのは十分に気付いていた。最初は見返りなど求めていなかった筈なのだ。それなのに今は……。
(本当の私を、見てほしいと思っているなんて)
そんなことをすればどうなるかは容易に想像がついた。しかしどうしてもフォーラは自分の中で、猫の自分に対する羨みのようなものが膨れる状況から目を逸らすことができなかった。
(本当に私はどうしてしまったのかしら。こんなこと考えていては駄目なのに。先生は黒猫の私を必要としてくれているんだから……)
その後、フォーラはルーピンと幾らか時間を共にして部屋を後にした。彼女は相変わらず少々落ち込む気持ちを抱えながら寮に続く廊下を黒猫の姿のまま進んだ。そうして暫くすると、彼女は廊下の物陰に何かがうごめくのを見た。今の自分の姿は人間の時よりも視界が随分明るかったため、暗がりの中にいたその物体が何なのか直ぐに理解した。
〈黒い、犬……?〉
その大きな犬は、突然聞こえた声に身体をビクッと強張らせた。フォーラはその犬がこちらを振り返った拍子に、その姿を以前も何処かで見かけたことがあると思った。
(ホグズミードで似た犬を見たけれど……もしかして、その時の子かしら?)
その犬はおぼつかない足取りをしていて、フォーラが見る限りでは何とかこの場から急いで立ち去ろうとしている様子だった。黒猫姿の彼女が恐る恐る近付いてみると、その黒い犬の図体が自分の何倍もの大きさであることが分かった。犬の身体は随分と薄汚れていて野良であることを彷彿とさせたし、その身体に似つかわしくない程に綺麗で澄んだ灰色の瞳は焦りの色を帯び、どういうわけか視線がチラチラと犬自身の足元の方に向いていた。
フォーラはその犬の―――彼の視線の先を見てハッとした。彼が片方の前足から血を流していたからだ。彼女は目の前の彼に話し掛けた。
〈前足が痛むの?〉
黒い犬は頷かなかったし何も言わなかった。フォーラの質問を無視して、ただがむしゃらにその場を離れようとぎこちない足取りで廊下を進んでいた。そうして彼がフォーラのそばを横切った時、咄嗟に彼女はその犬の前に立ちはだかった。彼にとっては目の前の黒猫など容易に跨ぐことができる程の小ささだったが、その犬は立ち止まった。何故なら彼が黒猫を跨ぐかよけて通ろうとした次の瞬間、その猫が人間の姿に戻ったからだ。