10. 満月の夜
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フォーラは一声「ニャー」と鳴いて彼に挨拶した。
〈こ……こんばんは〉
ルーピンは一瞬ビクリとしてから再び黒猫を見た。そして低めの優しい声で鳴いた。
〈黒猫さん、どうしてここへ?〉
フォーラにはこの一瞬の間に驚いたことがあった。動物の言葉が分かるのだ。ルーピンはどうやらフォーラのことを普通の猫としか思っていないようだった。彼女は自分がフォーラ・ファントムであることを話してしまわないよう注意を払いつつ、回答した。
〈城の管理人の猫に襲われそうになっていたの。逃げきれないと思って、だから……扉を開けてくれてありがとう〉
〈いいや、無事でよかったよ。それにしても、君は私の姿を見て驚いただろう。人間がいると思っただろうし〉フォーラが聞いたルーピンの声からは、そんなことを言っているのが理解できた。
〈少しだけ驚いたわ。でも、優しそうな狼さんでよかった〉
〈優しそう?君は私が怖くないのか?〉
ルーピンはフォーラの言葉に戸惑ったようだった。彼はゆっくりと彼女の方へ歩み寄ると、じっと黒猫の瞳を見た。彼女の瞳の様子から、本当に自分がこの猫に恐れられていないと把握するのにそう時間は掛からなかった。
ルーピンは本来恐れられる姿の時に、こうして純粋な視線を向けてくれる存在を目の当たりにして幾らか胸が締め付けられた。彼は目の前の黒猫の瞳から、学生時代の懐かしい温かな記憶―――三匹の動物に囲まれ、狼の姿で何度かこっそり校庭や禁じられた森を出歩いた時の事―――を思い出した。そして、この姿の時は特に苦しく寂しい思いをしてきた分、今目の前の黒猫に無意識に心洗われているのを自覚せずにはいられなかった。
ルーピンはこの目の前の可愛い存在を愛でたくなって、頭を下げると、黒猫の額や頬の辺りを軽く鼻先で撫でた。突然の事にフォーラは緊張のあまりその場に固まってしまった。しかしフォーラが察するに、もしかするとルーピンは、ここ数日の体調の悪さによって相当疲れ切っていたのかもしれなかった。そんな時に猫を撫でたいと思うのは至極 自然なことだろう。
それからの二匹は幾らか言葉を交わした。ミセス・ノリスが厄介だということや、校内のお気に入りの場所、生徒たちに支給されている毛布が大変肌触りが良いという他愛のない話まで。普段フォーラはルーピンの前だと緊張して上手く会話ができなかったが、今はどういうわけかそんなこともない。姿は異なるとはいえ、憧れている存在と普通に話ができている状況に彼女が喜ばないわけがなかった。
〈そういえば、君の飼い主はどこの寮に?〉
〈ス……スリザリンにいるの〉フォーラは自分を特定されてしまう可能性を孕んだ回答をするのに少々戸惑った。
〈君はこの時間によく出歩いているのかい?〉
〈いいえ、夜中に出たのは今日が始めてなの〉
そんな会話を続けていた二人だが、その中でルーピンは一度も自分が人狼であることを言わなかった。フォーラも〈貴方の飼い主はどこ?〉とは聞かなかった。
それからどのくらい経っただろうか、フォーラが長い欠伸をした。普段出歩かない時間に起きていたため眠くなるのは仕方のない事だった。そんな彼女を見てルーピンが言った。
〈そろそろ戻って眠った方がいいんじゃないかい?〉
フォーラは一声鳴いてそうする旨を伝えた。彼女が立ち上がって扉の前まで行くと、ドアノブに背の届かないフォーラのためにルーピンもついてきた。そして彼は少し躊躇っているのか下を向いた後で、こちらを真っ直ぐ見て声を掛けてきた。
〈実はさっき言わなかったことがあるんだが……私は人狼なんだ。その、分かるかな?つまり普段は人間で、満月の日だけ狼になる生き物なんだ〉
フォーラは目を丸くした。まさかルーピンがその件を打ち明けてくるとは思わなかったのだ。フォーラはルーピンの目をじっと見つめ、落ち着いた声で言った。
〈人が暮らしていそうな部屋に、ホグワーツには珍しい狼がいるんだもの。何となく貴方が狼以外の何かじゃないかって感じていたわ〉
本当は『何となく』ではなかったのだが、フォーラはまさかここで本当のことを言うわけにはいかなかった。
〈……この姿の時やその前後は、私はいつも孤独だった。でも今日は君が現れてくれたおかげで、久しぶりに寂しくなかったよ。ありがとう。昔を思い出すことができたし……。その、またここに来てくれないかな。君がよければだけどね〉
〈も、勿論。必ず。……それじゃあ〉
フォーラはそう伝えた後、ルーピンによって微かに開けられた扉からサッと出た。そして扉は静かに閉じられた。彼女は猫の姿のまま全速力で談話室へと向かった。もう走らずにはいられなかった。
(どうしよう……すごく嬉しい!)
ルーピンにまた来てほしいと言われた。フォーラはどうやら本当に当初の目的どおり、彼の寂しさを和らげられたようだった。そんな彼女は長い廊下を高揚した気分で駆け抜けていったのだった。
その頃、真夜中のスリザリンの談話室では、ドラコがもぞりと身体を動かしたところだった。
「ん……」
(なんでだろう。なんだか……フォーラの匂いがする気がする。気のせいか?凄く心地いい)
ドラコは虚ろな意識の中でそのように考えた後で、ゆっくりと瞳を開けた。彼は談話室のソファに横たわっていた。記憶を辿る限りでは、自分はこの場所で本を読んでいた筈で、きっとそのまま眠ってしまったのだろう。彼は少し痛む背中を気にしつつ起き上がった。
「……ん?」
するとその時、ドラコは自分の身体に身に覚えのない毛布が掛けられていることに気が付いた。
(一体誰が?)
毛布の隅に施された刺繍を見れば、これが誰の物なのかは直ぐに特定できた。
「フォーラか……」
持ち主が分かった途端、ドラコは恥ずかしさと嬉しさが同時に湧き上がってくるのを感じた。
(そういえば前にもこんな事があった。確か二年生の時だったな)
ドラコはあたりをキョロキョロと見渡した。どうやらまだ生徒たちはぐっすり眠っている時間帯のようだ。ドラコは周囲に誰もいないことを確認した後、躊躇いつつも毛布からほのかに香る匂いをそっと確かめた―――起きる前に感じた安心感はこれのせいだったようだ。そんなドラコは途端に自分の行動が気恥ずかしくなり、すぐさま毛布から顔を離すと再び談話室を急いで見渡した。
(誰もいなくてよかった)
あんな行動、もし誰かに見られでもしたら羞恥心で死んでしまうところだった。ドラコはのそのそと起き上がると、寝直すために毛布を抱えて寮のベッドへと向かった。そして彼がその場を立ち去った後、フォーラが談話室に戻ってきたのだった。
〈こ……こんばんは〉
ルーピンは一瞬ビクリとしてから再び黒猫を見た。そして低めの優しい声で鳴いた。
〈黒猫さん、どうしてここへ?〉
フォーラにはこの一瞬の間に驚いたことがあった。動物の言葉が分かるのだ。ルーピンはどうやらフォーラのことを普通の猫としか思っていないようだった。彼女は自分がフォーラ・ファントムであることを話してしまわないよう注意を払いつつ、回答した。
〈城の管理人の猫に襲われそうになっていたの。逃げきれないと思って、だから……扉を開けてくれてありがとう〉
〈いいや、無事でよかったよ。それにしても、君は私の姿を見て驚いただろう。人間がいると思っただろうし〉フォーラが聞いたルーピンの声からは、そんなことを言っているのが理解できた。
〈少しだけ驚いたわ。でも、優しそうな狼さんでよかった〉
〈優しそう?君は私が怖くないのか?〉
ルーピンはフォーラの言葉に戸惑ったようだった。彼はゆっくりと彼女の方へ歩み寄ると、じっと黒猫の瞳を見た。彼女の瞳の様子から、本当に自分がこの猫に恐れられていないと把握するのにそう時間は掛からなかった。
ルーピンは本来恐れられる姿の時に、こうして純粋な視線を向けてくれる存在を目の当たりにして幾らか胸が締め付けられた。彼は目の前の黒猫の瞳から、学生時代の懐かしい温かな記憶―――三匹の動物に囲まれ、狼の姿で何度かこっそり校庭や禁じられた森を出歩いた時の事―――を思い出した。そして、この姿の時は特に苦しく寂しい思いをしてきた分、今目の前の黒猫に無意識に心洗われているのを自覚せずにはいられなかった。
ルーピンはこの目の前の可愛い存在を愛でたくなって、頭を下げると、黒猫の額や頬の辺りを軽く鼻先で撫でた。突然の事にフォーラは緊張のあまりその場に固まってしまった。しかしフォーラが察するに、もしかするとルーピンは、ここ数日の体調の悪さによって相当疲れ切っていたのかもしれなかった。そんな時に猫を撫でたいと思うのは
それからの二匹は幾らか言葉を交わした。ミセス・ノリスが厄介だということや、校内のお気に入りの場所、生徒たちに支給されている毛布が大変肌触りが良いという他愛のない話まで。普段フォーラはルーピンの前だと緊張して上手く会話ができなかったが、今はどういうわけかそんなこともない。姿は異なるとはいえ、憧れている存在と普通に話ができている状況に彼女が喜ばないわけがなかった。
〈そういえば、君の飼い主はどこの寮に?〉
〈ス……スリザリンにいるの〉フォーラは自分を特定されてしまう可能性を孕んだ回答をするのに少々戸惑った。
〈君はこの時間によく出歩いているのかい?〉
〈いいえ、夜中に出たのは今日が始めてなの〉
そんな会話を続けていた二人だが、その中でルーピンは一度も自分が人狼であることを言わなかった。フォーラも〈貴方の飼い主はどこ?〉とは聞かなかった。
それからどのくらい経っただろうか、フォーラが長い欠伸をした。普段出歩かない時間に起きていたため眠くなるのは仕方のない事だった。そんな彼女を見てルーピンが言った。
〈そろそろ戻って眠った方がいいんじゃないかい?〉
フォーラは一声鳴いてそうする旨を伝えた。彼女が立ち上がって扉の前まで行くと、ドアノブに背の届かないフォーラのためにルーピンもついてきた。そして彼は少し躊躇っているのか下を向いた後で、こちらを真っ直ぐ見て声を掛けてきた。
〈実はさっき言わなかったことがあるんだが……私は人狼なんだ。その、分かるかな?つまり普段は人間で、満月の日だけ狼になる生き物なんだ〉
フォーラは目を丸くした。まさかルーピンがその件を打ち明けてくるとは思わなかったのだ。フォーラはルーピンの目をじっと見つめ、落ち着いた声で言った。
〈人が暮らしていそうな部屋に、ホグワーツには珍しい狼がいるんだもの。何となく貴方が狼以外の何かじゃないかって感じていたわ〉
本当は『何となく』ではなかったのだが、フォーラはまさかここで本当のことを言うわけにはいかなかった。
〈……この姿の時やその前後は、私はいつも孤独だった。でも今日は君が現れてくれたおかげで、久しぶりに寂しくなかったよ。ありがとう。昔を思い出すことができたし……。その、またここに来てくれないかな。君がよければだけどね〉
〈も、勿論。必ず。……それじゃあ〉
フォーラはそう伝えた後、ルーピンによって微かに開けられた扉からサッと出た。そして扉は静かに閉じられた。彼女は猫の姿のまま全速力で談話室へと向かった。もう走らずにはいられなかった。
(どうしよう……すごく嬉しい!)
ルーピンにまた来てほしいと言われた。フォーラはどうやら本当に当初の目的どおり、彼の寂しさを和らげられたようだった。そんな彼女は長い廊下を高揚した気分で駆け抜けていったのだった。
その頃、真夜中のスリザリンの談話室では、ドラコがもぞりと身体を動かしたところだった。
「ん……」
(なんでだろう。なんだか……フォーラの匂いがする気がする。気のせいか?凄く心地いい)
ドラコは虚ろな意識の中でそのように考えた後で、ゆっくりと瞳を開けた。彼は談話室のソファに横たわっていた。記憶を辿る限りでは、自分はこの場所で本を読んでいた筈で、きっとそのまま眠ってしまったのだろう。彼は少し痛む背中を気にしつつ起き上がった。
「……ん?」
するとその時、ドラコは自分の身体に身に覚えのない毛布が掛けられていることに気が付いた。
(一体誰が?)
毛布の隅に施された刺繍を見れば、これが誰の物なのかは直ぐに特定できた。
「フォーラか……」
持ち主が分かった途端、ドラコは恥ずかしさと嬉しさが同時に湧き上がってくるのを感じた。
(そういえば前にもこんな事があった。確か二年生の時だったな)
ドラコはあたりをキョロキョロと見渡した。どうやらまだ生徒たちはぐっすり眠っている時間帯のようだ。ドラコは周囲に誰もいないことを確認した後、躊躇いつつも毛布からほのかに香る匂いをそっと確かめた―――起きる前に感じた安心感はこれのせいだったようだ。そんなドラコは途端に自分の行動が気恥ずかしくなり、すぐさま毛布から顔を離すと再び談話室を急いで見渡した。
(誰もいなくてよかった)
あんな行動、もし誰かに見られでもしたら羞恥心で死んでしまうところだった。ドラコはのそのそと起き上がると、寝直すために毛布を抱えて寮のベッドへと向かった。そして彼がその場を立ち去った後、フォーラが談話室に戻ってきたのだった。