10. 満月の夜
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十一月も半ばに差し掛かろうという頃、この日のフォーラは自身の手帳を取り出すと、カレンダーの月ごとのとある日付にインクで印を付けている最中だった。
(今月の満月はこの日ね)
フォーラは以前からの目論見として、黒猫の姿でフォーラ・ファントムであることは隠したまま、狼になったルーピンの元へ会いにいこうと決めていた。もし彼が猫の自分を拒むなら無理強いするつもりは勿論なかった。ただ、毎月訪れる満月の日に孤独な思いをしている彼が、もし一匹の猫でも必要としてくれるなら……彼の寂しさを少しでも紛らわせられるなら……フォーラはその一心だった。
さて、フォーラはアニメーガスになる力を習得した後も、確実に変身できるよう練習を続けていた。猫の姿の時にくしゃみなどの刺激で人の姿に戻ってしまうのは避けたかったし、ルーピンには猫が自分である事実を絶対に知られたくなかった。
フォーラはアニメーガスになったことを、偶然知られてしまったジョージ以外の誰にも打ち明けていなかった。もし動物に変身できることが人伝にルーピンの耳に入ってしまったら?きっと彼は狼の姿を見られたことをショックに思うだろう。
そしてそれから数日後、遂に満月の日を迎えた。最近のルーピンは以前同様に顔色が段々と悪くなってきていた。あまりにも満月に近付くほど悪化しているのが顕著に分かるものだから、フォーラは改めて彼が本当に人狼なのだと理解した。
その日の夜、みんなが寝静まった後でフォーラはのそのそとベッドから起き出した。そして彼女は自分のベッドの上で黒猫に変身すると、周囲で寝ている友人たちを起こさないようにそーっと談話室へと下りた。
フォーラが誰もいない談話室を横切ろうとしたその時、彼女は暗闇の中でまだほのかに暖炉の火が灯っていることに気が付いた。そしてその暖炉のそばに誰かがいることも。
(あれは……ドラコだわ。こんな時間に一人で何をしているのかしら)
黒猫姿のフォーラは身を低くして遠回りしつつ、ドラコを離れたところから見やった。すると彼はどうやらソファにもたれたまま眠っているようだった。彼の膝の上には読みかけの本が置かれていた。
(もう、しょうがないんだから)
フォーラはドラコをそのまま放っておくことができなかった。そのうち暖炉の火が消えて確実に室温は下がってしまうだろう。そうなったら彼の身体は朝には冷え切ってしまう。彼女は黒猫のまま寝室へと戻り、今度は人間の姿に戻って自分のベッドから毛布を拾い上げて抱えた。そしてそのまま静かに階下へ戻ってみると、ドラコは相変わらず眠ったままだった。
(そのうち目が覚めて、自分のベッドへ行くといいのだけど)
フォーラはそのように思いながらドラコにそっと毛布をかけた。そして彼女が少し離れた位置で黒猫に姿を変えたその時、おもむろにドラコの声が聞こえた。
「ん……フォーラ……」
いきなりドラコが自分の名前を呼ぶものだからフォーラは非常に驚いた。そのため彼女は反射的にドラコの方を見たのだが、どうやら彼はまだ目を覚ましておらず、先程の発言は寝言のようだった。このままここにいてはそのうち彼が目を覚ましかねない。そう思ったフォーラは急いでその場を離れ、ルーピンの部屋へと向かったのだった。
(ついに、来てしまったわ)
今、黒猫姿のフォーラの目の前にはルーピンの部屋へと続く扉があった。本当にここに来てよかったのだろうか?勝手にこんなことをして、ただのお節介なのは間違いない。そもそも今現在、狼姿かもしれない彼がこの扉を開けてくれるのだろうか?
フォーラは猫のまま暫くその場に立ち尽くした。もう少しこのままの状態だったなら彼女は談話室へ帰ろうとしたかもしれない。しかし、突然そうはいかない状況が差し迫った。
「マーオ」フォーラがいる廊下の向こうで猫の鳴く声がしたのだ。この声には聞き覚えがあった。
(ミセス・ノリスだわ)
それはホグワーツの管理人のフィルチの飼い猫だった。生徒たちが彼女の前で規則破りをしようものなら、すぐさまフィルチに報告してしまう厄介な存在だ。
暗い廊下は向こうの方をはっきりと確認できないものの、猫になった今となっては人の姿の時よりもよく見えた。フォーラは廊下の奥の方で二つの小さな光がこちらを見ているのを認識した。このままミセス・ノリスが近付いてくれば、もしかすると自分が猫ではないと知られてしまう可能性も十分にあり得る。
(もし彼女に捕まったら、その先は……考えたくもないわ)
フォーラはミセス・ノリスから逃れる方法を一つしか思いつかなかった。彼女は急いでルーピンの部屋に続く扉を爪で何度も引っ掻いたのだ。ミセス・ノリスは学校の何処にでもフラッと現れることで有名で、走って逃げても無駄な可能性が高いことをフォーラは察していた。そのため彼女は何とかルーピンに扉を開けてもらうためにわざと鳴き声を上げた。すると案の定、ミセス・ノリスがこちらに向かって走り出したではないか。
もしかしたら本当にこのままでは捕まってしまうかもしれない。フォーラがそう思ったその時だった。ルーピンの部屋の扉が本当にほんの僅かだけ開いたのだ。フォーラが中に滑り込むと、その扉はすぐさま閉められた。部屋の照明は点いておらず、閉められたカーテンの隙間から月明かりか何かが暗い部屋にほんの少しだけ差し込んでいた。
危なかった。間一髪だったかもしれない。きっとミセス・ノリスはあの距離からでもこの黒猫を怪しんでいたに違いない。フォーラは小さな身体で心臓が幾らか早鐘を打っているのを落ち着かせようと、息を一つ吐いた。そうして少しの安心感を取り戻した後で、ルーピンに礼を言おうと彼を振り返った。
「!」フォーラの目の前にいたのはいつものルーピンではなかった。身体中長い毛に覆われ、口には大きな牙を持った狼が、窓から差し込む満月の薄明かりを浴びてそこに佇んでいた。その目は真っ直ぐにこちらを見ていた。その姿にフォーラは一瞬硬直してしまった。部屋の中に入れてもらうのに必死で、ルーピンが狼になっていることをすっかり頭から抜け落としていたからだ。
(でも、先生は今セブルスさんの薬を飲んでいる筈だから、人の時の自我があるのよね。それに、もし薬を飲んでいなかったとしても、動物には余程の事がない限り危害は加えない。教科書にもそう書いてあったし……)
フォーラがルーピンを見上げると、彼は不思議そうな瞳でこちらを眺めていた。確かにいきなり猫が自分の部屋にやってくれば誰だって驚くだろう。
(それにしても……)
フォーラはルーピンの瞳をじっと見返した。
(先生の瞳の色、普段の先生と同じだわ。優しい目なのも同じ)
(今月の満月はこの日ね)
フォーラは以前からの目論見として、黒猫の姿でフォーラ・ファントムであることは隠したまま、狼になったルーピンの元へ会いにいこうと決めていた。もし彼が猫の自分を拒むなら無理強いするつもりは勿論なかった。ただ、毎月訪れる満月の日に孤独な思いをしている彼が、もし一匹の猫でも必要としてくれるなら……彼の寂しさを少しでも紛らわせられるなら……フォーラはその一心だった。
さて、フォーラはアニメーガスになる力を習得した後も、確実に変身できるよう練習を続けていた。猫の姿の時にくしゃみなどの刺激で人の姿に戻ってしまうのは避けたかったし、ルーピンには猫が自分である事実を絶対に知られたくなかった。
フォーラはアニメーガスになったことを、偶然知られてしまったジョージ以外の誰にも打ち明けていなかった。もし動物に変身できることが人伝にルーピンの耳に入ってしまったら?きっと彼は狼の姿を見られたことをショックに思うだろう。
そしてそれから数日後、遂に満月の日を迎えた。最近のルーピンは以前同様に顔色が段々と悪くなってきていた。あまりにも満月に近付くほど悪化しているのが顕著に分かるものだから、フォーラは改めて彼が本当に人狼なのだと理解した。
その日の夜、みんなが寝静まった後でフォーラはのそのそとベッドから起き出した。そして彼女は自分のベッドの上で黒猫に変身すると、周囲で寝ている友人たちを起こさないようにそーっと談話室へと下りた。
フォーラが誰もいない談話室を横切ろうとしたその時、彼女は暗闇の中でまだほのかに暖炉の火が灯っていることに気が付いた。そしてその暖炉のそばに誰かがいることも。
(あれは……ドラコだわ。こんな時間に一人で何をしているのかしら)
黒猫姿のフォーラは身を低くして遠回りしつつ、ドラコを離れたところから見やった。すると彼はどうやらソファにもたれたまま眠っているようだった。彼の膝の上には読みかけの本が置かれていた。
(もう、しょうがないんだから)
フォーラはドラコをそのまま放っておくことができなかった。そのうち暖炉の火が消えて確実に室温は下がってしまうだろう。そうなったら彼の身体は朝には冷え切ってしまう。彼女は黒猫のまま寝室へと戻り、今度は人間の姿に戻って自分のベッドから毛布を拾い上げて抱えた。そしてそのまま静かに階下へ戻ってみると、ドラコは相変わらず眠ったままだった。
(そのうち目が覚めて、自分のベッドへ行くといいのだけど)
フォーラはそのように思いながらドラコにそっと毛布をかけた。そして彼女が少し離れた位置で黒猫に姿を変えたその時、おもむろにドラコの声が聞こえた。
「ん……フォーラ……」
いきなりドラコが自分の名前を呼ぶものだからフォーラは非常に驚いた。そのため彼女は反射的にドラコの方を見たのだが、どうやら彼はまだ目を覚ましておらず、先程の発言は寝言のようだった。このままここにいてはそのうち彼が目を覚ましかねない。そう思ったフォーラは急いでその場を離れ、ルーピンの部屋へと向かったのだった。
(ついに、来てしまったわ)
今、黒猫姿のフォーラの目の前にはルーピンの部屋へと続く扉があった。本当にここに来てよかったのだろうか?勝手にこんなことをして、ただのお節介なのは間違いない。そもそも今現在、狼姿かもしれない彼がこの扉を開けてくれるのだろうか?
フォーラは猫のまま暫くその場に立ち尽くした。もう少しこのままの状態だったなら彼女は談話室へ帰ろうとしたかもしれない。しかし、突然そうはいかない状況が差し迫った。
「マーオ」フォーラがいる廊下の向こうで猫の鳴く声がしたのだ。この声には聞き覚えがあった。
(ミセス・ノリスだわ)
それはホグワーツの管理人のフィルチの飼い猫だった。生徒たちが彼女の前で規則破りをしようものなら、すぐさまフィルチに報告してしまう厄介な存在だ。
暗い廊下は向こうの方をはっきりと確認できないものの、猫になった今となっては人の姿の時よりもよく見えた。フォーラは廊下の奥の方で二つの小さな光がこちらを見ているのを認識した。このままミセス・ノリスが近付いてくれば、もしかすると自分が猫ではないと知られてしまう可能性も十分にあり得る。
(もし彼女に捕まったら、その先は……考えたくもないわ)
フォーラはミセス・ノリスから逃れる方法を一つしか思いつかなかった。彼女は急いでルーピンの部屋に続く扉を爪で何度も引っ掻いたのだ。ミセス・ノリスは学校の何処にでもフラッと現れることで有名で、走って逃げても無駄な可能性が高いことをフォーラは察していた。そのため彼女は何とかルーピンに扉を開けてもらうためにわざと鳴き声を上げた。すると案の定、ミセス・ノリスがこちらに向かって走り出したではないか。
もしかしたら本当にこのままでは捕まってしまうかもしれない。フォーラがそう思ったその時だった。ルーピンの部屋の扉が本当にほんの僅かだけ開いたのだ。フォーラが中に滑り込むと、その扉はすぐさま閉められた。部屋の照明は点いておらず、閉められたカーテンの隙間から月明かりか何かが暗い部屋にほんの少しだけ差し込んでいた。
危なかった。間一髪だったかもしれない。きっとミセス・ノリスはあの距離からでもこの黒猫を怪しんでいたに違いない。フォーラは小さな身体で心臓が幾らか早鐘を打っているのを落ち着かせようと、息を一つ吐いた。そうして少しの安心感を取り戻した後で、ルーピンに礼を言おうと彼を振り返った。
「!」フォーラの目の前にいたのはいつものルーピンではなかった。身体中長い毛に覆われ、口には大きな牙を持った狼が、窓から差し込む満月の薄明かりを浴びてそこに佇んでいた。その目は真っ直ぐにこちらを見ていた。その姿にフォーラは一瞬硬直してしまった。部屋の中に入れてもらうのに必死で、ルーピンが狼になっていることをすっかり頭から抜け落としていたからだ。
(でも、先生は今セブルスさんの薬を飲んでいる筈だから、人の時の自我があるのよね。それに、もし薬を飲んでいなかったとしても、動物には余程の事がない限り危害は加えない。教科書にもそう書いてあったし……)
フォーラがルーピンを見上げると、彼は不思議そうな瞳でこちらを眺めていた。確かにいきなり猫が自分の部屋にやってくれば誰だって驚くだろう。
(それにしても……)
フォーラはルーピンの瞳をじっと見返した。
(先生の瞳の色、普段の先生と同じだわ。優しい目なのも同じ)