9. スネイプと二枚の羊皮紙
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その日の夕食前、フォーラは友人と談話室で勉強の合間を縫って小休憩を取っていた。すると、それまでどこにもいなかったドラコが寮の外に続く扉から入ってきて、彼女たちの方に近付いた。
「フォーラ」ドラコの呼ぶ声に気が付いて彼女が顔を上げると、彼は少々居心地悪そうに立っていた。
「ドラコ、こんばんは。今日は初めてお目にかかるわね?忙しかったの?」
ドラコは午前中の魔法薬学の教室に自分もいたことを、てっきりフォーラが把握していただろうと予想していた。そのため彼女が気味悪がっていては申し訳ないと思い、言い訳しようと声を掛けたのだ。しかし一方の彼女はそんな事など何処吹く風といった様子で、全くもっていつもどおりだった。
とはいえ確実にあの時、フォーラはドラコがたった今履いているのと同じ靴が薄っすら現れていたのを目にした筈だ。そのためドラコは彼女があの場での事を素知らぬふりしてくれている可能性を感じた。
「あ……いや、まあ、確かに忙しくはあったかな」ドラコが何とかその場しのぎの返答をした。
「なあに、ドラコ?疲れたからってフォーラに甘えにきたの?」
そこに間髪を入れずルニーが茶化すように尋ねてきた。ドラコはそんなつもりはなかったため本心では否定したかったが、何も知らない人間からすればそう思っても仕方がないだろう。そのためここは話の流れに乗ってしまった方が手っ取り早いと思った。
「ああ、そんなところだ」
ドラコはそう言って少しの躊躇いの後で前屈みになるように腰を折ると、座ったままのフォーラの頬に軽く口付けた。彼女には人前での過度なスキンシップを避けたいと言われていたが、状況的にこれくらいは許してほしいと心の中で唱えた。
するとパンジーとルニーがキャッと黄色い声で沸き立った。そしてフォーラはというと少々驚いた表情でドラコと目を合わせ、程なくしてじわっと頬の辺りを軽く朱色に染めていった。しかし彼女からは特に抗議の声は挙がってこなかったため、ドラコは今のキスが許されたことと、定かではないがあの教室で出会わなかった振りをしてくれたことへの感謝から、申し訳なさそうに微笑んで一度だけ彼女の頭を撫でた。
「ありがとう」ドラコはそれだけ言い残すと、男子寮の方へ消えていった。
「ドラコったら、フォーラと付き合い始めた頃は人前でイチャイチャしたくないとか言っていた筈なのに。今となってはすっかりそんな事も忘れてしまったみたいだわ」パンジーが呆れを含んだ声色で言った。
「となると、フォーラも早く慣れちゃった方がいいかもね?」今度はルニーがニコニコしながら尋ねた。
それらの言葉を受けたフォーラは、ドラコが消えていった方を唯々見つめて短い返答をしただけだった。
「え、ええ、そうみたいね……。」
その日の就寝時間、友人たちが寝静まる中でフォーラは自身の天蓋付きベッドのカーテンを閉め切り、その中でクリップボードを下敷きにして一枚の羊皮紙に文字を書き綴っていた。
『セブルスさん
今日、私が魔法薬学の教室で調合をしていた時、ドラコがこっそり目くらまし術で入ってきました。薄っすら可視化した彼の靴を見たんです。恐らく、教室に置いてあったスラグホーン先生の作った薬を幾らか持ち出したのだと思います。魅惑万能薬か、ポリジュース薬か、それとも真実薬か……。そのどれなのかは私には分かりません。
それから、ドラコの靴が見えていた時に偶然スラグホーン先生が入ってきたので、私は何も知らない風を装って自然な形でドラコを逃がしました。後々ドラコと談話室で一般的な会話をした感じでは、彼はきっとその事を理解していたのでしょうが、わざわざお互いに教室での事を言及したりはしませんでした。』
フォーラが文字を書き綴る間、羊皮紙は常に熱を帯びていた。それこそが『双子の呪文』が作用している合図だ。もう一枚の対の羊皮紙に全く同じ変化が加わり、きっとそのうちスネイプがこの文章を読むだろう。
そうして数分待っていると、先程の文字が綺麗さっぱりと消え、今度は少々女性らしい筆跡がリアルタイムに現れていった。
『承知した。ドラコが目くらまし術を使いたがった目的は、間違いなくそれだったのだろう。いずれの薬もどのようにでも使いようのある物ばかりだ。
お前の判断のとおり、今後もドラコに深追いせず、少しの気付きがあれば引き続き連絡をよこしなさい。』
フォーラはスネイプの筆跡を消して『分かりました』と短く記載し、この日の手紙のやり取りを終えた。
スネイプが綴っていたとおり、実のところフォーラは今日よりも前からこの特別な羊皮紙を通じて彼と連絡を取り合っていた。それは、ドラコが彼女に目くらまし術の練習を手伝ってほしいと話した時から既に始まっており、スネイプに今日までの日々の様子を伝えていたのだ。彼女はドラコに何も問うことなく従順に練習に付き合い、支援することで、スネイプの求める行動を把握していたのだった。
(ドラコ、貴方が折角私を頼ってくれたのに裏切るようなことをしてごめんなさい。だけどセブルスさんが言っていたように、貴方がその秘密の命令を達成して安全を手に入れられるのなら、そのためなら私は今後もセブルスさんに貴方の情報をお伝えするわ。いつか貴方の行動の一つ一つが線で繋がることを信じて)
「フォーラ」ドラコの呼ぶ声に気が付いて彼女が顔を上げると、彼は少々居心地悪そうに立っていた。
「ドラコ、こんばんは。今日は初めてお目にかかるわね?忙しかったの?」
ドラコは午前中の魔法薬学の教室に自分もいたことを、てっきりフォーラが把握していただろうと予想していた。そのため彼女が気味悪がっていては申し訳ないと思い、言い訳しようと声を掛けたのだ。しかし一方の彼女はそんな事など何処吹く風といった様子で、全くもっていつもどおりだった。
とはいえ確実にあの時、フォーラはドラコがたった今履いているのと同じ靴が薄っすら現れていたのを目にした筈だ。そのためドラコは彼女があの場での事を素知らぬふりしてくれている可能性を感じた。
「あ……いや、まあ、確かに忙しくはあったかな」ドラコが何とかその場しのぎの返答をした。
「なあに、ドラコ?疲れたからってフォーラに甘えにきたの?」
そこに間髪を入れずルニーが茶化すように尋ねてきた。ドラコはそんなつもりはなかったため本心では否定したかったが、何も知らない人間からすればそう思っても仕方がないだろう。そのためここは話の流れに乗ってしまった方が手っ取り早いと思った。
「ああ、そんなところだ」
ドラコはそう言って少しの躊躇いの後で前屈みになるように腰を折ると、座ったままのフォーラの頬に軽く口付けた。彼女には人前での過度なスキンシップを避けたいと言われていたが、状況的にこれくらいは許してほしいと心の中で唱えた。
するとパンジーとルニーがキャッと黄色い声で沸き立った。そしてフォーラはというと少々驚いた表情でドラコと目を合わせ、程なくしてじわっと頬の辺りを軽く朱色に染めていった。しかし彼女からは特に抗議の声は挙がってこなかったため、ドラコは今のキスが許されたことと、定かではないがあの教室で出会わなかった振りをしてくれたことへの感謝から、申し訳なさそうに微笑んで一度だけ彼女の頭を撫でた。
「ありがとう」ドラコはそれだけ言い残すと、男子寮の方へ消えていった。
「ドラコったら、フォーラと付き合い始めた頃は人前でイチャイチャしたくないとか言っていた筈なのに。今となってはすっかりそんな事も忘れてしまったみたいだわ」パンジーが呆れを含んだ声色で言った。
「となると、フォーラも早く慣れちゃった方がいいかもね?」今度はルニーがニコニコしながら尋ねた。
それらの言葉を受けたフォーラは、ドラコが消えていった方を唯々見つめて短い返答をしただけだった。
「え、ええ、そうみたいね……。」
その日の就寝時間、友人たちが寝静まる中でフォーラは自身の天蓋付きベッドのカーテンを閉め切り、その中でクリップボードを下敷きにして一枚の羊皮紙に文字を書き綴っていた。
『セブルスさん
今日、私が魔法薬学の教室で調合をしていた時、ドラコがこっそり目くらまし術で入ってきました。薄っすら可視化した彼の靴を見たんです。恐らく、教室に置いてあったスラグホーン先生の作った薬を幾らか持ち出したのだと思います。魅惑万能薬か、ポリジュース薬か、それとも真実薬か……。そのどれなのかは私には分かりません。
それから、ドラコの靴が見えていた時に偶然スラグホーン先生が入ってきたので、私は何も知らない風を装って自然な形でドラコを逃がしました。後々ドラコと談話室で一般的な会話をした感じでは、彼はきっとその事を理解していたのでしょうが、わざわざお互いに教室での事を言及したりはしませんでした。』
フォーラが文字を書き綴る間、羊皮紙は常に熱を帯びていた。それこそが『双子の呪文』が作用している合図だ。もう一枚の対の羊皮紙に全く同じ変化が加わり、きっとそのうちスネイプがこの文章を読むだろう。
そうして数分待っていると、先程の文字が綺麗さっぱりと消え、今度は少々女性らしい筆跡がリアルタイムに現れていった。
『承知した。ドラコが目くらまし術を使いたがった目的は、間違いなくそれだったのだろう。いずれの薬もどのようにでも使いようのある物ばかりだ。
お前の判断のとおり、今後もドラコに深追いせず、少しの気付きがあれば引き続き連絡をよこしなさい。』
フォーラはスネイプの筆跡を消して『分かりました』と短く記載し、この日の手紙のやり取りを終えた。
スネイプが綴っていたとおり、実のところフォーラは今日よりも前からこの特別な羊皮紙を通じて彼と連絡を取り合っていた。それは、ドラコが彼女に目くらまし術の練習を手伝ってほしいと話した時から既に始まっており、スネイプに今日までの日々の様子を伝えていたのだ。彼女はドラコに何も問うことなく従順に練習に付き合い、支援することで、スネイプの求める行動を把握していたのだった。
(ドラコ、貴方が折角私を頼ってくれたのに裏切るようなことをしてごめんなさい。だけどセブルスさんが言っていたように、貴方がその秘密の命令を達成して安全を手に入れられるのなら、そのためなら私は今後もセブルスさんに貴方の情報をお伝えするわ。いつか貴方の行動の一つ一つが線で繋がることを信じて)
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