9. スネイプと二枚の羊皮紙
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「!?」フォーラは目を見開いてそこに視線が釘付けになった。どうやらそれは男性の物で、しかもデザインや色味に大層見覚えがあった。するとその両足はたじろぐように数歩後ずさったのだが、その際に時を同じくして教室の出入口の方から誰かの声が聞こえた。
「ほっほう!そこにいるのはフォーラだね?」
名を呼ばれてそちらをパッと見ると、開いたままの扉からスラグホーンが入ってきて、こちらにやってくるところだった。
「えっ、あ、先生……!こんにちは!」
フォーラは『この一揃いの靴を見られたらどうしよう』という焦りによって落ち着きのない挨拶をしたのだが、まだ靴が視界に入っていないスラグホーンからすれば当然そのような認識などしていなかった。
「職員室の鍵が借りられていったと聞いて様子を見にきたんだ。その慌てようから察するに、こっそり調合しているところを見つかって慌てたのだね?おおかた、私の知らぬ間に完成品を用意して驚かせようとしたんだろう?」
「そ……そうなんです、はい。」フォーラは半透明の靴を背に立ち、すぐそこまで近付いてきたスラグホーンから何とかそれが見えないようにしつつ返答した。
「丁度、水薬の調合が終わったところでした。」
「なんと!もしや完成させたのかね?」
スラグホーンは鍋のそばに立って中の薬を覗き込むと満面の笑みで称賛した。そして彼が『君の父を見ているようだ』と思い出話を語る姿に、フォーラは相槌を打ってその場をやり過ごした。その間、確かに調合台のそばを誰かの微かな足音が通る音が聞こえたが、スラグホーンは話に夢中で気が付いていないようだった。そしてようやく会話が一区切りした瞬間に彼女がチラと足元を見てみると、もう例の半透明の靴はすっかり無くなってしまっていた。
ところで時を二十分ほど遡るが、ドラコは目くらまし術を全身に掛けた後、魔法薬学の教室の前にいた。それはこの部屋の片隅に堂々と保管されているポリジュース薬を可能な限り持ち帰るためだった。中に続く扉が開いていたため覗いてみると、何とフォーラがたった一人で調合をしていたものだから出直すべきか迷った。しかしなるべく時間を無駄にしたくはなかったし、万が一、透明の状態で侵入したことが彼女にばれてしまっても、『偶然見かけて驚かせにきた』とかなんとか誤魔化しの言葉で取り繕えばいいと自分に言い聞かせた。
そういうわけで、ドラコはフォーラのいる調合台よりも更に奥に置かれた蓋つき鍋が複数個揃っている方へと向かうべく、忍び足で調合台を少々迂回するように進んだ。彼は日頃からフォーラの集中力の高さを把握していたため、予想どおり彼女がこちらのほんの小さな足音にも気付いていないようで安堵した。
そしてドラコはポリジュース薬の鍋の前までやって来たわけだが、蓋を少々ずらす際にうっかり小さく物音を立ててしまった。すぐさま反射的にフォーラの方を振り返ると、彼女は相変わらず自身の鍋から目を離さずに攪拌を続けていた。ドラコはそれに大層ホッとしつつ、その後は一層慎重に行動した。持参した複数本の小瓶にポリジュース薬を詰め終わって鍋の蓋を閉め終わる頃には、後方で彼女の感嘆の声が聞こえた。
「わあーっ、できたわ!」
フォーラがそんな声を出すのが幾らか珍しくて、用事を終えたドラコは出口に向かう道すがら、惹きつけられるように彼女の方へ近付いていた。彼女は試薬瓶に入れた薬を大層嬉しそうに様々な角度から眺めていて、如何にそれが無色透明かを確認しているようだった。その頃にはドラコはもう彼女のいる調合台のそばに佇んでおり、その姿を無意識のうちに目を細めて穏やかな表情で見つめていた。
そういった短い時間を経てドラコがその場から立ち去ろうとした、その時だった。おもむろにフォーラが顔を上げ、奥にある鍋の方を見たのだ。そして不思議そうな顔をしてから何処というわけでもなく視線を漂わせると、小さく息を吸って声を発した。
「ドラコ?」
その問いにドラコは驚きすぎて心臓が痛いほどに跳ねた。まさか目くらまし術が解けてしまった?そう思ったが、自身の上体を確認する限りでは何も見えなかったし、フォーラの方も彼がいる筈がないと思ったのか、羞恥によって肩をすくめ、呆れと共に自然と視線を落としていた。
「一人で恥ずかしいわね……」
それを聞いてドラコは何とか気を落ち着かせた。しかしそれも束の間、フォーラの落とした視線が床の方を向いたまま動かなくなったのだ。ドラコが疑問に思って同じように足元を見てみると、何と自分の靴の辺りが薄っすらと透けて見えているではないか。もしかして、いや確実に、彼女が名前を呼んできた時の驚きによって身体の一部が可視化してしまったのだろう。
ドラコはまさかの状況に心臓の鼓動を一層うるさくして狼狽えざるを得なかった。しかもタイミング悪くスラグホーンまで教室に入ってきてしまった。一体全体どのようにこの場から逃れるべきかと焦っていると、何とフォーラがまるでこちらを庇うようにして立ち、戸惑いながらもスラグホーンと会話を始めたのだ。
これはきっと、彼女はこちらが誰なのかを分かった上で対応しているに違いない。そう思ったドラコは何とか調合台を迂回し、話に夢中のスラグホーンとすれ違うようにして教室を去った。そして動悸を落ち着かせるべく一先ず必要の部屋に逃げ隠れたのだった。
「ほっほう!そこにいるのはフォーラだね?」
名を呼ばれてそちらをパッと見ると、開いたままの扉からスラグホーンが入ってきて、こちらにやってくるところだった。
「えっ、あ、先生……!こんにちは!」
フォーラは『この一揃いの靴を見られたらどうしよう』という焦りによって落ち着きのない挨拶をしたのだが、まだ靴が視界に入っていないスラグホーンからすれば当然そのような認識などしていなかった。
「職員室の鍵が借りられていったと聞いて様子を見にきたんだ。その慌てようから察するに、こっそり調合しているところを見つかって慌てたのだね?おおかた、私の知らぬ間に完成品を用意して驚かせようとしたんだろう?」
「そ……そうなんです、はい。」フォーラは半透明の靴を背に立ち、すぐそこまで近付いてきたスラグホーンから何とかそれが見えないようにしつつ返答した。
「丁度、水薬の調合が終わったところでした。」
「なんと!もしや完成させたのかね?」
スラグホーンは鍋のそばに立って中の薬を覗き込むと満面の笑みで称賛した。そして彼が『君の父を見ているようだ』と思い出話を語る姿に、フォーラは相槌を打ってその場をやり過ごした。その間、確かに調合台のそばを誰かの微かな足音が通る音が聞こえたが、スラグホーンは話に夢中で気が付いていないようだった。そしてようやく会話が一区切りした瞬間に彼女がチラと足元を見てみると、もう例の半透明の靴はすっかり無くなってしまっていた。
ところで時を二十分ほど遡るが、ドラコは目くらまし術を全身に掛けた後、魔法薬学の教室の前にいた。それはこの部屋の片隅に堂々と保管されているポリジュース薬を可能な限り持ち帰るためだった。中に続く扉が開いていたため覗いてみると、何とフォーラがたった一人で調合をしていたものだから出直すべきか迷った。しかしなるべく時間を無駄にしたくはなかったし、万が一、透明の状態で侵入したことが彼女にばれてしまっても、『偶然見かけて驚かせにきた』とかなんとか誤魔化しの言葉で取り繕えばいいと自分に言い聞かせた。
そういうわけで、ドラコはフォーラのいる調合台よりも更に奥に置かれた蓋つき鍋が複数個揃っている方へと向かうべく、忍び足で調合台を少々迂回するように進んだ。彼は日頃からフォーラの集中力の高さを把握していたため、予想どおり彼女がこちらのほんの小さな足音にも気付いていないようで安堵した。
そしてドラコはポリジュース薬の鍋の前までやって来たわけだが、蓋を少々ずらす際にうっかり小さく物音を立ててしまった。すぐさま反射的にフォーラの方を振り返ると、彼女は相変わらず自身の鍋から目を離さずに攪拌を続けていた。ドラコはそれに大層ホッとしつつ、その後は一層慎重に行動した。持参した複数本の小瓶にポリジュース薬を詰め終わって鍋の蓋を閉め終わる頃には、後方で彼女の感嘆の声が聞こえた。
「わあーっ、できたわ!」
フォーラがそんな声を出すのが幾らか珍しくて、用事を終えたドラコは出口に向かう道すがら、惹きつけられるように彼女の方へ近付いていた。彼女は試薬瓶に入れた薬を大層嬉しそうに様々な角度から眺めていて、如何にそれが無色透明かを確認しているようだった。その頃にはドラコはもう彼女のいる調合台のそばに佇んでおり、その姿を無意識のうちに目を細めて穏やかな表情で見つめていた。
そういった短い時間を経てドラコがその場から立ち去ろうとした、その時だった。おもむろにフォーラが顔を上げ、奥にある鍋の方を見たのだ。そして不思議そうな顔をしてから何処というわけでもなく視線を漂わせると、小さく息を吸って声を発した。
「ドラコ?」
その問いにドラコは驚きすぎて心臓が痛いほどに跳ねた。まさか目くらまし術が解けてしまった?そう思ったが、自身の上体を確認する限りでは何も見えなかったし、フォーラの方も彼がいる筈がないと思ったのか、羞恥によって肩をすくめ、呆れと共に自然と視線を落としていた。
「一人で恥ずかしいわね……」
それを聞いてドラコは何とか気を落ち着かせた。しかしそれも束の間、フォーラの落とした視線が床の方を向いたまま動かなくなったのだ。ドラコが疑問に思って同じように足元を見てみると、何と自分の靴の辺りが薄っすらと透けて見えているではないか。もしかして、いや確実に、彼女が名前を呼んできた時の驚きによって身体の一部が可視化してしまったのだろう。
ドラコはまさかの状況に心臓の鼓動を一層うるさくして狼狽えざるを得なかった。しかもタイミング悪くスラグホーンまで教室に入ってきてしまった。一体全体どのようにこの場から逃れるべきかと焦っていると、何とフォーラがまるでこちらを庇うようにして立ち、戸惑いながらもスラグホーンと会話を始めたのだ。
これはきっと、彼女はこちらが誰なのかを分かった上で対応しているに違いない。そう思ったドラコは何とか調合台を迂回し、話に夢中のスラグホーンとすれ違うようにして教室を去った。そして動悸を落ち着かせるべく一先ず必要の部屋に逃げ隠れたのだった。