9. スネイプと二枚の羊皮紙
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(いや、もしそうなっても父上の投獄を嘆いてくれたフォーラなら、僕のやることが何であれ仕方ない事だと分かってくれるだろう。何せ彼女は僕が闇陣営側にいると察している筈なのに、こんなにも想ってくれているんだから)
ドラコはそのような懸念を頭の外へ追いやると、幸福で都合のいい部分だけを思ってフォーラを見つめた。それを受けた彼女は、ドラコのアイスブルーの色味に反した少々熱っぽい視線を受けて、自然と同じだけの熱量を自身の瞳に宿していた。
そうしてどちらからでもなく互いに瞳の距離が近くなると、鼻先が軽く触れた後に二人の唇が重なり合った。それはまるで互いを想い合っていることをゆっくり確かめては伝えるようなキスで、唇の柔らかさだけでなく、次第に吐息やなめらかな舌先すらも混ざり合うように触れてはその感覚を堪能し、口内の甘ささえも享受した。二人ともそのようにする中で、比較的落ち着いた雰囲気で互いのはっきりとした胸の動悸を感じ取っていた。その短い時間を経て唇が離れても、名残惜しさ故に心臓の鼓動だけは尾を引いて心地よく鳴っていた。
それを昇華するように、ドラコが再びフォーラの唇に触れるだけの短いキスを落とした。
「……フォーラ、改めてお礼を言わせてほしい。ここ数日忙しかっただろうに、君の勉強の時間を僕に割いてくれてありがとう」
「ううんいいのよ。私の方こそ、この何日かは貴方と二人きりの時間が確約されていて嬉しかったわ。」
そうしてフォーラはドラコを励ますように優しく抱擁すると、彼に唯々落ち着いた笑みを向けたのだった。
翌日の午前中、フォーラは職員室で鍵を借り、初回の魔法薬学の授業後にスラグホーンに宣言したとおり、完成に至らなかった『生ける屍の水薬』を調合し直すために一人で地下教室を訪れていた。因みに今日は休日だったのだが、パンジーとルニーには「休みの日まで教室に行くの!?」と驚愕された。
教室の奥には初回の授業の時に見た、幾つかの大鍋が静置されていた。蓋が載せられている内の一つを何の気なしに開けて覗いてみると、中は魅惑万能薬で満たされていた。フォーラはその薬から途端にドラコにまつわる香りを感じたものだから、慌てて蓋をしっかり閉めた。
恐らく他の鍋には同じように授業中に披露された真実薬やポリジュース薬が入っているのだろう。だが、幸運をもたらすフェリックス・フェリシス薬の小鍋については何処にも見当たらなかった。あれはスラグホーン曰く調合が難解だと言っていたし、きっと彼が厳重に片付けてしまったのだろう。
フォーラは調合台や備品の薬草を借りるべく支度を始めた。職員室ではスラグホーンに会えなかったのだが、とはいえ彼は自分がいなくともこの教室を使っていいと言ってくれていた。そのため彼女はお言葉に甘えていよいよ調合作業に取り掛かった。
授業中に失敗した工程がはっきりしていたため、その手前まで薬を作って小分けにし、それぞれ順番に異なる攪拌パターンを試してみることにした。一先ずは事前に図書室で読み漁った文献を手元に置いて参照しつつ作業を進めてみたのだが、一、二回目のパターンは理論にはまっていなかったようで、薬は濃紫色から無色透明にはならなかった。
フォーラは頭を捻りながら本をめくり、三回目のテストを始めた。薬を鍋で温める間にそこから紫色の蒸気と薬の匂いが立ち昇っていて、視界は良好とはいえず、鼻腔は若干麻痺していた。そんな中、彼女はふと何となく覚えのある香りが薄っすら漂ったような気がした。とはいえ薬の匂いが辺りに充満していて絶対に気のせいだと思えたし、自分が教室に入った時に扉が僅かに開いたままになっていた分、廊下からの風のせいだろうと思って作業の手を止めなかった。
そうして引き続き作業をしていると、今度は不意に遠く離れた背後の方で僅かにカタッと物音がした気がした。しかしフォーラは攪拌に集中していたし、やはり出入口からの風が何かに当たって音を立てたのだろうと思って疑わなかった。そのため自分の鍋の薬から目を離さなかった。
そんな記憶にも残りにくいちょっとした出来事があり、三度目の正直とでもいうべきか、フォーラはとうとう水薬の適切な攪拌方法にたどり着いた。無事に薬は完全な無色透明になったのだ。
「わあーっ、できたわ!」
思わず一人でそんな感嘆の声を上げてしまう程に嬉しくて、フォーラは鍋の火を止めて試薬瓶に薬を詰めると、それをご機嫌な笑みで暫くしげしげと眺めた。その時、鍋の湯気の落ち着きと共に、作業中に一度だけ感じた気がした香りが再びほんのりと鼻腔を抜けた。先程は薬の匂いのせいで分からなかったが、言い表すならば、何となくシトラスのような気が―――。
(いやだ、私ったら。さっき魅惑万能薬の鍋を開けた時に香った匂いが頭に焼き付いているのかも。あれは私にとって、ドラコの香りだから……)
もしかしてあの鍋の蓋を閉めたつもりが、少し開いていたのだろうか?そう思ったフォーラは手元の試薬瓶から視線を外し、教室の奥に置かれた鍋の方を振り返った。ところが蓋はしっかり閉まっているように見えたし、何なら自分と鍋の距離が十分にあったため、仮に開いていたとしてもここまで香ってくることはないだろうと思えた。
(……まさかそんな、あり得ない事だとは思うけど……)
その際、フォーラはふと脳裏をよぎった思いつきにより、何となくドラコの名前をそっと呼んでみた。しかし当然何も起こる筈がない。彼女はこんな所で何を一人で呟いているのかと羞恥を感じて肩をすくめ、呆れと共に自然と視線を落とした。
「一人で恥ずかしいわね……」
そして次に顔を上げようとしたのだが、ふとフォーラは自身の視界に見える筈のない物が見えていることに気が付いた。それというのも、薄っすらとゴーストのように透けたローファーが一足 、床に置かれているようだったのだ。
ドラコはそのような懸念を頭の外へ追いやると、幸福で都合のいい部分だけを思ってフォーラを見つめた。それを受けた彼女は、ドラコのアイスブルーの色味に反した少々熱っぽい視線を受けて、自然と同じだけの熱量を自身の瞳に宿していた。
そうしてどちらからでもなく互いに瞳の距離が近くなると、鼻先が軽く触れた後に二人の唇が重なり合った。それはまるで互いを想い合っていることをゆっくり確かめては伝えるようなキスで、唇の柔らかさだけでなく、次第に吐息やなめらかな舌先すらも混ざり合うように触れてはその感覚を堪能し、口内の甘ささえも享受した。二人ともそのようにする中で、比較的落ち着いた雰囲気で互いのはっきりとした胸の動悸を感じ取っていた。その短い時間を経て唇が離れても、名残惜しさ故に心臓の鼓動だけは尾を引いて心地よく鳴っていた。
それを昇華するように、ドラコが再びフォーラの唇に触れるだけの短いキスを落とした。
「……フォーラ、改めてお礼を言わせてほしい。ここ数日忙しかっただろうに、君の勉強の時間を僕に割いてくれてありがとう」
「ううんいいのよ。私の方こそ、この何日かは貴方と二人きりの時間が確約されていて嬉しかったわ。」
そうしてフォーラはドラコを励ますように優しく抱擁すると、彼に唯々落ち着いた笑みを向けたのだった。
翌日の午前中、フォーラは職員室で鍵を借り、初回の魔法薬学の授業後にスラグホーンに宣言したとおり、完成に至らなかった『生ける屍の水薬』を調合し直すために一人で地下教室を訪れていた。因みに今日は休日だったのだが、パンジーとルニーには「休みの日まで教室に行くの!?」と驚愕された。
教室の奥には初回の授業の時に見た、幾つかの大鍋が静置されていた。蓋が載せられている内の一つを何の気なしに開けて覗いてみると、中は魅惑万能薬で満たされていた。フォーラはその薬から途端にドラコにまつわる香りを感じたものだから、慌てて蓋をしっかり閉めた。
恐らく他の鍋には同じように授業中に披露された真実薬やポリジュース薬が入っているのだろう。だが、幸運をもたらすフェリックス・フェリシス薬の小鍋については何処にも見当たらなかった。あれはスラグホーン曰く調合が難解だと言っていたし、きっと彼が厳重に片付けてしまったのだろう。
フォーラは調合台や備品の薬草を借りるべく支度を始めた。職員室ではスラグホーンに会えなかったのだが、とはいえ彼は自分がいなくともこの教室を使っていいと言ってくれていた。そのため彼女はお言葉に甘えていよいよ調合作業に取り掛かった。
授業中に失敗した工程がはっきりしていたため、その手前まで薬を作って小分けにし、それぞれ順番に異なる攪拌パターンを試してみることにした。一先ずは事前に図書室で読み漁った文献を手元に置いて参照しつつ作業を進めてみたのだが、一、二回目のパターンは理論にはまっていなかったようで、薬は濃紫色から無色透明にはならなかった。
フォーラは頭を捻りながら本をめくり、三回目のテストを始めた。薬を鍋で温める間にそこから紫色の蒸気と薬の匂いが立ち昇っていて、視界は良好とはいえず、鼻腔は若干麻痺していた。そんな中、彼女はふと何となく覚えのある香りが薄っすら漂ったような気がした。とはいえ薬の匂いが辺りに充満していて絶対に気のせいだと思えたし、自分が教室に入った時に扉が僅かに開いたままになっていた分、廊下からの風のせいだろうと思って作業の手を止めなかった。
そうして引き続き作業をしていると、今度は不意に遠く離れた背後の方で僅かにカタッと物音がした気がした。しかしフォーラは攪拌に集中していたし、やはり出入口からの風が何かに当たって音を立てたのだろうと思って疑わなかった。そのため自分の鍋の薬から目を離さなかった。
そんな記憶にも残りにくいちょっとした出来事があり、三度目の正直とでもいうべきか、フォーラはとうとう水薬の適切な攪拌方法にたどり着いた。無事に薬は完全な無色透明になったのだ。
「わあーっ、できたわ!」
思わず一人でそんな感嘆の声を上げてしまう程に嬉しくて、フォーラは鍋の火を止めて試薬瓶に薬を詰めると、それをご機嫌な笑みで暫くしげしげと眺めた。その時、鍋の湯気の落ち着きと共に、作業中に一度だけ感じた気がした香りが再びほんのりと鼻腔を抜けた。先程は薬の匂いのせいで分からなかったが、言い表すならば、何となくシトラスのような気が―――。
(いやだ、私ったら。さっき魅惑万能薬の鍋を開けた時に香った匂いが頭に焼き付いているのかも。あれは私にとって、ドラコの香りだから……)
もしかしてあの鍋の蓋を閉めたつもりが、少し開いていたのだろうか?そう思ったフォーラは手元の試薬瓶から視線を外し、教室の奥に置かれた鍋の方を振り返った。ところが蓋はしっかり閉まっているように見えたし、何なら自分と鍋の距離が十分にあったため、仮に開いていたとしてもここまで香ってくることはないだろうと思えた。
(……まさかそんな、あり得ない事だとは思うけど……)
その際、フォーラはふと脳裏をよぎった思いつきにより、何となくドラコの名前をそっと呼んでみた。しかし当然何も起こる筈がない。彼女はこんな所で何を一人で呟いているのかと羞恥を感じて肩をすくめ、呆れと共に自然と視線を落とした。
「一人で恥ずかしいわね……」
そして次に顔を上げようとしたのだが、ふとフォーラは自身の視界に見える筈のない物が見えていることに気が付いた。それというのも、薄っすらとゴーストのように透けたローファーが