9. スネイプと二枚の羊皮紙
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完全な習得には何日か掛かるだろうと覚悟を決めていたドラコだったが、自宅での自主学習が功を奏したのか、基盤が出来上がっていたことで練習を始めてから何とか数日で目くらまし術を会得できた。その後押しをしたのは確実にフォーラの指導だった。彼女は理論や術のイメージなどを的確にドラコに伝えたし、彼が上達してもしなくても、沢山褒めたり気楽に励ましたりしてやる気を増幅させていた。
ドラコは最後に一度透明になってみせた後、フォーラの前を何度か通ってから再び姿を現した。
「どうだろう、上手くいっているか?」
「ええ、殆ど全く見えていないわ。動くとほんの少しだけ輪郭 の揺らぎが分かる程度で、十分使えるまでに仕上がっていると思うわよ。何処で使うかにもよるけれど、足音は消せないから注意して。」
「ああ、分かった。後の仕上げは自分で何とかなりそうだ。君の分かりやすい指導のお陰で短い日数で形にできたよ。本当にありがとう」
「いいえ、どういたしまして。私が偶然にも術を覚えていたことでドラコの役に立てたなら良かったわ。」
フォーラはドラコのために貢献できたことを素直に喜び、屈託のない笑みを返した。そんな彼女は結局この特殊な術の習得理由を尋ねなかった。ドラコとしては秘密裏にポリジュース薬を盗むという後ろめたい目的があったため、彼女がそこに踏み込まずにいてくれることに安堵した。
とはいえ、フォーラの方はきっと変身術に対する純粋な知的好奇心によって目くらまし術を身につけたのだろう。ドラコは勝手にそのように考えていた。そのため自分の邪 な目的のために彼女の努力を穢しているような感覚が脳裏をかすめた。
一方のフォーラはドラコのそんな考えなど露知らず、何だか軽く口角を上げて彼を見つめていた。
「どうしたんだ?」
「ふふ、あのね……」何となくフォーラが嬉しそうな気恥ずかしそうな様子で続けた。
「さっき、姿が見えなくても足音が響くという話をしたのだけど。私はきっとそれが聞こえなくても、ドラコの香りで貴方が近くにいるって分かってしまいそうだわ。」
「えっ、」それを聞いたドラコが狼狽えたものだから、フォーラが急いで訂正した。
「違うのよ。匂いがきついとかそういう話ではなくて、私の好きな、ドラコ特有のシトラスのような爽やかさがいつもほんのり香ってくるから。きっと、校内の何処かで目くらまし術の掛かった貴方が目の前を不意打ちで通っても、私にはすぐに気付けてしまいそう。だって、先日の魔法薬学の教室にあった魅惑万能薬からも同じ香りがしたんだもの。」
魅惑万能薬は匂いを嗅いだ本人が惹かれる香りを放つ。ドラコはフォーラの発言を嬉しく思いつつも、こんなにもストレートに愛情表現をされて、何となく耳の辺りが熱かった。
「それじゃあ、この術を使っている時はなるべく君の近くを通らないようにしないとな」ドラコが冗談っぽく続けた。
「だけど逆に君が同じようにしていたって、僕の方も君から香るバニラビーンズみたいな甘くて魅力的な匂いで気付ける自身はあるさ。何せ僕も魅惑万能薬から君の匂いがしたからね」
そう話しながらドラコがフォーラの方へ自然と歩み寄った。彼は余裕のありそうな声色をしていたが、内心は先程彼女から受けた愛情表現による気恥ずかしさを返すべく、羞恥心に耐えながらそのようなキザな発言をしていた。
そしてドラコは流れのままにフォーラの髪を片手で優しくすくうと、そっと自身の鼻先で彼女の髪の香りを迎えにいった。自然とその腕の中に納まったフォーラは彼の思惑どおり、甘い発言や行動にソワソワと落ち着きなく視線をうろつかせ、肩をすくめた。
「私って、そんなに甘い匂いがするの?」
ドラコを見上げつつ何とか尋ねると、今度の彼は指通りの良い髪から手を離し、彼女を抱き締めるように身体を寄せたではないか。そして自身の鼻筋を彼女の耳のすぐ後ろの方に軽く宛がったのだった。
「!」ドラコの鼻先が首筋の薄い皮膚をかすめたことで、フォーラの肩や腰が無自覚かつ反射的に軽く跳ねた。彼はどうやらその反応を楽しんでいるようで、そのまま自身の鼻腔を甘い香りで満たすべく深く息を吸い込んだ。その音がフォーラの耳にしっかりと届いたものだから、彼女にとっては顔がじわじわと熱くなる程に耐えがたく、短い筈の時間が随分長く感じられていた。
程なくしてドラコの顔がそこから離れると、今度はフォーラの瞳が見えるように近付け直した。それを受けて彼女が改めて彼を見上げてみると、そこには幸せで満たされたように緩く微笑む彼の表情があった。
「君の匂いは、僕にとっては随分甘くていい香りに感じるよ」
ドラコは最初こそ自分がフォーラから受けた気恥ずかしさを、彼女にも味わってもらおうという少々意地悪な動悸を抱えていた筈だった。しかしそれが次第に溶けてなくなり、今となっては唯々愛しい人の香りに癒されているだけの存在に成り下がってしまった。
とはいえドラコの思惑どおり、今現在のフォーラは酷く心臓を高鳴らせていて、返すべき言葉が見当たらないようだった。そんな彼女の不安定にも僅かに揺れる瞳から、嬉しさや羞恥の色が滲んでいるのがありありと見て取れた。ドラコは自分の行動一つでそんな風になってしまう彼女がたまらなく愛おしくて、絶対に自分が彼女を幸せにするのだという思いを一層強めた。
しかしそれと同時に、ドラコの脳裏を先程と同じような考えがかすめていた。今回、自分は世間から見れば非人道的な目的を達成するために、かつてフォーラが努力して習得したであろう力を借りた。彼女にはこちらの目的を話していないが、最終的に殺人に手を染めようとしていると知られた場合、そんな人間と幸福を分かち合いたいと思うだろうか?
ドラコは最後に一度透明になってみせた後、フォーラの前を何度か通ってから再び姿を現した。
「どうだろう、上手くいっているか?」
「ええ、殆ど全く見えていないわ。動くとほんの少しだけ
「ああ、分かった。後の仕上げは自分で何とかなりそうだ。君の分かりやすい指導のお陰で短い日数で形にできたよ。本当にありがとう」
「いいえ、どういたしまして。私が偶然にも術を覚えていたことでドラコの役に立てたなら良かったわ。」
フォーラはドラコのために貢献できたことを素直に喜び、屈託のない笑みを返した。そんな彼女は結局この特殊な術の習得理由を尋ねなかった。ドラコとしては秘密裏にポリジュース薬を盗むという後ろめたい目的があったため、彼女がそこに踏み込まずにいてくれることに安堵した。
とはいえ、フォーラの方はきっと変身術に対する純粋な知的好奇心によって目くらまし術を身につけたのだろう。ドラコは勝手にそのように考えていた。そのため自分の
一方のフォーラはドラコのそんな考えなど露知らず、何だか軽く口角を上げて彼を見つめていた。
「どうしたんだ?」
「ふふ、あのね……」何となくフォーラが嬉しそうな気恥ずかしそうな様子で続けた。
「さっき、姿が見えなくても足音が響くという話をしたのだけど。私はきっとそれが聞こえなくても、ドラコの香りで貴方が近くにいるって分かってしまいそうだわ。」
「えっ、」それを聞いたドラコが狼狽えたものだから、フォーラが急いで訂正した。
「違うのよ。匂いがきついとかそういう話ではなくて、私の好きな、ドラコ特有のシトラスのような爽やかさがいつもほんのり香ってくるから。きっと、校内の何処かで目くらまし術の掛かった貴方が目の前を不意打ちで通っても、私にはすぐに気付けてしまいそう。だって、先日の魔法薬学の教室にあった魅惑万能薬からも同じ香りがしたんだもの。」
魅惑万能薬は匂いを嗅いだ本人が惹かれる香りを放つ。ドラコはフォーラの発言を嬉しく思いつつも、こんなにもストレートに愛情表現をされて、何となく耳の辺りが熱かった。
「それじゃあ、この術を使っている時はなるべく君の近くを通らないようにしないとな」ドラコが冗談っぽく続けた。
「だけど逆に君が同じようにしていたって、僕の方も君から香るバニラビーンズみたいな甘くて魅力的な匂いで気付ける自身はあるさ。何せ僕も魅惑万能薬から君の匂いがしたからね」
そう話しながらドラコがフォーラの方へ自然と歩み寄った。彼は余裕のありそうな声色をしていたが、内心は先程彼女から受けた愛情表現による気恥ずかしさを返すべく、羞恥心に耐えながらそのようなキザな発言をしていた。
そしてドラコは流れのままにフォーラの髪を片手で優しくすくうと、そっと自身の鼻先で彼女の髪の香りを迎えにいった。自然とその腕の中に納まったフォーラは彼の思惑どおり、甘い発言や行動にソワソワと落ち着きなく視線をうろつかせ、肩をすくめた。
「私って、そんなに甘い匂いがするの?」
ドラコを見上げつつ何とか尋ねると、今度の彼は指通りの良い髪から手を離し、彼女を抱き締めるように身体を寄せたではないか。そして自身の鼻筋を彼女の耳のすぐ後ろの方に軽く宛がったのだった。
「!」ドラコの鼻先が首筋の薄い皮膚をかすめたことで、フォーラの肩や腰が無自覚かつ反射的に軽く跳ねた。彼はどうやらその反応を楽しんでいるようで、そのまま自身の鼻腔を甘い香りで満たすべく深く息を吸い込んだ。その音がフォーラの耳にしっかりと届いたものだから、彼女にとっては顔がじわじわと熱くなる程に耐えがたく、短い筈の時間が随分長く感じられていた。
程なくしてドラコの顔がそこから離れると、今度はフォーラの瞳が見えるように近付け直した。それを受けて彼女が改めて彼を見上げてみると、そこには幸せで満たされたように緩く微笑む彼の表情があった。
「君の匂いは、僕にとっては随分甘くていい香りに感じるよ」
ドラコは最初こそ自分がフォーラから受けた気恥ずかしさを、彼女にも味わってもらおうという少々意地悪な動悸を抱えていた筈だった。しかしそれが次第に溶けてなくなり、今となっては唯々愛しい人の香りに癒されているだけの存在に成り下がってしまった。
とはいえドラコの思惑どおり、今現在のフォーラは酷く心臓を高鳴らせていて、返すべき言葉が見当たらないようだった。そんな彼女の不安定にも僅かに揺れる瞳から、嬉しさや羞恥の色が滲んでいるのがありありと見て取れた。ドラコは自分の行動一つでそんな風になってしまう彼女がたまらなく愛おしくて、絶対に自分が彼女を幸せにするのだという思いを一層強めた。
しかしそれと同時に、ドラコの脳裏を先程と同じような考えがかすめていた。今回、自分は世間から見れば非人道的な目的を達成するために、かつてフォーラが努力して習得したであろう力を借りた。彼女にはこちらの目的を話していないが、最終的に殺人に手を染めようとしていると知られた場合、そんな人間と幸福を分かち合いたいと思うだろうか?