9. スネイプと二枚の羊皮紙
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「我輩が重要なスパイ活動をするだけの気力を保てているのは」
スネイプがフォーラから一度視線を外した後で、再び彼女を見て静かに続けた。
「かつての幼馴染を、闇の帝王の魔の手から守れなかったからだ」
フォーラはこれまで、スネイプにも自分と同じように幼馴染がいたとは一度も聞かされたことがなかった。しかもその人が殺されていたとあっては、猶のこと驚かずにはいられなかった。
「お前が生まれるよりも前、闇の帝王が最初に猛威を振るっていた頃、我輩は死喰い人として活動していた。そしてその幼馴染は―――彼女は当然それをよしとせず、学生時代から闇の魔術に傾倒していた我輩とは、互いにもう随分長い絶縁状態にあった。そんな中、……死喰い人として私が闇の帝王に流した情報が引き金となり、あの方は彼女をこの世から葬り去った。私は、自分のしたことがそんな結末を迎えるとは全く予想していなかったのだ」
スネイプは静かな感情の昂りによって、勢いに任せて言葉を続けていた。その間の彼は、きっとダンブルドアしか知らない後悔の念を誰か気の許せる人にずっと吐露したくて仕方なかったのだろうと思った。たとえ多くを語れなかったとしても。
「彼女が狙われていると分かった時から殺されるまで、私は敵であった筈のダンブルドアに助けを求めてすがった。だが結局は彼女を失い、それによって私ももう本気で死んでしまいたいと思った。だが、ダンブルドアがそれを許さなかった」
フォーラはスネイプがそのように少々取り乱して話すさまを、唯々固唾を飲んで見守った。
「彼女は死ぬ間際、身を挺 して自身の息子を護った。だからこそダンブルドアは彼女の死を無駄にしないためにも、その忘れ形見である息子を今度は私が護るよう諭したのだ。その子が再び闇の帝王に命を狙われるのを見越して」
スネイプはそこまで話しきったことで少々落ち着きを取り戻したようだった。
「……つまり我輩の暗躍の力の源となっているのは、彼女への悔いても悔いきれない後悔と、彼女の勇気に報いるという使命感で成り立っている、というわけだ」
そう言い終えた後、辺りには静かに沈黙が広がった。フォーラはまさか自分のちょっとした質問によって、スネイプがそのような過去を話してくれるとは思ってもみなかった。何せこれまでの彼は、自分と出会うよりも前の話を聞かせてくれたことが一度もなかった筈なのだ。
一体、スネイプに二重スパイという重役を担うことを決心させた幼馴染という人は、どれだけ彼に想われていたのだろう。先程はその辺りのことが言及されなかったが、フォーラはもう十分にスネイプが彼女に特別な感情を抱いていただろうと予想できた。そして、『その子が再び闇の帝王に命を狙われる』という言葉から、もしかするとその子供がハリーなのかもしれないという考えが頭をかすめたが、普段ハリーを嫌っているスネイプの尊厳のためにもこれ以上考えないでおこうと思った。
「ごめんなさい。私、セブルスさんにそんなつらいお話をさせるつもりなんて無かったのに……。」
「何も謝ることはない。正直きっとそのうちこうして、お前にこの手の話をする日が来るかもしれないとは思っていた。何せ我輩は恥ずかしながら、以前からお前とドラコに何度も自分と彼女の姿を重ねていたのだから。我々の方は学生時代に仲違いしてしまったが、もしあの頃の我輩が闇の魔術に関心を示さなかったなら、お前たちのように普通に会話できる仲のまま卒業できていたのではないかとか、それこそ彼女を死に追いやることもなかったのではと、何度も考えたものだ」
そのように遠くを見るように話すスネイプを目に入れていると、フォーラは彼がこんなにも心を何処かに置いてきてしまったような顔をするのかと動揺した。それに、昨年度は自分とドラコの心の距離が随分離れていたが、もしあのまま心を通わすことなく将来的にどちらかが死に至っていたとしたら、きっと二人とも悔いても悔いきれなかっただろう。正にその感情をスネイプが経験したのだと思うと、自然とフォーラの頬を静かに涙が伝うのは避けられなかった。
すると、スネイプが改めてフォーラを見やった。その瞳は先程とは違い、すっかり目の前の現実を見据えていた。
「フォーラ。先程お前が話したとおり、ドラコは闇陣営からとある命令を受けている。そして我輩はそれが誰によるもので、どういう内容かを把握している」
それを聞いたフォーラの表情に、希望と不安の入り混じった色が宿った。それは、ドラコが教えてくれなかった詳細をスネイプが話してくれる可能性を感じたからだったが、スネイプにはそのつもりがなかった。
「当然、ドラコに宛てられた命令が何なのかは、我輩の方からダンブルドアにも共有している。だからその命令の内容に関してはお前の方からドラコに何も探りを入れる必要はない。加えてお前にその内容を話すつもりもない。知りすぎることで、お前がいつドラコに疑いの目を向けられるか分からんのでな」
「は、はい、分かりました。」フォーラが少々肩を落として残念そうに返答した。
「ですがセブルスさん、それならダンブルドア先生は一体、私にドラコの何を探るよう求めていたのでしょう?ドラコに近しい私が出来る限り情報を掴んで、彼の安全を確保するための手助けをすべきなのは理解していますが……。」
「ダンブルドアがお前にドラコを探るよう言ったのは、奴がどのようにして命令を遂行するか、その手段のヒントを掴みたいからだ。ドラコは闇陣営の中で一家の立場がこれ以上悪くなるのを避けるため、必ず命令を完遂しなければならない。だからある意味、命令の達成が最もドラコの身の安全の確保に繋がるが、それが大変難しいことは分かりきっている。だからこそ今現在ドラコがどのような手札を持っているのか把握することで、時には陰から支援し、時には他人に危害を及ぼしかねないと判断すれば邪魔をして中断させ、別の手段に切り替えさせる。その情報源として、日々の生活の中でお前の知り得たことがあれば共有してほしいと思ったのだ」
スネイプがフォーラから一度視線を外した後で、再び彼女を見て静かに続けた。
「かつての幼馴染を、闇の帝王の魔の手から守れなかったからだ」
フォーラはこれまで、スネイプにも自分と同じように幼馴染がいたとは一度も聞かされたことがなかった。しかもその人が殺されていたとあっては、猶のこと驚かずにはいられなかった。
「お前が生まれるよりも前、闇の帝王が最初に猛威を振るっていた頃、我輩は死喰い人として活動していた。そしてその幼馴染は―――彼女は当然それをよしとせず、学生時代から闇の魔術に傾倒していた我輩とは、互いにもう随分長い絶縁状態にあった。そんな中、……死喰い人として私が闇の帝王に流した情報が引き金となり、あの方は彼女をこの世から葬り去った。私は、自分のしたことがそんな結末を迎えるとは全く予想していなかったのだ」
スネイプは静かな感情の昂りによって、勢いに任せて言葉を続けていた。その間の彼は、きっとダンブルドアしか知らない後悔の念を誰か気の許せる人にずっと吐露したくて仕方なかったのだろうと思った。たとえ多くを語れなかったとしても。
「彼女が狙われていると分かった時から殺されるまで、私は敵であった筈のダンブルドアに助けを求めてすがった。だが結局は彼女を失い、それによって私ももう本気で死んでしまいたいと思った。だが、ダンブルドアがそれを許さなかった」
フォーラはスネイプがそのように少々取り乱して話すさまを、唯々固唾を飲んで見守った。
「彼女は死ぬ間際、身を
スネイプはそこまで話しきったことで少々落ち着きを取り戻したようだった。
「……つまり我輩の暗躍の力の源となっているのは、彼女への悔いても悔いきれない後悔と、彼女の勇気に報いるという使命感で成り立っている、というわけだ」
そう言い終えた後、辺りには静かに沈黙が広がった。フォーラはまさか自分のちょっとした質問によって、スネイプがそのような過去を話してくれるとは思ってもみなかった。何せこれまでの彼は、自分と出会うよりも前の話を聞かせてくれたことが一度もなかった筈なのだ。
一体、スネイプに二重スパイという重役を担うことを決心させた幼馴染という人は、どれだけ彼に想われていたのだろう。先程はその辺りのことが言及されなかったが、フォーラはもう十分にスネイプが彼女に特別な感情を抱いていただろうと予想できた。そして、『その子が再び闇の帝王に命を狙われる』という言葉から、もしかするとその子供がハリーなのかもしれないという考えが頭をかすめたが、普段ハリーを嫌っているスネイプの尊厳のためにもこれ以上考えないでおこうと思った。
「ごめんなさい。私、セブルスさんにそんなつらいお話をさせるつもりなんて無かったのに……。」
「何も謝ることはない。正直きっとそのうちこうして、お前にこの手の話をする日が来るかもしれないとは思っていた。何せ我輩は恥ずかしながら、以前からお前とドラコに何度も自分と彼女の姿を重ねていたのだから。我々の方は学生時代に仲違いしてしまったが、もしあの頃の我輩が闇の魔術に関心を示さなかったなら、お前たちのように普通に会話できる仲のまま卒業できていたのではないかとか、それこそ彼女を死に追いやることもなかったのではと、何度も考えたものだ」
そのように遠くを見るように話すスネイプを目に入れていると、フォーラは彼がこんなにも心を何処かに置いてきてしまったような顔をするのかと動揺した。それに、昨年度は自分とドラコの心の距離が随分離れていたが、もしあのまま心を通わすことなく将来的にどちらかが死に至っていたとしたら、きっと二人とも悔いても悔いきれなかっただろう。正にその感情をスネイプが経験したのだと思うと、自然とフォーラの頬を静かに涙が伝うのは避けられなかった。
すると、スネイプが改めてフォーラを見やった。その瞳は先程とは違い、すっかり目の前の現実を見据えていた。
「フォーラ。先程お前が話したとおり、ドラコは闇陣営からとある命令を受けている。そして我輩はそれが誰によるもので、どういう内容かを把握している」
それを聞いたフォーラの表情に、希望と不安の入り混じった色が宿った。それは、ドラコが教えてくれなかった詳細をスネイプが話してくれる可能性を感じたからだったが、スネイプにはそのつもりがなかった。
「当然、ドラコに宛てられた命令が何なのかは、我輩の方からダンブルドアにも共有している。だからその命令の内容に関してはお前の方からドラコに何も探りを入れる必要はない。加えてお前にその内容を話すつもりもない。知りすぎることで、お前がいつドラコに疑いの目を向けられるか分からんのでな」
「は、はい、分かりました。」フォーラが少々肩を落として残念そうに返答した。
「ですがセブルスさん、それならダンブルドア先生は一体、私にドラコの何を探るよう求めていたのでしょう?ドラコに近しい私が出来る限り情報を掴んで、彼の安全を確保するための手助けをすべきなのは理解していますが……。」
「ダンブルドアがお前にドラコを探るよう言ったのは、奴がどのようにして命令を遂行するか、その手段のヒントを掴みたいからだ。ドラコは闇陣営の中で一家の立場がこれ以上悪くなるのを避けるため、必ず命令を完遂しなければならない。だからある意味、命令の達成が最もドラコの身の安全の確保に繋がるが、それが大変難しいことは分かりきっている。だからこそ今現在ドラコがどのような手札を持っているのか把握することで、時には陰から支援し、時には他人に危害を及ぼしかねないと判断すれば邪魔をして中断させ、別の手段に切り替えさせる。その情報源として、日々の生活の中でお前の知り得たことがあれば共有してほしいと思ったのだ」