9. スネイプと二枚の羊皮紙
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「それで、お前をここへ呼んだ本題だが」スネイプがソファに背を預けながら言った。
初日の授業を終えたフォーラは、今朝スネイプから受け取った手紙に従い、数分前に防衛術の準備室に到着した。そして今現在はローテーブルを挟んだ対面のソファに座り、彼の話に耳を傾けているところだった。
「例の書籍のことで、少し調べた結果を伝えておこうと思ったのだ」
スネイプが言っているのは、フォーラが現在所持しているエメリア・スイッチ著の『真の変身術師のための変身術』という絶版本のことだった。
「昨年度、お前は禁書の棚であの本に呼ばれるように導かれ、その魔力を感じ取った。そうだな」
「ええ、そうです。」
「だが我輩はそれを感じ取れなかった。そして昨年度の終わり、あの本に書かれていた闇の魔術の類の一つをお前は使えたが、我輩は使えなかった。それは実のところダンブルドアにあの本を見せても同じことだった。それらの一連の事から察するに、お前がスイッチ家の血縁ではないかという仮説を立てたわけだが」
スネイプは一旦言葉を切ってから、ため息交じりに続けた。
「この夏、あの本の詳細や親戚関係について尋ねるために、少し時間を作ってスイッチ家の末裔にあたるエメリック・スイッチという老人を尋ねてみた。知ってのとおり、一年生の教科書にあたる『変身術入門』の著者でもある」
「えっ……そうだったのですか?」
フォーラが随分な驚きようで尋ねた。その瞳には期待と不安が浮かんでいて、スネイプはそれを落ち着かせるように返答した。
「安心しろ、色々と不確定さが絡むゆえに、ファントム夫妻にはこの件を一切話していない。それに先に結論から言っておくとスイッチ氏には会えなかった。よって事の真相は闇のままだ」
「そ、そうですか……。それでもお忙しい中、私のためにありがとうございます。」
「礼には及ばん。最初はスイッチ氏の自宅を訪ねたが、近隣に住む魔法使い曰く、彼は聖マンゴ魔法疾患傷害病院に一時入院しているらしかった。そのため次に病院に向かったのだが、彼の病室はもぬけの殻だった」
「それは、退院されたということでしょうか?」
その問いにスネイプは首を横に振った。
「どうやら違う。退院予定はもう少し先だったようだからな。我輩が予想するに、彼は優秀であるが故に死喰い人から狙われていたのではと思う。実際、今ホグワーツで教鞭をとっているスラグホーン教授も、死喰い人に追われて各地を転々としていたそうだ」
「あっ……そういえばこの夏、スラグホーン先生が私の母の温室に授業用の薬草を調達しに訪れてくださった際、ダイアゴン横丁よりもうちの敷地の方が安全だとおっしゃっていました。あの時にはもう先生は追われる身だったのですね。それなら、確かにスイッチさんも同じような状態でもおかしくないのかも。」
「ああ、何処かで無事であってほしいものだ。本来ならもう少し捜索に時間を割きたいところではあったが、もう我輩の時間が足りない」
「そんな、お気になさらないでください。セブルスさんが気に掛けてくださっただけでも、もう十分に嬉しいですから。騎士団と闇陣営の間で二重スパイをするなんて重荷を背負っている方に、これ以上ご負担をかけるわけにはいきません。」
「ああ、分かった。もし万が一、何かのタイミングに進展があれば知らせよう。今日は一先ずそこまでの内容を手短に伝えたかった。それだけだ」
「はい、本当にありがとうございます。」
フォーラはそのようにお礼を伝えつつ、次第に考え込むようにして自身の置かれた状況とスネイプの状況を重ね合わせていった。
「ところで……セブルスさん、どうして貴方はそんなにも大変な役を長く続けられているのですか?」
「何だ、唐突だな」
「いえ……だって、セブルスさんには遠く及ばなくても、言ってしまえば私もスパイに片脚を入れているようなものですから。夏休みの間にダンブルドア先生が私におっしゃったんです。ドラコが良くない事や危険に晒された時に、彼と親しい私だからこそ気付けることがあって、それが彼の身の安全のためになるかもしれないって。」フォーラは昨晩の出来事を思い出しながら、一呼吸して続けた。
「それで昨日、早速ドラコと二人で話す機会があったんです。彼にはその内容を誰にも明かすなと言われましたが―――彼は、誰かから受けた命令をこれから成し遂げなければならないと話してくれました。そして肯定も否定もされませんでしたが、ドラコ自身が死喰い人としてその命令を託されたであろうことも、その様子から十分に汲み取れました。ですが具体的に誰に何を命じられ、何をしようとしているかまでは教えてもらえなくて……。多分、ダンブルドア先生は私にドラコの行動を探ってほしいんだと思いますが、私はそれがどれだけ難しいかを現在進行形で強く感じています。だから、私よりもずっとスパイとして重大な任に就いているセブルスさんの原動力が一体何なのか、知りたくなったんです。」
スネイプはこれまで、二重スパイをやれる程の大きな力の根源についてダンブルドアただ一人にしか話したことがなく、本来ならその弱みを目の前の生徒に打ち明けるのは避けるべきことだった。しかし、フォーラが幼馴染かつ想い人であるドラコのためにもがく様子を見ていると、スネイプはかつて自身の幼馴染を救えなかったことへの後悔が強まった。それは今に始まったことではなく、以前からフォーラやドラコを見守る中でずっと感じていたものだった。
マグル生まれかつ誰かのために一生懸命になれる、あの幼馴染の彼女のような特徴を持ったフォーラが、かつてのスネイプが成し得なかった『二人とも生きる』ための道を探している。その状況に彼は一層心を揺さぶられていた。この子には、かつての自分のように後悔する選択をしてほしくない。ドラコが闇の帝王の手で亡き者にされてしまえば、目の前のこの子は自分と同じ苦しみを抱えることになってしまう。そのような想いによって無自覚にもスネイプの口は、この時ばかりはこれまでのいつにもなく、ついうっかりフォーラの前で饒舌かつ感傷的になっていた。
初日の授業を終えたフォーラは、今朝スネイプから受け取った手紙に従い、数分前に防衛術の準備室に到着した。そして今現在はローテーブルを挟んだ対面のソファに座り、彼の話に耳を傾けているところだった。
「例の書籍のことで、少し調べた結果を伝えておこうと思ったのだ」
スネイプが言っているのは、フォーラが現在所持しているエメリア・スイッチ著の『真の変身術師のための変身術』という絶版本のことだった。
「昨年度、お前は禁書の棚であの本に呼ばれるように導かれ、その魔力を感じ取った。そうだな」
「ええ、そうです。」
「だが我輩はそれを感じ取れなかった。そして昨年度の終わり、あの本に書かれていた闇の魔術の類の一つをお前は使えたが、我輩は使えなかった。それは実のところダンブルドアにあの本を見せても同じことだった。それらの一連の事から察するに、お前がスイッチ家の血縁ではないかという仮説を立てたわけだが」
スネイプは一旦言葉を切ってから、ため息交じりに続けた。
「この夏、あの本の詳細や親戚関係について尋ねるために、少し時間を作ってスイッチ家の末裔にあたるエメリック・スイッチという老人を尋ねてみた。知ってのとおり、一年生の教科書にあたる『変身術入門』の著者でもある」
「えっ……そうだったのですか?」
フォーラが随分な驚きようで尋ねた。その瞳には期待と不安が浮かんでいて、スネイプはそれを落ち着かせるように返答した。
「安心しろ、色々と不確定さが絡むゆえに、ファントム夫妻にはこの件を一切話していない。それに先に結論から言っておくとスイッチ氏には会えなかった。よって事の真相は闇のままだ」
「そ、そうですか……。それでもお忙しい中、私のためにありがとうございます。」
「礼には及ばん。最初はスイッチ氏の自宅を訪ねたが、近隣に住む魔法使い曰く、彼は聖マンゴ魔法疾患傷害病院に一時入院しているらしかった。そのため次に病院に向かったのだが、彼の病室はもぬけの殻だった」
「それは、退院されたということでしょうか?」
その問いにスネイプは首を横に振った。
「どうやら違う。退院予定はもう少し先だったようだからな。我輩が予想するに、彼は優秀であるが故に死喰い人から狙われていたのではと思う。実際、今ホグワーツで教鞭をとっているスラグホーン教授も、死喰い人に追われて各地を転々としていたそうだ」
「あっ……そういえばこの夏、スラグホーン先生が私の母の温室に授業用の薬草を調達しに訪れてくださった際、ダイアゴン横丁よりもうちの敷地の方が安全だとおっしゃっていました。あの時にはもう先生は追われる身だったのですね。それなら、確かにスイッチさんも同じような状態でもおかしくないのかも。」
「ああ、何処かで無事であってほしいものだ。本来ならもう少し捜索に時間を割きたいところではあったが、もう我輩の時間が足りない」
「そんな、お気になさらないでください。セブルスさんが気に掛けてくださっただけでも、もう十分に嬉しいですから。騎士団と闇陣営の間で二重スパイをするなんて重荷を背負っている方に、これ以上ご負担をかけるわけにはいきません。」
「ああ、分かった。もし万が一、何かのタイミングに進展があれば知らせよう。今日は一先ずそこまでの内容を手短に伝えたかった。それだけだ」
「はい、本当にありがとうございます。」
フォーラはそのようにお礼を伝えつつ、次第に考え込むようにして自身の置かれた状況とスネイプの状況を重ね合わせていった。
「ところで……セブルスさん、どうして貴方はそんなにも大変な役を長く続けられているのですか?」
「何だ、唐突だな」
「いえ……だって、セブルスさんには遠く及ばなくても、言ってしまえば私もスパイに片脚を入れているようなものですから。夏休みの間にダンブルドア先生が私におっしゃったんです。ドラコが良くない事や危険に晒された時に、彼と親しい私だからこそ気付けることがあって、それが彼の身の安全のためになるかもしれないって。」フォーラは昨晩の出来事を思い出しながら、一呼吸して続けた。
「それで昨日、早速ドラコと二人で話す機会があったんです。彼にはその内容を誰にも明かすなと言われましたが―――彼は、誰かから受けた命令をこれから成し遂げなければならないと話してくれました。そして肯定も否定もされませんでしたが、ドラコ自身が死喰い人としてその命令を託されたであろうことも、その様子から十分に汲み取れました。ですが具体的に誰に何を命じられ、何をしようとしているかまでは教えてもらえなくて……。多分、ダンブルドア先生は私にドラコの行動を探ってほしいんだと思いますが、私はそれがどれだけ難しいかを現在進行形で強く感じています。だから、私よりもずっとスパイとして重大な任に就いているセブルスさんの原動力が一体何なのか、知りたくなったんです。」
スネイプはこれまで、二重スパイをやれる程の大きな力の根源についてダンブルドアただ一人にしか話したことがなく、本来ならその弱みを目の前の生徒に打ち明けるのは避けるべきことだった。しかし、フォーラが幼馴染かつ想い人であるドラコのためにもがく様子を見ていると、スネイプはかつて自身の幼馴染を救えなかったことへの後悔が強まった。それは今に始まったことではなく、以前からフォーラやドラコを見守る中でずっと感じていたものだった。
マグル生まれかつ誰かのために一生懸命になれる、あの幼馴染の彼女のような特徴を持ったフォーラが、かつてのスネイプが成し得なかった『二人とも生きる』ための道を探している。その状況に彼は一層心を揺さぶられていた。この子には、かつての自分のように後悔する選択をしてほしくない。ドラコが闇の帝王の手で亡き者にされてしまえば、目の前のこの子は自分と同じ苦しみを抱えることになってしまう。そのような想いによって無自覚にもスネイプの口は、この時ばかりはこれまでのいつにもなく、ついうっかりフォーラの前で饒舌かつ感傷的になっていた。