8. アンラッキーな初授業
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加えてスラグホーンは注意事項として、この薬をスポーツや試験、選挙などの組織的な競技や競争事に使用するのは禁じられていると説明した。そして彼は急にきびきびとした口調で続けた。
「このすばらしい賞をどうやって獲得するか?さあ、『上級魔法薬』の十ページを開くことだ。あと一時と少し残っているが、その時間内に『生ける屍の水薬』にきっちりと取り組んでいただこう。これまで君たちが習ってきた薬よりずっと複雑なことは分かっているから、誰にも完璧な仕上がりは期待していない。しかし、一番よくできた者が、この愛すべきフェリックスを獲得する。さあ、始め!」
それぞれが大鍋を手元に引き寄せる音がして、秤に錘 を載せるコツンコツンという大きな音も聞こえてきた。誰も口を利かず、部屋中が固く集中していた。ドラコは自身の目的の完遂のために是が非でもフェリックスが欲しいと考えていた。そしてフォーラもドラコが危険に晒されずに済むのであれば、薬を獲得した暁には彼と半分ずつ使いたいと考えていた。そうすればもしかすると彼はその何らかの使命を果たせるラッキーを呼び寄せ、フォーラの方は彼を危険から守るべく騎士団の保護下に置くというラッキーを呼び寄せられるのでは……と思ったからだ。
他の生徒が早速教科書の先頭を読んで材料を刻み始める間、フォーラはまず『生ける屍の水薬』の最初から最後までの全工程に目を通した。その中で彼女が特に気になったのは『催眠豆』を刻むという作業だった。
(この豆から汁を多く得ることが目的だから、刻むよりも潰す方が効果的な筈。後で刻むのも潰すのも、どちらも試してみましょう……)
フォーラはこれまでスネイプが担当していた魔法薬学の授業で、教科書どおりの板書の中に別の最適解があるかどうかを探りながら調合を行ってきた。それは時には成功し、時には失敗したが、彼女にとっては毎回全て完璧な仕上がりにするよりも意味のあることだった。今年から使用する目の前の教科書の内容にそれが適応できるかは定かではないが、少なくとも催眠豆についてはこれまでの努力の恩恵を得られた筈だ。
そうしてフォーラは周囲より一歩遅れてようやくカノコソウの根を刻み始めた。その間、殆どの生徒は他の生徒のやっていることをチラチラ盗み見ていた。自分の作業を隠すのが難しいところが、魔法薬学の良い点でも悪い点でもあった。とはいえ若干遅れて作業を開始したフォーラの作業は、周囲から視線を受ける対象にはなり得なかった。
刻んだ根を鍋に入れて煮立つ頃には、辺りに青みがかった湯気が立ち込めた。一番作業が進んでいたのはハーマイオニーで、煎じ薬は既に教科書に書かれている理想的な中段階の『滑らかなクロスグリ色(濃紫色)の液体』になっていた。そしてフォーラの鍋の中も、攪拌するうちに段々と同じような色味へと変化していった。
次にフォーラが催眠豆から汁を取り出そうと銀の小刀を持とうとした時、近くをスラグホーンが通りかかった。彼は足を止めて彼女の鍋を覗くとウンウンと頷いていたのだが、不意にドラコが声を掛けた。
「先生、僕の祖父のアブラクサス・マルフォイをご存知ですね?」
「ああ」スラグホーンはドラコを見ずに返答した。「お亡くなりになったと聞いて残念だった。最も、勿論、予期せぬことではなかった。あの歳での龍痘 だし……」
そしてスラグホーンはそのまま歩き去った。ドラコはあわよくばこの機にスラグホーンが自身への待遇を改善し、少しでもフェリックスへの活路を開ければと考えていた。しかし残念ながらそう上手くはいかなかった。列車でブレーズが言っていたとおり、きっとスラグホーンは死喰い人に関わる者に興味を示さないようにしているのだろう。そう考えるのがしっくりきた。
一方のフォーラはその会話によってうっかり止めていた自身の手を再び動かした。萎びた催眠豆を一先ず教科書どおり何個か刻んでみたが、豆は随分固くて刻みにくく、汁気も随分少なかった。その分の汁をすくって鍋に入れてみても、当然ながら色味は教科書が示す色ではなく濃紫色のままだった。そのため今度は小刀の平たい面で潰すようにしてみると、こんな萎びた豆のどこにこれだけの汁があったのかと思う程の量が出てきた。それを全てすくって鍋に入れると、今度は教科書どおりの明るいライラック色に変わった。周囲の鍋を見える範囲で確認してみると、ドラコの物も含め、各々の薬は濃紫色のままのものが殆どだった。
フォーラは教科書に『催眠豆は小刀で潰す』とメモ書きを加えると、次の工程に取り掛かった。今度は薬が水のように澄んでくるまで時計と反対周りに攪拌するようだったが、試しに何度か書かれているとおりにしても濃紫色から少し赤みがかった紫に変化する程度で、大きな変色は期待できそうになかった。
(一つ手前の工程までは教科書どおりの色味になっていたから、私の混ぜ方に何か足らずがあるのかも。以前、シリウスさんの手が瘡蓋粉 のせいで瘡蓋だらけになった時の治療薬を一緒に調合したことがあったけれど、あの時は攪拌スピードを遅らせたり、回数を増やしたりして良い物が作れたわ)
それに倣ってフォーラは混ぜるスピードに変化を加えてみたが、それでも手元の薬の色は変わらなかった。
(催眠豆のこともあるし、攪拌の記載自体が間違っている可能性は?例えば時計方向じゃなくて、逆回りとか……)
正直一か八かではあったが、過去、別の薬の調合では逆時計回りに攪拌する物も存在した。その中の一つがカノコソウの根を使っていて、かつ時計回りと反時計回りを半分ずつ繰り返すものだったことを思い出し、フォーラは試しに一回ずつ方向を変えて攪拌してみた。すると反時計周りに攪拌した際、薬の色は明らかに淡いピンク色へと変わったではないか。
(!いいわ、さっきよりも随分良くなった。後は何度か繰り返してみて……)
ところがそうするうちに薬は半透明になりつつも紫がかっていったものだから、フォーラは途中でピタリと手を止めた。
(反時計回りは必要だけど、きっと何か違うんだわ。それなら時計回りが多い方がいいということ?)
フォーラはスラグホーンが作業終了を告げるまで、攪拌方向の比率を変えて作業を続けた。すると終わる頃には何とか薄ピンクの透き通る液体までには変化した。無色透明とまではいかなかったが仕方ないだろう。
「このすばらしい賞をどうやって獲得するか?さあ、『上級魔法薬』の十ページを開くことだ。あと一時と少し残っているが、その時間内に『生ける屍の水薬』にきっちりと取り組んでいただこう。これまで君たちが習ってきた薬よりずっと複雑なことは分かっているから、誰にも完璧な仕上がりは期待していない。しかし、一番よくできた者が、この愛すべきフェリックスを獲得する。さあ、始め!」
それぞれが大鍋を手元に引き寄せる音がして、秤に
他の生徒が早速教科書の先頭を読んで材料を刻み始める間、フォーラはまず『生ける屍の水薬』の最初から最後までの全工程に目を通した。その中で彼女が特に気になったのは『催眠豆』を刻むという作業だった。
(この豆から汁を多く得ることが目的だから、刻むよりも潰す方が効果的な筈。後で刻むのも潰すのも、どちらも試してみましょう……)
フォーラはこれまでスネイプが担当していた魔法薬学の授業で、教科書どおりの板書の中に別の最適解があるかどうかを探りながら調合を行ってきた。それは時には成功し、時には失敗したが、彼女にとっては毎回全て完璧な仕上がりにするよりも意味のあることだった。今年から使用する目の前の教科書の内容にそれが適応できるかは定かではないが、少なくとも催眠豆についてはこれまでの努力の恩恵を得られた筈だ。
そうしてフォーラは周囲より一歩遅れてようやくカノコソウの根を刻み始めた。その間、殆どの生徒は他の生徒のやっていることをチラチラ盗み見ていた。自分の作業を隠すのが難しいところが、魔法薬学の良い点でも悪い点でもあった。とはいえ若干遅れて作業を開始したフォーラの作業は、周囲から視線を受ける対象にはなり得なかった。
刻んだ根を鍋に入れて煮立つ頃には、辺りに青みがかった湯気が立ち込めた。一番作業が進んでいたのはハーマイオニーで、煎じ薬は既に教科書に書かれている理想的な中段階の『滑らかなクロスグリ色(濃紫色)の液体』になっていた。そしてフォーラの鍋の中も、攪拌するうちに段々と同じような色味へと変化していった。
次にフォーラが催眠豆から汁を取り出そうと銀の小刀を持とうとした時、近くをスラグホーンが通りかかった。彼は足を止めて彼女の鍋を覗くとウンウンと頷いていたのだが、不意にドラコが声を掛けた。
「先生、僕の祖父のアブラクサス・マルフォイをご存知ですね?」
「ああ」スラグホーンはドラコを見ずに返答した。「お亡くなりになったと聞いて残念だった。最も、勿論、予期せぬことではなかった。あの歳での
そしてスラグホーンはそのまま歩き去った。ドラコはあわよくばこの機にスラグホーンが自身への待遇を改善し、少しでもフェリックスへの活路を開ければと考えていた。しかし残念ながらそう上手くはいかなかった。列車でブレーズが言っていたとおり、きっとスラグホーンは死喰い人に関わる者に興味を示さないようにしているのだろう。そう考えるのがしっくりきた。
一方のフォーラはその会話によってうっかり止めていた自身の手を再び動かした。萎びた催眠豆を一先ず教科書どおり何個か刻んでみたが、豆は随分固くて刻みにくく、汁気も随分少なかった。その分の汁をすくって鍋に入れてみても、当然ながら色味は教科書が示す色ではなく濃紫色のままだった。そのため今度は小刀の平たい面で潰すようにしてみると、こんな萎びた豆のどこにこれだけの汁があったのかと思う程の量が出てきた。それを全てすくって鍋に入れると、今度は教科書どおりの明るいライラック色に変わった。周囲の鍋を見える範囲で確認してみると、ドラコの物も含め、各々の薬は濃紫色のままのものが殆どだった。
フォーラは教科書に『催眠豆は小刀で潰す』とメモ書きを加えると、次の工程に取り掛かった。今度は薬が水のように澄んでくるまで時計と反対周りに攪拌するようだったが、試しに何度か書かれているとおりにしても濃紫色から少し赤みがかった紫に変化する程度で、大きな変色は期待できそうになかった。
(一つ手前の工程までは教科書どおりの色味になっていたから、私の混ぜ方に何か足らずがあるのかも。以前、シリウスさんの手が
それに倣ってフォーラは混ぜるスピードに変化を加えてみたが、それでも手元の薬の色は変わらなかった。
(催眠豆のこともあるし、攪拌の記載自体が間違っている可能性は?例えば時計方向じゃなくて、逆回りとか……)
正直一か八かではあったが、過去、別の薬の調合では逆時計回りに攪拌する物も存在した。その中の一つがカノコソウの根を使っていて、かつ時計回りと反時計回りを半分ずつ繰り返すものだったことを思い出し、フォーラは試しに一回ずつ方向を変えて攪拌してみた。すると反時計周りに攪拌した際、薬の色は明らかに淡いピンク色へと変わったではないか。
(!いいわ、さっきよりも随分良くなった。後は何度か繰り返してみて……)
ところがそうするうちに薬は半透明になりつつも紫がかっていったものだから、フォーラは途中でピタリと手を止めた。
(反時計回りは必要だけど、きっと何か違うんだわ。それなら時計回りが多い方がいいということ?)
フォーラはスラグホーンが作業終了を告げるまで、攪拌方向の比率を変えて作業を続けた。すると終わる頃には何とか薄ピンクの透き通る液体までには変化した。無色透明とまではいかなかったが仕方ないだろう。