8. アンラッキーな初授業
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「……魅惑万能薬だわ。強力な惚れ薬よ。その人にとって特別惹かれる香りがするらしいの。」フォーラがドラコの隣に腰掛けながら囁いた。
「惚れ薬?」ドラコが薬からの匂いを確認するように、鼻を僅かにヒクヒクさせた。
その場がお喋りをする雰囲気でなかったため二人ともそれ以上は言及しなかったが、どちらもその薬から隣の相手を彷彿とさせる様々な香りをハッキリと認識していた。フォーラが感じた匂いは、箒とそれを磨くワックスの混ざった香りや、鼻腔をスッと抜けるような整髪剤、それにシトラスの爽やかさ、最後にマルフォイ家の庭や昨日訪れた校庭に咲いているような薔薇の香りだった。一方ドラコが感じたのは、焼き菓子のような香ばしさに、花の咲き乱れる庭のようなフワフワとした空気、そしてバニラビーンズの甘く濃い幸せで満たされる匂いだった。
二人とも自分にとって特別惹かれる相手に関する香りが網羅されていたため、自然と互いの方に視線を向けて目を合わせた。その間もやはりどちらも何も言わなかったが、相手の瞳や表情から、もう十分に『あなたの香りがする』と訴えかけられていることが伝わっていた。そのためフォーラは困った様子と嬉しさに眉尻を下げて微笑み、ドラコはそれを受けて心理的なこそばゆさから逃れようと一度視線を手元に落として再び戻し、肩を軽く竦めて小さく片方の口角を上げた。
「あーはいはい、お熱いお熱い」二人の様子を見たブレーズが呆れた様子でニコリともせずに言った。
「さて、さて、さーてと」そこからはスラグホーンの合図によって授業が始まった。彼は初めに生徒たちに秤 や魔法薬キット、そして『上級魔法薬』の本を机に出すよう指示をした。しかしどうやらハリーとロンはそれらを用意していない様子だった。何せ彼らの成績は、前任のスネイプがこの授業を受ける足切りとして課した『優』の一つ下の『良』だったのだ。しかし担当がスラグホーンに変わったことで『良』の生徒も受講を許可されていた。そういうわけで、二人はスラグホーンから了承を得て備品棚から古い教科書や秤なんかを拝借して席に戻った。
「さーてと、みんなに見せようと思って幾つか魔法薬を煎じておいた。ちょっとおもしろいと思ったのでね。いもりレベルを終えた時には、こういうものを煎じることができるようになっている筈だ。これが何か分かる者はおるかね?」
スラグホーンは授業の導入として、三つの鍋の中を順に差して生徒たちに質問した。真実薬、ポリジュース薬、魅惑万能薬、その全てをハーマイオニーが回答したことでスラグホーンはグリフィンドールに加点し、いたく彼女に関心を示したようだった。その際、スラグホーンはグレンジャーという有名な魔法使いの親戚がいるか尋ね、彼女からは自分はマグル生まれであるという返答があった。それをドラコが鼻で笑ったが、フォーラは特に指摘しなかったし、その手の話題で自分自身もマグル生まれだからと傷つくようなこともすっかりなくなっていた。
なお、フォーラも三種の薬の全てを把握していたが、あえてハーマイオニーのように挙手しなかった。いつも積極的に回答している彼女の邪魔をしたくなかったのは勿論だが、それよりも、目立つ形で張り合うことでハリーたちから視線を受けたくなかったのが正直なところだった。フォーラはハリーがかつて魔法省へ向かった際の身勝手な行動を恨んでいたが、それに協力したロンやハーマイオニーについても同等とまではいかないものの、深く関わりたくないという複雑な気持ちを抱えていた。
ところで先程、鍋の中の一つがポリジュース薬であるという説明を受けた時、ドラコは暫くその大鍋から目が離せなかった。何せ彼は今朝、秘密裏に必要の部屋を出入りするにあたって、自分と全く関わりのない人物に見張りを頼めたらどれだけいいだろうかと考えていたからだ。大鍋は有り余るほどの薬で満たされているし、きっと少しくらい瓶詰めしてもバレないのでは……と思えた。
(クラッブとゴイルは父親が死喰い人だし、闇の印を見せて協力を仰げば断ることはできない筈だ。二人にこの薬を飲ませて見張りに立たせれば、きっと今朝よりずっとやりやすくなるに違いない)
するとスラグホーンは話の流れから三つ目の鍋に入っている薬について説明し始めたところだった。
「魅惑万能薬は勿論、実際に愛を創り出すわけではない。愛を創ったり模倣したりすることは不可能だ。この薬は単に強烈な執着心、または脅迫観念を引き起こす。この教室にある魔法薬の中では恐らく一番危険で強力な薬だろう」
さて、その後はスラグホーンが実習を始めようと話題を変えたのだが、まだもう一つの小さな黒い鍋の中身が不明なままだと一人の生徒が発言した。中の魔法薬は金を溶かしたような色で、表面から金魚が楽しげに飛び上がるようにしぶきが撥ねているのに、一滴も零れていなかった。
「ほっほう」スラグホーンから口癖が出た。彼はこの薬を忘れていたわけではなく、劇的な効果を狙って誰かが質問するのを待っていたようだった。彼はその薬が『フェリックス・フェリシス』という名であることを説明した後、ハーマイオニーにどのような効果があるかを質問した。すると彼女は興奮気味に答えた。
「幸運の液体です。人に幸運をもたらします!」これを機にクラス中が背筋を正した。
「そのとおり。グリフィンドールにもう十点あげよう。そう、この魔法薬はちょっとおもしろい。調合が恐ろしく面倒で、間違えると惨憺 たる結果になる。しかし正しく煎じれば、ここにあるのがそうだが、全ての企てが成功に傾いていくのが分かるだろう……少なくとも薬効が切れるまでは」
スラグホーンは生徒から『何故みんなその薬をしょっちゅう飲まないのか』という質問を受け、摂取しすぎれば毒となることを回答した。彼は人生の中でこの薬を二回ほど、異なる年齢の時に飲んだことがあるらしかった。そしてそのどちらもが完全無欠な一日だったと話した。
「そしてこれを、今日の授業の褒美として提供する。フェリックス・フェリシスの小瓶一本」
教室中が静まり返り、周りの魔法薬がグツグツいう音がいっせいに十倍になったようだった。
「十二時間分の幸運に十分な量だ。明け方から夕暮れまで、何をやってもラッキーになる」
「惚れ薬?」ドラコが薬からの匂いを確認するように、鼻を僅かにヒクヒクさせた。
その場がお喋りをする雰囲気でなかったため二人ともそれ以上は言及しなかったが、どちらもその薬から隣の相手を彷彿とさせる様々な香りをハッキリと認識していた。フォーラが感じた匂いは、箒とそれを磨くワックスの混ざった香りや、鼻腔をスッと抜けるような整髪剤、それにシトラスの爽やかさ、最後にマルフォイ家の庭や昨日訪れた校庭に咲いているような薔薇の香りだった。一方ドラコが感じたのは、焼き菓子のような香ばしさに、花の咲き乱れる庭のようなフワフワとした空気、そしてバニラビーンズの甘く濃い幸せで満たされる匂いだった。
二人とも自分にとって特別惹かれる相手に関する香りが網羅されていたため、自然と互いの方に視線を向けて目を合わせた。その間もやはりどちらも何も言わなかったが、相手の瞳や表情から、もう十分に『あなたの香りがする』と訴えかけられていることが伝わっていた。そのためフォーラは困った様子と嬉しさに眉尻を下げて微笑み、ドラコはそれを受けて心理的なこそばゆさから逃れようと一度視線を手元に落として再び戻し、肩を軽く竦めて小さく片方の口角を上げた。
「あーはいはい、お熱いお熱い」二人の様子を見たブレーズが呆れた様子でニコリともせずに言った。
「さて、さて、さーてと」そこからはスラグホーンの合図によって授業が始まった。彼は初めに生徒たちに
「さーてと、みんなに見せようと思って幾つか魔法薬を煎じておいた。ちょっとおもしろいと思ったのでね。いもりレベルを終えた時には、こういうものを煎じることができるようになっている筈だ。これが何か分かる者はおるかね?」
スラグホーンは授業の導入として、三つの鍋の中を順に差して生徒たちに質問した。真実薬、ポリジュース薬、魅惑万能薬、その全てをハーマイオニーが回答したことでスラグホーンはグリフィンドールに加点し、いたく彼女に関心を示したようだった。その際、スラグホーンはグレンジャーという有名な魔法使いの親戚がいるか尋ね、彼女からは自分はマグル生まれであるという返答があった。それをドラコが鼻で笑ったが、フォーラは特に指摘しなかったし、その手の話題で自分自身もマグル生まれだからと傷つくようなこともすっかりなくなっていた。
なお、フォーラも三種の薬の全てを把握していたが、あえてハーマイオニーのように挙手しなかった。いつも積極的に回答している彼女の邪魔をしたくなかったのは勿論だが、それよりも、目立つ形で張り合うことでハリーたちから視線を受けたくなかったのが正直なところだった。フォーラはハリーがかつて魔法省へ向かった際の身勝手な行動を恨んでいたが、それに協力したロンやハーマイオニーについても同等とまではいかないものの、深く関わりたくないという複雑な気持ちを抱えていた。
ところで先程、鍋の中の一つがポリジュース薬であるという説明を受けた時、ドラコは暫くその大鍋から目が離せなかった。何せ彼は今朝、秘密裏に必要の部屋を出入りするにあたって、自分と全く関わりのない人物に見張りを頼めたらどれだけいいだろうかと考えていたからだ。大鍋は有り余るほどの薬で満たされているし、きっと少しくらい瓶詰めしてもバレないのでは……と思えた。
(クラッブとゴイルは父親が死喰い人だし、闇の印を見せて協力を仰げば断ることはできない筈だ。二人にこの薬を飲ませて見張りに立たせれば、きっと今朝よりずっとやりやすくなるに違いない)
するとスラグホーンは話の流れから三つ目の鍋に入っている薬について説明し始めたところだった。
「魅惑万能薬は勿論、実際に愛を創り出すわけではない。愛を創ったり模倣したりすることは不可能だ。この薬は単に強烈な執着心、または脅迫観念を引き起こす。この教室にある魔法薬の中では恐らく一番危険で強力な薬だろう」
さて、その後はスラグホーンが実習を始めようと話題を変えたのだが、まだもう一つの小さな黒い鍋の中身が不明なままだと一人の生徒が発言した。中の魔法薬は金を溶かしたような色で、表面から金魚が楽しげに飛び上がるようにしぶきが撥ねているのに、一滴も零れていなかった。
「ほっほう」スラグホーンから口癖が出た。彼はこの薬を忘れていたわけではなく、劇的な効果を狙って誰かが質問するのを待っていたようだった。彼はその薬が『フェリックス・フェリシス』という名であることを説明した後、ハーマイオニーにどのような効果があるかを質問した。すると彼女は興奮気味に答えた。
「幸運の液体です。人に幸運をもたらします!」これを機にクラス中が背筋を正した。
「そのとおり。グリフィンドールにもう十点あげよう。そう、この魔法薬はちょっとおもしろい。調合が恐ろしく面倒で、間違えると
スラグホーンは生徒から『何故みんなその薬をしょっちゅう飲まないのか』という質問を受け、摂取しすぎれば毒となることを回答した。彼は人生の中でこの薬を二回ほど、異なる年齢の時に飲んだことがあるらしかった。そしてそのどちらもが完全無欠な一日だったと話した。
「そしてこれを、今日の授業の褒美として提供する。フェリックス・フェリシスの小瓶一本」
教室中が静まり返り、周りの魔法薬がグツグツいう音がいっせいに十倍になったようだった。
「十二時間分の幸運に十分な量だ。明け方から夕暮れまで、何をやってもラッキーになる」