8. アンラッキーな初授業
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「これらの絵は―――」スネイプの声を聞いて、フォーラは途端に意識を彼の方に引き戻した。
「術に掛かった者たちがどうなるかを正しく表現している。例えば『磔 の呪文』の苦しみ(スネイプの手は苦痛に悲鳴を上げている魔女の絵を指した)、『吸魂鬼のキス』の感覚(壁にぐったりと寄り掛かかり、虚ろな目をしてうずくまる魔法使い)、『亡者』の攻撃を挑発した者(地上に血だらけの塊)」
ドラコは磔の呪文の絵を見た時、夏休みの間にマルフォイ邸でベラトリックスからその『許されざる呪文』のうちの一つを指導された時のことを走馬灯のように思い出した。
「それじゃ、亡者が目撃されたんですか?『あの人』がそれを使っているんですか?」グリフィンドールのパーバティ・パチルが甲高い声で尋ねた。
「闇の帝王は過去に亡者を使った」スネイプが続けた。「となれば、再びそれを使うかもしれぬと想定するのが賢明というものだ」
今話題に挙がった亡者とは、闇の魔術によって術者の思いのままに動かされる死者のことで、意志や思考力はない。そして死者を操る行為は当然ながら禁忌ゆえ、魔法省への通報対象となっていた。フォーラは亡者について漠然とは把握していたものの、対峙すればあの絵のように自分が悲惨な末路を辿る可能性があるとは知らなかった。加えて死者を操るという倫理に反する行為への恐ろしさに、身体がブルッと震えた。
すると今度はスネイプが闇の魔術全般に有利な対処として、敵対者に先手を取りやすい無言呪文を紹介した。とはいえそれを全ての魔法使いが使えるわけではなく、集中力と意志力がものを言うのだと付け足した。
「これから諸君は二人一組になる。一人が『無言で』相手に呪いを掛けようとする。相手も同じく『無言で』その呪いを撥ね返そうとする。始めたまえ」
生徒たちはこれまで殆ど誰も無言で呪文を掛けたことがなく、声に出して呪文を唱える代わりに囁くだけの者が沢山いた。しかしその中で唯一早々に無言呪文を成功させた人物がいた。
「ドラコ、良く鍛錬していて十分な出来だな。スリザリンに二十点」スネイプがドラコの功績に加点した。いつもハーマイオニーのいるクラスでは大抵彼女が最初に術を成功させるため、これには周囲の生徒は驚きを隠せなかった。
スネイプからの称賛を受けたドラコは得意げかつ愛想よく「ありがとうございます」と返答したのだが、その『鍛錬』という言葉が気に食わなかった。ドラコからすればスネイプがベラトリックスとの夏休みの日々を暗に示しているとしか思えなかったからだ。そんな事情を知らないフォーラは、近くにいるドラコに尊敬の眼差しを向けながらも、彼の様子からどことなくスネイプと距離を置いているような雰囲気を感じていた。
「凄いな。いつの間に練習してたんだ?」
スネイプが去った後、ドラコとペアで対峙していたセオドール・ノットが普段の落ち着きを少々欠いた驚きの声色で尋ねた。ドラコは確かに自宅で嫌というほど無言呪文を練習していたわけだが、それが指名手配中のベラトリックスの指導下だったのと、そもそも公的には夏休みに未成年が魔法を使ってはいけないということもあり、それらを口外するわけにはいかなかった。
「初めて使えたのは、五年生の時にピーブズがフォーラにバケツの水を被せようとしていたのを助けた時だったな。あの時は咄嗟だったが上手くいったんだ」ドラコが、ルニーとの練習に戻ったフォーラの方をチラと見ながら言った。するとドラコの隣でパンジーと組んでいたブレーズがうんざりした呆れ声を出した。
「あーはいはい、愛の力愛の力」
それから十分程するとハーマイオニーも無言呪文を成功させた。その後はハリーの練習に一時的に立ち会ったスネイプが、ハリーの反抗的な態度に罰則を課す場面もあった。そして生徒たちはなかなか成果が出ないままスネイプからあまりにも複雑な宿題を出され、防衛術の授業を終えたのだった。
「ドラコ」生徒たちが教室を出る際、フォーラが彼を呼び止めて並び歩いた。
「やあ。パーキンソンとマッケンジーはどうしたんだ?」
「二人は次の数占いの授業に向かったわ。だからこの後の一限分は私一人なの。ところでさっきの、とっても格好良くて素敵だったわ。しかも一番に成功するなんて。」
フォーラがキラキラとした瞳で見つめてくるものだから、ドラコは気を良くして無自覚に口角を緩めた。
「ああ、ありがとう。まあ前年度の時点で、君のお陰で偶然にも習得したわけだし、平常時も出来ることを示せて良かったよ」
フォーラは当時、仲違いしていると思っていたドラコにピーブズから庇われた。彼女はその光景を思い出して幸せそうな表情をした。
「ふふ、今思い返してもあの時の貴方は本当に格好良かったわ。勿論、今も格好良いけれどね。」
ドラコはそんな恋人の様子によって自分まで幸福感で満たされたし、彼女のためにも早く家名を上げて本当の意味で彼女の隣に立ちたいと思った。そのため彼は本来、この昼食までの空いた時間で必要の部屋に戻って作業しようと考えていた。とはいえ目の前の彼女が本当に可愛くて離れ難く思えてしまって、『今日は一番やるべきキャビネットの移動を既に終えてしまったし……』と心の中で理由を付けて提案した。
「ところでフォーラ、僕も今から昼まで授業が無いんだが、談話室で一緒にスネイプ先生の出した宿題を片付けてしまわないか」
フォーラはドラコからの誘いを喜びつつも、昨晩彼が話していた『やるべきこと』が脳裏をよぎった。しかし彼が少しでも自分との時間を持とうとしてくれているのだからと、余計な水を差すことは控えて「勿論よ」と頷いたのだった。
「術に掛かった者たちがどうなるかを正しく表現している。例えば『
ドラコは磔の呪文の絵を見た時、夏休みの間にマルフォイ邸でベラトリックスからその『許されざる呪文』のうちの一つを指導された時のことを走馬灯のように思い出した。
「それじゃ、亡者が目撃されたんですか?『あの人』がそれを使っているんですか?」グリフィンドールのパーバティ・パチルが甲高い声で尋ねた。
「闇の帝王は過去に亡者を使った」スネイプが続けた。「となれば、再びそれを使うかもしれぬと想定するのが賢明というものだ」
今話題に挙がった亡者とは、闇の魔術によって術者の思いのままに動かされる死者のことで、意志や思考力はない。そして死者を操る行為は当然ながら禁忌ゆえ、魔法省への通報対象となっていた。フォーラは亡者について漠然とは把握していたものの、対峙すればあの絵のように自分が悲惨な末路を辿る可能性があるとは知らなかった。加えて死者を操るという倫理に反する行為への恐ろしさに、身体がブルッと震えた。
すると今度はスネイプが闇の魔術全般に有利な対処として、敵対者に先手を取りやすい無言呪文を紹介した。とはいえそれを全ての魔法使いが使えるわけではなく、集中力と意志力がものを言うのだと付け足した。
「これから諸君は二人一組になる。一人が『無言で』相手に呪いを掛けようとする。相手も同じく『無言で』その呪いを撥ね返そうとする。始めたまえ」
生徒たちはこれまで殆ど誰も無言で呪文を掛けたことがなく、声に出して呪文を唱える代わりに囁くだけの者が沢山いた。しかしその中で唯一早々に無言呪文を成功させた人物がいた。
「ドラコ、良く鍛錬していて十分な出来だな。スリザリンに二十点」スネイプがドラコの功績に加点した。いつもハーマイオニーのいるクラスでは大抵彼女が最初に術を成功させるため、これには周囲の生徒は驚きを隠せなかった。
スネイプからの称賛を受けたドラコは得意げかつ愛想よく「ありがとうございます」と返答したのだが、その『鍛錬』という言葉が気に食わなかった。ドラコからすればスネイプがベラトリックスとの夏休みの日々を暗に示しているとしか思えなかったからだ。そんな事情を知らないフォーラは、近くにいるドラコに尊敬の眼差しを向けながらも、彼の様子からどことなくスネイプと距離を置いているような雰囲気を感じていた。
「凄いな。いつの間に練習してたんだ?」
スネイプが去った後、ドラコとペアで対峙していたセオドール・ノットが普段の落ち着きを少々欠いた驚きの声色で尋ねた。ドラコは確かに自宅で嫌というほど無言呪文を練習していたわけだが、それが指名手配中のベラトリックスの指導下だったのと、そもそも公的には夏休みに未成年が魔法を使ってはいけないということもあり、それらを口外するわけにはいかなかった。
「初めて使えたのは、五年生の時にピーブズがフォーラにバケツの水を被せようとしていたのを助けた時だったな。あの時は咄嗟だったが上手くいったんだ」ドラコが、ルニーとの練習に戻ったフォーラの方をチラと見ながら言った。するとドラコの隣でパンジーと組んでいたブレーズがうんざりした呆れ声を出した。
「あーはいはい、愛の力愛の力」
それから十分程するとハーマイオニーも無言呪文を成功させた。その後はハリーの練習に一時的に立ち会ったスネイプが、ハリーの反抗的な態度に罰則を課す場面もあった。そして生徒たちはなかなか成果が出ないままスネイプからあまりにも複雑な宿題を出され、防衛術の授業を終えたのだった。
「ドラコ」生徒たちが教室を出る際、フォーラが彼を呼び止めて並び歩いた。
「やあ。パーキンソンとマッケンジーはどうしたんだ?」
「二人は次の数占いの授業に向かったわ。だからこの後の一限分は私一人なの。ところでさっきの、とっても格好良くて素敵だったわ。しかも一番に成功するなんて。」
フォーラがキラキラとした瞳で見つめてくるものだから、ドラコは気を良くして無自覚に口角を緩めた。
「ああ、ありがとう。まあ前年度の時点で、君のお陰で偶然にも習得したわけだし、平常時も出来ることを示せて良かったよ」
フォーラは当時、仲違いしていると思っていたドラコにピーブズから庇われた。彼女はその光景を思い出して幸せそうな表情をした。
「ふふ、今思い返してもあの時の貴方は本当に格好良かったわ。勿論、今も格好良いけれどね。」
ドラコはそんな恋人の様子によって自分まで幸福感で満たされたし、彼女のためにも早く家名を上げて本当の意味で彼女の隣に立ちたいと思った。そのため彼は本来、この昼食までの空いた時間で必要の部屋に戻って作業しようと考えていた。とはいえ目の前の彼女が本当に可愛くて離れ難く思えてしまって、『今日は一番やるべきキャビネットの移動を既に終えてしまったし……』と心の中で理由を付けて提案した。
「ところでフォーラ、僕も今から昼まで授業が無いんだが、談話室で一緒にスネイプ先生の出した宿題を片付けてしまわないか」
フォーラはドラコからの誘いを喜びつつも、昨晩彼が話していた『やるべきこと』が脳裏をよぎった。しかし彼が少しでも自分との時間を持とうとしてくれているのだからと、余計な水を差すことは控えて「勿論よ」と頷いたのだった。