8. アンラッキーな初授業
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ドラコは正直半信半疑ではあったが、実際にハリーたちがこの先の空間を使用していたわけだし、一先ず知り得たとおりに念じながらその場を行き来した。
(あの大きなキャビネットを隠せて、誰にも入ってこられず修理できる場所がほしい……)
そうしてドラコが頭の中で三回唱え終えて足を止めた時、石壁の方を見ると何と先程まで何もなかった筈の場所に扉が一つ現れているではないか。彼は驚き故に少々目を見開いたし疑念を抱いていたが、意を決してドアの取っ手を握ると中に押し入った。
ドラコは眼前に広がる光景に思わず息を呑んだ。そこは大聖堂ほどもある広い部屋で、高窓から幾筋 もの光が差し込み、そびえ立つ壁で出来ている都市のような空間を照らしていた。ホグワーツの住人が何世代にも渡って隠してきた物が、壁のように積み上げられてできた都市だ。壊れた家具が積まれ、グラグラしながら立っているその山の間が通路や狭路になっていた。
ドラコは視線を一旦その山積みから逸らして背後の扉を閉めた。すると扉はその場から取っ手だけを残して消え去った。恐らく外からはすっかりこの扉が壁に戻っていて、再び出て行く時はこの取っ手に触れればよいのだろう。彼はそう結論付けると、再び山積みの都市の方に身体ごと目を向けた。
壊れた家具類はきっと、しくじった魔法の証拠を隠すためか何かの理由でここにあるのかもしれない。何千冊、何万冊という本もあり明らかに禁書か盗品のようだった。羽の生えたパチンコや噛みつきフリスビーなど、まだ少し生気が残っている物は山のような禁じられた品々の上をフワフワ漂っていた。他にも固まった薬の入った欠けた瓶、帽子、宝石、マント、更にはドラゴンの卵の殻のようなものや、さびた剣が何振りかと、重い血染めの斧なんかも見えた。
ドラコはまだ呆気に取られながらも、目の届く範囲に見える通路のうち、たった一人がやっと通れそうな程の狭路を選んで進んだ。巨大なトロールの剥製 を通り過ぎたところで右に曲がり、辺りを見回しながらもう少し進むと、丁度キャビネットを置くのに良さそうなスペースを見つけた。もし万が一誰かがこの空間に入ってきてもこんな入り組んだ場所まで来ることはないだろうし、周囲の壊れた家具がキャビネットを上手くカモフラージュしてくれそうだった。
ドラコはその場で足を止めると目当てのスペースに向かって杖を振った。すると途端に出現呪文によって先程のキャビネットが現れ、ゴトンと鈍く重い音を立ててその場に接地した。そして彼はそれが俯瞰的に見て周囲の風景に随分馴染んで紛れ込んでいることに満足すると、鞄から一冊の本を取り出した。
これは夏休みの間にルシウスの書斎から拝借した、姿をくらますキャビネットの作り方が記された例の本だった。ドラコは自身の腕時計を見て次の授業まで残り三十分を切っていることを確認すると、その時間一杯を手元の本と目の前のキャビネットに向き合うために費やしたのだった。
結果としてこの短時間ではキャビネットの修復は叶わなかった。とはいえボージンからは修理には困難を極めると聞いていたし、特にガッカリするようなことでもない。それにボージン側のキャビネットからだって修復作業が開始されているだろうし、きっと上手くいく筈だ。何せ自分はあのお方から信頼されて闇の印を授けられたのだから。ドラコはそのように考えると今は一先ず次の授業に向かうべくその場を去った。
しかし入口にある取っ手を握ろうとした時、不意に壁の向こう側から生徒同士の喋り声が聞こえてきた。
(今扉を開けてしまったら、ここに不思議な部屋があると知られてしまう)
固唾を飲んで廊下の方に聞き耳を立てていると、暫くしないうちにその生徒の声はすっかり何処か彼方へと消えたようだった。ドラコはそのタイミングで取っ手を握り、現れた扉を僅かに開いて恐る恐る外を見た。すると来た時と同じく誰もいなかったものだから、これには安堵で幾らか身体の力が抜ける思いだった。
そしてドラコが完全に廊下の外へ出て扉を閉めると、それはたちまち石壁にスウッと消えて無くなってしまった。
(キャビネットを予定どおり上手く隠せたのは良かったが……。今後もこんな調子で出入りの度に肝を冷やすようでは、いつか誰かに見つかってしまうかもしれない。できれば次からは廊下に見張りがほしい。確かクラッブとゴイルはふくろう試験をパスできなかった科目が幾つかあったせいで、時間割の空きが多かった筈だ。……だが、あの二人のどちらかがこんな上階の廊下をうろつくのは不自然だし、感の良い奴は僕の指示だと気付くかもしれない。せめて高所に寮のあるレイブンクロー生を見張りに付けられたら、その違和感の数々を誤魔化せるかもしれないんだが)
さて、その後はドラコを含めたフォーラたち女子三人の他、クラッブやゴイル、ザビニやセオドールといった何人かのスリザリン生と、他の寮の同学年の生徒が二限目の授業である『闇の魔術に対する防衛術』の教室前の廊下に到着した。扉が開くとスネイプが姿を見せ、彼は比較的多くの生徒たちの視線を受けつつも教室の中へ彼らを促した。
その教室は前年度にアンブリッジが講師をしていた時とは随分雰囲気が様変わりしていた。窓はカーテンで遮光されて薄暗く、幾つもの蝋燭の灯りが辺りをぼんやりと照らしていた。壁に掛けられた新しい絵の多くは身の毛もよだつ怪我や、奇妙にねじ曲がった身体の部分を晒して痛みに苦しむ人の姿だった。薄暗い中で凄惨 な絵を見回しながら、生徒たちは無言で席に着いた。
スネイプはゆっくりと教室を歩みながら、今年の防衛術の授業が例年とは違って一層難しくなることや、闇の魔術と実際に対峙するのが常に危険と隣り合わせなのだということを懇々と説いた。フォーラはその話を聞きながら、数か月前のスネイプがエメリア・スイッチの眉唾とされた変身術の使用をよく許可してくれたものだと思った。何せその術は一定の条件下で対象人物の血を一度飲めば、制約こそあれど数年間はその人にいつでも変身可能になるため、スネイプ曰く実質は闇の魔術と同等だという評価だったのだ。
(あの大きなキャビネットを隠せて、誰にも入ってこられず修理できる場所がほしい……)
そうしてドラコが頭の中で三回唱え終えて足を止めた時、石壁の方を見ると何と先程まで何もなかった筈の場所に扉が一つ現れているではないか。彼は驚き故に少々目を見開いたし疑念を抱いていたが、意を決してドアの取っ手を握ると中に押し入った。
ドラコは眼前に広がる光景に思わず息を呑んだ。そこは大聖堂ほどもある広い部屋で、高窓から
ドラコは視線を一旦その山積みから逸らして背後の扉を閉めた。すると扉はその場から取っ手だけを残して消え去った。恐らく外からはすっかりこの扉が壁に戻っていて、再び出て行く時はこの取っ手に触れればよいのだろう。彼はそう結論付けると、再び山積みの都市の方に身体ごと目を向けた。
壊れた家具類はきっと、しくじった魔法の証拠を隠すためか何かの理由でここにあるのかもしれない。何千冊、何万冊という本もあり明らかに禁書か盗品のようだった。羽の生えたパチンコや噛みつきフリスビーなど、まだ少し生気が残っている物は山のような禁じられた品々の上をフワフワ漂っていた。他にも固まった薬の入った欠けた瓶、帽子、宝石、マント、更にはドラゴンの卵の殻のようなものや、さびた剣が何振りかと、重い血染めの斧なんかも見えた。
ドラコはまだ呆気に取られながらも、目の届く範囲に見える通路のうち、たった一人がやっと通れそうな程の狭路を選んで進んだ。巨大なトロールの
ドラコはその場で足を止めると目当てのスペースに向かって杖を振った。すると途端に出現呪文によって先程のキャビネットが現れ、ゴトンと鈍く重い音を立ててその場に接地した。そして彼はそれが俯瞰的に見て周囲の風景に随分馴染んで紛れ込んでいることに満足すると、鞄から一冊の本を取り出した。
これは夏休みの間にルシウスの書斎から拝借した、姿をくらますキャビネットの作り方が記された例の本だった。ドラコは自身の腕時計を見て次の授業まで残り三十分を切っていることを確認すると、その時間一杯を手元の本と目の前のキャビネットに向き合うために費やしたのだった。
結果としてこの短時間ではキャビネットの修復は叶わなかった。とはいえボージンからは修理には困難を極めると聞いていたし、特にガッカリするようなことでもない。それにボージン側のキャビネットからだって修復作業が開始されているだろうし、きっと上手くいく筈だ。何せ自分はあのお方から信頼されて闇の印を授けられたのだから。ドラコはそのように考えると今は一先ず次の授業に向かうべくその場を去った。
しかし入口にある取っ手を握ろうとした時、不意に壁の向こう側から生徒同士の喋り声が聞こえてきた。
(今扉を開けてしまったら、ここに不思議な部屋があると知られてしまう)
固唾を飲んで廊下の方に聞き耳を立てていると、暫くしないうちにその生徒の声はすっかり何処か彼方へと消えたようだった。ドラコはそのタイミングで取っ手を握り、現れた扉を僅かに開いて恐る恐る外を見た。すると来た時と同じく誰もいなかったものだから、これには安堵で幾らか身体の力が抜ける思いだった。
そしてドラコが完全に廊下の外へ出て扉を閉めると、それはたちまち石壁にスウッと消えて無くなってしまった。
(キャビネットを予定どおり上手く隠せたのは良かったが……。今後もこんな調子で出入りの度に肝を冷やすようでは、いつか誰かに見つかってしまうかもしれない。できれば次からは廊下に見張りがほしい。確かクラッブとゴイルはふくろう試験をパスできなかった科目が幾つかあったせいで、時間割の空きが多かった筈だ。……だが、あの二人のどちらかがこんな上階の廊下をうろつくのは不自然だし、感の良い奴は僕の指示だと気付くかもしれない。せめて高所に寮のあるレイブンクロー生を見張りに付けられたら、その違和感の数々を誤魔化せるかもしれないんだが)
さて、その後はドラコを含めたフォーラたち女子三人の他、クラッブやゴイル、ザビニやセオドールといった何人かのスリザリン生と、他の寮の同学年の生徒が二限目の授業である『闇の魔術に対する防衛術』の教室前の廊下に到着した。扉が開くとスネイプが姿を見せ、彼は比較的多くの生徒たちの視線を受けつつも教室の中へ彼らを促した。
その教室は前年度にアンブリッジが講師をしていた時とは随分雰囲気が様変わりしていた。窓はカーテンで遮光されて薄暗く、幾つもの蝋燭の灯りが辺りをぼんやりと照らしていた。壁に掛けられた新しい絵の多くは身の毛もよだつ怪我や、奇妙にねじ曲がった身体の部分を晒して痛みに苦しむ人の姿だった。薄暗い中で
スネイプはゆっくりと教室を歩みながら、今年の防衛術の授業が例年とは違って一層難しくなることや、闇の魔術と実際に対峙するのが常に危険と隣り合わせなのだということを懇々と説いた。フォーラはその話を聞きながら、数か月前のスネイプがエメリア・スイッチの眉唾とされた変身術の使用をよく許可してくれたものだと思った。何せその術は一定の条件下で対象人物の血を一度飲めば、制約こそあれど数年間はその人にいつでも変身可能になるため、スネイプ曰く実質は闇の魔術と同等だという評価だったのだ。