5. 土日のダイアゴン横丁
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「この左袖はもう少し短くした方がいいわね。ちょっとそのように―――」
「痛い!」ドラコは布越しに腕の闇の印に触れられた感覚がして、思わず声を荒げて左腕をサッと引っ込めた。
「気を付けてピンを打つんだ!母上、もうこんな物は欲しくありません」
ドラコはローブを脱いでマダムの足元に叩きつけた。
「そのとおりね、ドラコ」ナルシッサがハーマイオニーを侮蔑的な目で見た。
「この店の客がどんなクズか分かった以上……トウィルフィット・アンド・タッティングの店の方がいいでしょう」
そう言うなり二人は店を出ていった。ドラコはその際ロンにわざと思い切り強くぶつかったのだった。
先程のことがあってもナルシッサの方はまだ大人の余裕をかろうじて持っていて、ハリーの発言を子供の戯言と捉えているように見えた。しかし一方のドラコについてはそうもいかなかった。何せハリーにあれだけ煽るような発言をされて、怒りを募らせるなという方が無理があったのだ。その怒りが尾を引いて彼は別の洋装店で衣服を新調しても気分が晴れなかったし、寧ろ目にもの見せてやるという気持ちを一層強めた。
そのためドラコは次に訪れた書店が人で混雑しているのを理由に、とうとう母と手分けして目当ての書籍を探すことを了承させた。そしてタイミングを見計らい、ついに一人で店を出たのだった。
ドラコは速足で様々な店を通り過ぎ、辺りを見回してから夜の闇 横丁へと入った。その際、彼はまさかフレッドとジョージの経営する店にいたハリー、ロン、ハーマイオニーの三人が透明になれるマントを被り、こっそり後を付けてきているとは全く思わなかったのだった。
ノクターン横丁は闇の魔術専門の店が並ぶストリートで、今の厳戒態勢が敷かれた環境では全くひとけがなかった。こんな時期に闇の魔術に関する買い物をしているところを見られれば、自らヴォルデモート側に加担していると正体を明かすようなものだからだ。
しかし、今のドラコはそのようなことでこの通りを進むのを躊躇っている場合ではなかった。彼は立ち並ぶ店には目もくれず、ただボージンの店だけを目指した。そうして店のドアを開けて鈴が鳴り、中に入ってみると、そこは十二歳の彼が父に連れられて幼馴染のフォーラと共に入店した時とさほど変わっていなかった。店に並ぶのはどれも邪悪な品ばかりで、ショーケースに並ぶ髑髏や古い瓶類、他にはガラスカバーに覆われた装飾的な緑色のオパールのネックレスなど、挙げだすときりがなかった。中にはルシウスの書斎の本に載っていた闇の品も散見された。
そして……そこにあったのは見覚えのあるキャビネットだった。店内のこの品を最後に見たのは、やはりドラコが十二歳の時だった。そして彼はこれと全く同じ物をほんの数か月前にホグワーツでも視認していた。その二つが本当にこの店と学校とを繋いでいるのだろうか。
ドラコが入店したことに気付いた店主のボージンは、突然やってきたお得意様の息子の姿にハッとした。彼は猫背を更に前に屈ませ、脂っこい髪の頭を下げるようにしてお辞儀をした。しかしドラコはそんなことには目もくれず、店内の品にサッと目通ししながらツカツカとボージンに歩み寄った。
「久しぶりだな。いきなりだが今日は急ぎの用があって来た」ドラコは短い挨拶をして早口で続けた。
「あそこにあるのは『姿をくらますキャビネット』で間違いないか?」
「……ええ、若様。さようでございます」ボージンは突然の質問に少々驚いた様子で返答した。ドラコは彼の返答に『やっぱりな』と安堵すると、続けて質問した。
「端的に言う。これと対のキャビネットが別の場所にあって、どうやら壊れている。使った者はここの物音と、別の場所の物音が同時に聞こえたそうだ。このキャビネットと空間を繋げ直すにはどうすればいい?呪文を掛け直せばいいのか?」ドラコが早口で言った。
「基本的にはそうですが……」ボージンは言葉を濁したが、ドラコの方はその短い返事に希望を掴んだようだった。
「直し方を知っているのか?」
「かもしれません」ボージンがあまり関わりたくなさそうな声色で続けた。「拝見しませんと何とも。店の方にお持ちいただけませんか?」
ドラコとしてはボージンの様子から察するに、『お得意様の息子が何か無茶な要求をしている』程度に捉えているだろうことが手に取るように分かった。
「動かすわけにはいかない。どうやるのかを教えてほしいだけだ」ドラコが幾らか愛想よく聞こえる声で言った。彼はさも落ち着いた風を装って、近くにあった『輝きの手』という萎びた手の魔法道具を持ち上げ、しげしげと眺めるようにしてボージンの返事を待った。一方のボージンは神経質に自身の唇を舐めた。彼がこの面倒な場をやり過ごそうとしているのが明らかだ。
「さあ、拝見しませんと。なにしろ大変難しい仕事でして、もしかしたら不可能かと。何もお約束はできない次第で」
「そうかな?」ドラコは持っていた輝きの手を元の位置に置くと、態度を変えてせせら笑うように続けた。こんな所でこれ以上時間をくってしまうのはよくない。もしかすると母はもう書店から自分が消えていることに気付き始めている可能性があるのだから。
「もしかしたら『これ』で、もう少し自信が持てるようになるだろう」
ドラコはボージンに近付くと、自身の左腕の袖を捲って闇の印をハッキリと見せた。するとボージンは瞬く間に先程とは打って変わって恐怖の表情を浮かべた。
「誰かに話してみろ、痛い目に遭うぞ。フェンリール・グレイバックという狼男を知っているな?僕の家族と親しい。時々ここに寄らせて、お前がこの問題に十分に取り組んでいるかどうか確かめさせることもできるが?」
確かにマルフォイ家にとってグレイバックは用心棒的な立ち位置で関わりがあったが、ドラコとしては奴が子供を傷つけるのを好む狂人故に、絶対に連絡を取りたくなかった。とはいえ誰かを脅すために奴の名を借りることに、今は躊躇いなどなかった。
「そんな必要は―――」
「それは僕が決める。さあ、もう行かなければ。それで、あっちを安全に保管するのを忘れるな。『あれ』は僕が必要になる。兎に角売るな」ドラコが店内のキャビネットについてそのように指示した。
「勿論ですとも……若様」ボージンは、ドラコが店内に入って来た時よりも深々とお辞儀をした。
「誰にも言うなよ、母上も含めてだ。分かったか?」
「勿論です。勿論です」ボージンは再びお辞儀をしながらボソボソと言った。
店主の返答にドラコは満足げな表情をすると、意気揚々と店のドアを開けて書店へと去った。
(キャビネットの直し方の詳細は、一週間後に学校が始まってからボージンとふくろう便でやり取りをすれば、母上やベラトリックスに内容を知られることもない。それに店のめぼしい品も軽く確認できた。兎に角今は、計画が進められることを喜ぼう)
ところで店内に残ったボージンは、先程ドラコと話していた場所に凍りついたように立ったままだった。彼の表情からは普段見せるねっとりした笑いが消え、心配そうな色をしていたのだった。
「痛い!」ドラコは布越しに腕の闇の印に触れられた感覚がして、思わず声を荒げて左腕をサッと引っ込めた。
「気を付けてピンを打つんだ!母上、もうこんな物は欲しくありません」
ドラコはローブを脱いでマダムの足元に叩きつけた。
「そのとおりね、ドラコ」ナルシッサがハーマイオニーを侮蔑的な目で見た。
「この店の客がどんなクズか分かった以上……トウィルフィット・アンド・タッティングの店の方がいいでしょう」
そう言うなり二人は店を出ていった。ドラコはその際ロンにわざと思い切り強くぶつかったのだった。
先程のことがあってもナルシッサの方はまだ大人の余裕をかろうじて持っていて、ハリーの発言を子供の戯言と捉えているように見えた。しかし一方のドラコについてはそうもいかなかった。何せハリーにあれだけ煽るような発言をされて、怒りを募らせるなという方が無理があったのだ。その怒りが尾を引いて彼は別の洋装店で衣服を新調しても気分が晴れなかったし、寧ろ目にもの見せてやるという気持ちを一層強めた。
そのためドラコは次に訪れた書店が人で混雑しているのを理由に、とうとう母と手分けして目当ての書籍を探すことを了承させた。そしてタイミングを見計らい、ついに一人で店を出たのだった。
ドラコは速足で様々な店を通り過ぎ、辺りを見回してから
ノクターン横丁は闇の魔術専門の店が並ぶストリートで、今の厳戒態勢が敷かれた環境では全くひとけがなかった。こんな時期に闇の魔術に関する買い物をしているところを見られれば、自らヴォルデモート側に加担していると正体を明かすようなものだからだ。
しかし、今のドラコはそのようなことでこの通りを進むのを躊躇っている場合ではなかった。彼は立ち並ぶ店には目もくれず、ただボージンの店だけを目指した。そうして店のドアを開けて鈴が鳴り、中に入ってみると、そこは十二歳の彼が父に連れられて幼馴染のフォーラと共に入店した時とさほど変わっていなかった。店に並ぶのはどれも邪悪な品ばかりで、ショーケースに並ぶ髑髏や古い瓶類、他にはガラスカバーに覆われた装飾的な緑色のオパールのネックレスなど、挙げだすときりがなかった。中にはルシウスの書斎の本に載っていた闇の品も散見された。
そして……そこにあったのは見覚えのあるキャビネットだった。店内のこの品を最後に見たのは、やはりドラコが十二歳の時だった。そして彼はこれと全く同じ物をほんの数か月前にホグワーツでも視認していた。その二つが本当にこの店と学校とを繋いでいるのだろうか。
ドラコが入店したことに気付いた店主のボージンは、突然やってきたお得意様の息子の姿にハッとした。彼は猫背を更に前に屈ませ、脂っこい髪の頭を下げるようにしてお辞儀をした。しかしドラコはそんなことには目もくれず、店内の品にサッと目通ししながらツカツカとボージンに歩み寄った。
「久しぶりだな。いきなりだが今日は急ぎの用があって来た」ドラコは短い挨拶をして早口で続けた。
「あそこにあるのは『姿をくらますキャビネット』で間違いないか?」
「……ええ、若様。さようでございます」ボージンは突然の質問に少々驚いた様子で返答した。ドラコは彼の返答に『やっぱりな』と安堵すると、続けて質問した。
「端的に言う。これと対のキャビネットが別の場所にあって、どうやら壊れている。使った者はここの物音と、別の場所の物音が同時に聞こえたそうだ。このキャビネットと空間を繋げ直すにはどうすればいい?呪文を掛け直せばいいのか?」ドラコが早口で言った。
「基本的にはそうですが……」ボージンは言葉を濁したが、ドラコの方はその短い返事に希望を掴んだようだった。
「直し方を知っているのか?」
「かもしれません」ボージンがあまり関わりたくなさそうな声色で続けた。「拝見しませんと何とも。店の方にお持ちいただけませんか?」
ドラコとしてはボージンの様子から察するに、『お得意様の息子が何か無茶な要求をしている』程度に捉えているだろうことが手に取るように分かった。
「動かすわけにはいかない。どうやるのかを教えてほしいだけだ」ドラコが幾らか愛想よく聞こえる声で言った。彼はさも落ち着いた風を装って、近くにあった『輝きの手』という萎びた手の魔法道具を持ち上げ、しげしげと眺めるようにしてボージンの返事を待った。一方のボージンは神経質に自身の唇を舐めた。彼がこの面倒な場をやり過ごそうとしているのが明らかだ。
「さあ、拝見しませんと。なにしろ大変難しい仕事でして、もしかしたら不可能かと。何もお約束はできない次第で」
「そうかな?」ドラコは持っていた輝きの手を元の位置に置くと、態度を変えてせせら笑うように続けた。こんな所でこれ以上時間をくってしまうのはよくない。もしかすると母はもう書店から自分が消えていることに気付き始めている可能性があるのだから。
「もしかしたら『これ』で、もう少し自信が持てるようになるだろう」
ドラコはボージンに近付くと、自身の左腕の袖を捲って闇の印をハッキリと見せた。するとボージンは瞬く間に先程とは打って変わって恐怖の表情を浮かべた。
「誰かに話してみろ、痛い目に遭うぞ。フェンリール・グレイバックという狼男を知っているな?僕の家族と親しい。時々ここに寄らせて、お前がこの問題に十分に取り組んでいるかどうか確かめさせることもできるが?」
確かにマルフォイ家にとってグレイバックは用心棒的な立ち位置で関わりがあったが、ドラコとしては奴が子供を傷つけるのを好む狂人故に、絶対に連絡を取りたくなかった。とはいえ誰かを脅すために奴の名を借りることに、今は躊躇いなどなかった。
「そんな必要は―――」
「それは僕が決める。さあ、もう行かなければ。それで、あっちを安全に保管するのを忘れるな。『あれ』は僕が必要になる。兎に角売るな」ドラコが店内のキャビネットについてそのように指示した。
「勿論ですとも……若様」ボージンは、ドラコが店内に入って来た時よりも深々とお辞儀をした。
「誰にも言うなよ、母上も含めてだ。分かったか?」
「勿論です。勿論です」ボージンは再びお辞儀をしながらボソボソと言った。
店主の返答にドラコは満足げな表情をすると、意気揚々と店のドアを開けて書店へと去った。
(キャビネットの直し方の詳細は、一週間後に学校が始まってからボージンとふくろう便でやり取りをすれば、母上やベラトリックスに内容を知られることもない。それに店のめぼしい品も軽く確認できた。兎に角今は、計画が進められることを喜ぼう)
ところで店内に残ったボージンは、先程ドラコと話していた場所に凍りついたように立ったままだった。彼の表情からは普段見せるねっとりした笑いが消え、心配そうな色をしていたのだった。