1. 印(しるし)
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さて、マルフォイ家の家宅捜索が慌ただしく終結した数日後、ルシウスとナルシッサの一人息子であるドラコはホグワーツ魔法魔術学校からの長い列車の旅を経て、他の大勢の生徒と共にロンドンのキングス・クロス駅に降り立った。プラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳を持つ彼は、同級生かつ幼馴染、そして恋人でもあるフォーラ・ファントムという十六歳の女子と共にいた。二人はトランクや梟の入った鳥籠を抱え、揃って両親の元へと向かった。二人の両親は大抵の場合一緒にいて自分たちの帰りを待ってくれているのだ。というのも二人の両親は学生時代からの旧友だった。そんな彼らは『純血』というマグルの血が混ざっていない貴重な魔法族でもあった。
そしてこの度も確かに二人の親は一緒にいた。しかしいつもと違っていたのは、そこにルシウスの姿だけがなく、ナルシッサは頬がこける程にやつれてしまっていたことだった。そんな彼女のそばに立ち、背を擦って宥めているのはフォーラの両親であるファントム夫妻だった。
「母上!」ドラコはやつれた母親に驚きつつも、彼女を見つけるなりすぐさま駆け寄った。一方のナルシッサは息子を視界に捉えるなり、幾らか緊張の糸が解けたように目に涙を浮かべて息子を抱き締めた。
「ああ、ドラコ……私の息子」ナルシッサの安堵と不安の混じったか細い声が、ドラコの耳に響いた。
ドラコもフォーラも、ホグワーツにいる間にナルシッサからの手紙で『ルシウスが投獄される』という話を聞いていた。そのためこの場にルシウスがいないこと自体は覚悟していたが、とはいえ実際に彼がいないのを目の当たりにすると、改めて彼が捕まった事実を突きつけられたようでショックを受けた。
「ナルシッサ」フォーラの母であり、ナルシッサの旧友であるリプトニアが寄り添うようにして口を開いた。「さっきもお話したとおり、もしあなたとドラコ君が望んでくれるなら、いつでも家に来て頂戴。ルシウスの件であなたたちが疲労困ぱいなのは分かっているつもりだし、うちの屋敷なら二人に安静な時間を提供できるわ……。それこそ、あなたたちを利用して『例のあの人』の仲間の居場所を突き止めようとする魔法省や、逆にルシウスのミスを責める死喰い人からだって、一時的だとしてもどちらの勢力からも守ることができる筈」
それを聞いたナルシッサはドラコに縋りついたまま、相変わらず不安な表情でリプトニアの方を見た。
「リプトニア、いけないわ、いけないのよ。巻き込みたくないの。あなたたち一家はそのどちら側でもないわ。それに、ただでさえあなたたちにはルシウスの立場を隠してきて、それなのにもう十分こんなにも私たちを心配してくれて」
ナルシッサはリプトニアの夫であるシェード・ファントムと、娘のフォーラの方へと順に目を向けた。そして彼女は再びリプトニアに視線を戻して続けた。
「それに、今は……うちの屋敷に、親戚が。だから長く家を空けて身を隠すことはできないわ。それに、身を隠したことがあの方に知られてしまったら、アズカバンにいるルシウスがどんな仕打ちに遭うか」
親戚の話題を出した時のナルシッサは、はたから見れば何処か居心地が悪そうだった。ナルシッサはドラコからゆっくりと手を離すと、リプトニアを真正面に見た。
「ここで、ほんの短い間でもあなたたちに会えて、変わらず接してもらえて本当によかった」
それを聞いて、リプトニアは何も問題ないと首を軽く横に振って言葉を引き継いだ。
「勿論、私も主人もまだ少し驚いている部分はあるわ。ルシウスは純血優位のための手順を間違えてしまったのかもしれない……。けれど、だからといって私とあなたが親友なのは変わらないでしょう?ここに残された無実のあなたとドラコ君を少しでも楽にしてあげたいと思うのは、私の本心なんだから」
そうしてナルシッサとリプトニアは互いに抱擁し合った。そしてナルシッサはドラコと共にファントム家に会釈をすると、二人揃って足早にその場を去った。ドラコはその場を離れる間際にフォーラの方を振り返ったのだが、その際二人の心もとない様子の目が互いに合った。しかしどちらも両手にトランクと鳥籠を持っていて直ぐには手を振り合える状況になかった。するとその一瞬の間にフォーラが絞り出すように声を発した。
「ドラコ、またすぐ会えるわ!どうか元気で……!」そう言ったフォーラの表情は、不安の中に何とか笑顔を織り交ぜていた。そんな彼女にドラコは少しばかり勇気づけられた様子で頷くと、今度こそ母の後を付いていったのだった。
さて、ドラコは母と共にキングス・クロス駅から少し歩いた場所にある、魔法族の移動用に確保された古い空き店舗に入った。そしてそこの暖炉から『煙突飛行ネットワーク』でマルフォイ邸のダイニングルームの暖炉に移動した。彼は母の後に続いて暖炉から出ると、ようやく帰ってこられたことに一先ず安堵した。
ドラコがその場から見渡す限り、屋敷の中は前回のクリスマスに帰宅した時と殆ど変わりなかったが、ほんの僅かにだけ雰囲気が違うような気もした。その原因は先日行われたらしい家宅捜索によって屋敷の所々がこざっぱりしたせいなのだろう。
ドラコはナルシッサから、自室で荷ほどきを終えてひと段落したら、これまでの事とこれからの事について話したい旨を伝えられた。その際のナルシッサの表情は相変わらず暗かった。ドラコは母を心配しつつも一先ず言いつけどおり二階の自室で大体の荷ほどきを進めた。その際、彼の脳裏には様々な不安や考えが浮かんでは入れ替わっていた。母がこの後どんな話をしようとしているのか、父はどうなってしまうのか、自分は父のために何ができるのか。それこそ父の代わりに死喰い人として役に立つことが叶うのかなど……。