その日の夜、フォーラは用意された部屋のベッドに横渡りながら今日の夕食での事を考えていた。

「目標・・・」

ルーピンはここにいる間、何か目標にして過ごせばいいと言った。頭の中では、きっといつかみたいに両親と今まで通りの気持ちで、一緒に居られるようになることが自分の目標に当たるのだとわかっていた。ドラコや誰にも話せなかったことをここの皆が聞いてくれた。だから両親から距離を置くだけでなく、皆と過ごして気持ちを整理すれば、きっと元の自分に戻れるかもしれないと思った。

しかし答えを見つけるどころか、今日の夕食の最後に自分はルーピンやシリウス達皆に嘘をついてしまった。そんなことをするために自分はここに来た筈ではなかったのに。本当に幻滅した。自分に都合の悪いことはいつも全部隠そうとしてしまう。いつも打ち明ける勇気が無い。そしてそのせいでいつも自分を含めた誰かが傷つく。

考えることが多すぎて、いつも同じところをぐるぐる回ってしまう。そのせいで何も答えが出せない。このままでは下手をすれば何も解決できずに夏休みを終えることになるとすら思った。
フォーラは掛け布団をぎゅっと掴んで寝返りをうち、目の前をシーツの中の暗闇にいざなったのだった。

それからほんの数日が過ぎた。フォーラはハーマイオニー達の他に、ルーピンや他の騎士団と言葉を交わす機会がいくらかあった。ジニーのお気に入りのトンクスにも出会った。
騎士団のメンバーと話す時はフォーラの両親についての話を引き合いに出されることが多かった。彼らはフォーラがマグル生まれである話題を出してくることはなかったものの、きっと何人かはそのことを知っているだろうと思った。マグル生まれの自分を養子として引き取っていることが、ルシウス・マルフォイと親しい両親が騎士団のスパイでないと証明する一番わかりやすい方法だからだ。その事を考えると、正直胸が締め付けられた。
フォーラは両親への想いをひた隠しにした。正直誰にも気を遣われたくなかったし、何よりジョージや友人達には大ごとのように思っていて欲しくなかった。ただ、彼女がその間に両親との関係について答えを見つけたかといえばそれはノーだった。


この日、早めに起き出したフォーラは朝食作りの手伝いをしに食堂へと向かった。初めてここで朝を迎えた時は目の前の光景がいつもと違っていて、改めて自分は他の家で両親から離れてお世話になっているのだと実感したものだ。正直十分慣れたかといえばそんなことは決してないが、今のファントム家にいるよりよっぽど過ごし易いと思った。
扉を開けると屋敷の中はしんと静まり返っていた。ほんの僅かに階下から物音が聞こえるくらいだ。多分友人達はまだベッドの中だろうと思った。
昨日もずっと考え事をしていてあまり眠れなかった。部屋の鏡で自分の顔を見たら随分酷いクマが出来ていた。誤魔化そうにも魔法は学校でしか使えないし、薬も何も持ち合わせていなかった。
フォーラは一階まで降りると、食堂の扉の前で頭の中のモヤモヤを吹き飛ばすように頭を振り、ノブに手を掛けようとした。その時右肩にポンと傷の多い大きな手が置かれ、彼女は思わず驚いて横を見やった。その人はフォーラの横に並ぶと微笑みかけ、今しがた彼女が握ろうとしていたドアノブを回して食堂の先へエスコートした。

「おはよう。後ろから何度も呼んだんだけどな。
それにしても随分早起きだ」

「ルーピン先生、おはようございます。
その、考え事をしていて、気がつかなくて。ごめんなさい。」

「いや、いいんだよ」

中に入ると、モリーがアーサーと何か話しながら朝食の支度に取り掛かろうとしているところだった。二人に挨拶して、フォーラはモリーを手伝うために早起きしたとルーピンに話した。

「それは随分立派だけど、フォーラ、ちゃんと眠れなかったんじゃないかい？」

ルーピンはフォーラの目の下に出来たクマを気にしていた。

「えっ、あ、いえ、大丈夫です。まだ少しベッドに慣れていないだけですよ。」

フォーラは微笑むと逃げるようにアーサーと入れ替わりでモリーの元へ向かってしまった。ルーピンはコーヒーを片手にやってきたアーサーと向かい合って座ると、今日の行動について話し始めた。アーサーの向こう側でモリーに料理の手解きを受けるフォーラが、ほんの少し視界の端に入っては消えてを繰り返した。

それから暫くして、まだ何人かの子供達が起き出していない中で朝食を囲んだ。その後アーサーとルーピンは一足先に魔法省へ向かおうと立ち上がった。

「モリー、フォーラ、ご馳走さま。
とっても美味しかった。フォーラは料理の経験があるのかな？」

ルーピンの問いかけにフォーラは座ったままマグカップを片手に彼を見上げて微笑んだ。

「料理はあまりしたことがなくて。モリーさんに教えていただいたから上手くいったんです。
家ではお菓子はよく作っていた方だと思います。」

「おや、そうだったのか。なら、またモリーに料理の手解きしてもらわないとね。

ところで、私は甘いものに目がなくてね。是非ここにいる間に君のお手製のお菓子を食べてみたいな」

フォーラの隣に座っていたハーマイオニーが答えた。

「私、フォーラのシフォンケーキを食べたことがあるんですけど、とっても美味しかったんです！」

「ほ、本を見ながらだから・・・」

ルーピンは隣で少し赤くなるフォーラに微笑むと、側に置いていた鞄を手に取った。

「仕事から戻ったら、是非何かリクエストしたいな。もちろん無理にとは言わないけれど」