1. 逃避
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「どうしたね?お茶かな?―――いや、違ったみたいだ。こんな晴れた日に、何だか随分不機嫌そうじゃないか」
シェードに促されマリアは部屋の中へ入った。後ろで静かに扉が閉まった。
「お嬢様のことで、お話があります」
シェードの手元が一瞬ピクリと動いたが、彼は何も言わずにマリアの続きの言葉を待った。
「先程、お嬢様のお部屋に行ってまいりました。そうしたら、彼女……酷く泣いていらしたんです。本を読んで涙が出たとおっしゃりましたが、きっと嘘です。きっと……。旦那様、いつまでお嬢に対していつもどおりでいなければならないのでしょうか?今のお嬢様は絶対につらい気持ちでいらっしゃると思います。何か、もしかしたら屋敷のみんなでもっとお話を聞いて差し上げることで、お嬢様の気持ちが晴れやかになるなら、私はそうして差し上げたいです」
シェードはマリアをじっと見た後で、再び視線を庭へと移した。
「旦那様」急かすようにマリアが呼んだ。シェードは視線を動かさなかった。
「君がそうしたいのならそうすればいい」それを聞いてマリアの顔が少し明るくなった。
「では―――」
「だが、僕やリプトニアはそうしてほしくないんだ。それだけは覚えておいてくれ」
マリアは発しかけた言葉の続きを声に出せなかった。許しを得たようでそうではない状況に、たとえ雇い主の言うこととはいえ納得がいかなかった。
「旦那様、失礼を承知で言いますが、どうしてお嬢様が悩んでいらっしゃるのに、もっと手を差し伸べられないのです?」
シェードは外を見ながら、庭を駆け回る幼いフォーラの幻影を見た。一緒に暮らしているのが実の両親でないとは知らずに、元気に走り回る彼女。そしてそのそばにいたのは若かりし頃の自分と妻だった。みんな、笑顔だった。
「私とリプトニアが学期末に学校へ出向いた時、……つまりフォーラに私たちが実の親ではないと伝えた時、あの子は言ったのだよ。『心配することは何もない』と。だから私とリプトニアは信じているんだ。フォーラのその言葉を……」
マリアは静かに語るシェードの言葉に、じっと耳を傾けていた。
「あの子には本当に、本当に申し訳ないことをしたよ。いつか傷つけてしまうと分かっていた。だが、私もリプトニアもあの子を家族に迎えたかった。あの子にとってそれがゆくゆくは苦しみにしかならないのではと、何度も考えてきたが……。私たちはそのような未来の問題から目を逸らしてしまっていたんだ。何故ならマグル生まれであっても、あの子がそれを気にしないくらい、あの子を幸せにできる自信があったからだ」シェードは落ち着き払った様子で話していたが、自然と彼の脚は文机の辺りをゆっくりと歩き回り始めていた。
「私も、フォーラの様子が気になって気になって仕方がないよ。だが、マリアもよく知っている筈だ。あの子は、自分が納得するまで考えて考えて、答えが出るまで一人で考え抜こうとする子なんだ。……残念だが、そんな今のあの子に身内の私たちが本音を促しても、『大丈夫』の一点張りだ」
シェードは脚を止めると、ようやく真っすぐな瞳でマリアの方を見た。
「あの子は人を気遣える本当に良い子に育った。だからこそ、自分の本音を隠してしまう時がある。それにあの子は出会ってから今まで、面と向かって私たちに大胆な口答えなどしてきた試しが殆どなかった」シェードの言葉に、マリアは自分が思い返しても確かにそうだったと思った。
「もしフォーラが今回のことについて答えを出せたら、その時はきっと、今度こそ、必ず私たち両親に直接ぶつかりに来てくれると信じている。私としては、今は無理にあの子の心境を聞き出そうとはしたくないんだ。そんなことをすれば恐らく今以上にあの子は傷つく。こちらからの声が届けられない以上……君を含む私たち『家族』は、フォーラの『大丈夫』という言葉を信じて待つしかないと思ったんだ」
マリアは黙ってしまった。確かにフォーラにはシェードの言った節が大いに当てはまる。てっきり彼らはフォーラにきちんと目を向けていないのではと思っていた。だがそれは杞憂だったのだ。
フォーラが今すぐ自身の心を楽にする方法を見つけられないのなら、マリアは幾らでも力になってあげたいと思っていた。しかしシェードの話を聞いてそれはできないのだと気付かされた。この屋敷には今、フォーラが心の奥底の想いを打ち明けるに足る人などいないのだ。フォーラがこの家でずっと一緒に過ごしてきた者たちを気遣うからこそ本音を話すのを避けているのなら、きっとシェードの言うように、マリア自身もフォーラにとっては『家族』だったのだ。
シェードはそれを分かっていたからこそ、セブルス・スネイプからの提案を呑んだに違いなかった。スネイプの提案は、夏休みの間にフォーラとその家族の距離を置かせ、彼女を歳の近い子たちを含む一家と一緒に過ごさせるというものだった。フォーラが先にそれを受け入れたことも相まって、シェードやリプトニアは少しでも娘に何か刺激を与えられる方にかけた。これこそフォーラの両親が彼女の言葉を抑えつけるような育て方をしていない、何よりの証拠だった。
さて、夏休み開始から二週間が経ったこの日、フォーラは昼間から荷造りをし、夕方にはリビングの暖炉の前に自身のトランクと梟のアイシーが入った鳥籠を移動させていた。これから両親は反ヴォルデモート勢力の会合に参加するのだが、フォーラはその場所で今日から夏休みの終わりまでウィーズリー家と共に過ごさせてもらうことになっていた。両親だけの移動であればいつもは『姿くらまし』するのだが、今日はフォーラがいるため煙突飛行ネットワークで目的地に向かうのだ。
夕日が差し込むリビングルームにはフォーラと母、そして三人の使用人が揃っていた。シェードが来るのを待つ間、フォーラがリプトニアに尋ねた。
「母様や父様以外に、どんな人が『例のあの人』に対抗するメンバーに加わっているの?」
「みんなそれぞれ自分の仕事を持ちながら、時間を作って集まっているような人たちばかりなのよ。うちの屋敷からはニコラスたち三人も入団していて、まだ毎回会合に参加しているわけではないのだけれど、何回かは全員で今から向かう場所に出向いたわ」
シェードに促されマリアは部屋の中へ入った。後ろで静かに扉が閉まった。
「お嬢様のことで、お話があります」
シェードの手元が一瞬ピクリと動いたが、彼は何も言わずにマリアの続きの言葉を待った。
「先程、お嬢様のお部屋に行ってまいりました。そうしたら、彼女……酷く泣いていらしたんです。本を読んで涙が出たとおっしゃりましたが、きっと嘘です。きっと……。旦那様、いつまでお嬢に対していつもどおりでいなければならないのでしょうか?今のお嬢様は絶対につらい気持ちでいらっしゃると思います。何か、もしかしたら屋敷のみんなでもっとお話を聞いて差し上げることで、お嬢様の気持ちが晴れやかになるなら、私はそうして差し上げたいです」
シェードはマリアをじっと見た後で、再び視線を庭へと移した。
「旦那様」急かすようにマリアが呼んだ。シェードは視線を動かさなかった。
「君がそうしたいのならそうすればいい」それを聞いてマリアの顔が少し明るくなった。
「では―――」
「だが、僕やリプトニアはそうしてほしくないんだ。それだけは覚えておいてくれ」
マリアは発しかけた言葉の続きを声に出せなかった。許しを得たようでそうではない状況に、たとえ雇い主の言うこととはいえ納得がいかなかった。
「旦那様、失礼を承知で言いますが、どうしてお嬢様が悩んでいらっしゃるのに、もっと手を差し伸べられないのです?」
シェードは外を見ながら、庭を駆け回る幼いフォーラの幻影を見た。一緒に暮らしているのが実の両親でないとは知らずに、元気に走り回る彼女。そしてそのそばにいたのは若かりし頃の自分と妻だった。みんな、笑顔だった。
「私とリプトニアが学期末に学校へ出向いた時、……つまりフォーラに私たちが実の親ではないと伝えた時、あの子は言ったのだよ。『心配することは何もない』と。だから私とリプトニアは信じているんだ。フォーラのその言葉を……」
マリアは静かに語るシェードの言葉に、じっと耳を傾けていた。
「あの子には本当に、本当に申し訳ないことをしたよ。いつか傷つけてしまうと分かっていた。だが、私もリプトニアもあの子を家族に迎えたかった。あの子にとってそれがゆくゆくは苦しみにしかならないのではと、何度も考えてきたが……。私たちはそのような未来の問題から目を逸らしてしまっていたんだ。何故ならマグル生まれであっても、あの子がそれを気にしないくらい、あの子を幸せにできる自信があったからだ」シェードは落ち着き払った様子で話していたが、自然と彼の脚は文机の辺りをゆっくりと歩き回り始めていた。
「私も、フォーラの様子が気になって気になって仕方がないよ。だが、マリアもよく知っている筈だ。あの子は、自分が納得するまで考えて考えて、答えが出るまで一人で考え抜こうとする子なんだ。……残念だが、そんな今のあの子に身内の私たちが本音を促しても、『大丈夫』の一点張りだ」
シェードは脚を止めると、ようやく真っすぐな瞳でマリアの方を見た。
「あの子は人を気遣える本当に良い子に育った。だからこそ、自分の本音を隠してしまう時がある。それにあの子は出会ってから今まで、面と向かって私たちに大胆な口答えなどしてきた試しが殆どなかった」シェードの言葉に、マリアは自分が思い返しても確かにそうだったと思った。
「もしフォーラが今回のことについて答えを出せたら、その時はきっと、今度こそ、必ず私たち両親に直接ぶつかりに来てくれると信じている。私としては、今は無理にあの子の心境を聞き出そうとはしたくないんだ。そんなことをすれば恐らく今以上にあの子は傷つく。こちらからの声が届けられない以上……君を含む私たち『家族』は、フォーラの『大丈夫』という言葉を信じて待つしかないと思ったんだ」
マリアは黙ってしまった。確かにフォーラにはシェードの言った節が大いに当てはまる。てっきり彼らはフォーラにきちんと目を向けていないのではと思っていた。だがそれは杞憂だったのだ。
フォーラが今すぐ自身の心を楽にする方法を見つけられないのなら、マリアは幾らでも力になってあげたいと思っていた。しかしシェードの話を聞いてそれはできないのだと気付かされた。この屋敷には今、フォーラが心の奥底の想いを打ち明けるに足る人などいないのだ。フォーラがこの家でずっと一緒に過ごしてきた者たちを気遣うからこそ本音を話すのを避けているのなら、きっとシェードの言うように、マリア自身もフォーラにとっては『家族』だったのだ。
シェードはそれを分かっていたからこそ、セブルス・スネイプからの提案を呑んだに違いなかった。スネイプの提案は、夏休みの間にフォーラとその家族の距離を置かせ、彼女を歳の近い子たちを含む一家と一緒に過ごさせるというものだった。フォーラが先にそれを受け入れたことも相まって、シェードやリプトニアは少しでも娘に何か刺激を与えられる方にかけた。これこそフォーラの両親が彼女の言葉を抑えつけるような育て方をしていない、何よりの証拠だった。
さて、夏休み開始から二週間が経ったこの日、フォーラは昼間から荷造りをし、夕方にはリビングの暖炉の前に自身のトランクと梟のアイシーが入った鳥籠を移動させていた。これから両親は反ヴォルデモート勢力の会合に参加するのだが、フォーラはその場所で今日から夏休みの終わりまでウィーズリー家と共に過ごさせてもらうことになっていた。両親だけの移動であればいつもは『姿くらまし』するのだが、今日はフォーラがいるため煙突飛行ネットワークで目的地に向かうのだ。
夕日が差し込むリビングルームにはフォーラと母、そして三人の使用人が揃っていた。シェードが来るのを待つ間、フォーラがリプトニアに尋ねた。
「母様や父様以外に、どんな人が『例のあの人』に対抗するメンバーに加わっているの?」
「みんなそれぞれ自分の仕事を持ちながら、時間を作って集まっているような人たちばかりなのよ。うちの屋敷からはニコラスたち三人も入団していて、まだ毎回会合に参加しているわけではないのだけれど、何回かは全員で今から向かう場所に出向いたわ」