1. 逃避
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フォーラはこれでもかと繰り返し考えたことを再び脳裏に巡らせた。するとその時、ふと別のことが頭を占有しそうになったものだから、彼女は思わずその考えを追い払うように首を横に振った。彼女は自身がマグル生まれだと知ったその日に芽生えた感情を、心の奥底に閉じ込めて見えないふりをしてきたのだ。
フォーラは両親を今までのように親として見られなくなってしまったことを、恩師かつ寮監のセブルス・スネイプにだけ面と向かって打ち明けていた。そしてその時は思い留まったものの、本当はもっと沢山の気持ちを吐き出してしまいたかった。今、その閉じ込めてきた感情がほんの一瞬だけ顔を覗かせた。
(どうして純血なのに私を養子にしたのよ)
フォーラはその言葉を頭から掻き消すように、再び首を横に振った。
(そんなこと……父様も母様も、身寄りのない私のために)
(嘘。母様は子供がほしかったと、そう言っていたわ。私のためだったわけじゃない)
(違う、違うわ)
(マグル生まれの私を純血の中で過ごさせるなんて、とっても残酷だわ。これまで私が関わってきた両親以外の周りの大人は純血が多かったし、それに、私の幼馴染だって……)
そこまで考えた時、フォーラの脳裏には鮮明に数日前のドラコの姿が思い出されていた。
『フォーラ、君が好きだ』
あの時のドラコは頭をこちらにもたせ掛け、自分を真正面から力一杯に抱きしめていて、その手を震わせていた。
『……好きだ。本当に、好きだったんだ……』
(ドラコはあんなに一生懸命想いを伝えてくれたのに、一つも応えてあげられなかった。マグル生まれなのに純血のふりをして、周りには私の本当を隠して……。こんなにつらい想いをするなら、両親に引き取られずに、元いた何処かの生まれ故郷にずっと)
フォーラはベッドのシーツをぎゅっと握った。
「違う……違う!」自分に対する嫌悪感が押し寄せて、フォーラの涙がぼたぼたとシーツを濡らした。彼女は嗚咽 が漏れそうになるのを堪 えようと、ぎゅっとその場にうずくまった。
「違う……」
(二人は私の両親なんだから……!)
その頃、この屋敷で最もフォーラに歳の近い裁縫好きのマリアは、フォーラの部屋に淹れたての紅茶を届けようとしているところだった。しかしマリアがその部屋のドアをノックしようとした時、彼女の手はピタリと止まった。ドアの向こう側から、フォーラの泣き声が微かに漏れ聞こえたのだ。
(お嬢様……)
マリアは少し前にフォーラが養子だと知った時、渦中の本人が心を痛めていないか心配で仕方がなかった。だがマリアはホグワーツから帰宅したフォーラを目にして、何も心配する必要はなかったのだと安堵していた。何せマリアから見たフォーラは、養子の件でのつらさなど微塵も感じさせず、屋敷の人々にいつもどおり接していたからだ。マリアとしてはフォーラが気丈に振舞っていることは分かっていたが、それにしたって本当にフォーラの様子は違和感がなかった。
だが今のフォーラはどうだろう。マリアはこの時、フォーラが自分の前では想像を絶するようなつらさを押し殺していたのだと悟った。
(紅茶、どうしよう)
この屋敷の主人からは、フォーラに養子の話をするのを控えるよう命令されていた。シェードがそのように言った詳しい理由がマリアには分からなかったが、今の彼女にはそれが正しい選択ではないような気がしてならなかった。彼女は意を決して今度こそ目の前のドアをノックした。
「お嬢様?マリアです。お紅茶が入りましたよ」
すると、部屋の中から漏れ聞こえていた微かな嗚咽が途端に止まった。そしてほんの少ししてからドアノブが沈んだ。静かに開かれた扉の直ぐそばにはフォーラがこちらを見て立っていたが、その瞳は赤く、目の周りは少々腫れていた。やはり彼女が泣いていたのだと分かり、マリアは言葉を選びながらおずおずと尋ねた。
「お嬢様、紅茶をお持ちしたのですが……そんなことより、目が赤くなっています。その、お節介は重々承知ですが……泣いていらしたのではと思ったのですが」
それを聞いたフォーラは一瞬言葉に詰まった様子だったが、そんなことなど気にならないくらいスラスラと返答した。
「ああ、これは……何でもないの。本当よ?学校の友達に勧められた本がとても悲しいお話で、それで泣いていただけなの。ごめんなさい、変に心配させてしまったわよね?」
フォーラは気恥ずかしそうな笑みを見せたが、マリアにはもうその様子が嘘だと思えた。いや、正確には嘘か本当か分からないと言った方が正しい。本当は、私に嘘をつかないで本心を話してほしいと伝えたかった。しかしフォーラの言葉が嘘でなかったらと思うと、マリアは上手く身動きがとれなかった。
使用人の私は一体、どこまで彼女に踏み込むことが許される?時に友人や妹のように感じながら、こんな時に限って……こんな時だからこそ、屋敷の主人の愛娘にどう接していいか分からない。
「そう、ですか」マリアは力なく笑った。「それなら安心しました。さあ、紅茶が冷める前に召し上がっていただかなくては。今日はクッキーも焼いたんですよ。私が裁縫ばかりじゃないところをお見せしなきゃと思って!」
マリアはフォーラに紅茶を振る舞った後、そのままの足で屋敷の主人の部屋へと向かった。納得がいかない。どうして彼らは自分の娘に血の繋がりについて殆ど何も声を掛けてやらない?
マリアが屋敷の中でも比較的重厚な両開きの扉をノックすると、その向こうから男性の低い返事が聞こえた。それと同時にその扉はひとりでに開いた。
「失礼いたします」マリアはお辞儀の後で顔を上げた。ゆとりのある部屋の壁一面に設けられた本棚には所狭しと様々な本が敷き詰められており、それらに囲まれるように、部屋の中央には使い込まれた艶のある文机が置かれていた。そして、その向こうに見える大きな上げ下げ窓から差し込む優しい光のそばには、杖と羊皮紙を片手に、階下の庭を眺めるシェード・ファントムの姿があった。
フォーラは両親を今までのように親として見られなくなってしまったことを、恩師かつ寮監のセブルス・スネイプにだけ面と向かって打ち明けていた。そしてその時は思い留まったものの、本当はもっと沢山の気持ちを吐き出してしまいたかった。今、その閉じ込めてきた感情がほんの一瞬だけ顔を覗かせた。
(どうして純血なのに私を養子にしたのよ)
フォーラはその言葉を頭から掻き消すように、再び首を横に振った。
(そんなこと……父様も母様も、身寄りのない私のために)
(嘘。母様は子供がほしかったと、そう言っていたわ。私のためだったわけじゃない)
(違う、違うわ)
(マグル生まれの私を純血の中で過ごさせるなんて、とっても残酷だわ。これまで私が関わってきた両親以外の周りの大人は純血が多かったし、それに、私の幼馴染だって……)
そこまで考えた時、フォーラの脳裏には鮮明に数日前のドラコの姿が思い出されていた。
『フォーラ、君が好きだ』
あの時のドラコは頭をこちらにもたせ掛け、自分を真正面から力一杯に抱きしめていて、その手を震わせていた。
『……好きだ。本当に、好きだったんだ……』
(ドラコはあんなに一生懸命想いを伝えてくれたのに、一つも応えてあげられなかった。マグル生まれなのに純血のふりをして、周りには私の本当を隠して……。こんなにつらい想いをするなら、両親に引き取られずに、元いた何処かの生まれ故郷にずっと)
フォーラはベッドのシーツをぎゅっと握った。
「違う……違う!」自分に対する嫌悪感が押し寄せて、フォーラの涙がぼたぼたとシーツを濡らした。彼女は
「違う……」
(二人は私の両親なんだから……!)
その頃、この屋敷で最もフォーラに歳の近い裁縫好きのマリアは、フォーラの部屋に淹れたての紅茶を届けようとしているところだった。しかしマリアがその部屋のドアをノックしようとした時、彼女の手はピタリと止まった。ドアの向こう側から、フォーラの泣き声が微かに漏れ聞こえたのだ。
(お嬢様……)
マリアは少し前にフォーラが養子だと知った時、渦中の本人が心を痛めていないか心配で仕方がなかった。だがマリアはホグワーツから帰宅したフォーラを目にして、何も心配する必要はなかったのだと安堵していた。何せマリアから見たフォーラは、養子の件でのつらさなど微塵も感じさせず、屋敷の人々にいつもどおり接していたからだ。マリアとしてはフォーラが気丈に振舞っていることは分かっていたが、それにしたって本当にフォーラの様子は違和感がなかった。
だが今のフォーラはどうだろう。マリアはこの時、フォーラが自分の前では想像を絶するようなつらさを押し殺していたのだと悟った。
(紅茶、どうしよう)
この屋敷の主人からは、フォーラに養子の話をするのを控えるよう命令されていた。シェードがそのように言った詳しい理由がマリアには分からなかったが、今の彼女にはそれが正しい選択ではないような気がしてならなかった。彼女は意を決して今度こそ目の前のドアをノックした。
「お嬢様?マリアです。お紅茶が入りましたよ」
すると、部屋の中から漏れ聞こえていた微かな嗚咽が途端に止まった。そしてほんの少ししてからドアノブが沈んだ。静かに開かれた扉の直ぐそばにはフォーラがこちらを見て立っていたが、その瞳は赤く、目の周りは少々腫れていた。やはり彼女が泣いていたのだと分かり、マリアは言葉を選びながらおずおずと尋ねた。
「お嬢様、紅茶をお持ちしたのですが……そんなことより、目が赤くなっています。その、お節介は重々承知ですが……泣いていらしたのではと思ったのですが」
それを聞いたフォーラは一瞬言葉に詰まった様子だったが、そんなことなど気にならないくらいスラスラと返答した。
「ああ、これは……何でもないの。本当よ?学校の友達に勧められた本がとても悲しいお話で、それで泣いていただけなの。ごめんなさい、変に心配させてしまったわよね?」
フォーラは気恥ずかしそうな笑みを見せたが、マリアにはもうその様子が嘘だと思えた。いや、正確には嘘か本当か分からないと言った方が正しい。本当は、私に嘘をつかないで本心を話してほしいと伝えたかった。しかしフォーラの言葉が嘘でなかったらと思うと、マリアは上手く身動きがとれなかった。
使用人の私は一体、どこまで彼女に踏み込むことが許される?時に友人や妹のように感じながら、こんな時に限って……こんな時だからこそ、屋敷の主人の愛娘にどう接していいか分からない。
「そう、ですか」マリアは力なく笑った。「それなら安心しました。さあ、紅茶が冷める前に召し上がっていただかなくては。今日はクッキーも焼いたんですよ。私が裁縫ばかりじゃないところをお見せしなきゃと思って!」
マリアはフォーラに紅茶を振る舞った後、そのままの足で屋敷の主人の部屋へと向かった。納得がいかない。どうして彼らは自分の娘に血の繋がりについて殆ど何も声を掛けてやらない?
マリアが屋敷の中でも比較的重厚な両開きの扉をノックすると、その向こうから男性の低い返事が聞こえた。それと同時にその扉はひとりでに開いた。
「失礼いたします」マリアはお辞儀の後で顔を上げた。ゆとりのある部屋の壁一面に設けられた本棚には所狭しと様々な本が敷き詰められており、それらに囲まれるように、部屋の中央には使い込まれた艶のある文机が置かれていた。そして、その向こうに見える大きな上げ下げ窓から差し込む優しい光のそばには、杖と羊皮紙を片手に、階下の庭を眺めるシェード・ファントムの姿があった。