1. 逃避
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ホグワーツ魔法魔術学校から列車での長旅を経て、キングス・クロス駅で友人たちと別れた十五歳のフォーラ・ファントムは、両親に連れられてマグルのタクシーに乗り込んだ。そうして少しの間だけ郊外を走った一同は、街の中心から離れた人気 のない場所で降車するところだった。
「もうすぐ屋敷に着きますからね。長旅で疲れたでしょう」
「ええ、少しだけ。でも平気よ。」フォーラが母に笑顔を向けて言った。
同乗していた父が運転手にマグルの通貨を支払うと、一行はタクシーを降りた。そして車が行ってしまったのを確認してから直ぐ近くにあるこぢんまりとした廃墟へ入った。ここに魔法族がよく移動に使う暖炉がある。廃墟には魔法が使えない『マグル』と呼ばれる人々が目もくれないよう、人除けの魔法が掛けられていた。
フォーラはこの四学年の終盤にホグワーツで両親と顔を合わせたのだが、その時に彼らと血が繋がっていないことを初めて知らされた。本来なら相当ショックを受ける内容の筈だが、今の彼女はそんなことはどこ吹く風といった様子で、第三者から見ればいつもどおりだった。
だが、当然ながら心の内はそうではなかった。フォーラはあの日以来、両親を思い出す度に二人が突然赤の他人になってしまったような感覚に襲われ続けていた。こうして改めて二人を目にすれば、そんな幻覚から目が覚めるのではと期待したりもした。しかしその願いは虚しく、彼女は両親に優しく声を掛けられる度に一層その悲しい感情を募 らせていった。
(マグル生まれの私は、純粋な魔法族の血が流れる二人とは相いれない存在だわ。幾ら両親がマグル生まれの私を受け入れていようが、二人の周りがそれを許さないもの。そして私はその人たちの前で、これまでもこれからも、マグルの血が通っていることを知られてはいけない。本当の私を知られずにいなければならない。マグル生まれを忌み嫌う『例のあの人』が復活した状況下では、私は両親の弱みで、邪魔にしかならない存在なんだから)
例のあの人と呼ばれる最も残虐な闇の魔法使いヴォルデモートは、先日とうとう秘密裏に復活した。彼はマグル生まれを排除して純血中心の世を作ろうと企てる、根っからの『純血主義』だった。フォーラの両親はその存在に抗うべく、ダンブルドア校長が率いる秘密結社に最近入団したのだ。
フォーラは廃墟の古びた暖炉の前で両親の間に並び立ち、小袋の中からフルーパウダーと呼ばれる粉を軽くひと掴みした。これを暖炉に投げ入れればエメラルドグリーンの炎が舞い、暖炉の中で目的地を口に出すことで行き先の暖炉に移動できるのだ。しかし彼女は掴んだ粉を直ぐには手放さず、指の隙間からはサラサラと少量の粉が零れ落ちていた。
屋敷に帰るのが怖い。屋敷で待っている三人の使用人たちは、今や全員がフォーラの血の秘密を知っていた。きっと使用人たちは両親と同じく、自分といつもどおり接しようとしてくれるのだろう。そして当の自分も、彼らの前できっといつもどおりに振る舞おうとするのだ。
フォーラは仮に屋敷の誰に何を聞かれても、自分の本当の気持ちを伝えてはいけない気がした。伝えたが最後、両親は嘆き、使用人たちは自分を腫物のように扱ってしまうだろうと思えた。
(両親が他人にしか思えなくなった、だなんて伝えてその後はどうなるの?……きっと、悪いようにしかならないもの)
フォーラは何事もなかったかのように灰の溜まった暖炉の中に足を踏み入れた。そし両親の方に身体を向けると、手に掴んでいた粉を灰の上に落とした。エメラルド色の炎の中、彼女は目の前の両親の顔を見ずに自宅の場所を唱えた。
屋敷に着いてからの日々は基本的にいつもと何ら変わらなかった。初日はフォーラの血のことで色々と屋敷の人たちと確認することや話すことはあったものの、その後は両親も、昔からフォーラの血のことを知っていた使用人のニコラスとアンナも、そして先日初めてフォーラがマグル生まれの養子だと知ったうら若いマリアですら、いつもどおりだった。
フォーラはまだ自分がマグル生まれだと知らなかった時、学校でマリアお手製のドレスを着た姿を写真に収めて送ってほしいと彼女からお願いされていた。しかしその写真をうっかり撮り損ねてしまったと目の前のマリアに正直に伝えてみると、彼女は想像どおり随分残念がっていた。フォーラは正直言って、彼女のその様子に少しだけホッとした。何せ心配性のマリアが血のことには殆ど触れず、こんなにもいつもどおり喜怒哀楽の表情を元気に見せてくれたのだから。
フォーラは写真を取り損ねたお詫びとして、前々からマリアに写真立てをプレゼントしようと用意していた。まだ自分が養子であると知らずにいた頃は、学期を終えて屋敷に帰ったら両親や使用人を含む家族全員で一緒に写真に収まり、それを写真立てに入れてマリアに渡そうと考えていた。
しかしフォーラは今やそれを実行する気にはなれなかった。何せ今の自分には、以前と同じように彼女たちを『家族』と呼ぶことができなくなっていたのだから。
フォーラは自室で一人、自身への嫌悪感に押し潰されそうになり、ベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
(みんなきっと私を気遣ってくれているわ。それ程までに私のことを大事にしてくれているのに、どうして私は今までのようにみんなを家族だと思えないの?それに私、ホグワーツで父様と母様には『大丈夫』だと伝えたわ。だから二人も屋敷のみんなも、きっとその言葉を信じてくれているのよ?)
フォーラはじっと瞳を閉じた。
(みんなを想うとこんなに温かいのに、どうして安心できないの……。当然、私の秘密が誰か知られてはいけない人にばれたらと思うと怖いわ。それにこの先、私の存在が父様と母様の活動の足枷になったらと思うと、とっても不安。だけどホグワーツで二人は私を守ると、愛していると言ってくれたじゃない……)
「もうすぐ屋敷に着きますからね。長旅で疲れたでしょう」
「ええ、少しだけ。でも平気よ。」フォーラが母に笑顔を向けて言った。
同乗していた父が運転手にマグルの通貨を支払うと、一行はタクシーを降りた。そして車が行ってしまったのを確認してから直ぐ近くにあるこぢんまりとした廃墟へ入った。ここに魔法族がよく移動に使う暖炉がある。廃墟には魔法が使えない『マグル』と呼ばれる人々が目もくれないよう、人除けの魔法が掛けられていた。
フォーラはこの四学年の終盤にホグワーツで両親と顔を合わせたのだが、その時に彼らと血が繋がっていないことを初めて知らされた。本来なら相当ショックを受ける内容の筈だが、今の彼女はそんなことはどこ吹く風といった様子で、第三者から見ればいつもどおりだった。
だが、当然ながら心の内はそうではなかった。フォーラはあの日以来、両親を思い出す度に二人が突然赤の他人になってしまったような感覚に襲われ続けていた。こうして改めて二人を目にすれば、そんな幻覚から目が覚めるのではと期待したりもした。しかしその願いは虚しく、彼女は両親に優しく声を掛けられる度に一層その悲しい感情を
(マグル生まれの私は、純粋な魔法族の血が流れる二人とは相いれない存在だわ。幾ら両親がマグル生まれの私を受け入れていようが、二人の周りがそれを許さないもの。そして私はその人たちの前で、これまでもこれからも、マグルの血が通っていることを知られてはいけない。本当の私を知られずにいなければならない。マグル生まれを忌み嫌う『例のあの人』が復活した状況下では、私は両親の弱みで、邪魔にしかならない存在なんだから)
例のあの人と呼ばれる最も残虐な闇の魔法使いヴォルデモートは、先日とうとう秘密裏に復活した。彼はマグル生まれを排除して純血中心の世を作ろうと企てる、根っからの『純血主義』だった。フォーラの両親はその存在に抗うべく、ダンブルドア校長が率いる秘密結社に最近入団したのだ。
フォーラは廃墟の古びた暖炉の前で両親の間に並び立ち、小袋の中からフルーパウダーと呼ばれる粉を軽くひと掴みした。これを暖炉に投げ入れればエメラルドグリーンの炎が舞い、暖炉の中で目的地を口に出すことで行き先の暖炉に移動できるのだ。しかし彼女は掴んだ粉を直ぐには手放さず、指の隙間からはサラサラと少量の粉が零れ落ちていた。
屋敷に帰るのが怖い。屋敷で待っている三人の使用人たちは、今や全員がフォーラの血の秘密を知っていた。きっと使用人たちは両親と同じく、自分といつもどおり接しようとしてくれるのだろう。そして当の自分も、彼らの前できっといつもどおりに振る舞おうとするのだ。
フォーラは仮に屋敷の誰に何を聞かれても、自分の本当の気持ちを伝えてはいけない気がした。伝えたが最後、両親は嘆き、使用人たちは自分を腫物のように扱ってしまうだろうと思えた。
(両親が他人にしか思えなくなった、だなんて伝えてその後はどうなるの?……きっと、悪いようにしかならないもの)
フォーラは何事もなかったかのように灰の溜まった暖炉の中に足を踏み入れた。そし両親の方に身体を向けると、手に掴んでいた粉を灰の上に落とした。エメラルド色の炎の中、彼女は目の前の両親の顔を見ずに自宅の場所を唱えた。
屋敷に着いてからの日々は基本的にいつもと何ら変わらなかった。初日はフォーラの血のことで色々と屋敷の人たちと確認することや話すことはあったものの、その後は両親も、昔からフォーラの血のことを知っていた使用人のニコラスとアンナも、そして先日初めてフォーラがマグル生まれの養子だと知ったうら若いマリアですら、いつもどおりだった。
フォーラはまだ自分がマグル生まれだと知らなかった時、学校でマリアお手製のドレスを着た姿を写真に収めて送ってほしいと彼女からお願いされていた。しかしその写真をうっかり撮り損ねてしまったと目の前のマリアに正直に伝えてみると、彼女は想像どおり随分残念がっていた。フォーラは正直言って、彼女のその様子に少しだけホッとした。何せ心配性のマリアが血のことには殆ど触れず、こんなにもいつもどおり喜怒哀楽の表情を元気に見せてくれたのだから。
フォーラは写真を取り損ねたお詫びとして、前々からマリアに写真立てをプレゼントしようと用意していた。まだ自分が養子であると知らずにいた頃は、学期を終えて屋敷に帰ったら両親や使用人を含む家族全員で一緒に写真に収まり、それを写真立てに入れてマリアに渡そうと考えていた。
しかしフォーラは今やそれを実行する気にはなれなかった。何せ今の自分には、以前と同じように彼女たちを『家族』と呼ぶことができなくなっていたのだから。
フォーラは自室で一人、自身への嫌悪感に押し潰されそうになり、ベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
(みんなきっと私を気遣ってくれているわ。それ程までに私のことを大事にしてくれているのに、どうして私は今までのようにみんなを家族だと思えないの?それに私、ホグワーツで父様と母様には『大丈夫』だと伝えたわ。だから二人も屋敷のみんなも、きっとその言葉を信じてくれているのよ?)
フォーラはじっと瞳を閉じた。
(みんなを想うとこんなに温かいのに、どうして安心できないの……。当然、私の秘密が誰か知られてはいけない人にばれたらと思うと怖いわ。それにこの先、私の存在が父様と母様の活動の足枷になったらと思うと、とっても不安。だけどホグワーツで二人は私を守ると、愛していると言ってくれたじゃない……)
1/6ページ