19. 特別な君③
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父親の手記からエメリアの名前を追った結果、禁書の棚でこの本に引き寄せられたこと。本にはポリジュース薬を使わずとも特定の誰かに変身できる呪文と手順が書かれていたこと。それはエメリア以外誰も成し遂げていない術らしいが、フォーラは自分を信じて事前準備に必要な三つの変身術を習得していった。そして術の仕上げには変身したい相手の血がエスプレッソカップ一杯分程必要だということ。その全てをスネイプに話した。
一連の話を聞いたスネイプは、フォーラの馬鹿げた考えに心底怒りを露わにしていた。
「馬鹿者……!お前が必死になって倒れる程に勉学に邁進した結果がこれか。『いもり』レベルまで変身術を上達させたのは良いとして、こんな眉唾 に惚れ込むなど!」
「惚れ込んだことは否定しません。ですが、熱心に勉強していた理由はそこではありません!過去にもお伝えしたように、私はドラコを闇の陣営との関りから引き剥がしたいだけなんです。騎士団の力になることで、少しでも早くそれを実現できれば……。そのためにこの魔法が使えれば、きっと必ず騎士団の活動の幅が広がる筈です。」フォーラが短く一呼吸して続けた。
「それこそ私がいつでもセブルスさんになりすますことで、貴方のスパイ活動の時間を作ったり、アリバイ作りをしたり、幾らでも使い道があると思います。ポリジュース薬も必要ないですし、そうなれば格段に便利になる筈です。それに目先の話で言えば、ドラコは私を随分避けているので、彼の置かれている状況がいつ変化しても知ることは叶いません。それなら別の誰かになってしまえば―――それこそセブルスさんになれればと思ったんです。」
スネイプはフォーラがここまで熱弁している姿を本当に珍しいと思った。彼からすれば彼女の話は非現実的で粗削りで、隙だらけの信用に値しない妄想だった。しかしその必死さから、彼女が本気でそんなヘンテコな術を信じる程に、いつかやって来るであろう脅威からドラコを助けたがっていることは理解できた。そして彼女にとってのドラコがそれ程までに大切な存在だということも。
スネイプはそんなフォーラを見て、過去の自身の記憶を自然と呼び覚ましていた。十数年前にヴォルデモートが猛威を振るっていた時代、スネイプは片想いしていた幼馴染の女性を助けるため、結果的にヴォルデモートとダンブルドアの間で二重スパイをするというとんでもなく無理な仕事を買って出た。今も彼はあの時と同じように二重スパイをしているが、当時と異なるのは、その女性がもう既に亡くなっているということだった。
スネイプは当時、その無理に近しい仕事を担う決意をしてしまう程、その女性のことを大切に想っていた。現在の彼が今後の戦いに備えて再び二重スパイをしているのだって、その女性の残した大切な子供を守りたかったからだ。その子の黒いクシャクシャ髪と規則を守らない姿勢は彼女に似ても似つかないが、緑色の瞳は彼女そのものだったから……。
そのようなことがあったからこそ、スネイプはフォーラにとってのドラコがどれだけ守りたい存在であるかが本当によく理解できたし、彼女の努力を無下にすることが本人にとってどれだけつらく歯がゆいかも十分に汲み取れた。
とはいえ、スネイプはフォーラと同じく幼馴染を愛した立場である前に、彼女の教師であり、生徒を守る立場にあった。誰も成し得ていない魔法の習得など危険極まりないし、ましてや自分に変身したいなどもってのほかだと思った。彼はため息交じりに口を開いた。
「フォーラ。まずドラコのことだが、現状なにも心配する必要はない。彼は闇の帝王やルシウスから命令を受けてなどいないし、ましてや闇の陣営だろうと大人たちは一介の学生風情に無茶なことを頼まない。それにそもそも、そういった情報はお前が我輩に変身せずとも、我輩が自ら把握し、望むなら伝えてやることくらいできる」
「では、どうしてドラコは私に何かを隠すようにわざと避けているんでしょうか?私の目には、彼が私を何かの危険から遠ざけようとしているようにしか思えないんです。ドラコは本当に安全なんですか……?」
スネイプは以前、四階の空き部屋で倒れたフォーラをドラコがこの部屋へ運んできた日、ドラコ自身の口から彼女に対する想いを直 に聞いていた。
『僕は今、フォーラに随分冷たく当たっています。僕は彼女に嫌われたいし、彼女を嫌いたいんです。―――僕がいつか闇陣営に加担して戦うことになっても、彼女が幼馴染の僕のことで悲しまないようにするためです。―――彼女が僕に嫌われたと思って完全に離れてくれれば、無関係の彼女はきっと巻き込まれない』
「我輩から言えるのは」スネイプはフォーラから視線を外して言葉を続けた。
「ドラコが安全な状態であることは間違いない。そして彼が何かお前に隠し事をしているのだとしても、それが彼の安全を脅かすには値しないだろう。……つまり、ドラコの個人的な考えは、我輩の知るところではない」
スネイプはドラコから、自身の思惑をフォーラに明かさないでほしいと懇願されていた。そのためこうして濁した回答をすることで約束を守ったわけだが、その白を切るような回答にフォーラは少々不服そうだった。するとスネイプは有無を言わさず話題を切り替えた。
「次にその本の変身術のことだが。そのような都合のいい魔法が世に出回っていないということは、結局その程度の眉唾なのでは?それに約三十mlとはいえ、それなりの血を必要とする時点でそれはもう闇の魔術で間違いない。因みに、その本のことは他の誰かに話したのか?」
「いいえ、誰にも。セブルスさんが初めてです。」
「であれば、この件はこれ以上誰にも伝えるな。友人だけでなく、騎士団員にも、君のご両親にも。周りに妙な心配を与え、あらぬ誤解を生みかねん」
「それについては分かりました。ですが、どうしてもこの術を試すことは許されないでしょうか?」
フォーラの質問に、スネイプは呆れた声で否定した。
「何故そんなにもその術に執着する?得体の知れない呪いが仕組まれている可能性だってある。そもそも先程お前が話していたとおりなら、この著者以外は誰も成し遂げていないのだろう?それに、根本の目的がドラコの身を案じることなら、他にもっと現実的な方法を探す方が賢明だ。ほぼ負けに近いギャンブルに手を出そうとしていることくらい、賢い君なら分かる筈だろう」
フォーラはスネイプの問いに、何と言葉を伝えるべきか迷った。
一連の話を聞いたスネイプは、フォーラの馬鹿げた考えに心底怒りを露わにしていた。
「馬鹿者……!お前が必死になって倒れる程に勉学に邁進した結果がこれか。『いもり』レベルまで変身術を上達させたのは良いとして、こんな
「惚れ込んだことは否定しません。ですが、熱心に勉強していた理由はそこではありません!過去にもお伝えしたように、私はドラコを闇の陣営との関りから引き剥がしたいだけなんです。騎士団の力になることで、少しでも早くそれを実現できれば……。そのためにこの魔法が使えれば、きっと必ず騎士団の活動の幅が広がる筈です。」フォーラが短く一呼吸して続けた。
「それこそ私がいつでもセブルスさんになりすますことで、貴方のスパイ活動の時間を作ったり、アリバイ作りをしたり、幾らでも使い道があると思います。ポリジュース薬も必要ないですし、そうなれば格段に便利になる筈です。それに目先の話で言えば、ドラコは私を随分避けているので、彼の置かれている状況がいつ変化しても知ることは叶いません。それなら別の誰かになってしまえば―――それこそセブルスさんになれればと思ったんです。」
スネイプはフォーラがここまで熱弁している姿を本当に珍しいと思った。彼からすれば彼女の話は非現実的で粗削りで、隙だらけの信用に値しない妄想だった。しかしその必死さから、彼女が本気でそんなヘンテコな術を信じる程に、いつかやって来るであろう脅威からドラコを助けたがっていることは理解できた。そして彼女にとってのドラコがそれ程までに大切な存在だということも。
スネイプはそんなフォーラを見て、過去の自身の記憶を自然と呼び覚ましていた。十数年前にヴォルデモートが猛威を振るっていた時代、スネイプは片想いしていた幼馴染の女性を助けるため、結果的にヴォルデモートとダンブルドアの間で二重スパイをするというとんでもなく無理な仕事を買って出た。今も彼はあの時と同じように二重スパイをしているが、当時と異なるのは、その女性がもう既に亡くなっているということだった。
スネイプは当時、その無理に近しい仕事を担う決意をしてしまう程、その女性のことを大切に想っていた。現在の彼が今後の戦いに備えて再び二重スパイをしているのだって、その女性の残した大切な子供を守りたかったからだ。その子の黒いクシャクシャ髪と規則を守らない姿勢は彼女に似ても似つかないが、緑色の瞳は彼女そのものだったから……。
そのようなことがあったからこそ、スネイプはフォーラにとってのドラコがどれだけ守りたい存在であるかが本当によく理解できたし、彼女の努力を無下にすることが本人にとってどれだけつらく歯がゆいかも十分に汲み取れた。
とはいえ、スネイプはフォーラと同じく幼馴染を愛した立場である前に、彼女の教師であり、生徒を守る立場にあった。誰も成し得ていない魔法の習得など危険極まりないし、ましてや自分に変身したいなどもってのほかだと思った。彼はため息交じりに口を開いた。
「フォーラ。まずドラコのことだが、現状なにも心配する必要はない。彼は闇の帝王やルシウスから命令を受けてなどいないし、ましてや闇の陣営だろうと大人たちは一介の学生風情に無茶なことを頼まない。それにそもそも、そういった情報はお前が我輩に変身せずとも、我輩が自ら把握し、望むなら伝えてやることくらいできる」
「では、どうしてドラコは私に何かを隠すようにわざと避けているんでしょうか?私の目には、彼が私を何かの危険から遠ざけようとしているようにしか思えないんです。ドラコは本当に安全なんですか……?」
スネイプは以前、四階の空き部屋で倒れたフォーラをドラコがこの部屋へ運んできた日、ドラコ自身の口から彼女に対する想いを
『僕は今、フォーラに随分冷たく当たっています。僕は彼女に嫌われたいし、彼女を嫌いたいんです。―――僕がいつか闇陣営に加担して戦うことになっても、彼女が幼馴染の僕のことで悲しまないようにするためです。―――彼女が僕に嫌われたと思って完全に離れてくれれば、無関係の彼女はきっと巻き込まれない』
「我輩から言えるのは」スネイプはフォーラから視線を外して言葉を続けた。
「ドラコが安全な状態であることは間違いない。そして彼が何かお前に隠し事をしているのだとしても、それが彼の安全を脅かすには値しないだろう。……つまり、ドラコの個人的な考えは、我輩の知るところではない」
スネイプはドラコから、自身の思惑をフォーラに明かさないでほしいと懇願されていた。そのためこうして濁した回答をすることで約束を守ったわけだが、その白を切るような回答にフォーラは少々不服そうだった。するとスネイプは有無を言わさず話題を切り替えた。
「次にその本の変身術のことだが。そのような都合のいい魔法が世に出回っていないということは、結局その程度の眉唾なのでは?それに約三十mlとはいえ、それなりの血を必要とする時点でそれはもう闇の魔術で間違いない。因みに、その本のことは他の誰かに話したのか?」
「いいえ、誰にも。セブルスさんが初めてです。」
「であれば、この件はこれ以上誰にも伝えるな。友人だけでなく、騎士団員にも、君のご両親にも。周りに妙な心配を与え、あらぬ誤解を生みかねん」
「それについては分かりました。ですが、どうしてもこの術を試すことは許されないでしょうか?」
フォーラの質問に、スネイプは呆れた声で否定した。
「何故そんなにもその術に執着する?得体の知れない呪いが仕組まれている可能性だってある。そもそも先程お前が話していたとおりなら、この著者以外は誰も成し遂げていないのだろう?それに、根本の目的がドラコの身を案じることなら、他にもっと現実的な方法を探す方が賢明だ。ほぼ負けに近いギャンブルに手を出そうとしていることくらい、賢い君なら分かる筈だろう」
フォーラはスネイプの問いに、何と言葉を伝えるべきか迷った。