13. マリアお手製のドレス
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少し時間は遡り、ドラコはフォーラと別れた後、すぐに広間を抜け出して屋敷の廊下に一人で出ていた。先程フォーラと過ごした妙な時間を忘れようとしてのことだ。すると丁度廊下の向こうから、この屋敷のメイドであるマリアがやってくるところだった。
「あらドラコ様、メリークリスマス。こんなところにおひとりで、どうかなさいましたか?」
「……ああ、マリアさん。お久しぶりです。いやその、少し気分が優れなくて。でもたいしたことはないんです」
「人混みでお疲れになってしまったのかもしれませんね。それでしたら何か飲みやすいものでもお持ち致しましょうか?」
「いえ、本当に大丈夫です。外で少し雪でも眺めれば気が紛れそうなので」
「分かりました。外は冷えますから、あまり無理なさらないでくださいね。何かあればいつでもおっしゃってください」
マリアはドラコに微笑むと、広間の扉に手をかけた。ドラコはその様子を何気なく見つめながら、先程フォーラが身に纏っていたドレスを自然と思い浮かべていた。
「マリアさん」ドラコは気付いた時には彼女を呼び止めていた。彼女が振り返ってどうしたのかと尋ねると、ドラコはほんの少しの戸惑いを覗かせた後で質問した。
「フォーラが着ていたドレスは、貴女が仕立てたのですか」
マリアはそれを聞いて誇らしそうな笑顔で頷いた。
「ええ、勿論です!今年も力作ですよ。お嬢様、とっても似合われていたでしょう」
「あー、ええ、そうですね……。それであのドレスには何か……特別な技術でも取り入れていますか?例えば―――何か魔法が掛かっていたりとか、そういうことですが」
ドラコは先程フォーラの目の前で情緒不安定になり、彼女を褒めるような思わぬ発言をしたり、心配するような言葉が口を突いて出たりした。しかしそれが自分の意思によって発されたとは考えていなかった。となると、色々と考察した結果、彼女のドレスに何か仕掛けがある可能性は捨てきれないと思ったのだ。
「まあ!よくお分かりになりましたね」
マリアが嬉しそうに手を合わせて明るい笑顔を向けてきたものだから、ドラコは一か八かの感が当たって驚いていた。
「それって、一体どのような?」
「お嬢様の魅力が最大限に引き出せるデザインにしているんです!この私の、裁縫に長けた手で!」
自信満々に胸を張るマリアに対して、ドラコの方は思わず拍子抜けしてしまった。
「えっ……と、特別な技術というのは、魔法ではなく、デザイン、ですか?」
「そうです!ですがあくまで私はお嬢様に似合うものをお作りしているだけ。みなさんがお嬢様を褒めてくださるのは、お嬢様自身が魅力的だからという他に説明のしようがありません」
「はあ、成る程」ドラコはマリアの溺愛っぷりに呆れて生返事をしたが、彼女はにこやかだった。
「ドラコ様も、お嬢様を目の前にして思わず褒めたくなったのでは?」
それを聞いて彼は思わずドキリとした。つい先程の自分がその言葉のどおりの感情をフォーラに伝えていたことや、セオドールが本当に珍しく歯の浮くような台詞を気持ちそのままに放ったこと。それ以外の来客も恐らくフォーラを本心から褒め、愛でていた。それらを思い出した上で改めて目の前のマリアを見てみると、彼女はまるでそうなることを最初から知っていたかのようだった。
「……あなたは、彼女のことを大事にしているんですね」
「ええ、勿論です。ドレスについてはお嬢様がより綺麗に見えるよう一つ一つ丁寧に気持ちを込めて作っていますから、そこには確実に私の想いが詰まっています。もしかすると知らないうちに、ドラコ様がおっしゃるような魔法の一つくらいは掛かっているのかもしれませんね」
冗談っぽくそう言ったマリアに、ドラコは根負けして思わず微笑んだ。彼女はドラコが予想したような罠めいたことなど、何一つしているつもりも無さそうだったから。
「……フォーラはいつも以上に綺麗でしたよ。口に出すつもりがなくても、うっかり褒めてしまうくらいには」
ドラコはほんの少し寂しげにそう言い残してマリアに軽く会釈をすると、その場を離れていってしまった。
(まあ。)
残されたマリアはドラコが立ち去るのを見届けながら、心の中で感嘆の声を漏らした。
(『いつも以上に』だなんて。ふふ。それは日頃もそう思っていらっしゃるということかしら。……お嬢様。どうやらドラコ様も、普段から十分お嬢様を大事に想っているようですよ。今は様々な何かの事情で上手く歯車が回っていなくても、きっと悪いようにはならない筈です。彼を見ていて、私はそんな予感がしたんです)
「あらドラコ様、メリークリスマス。こんなところにおひとりで、どうかなさいましたか?」
「……ああ、マリアさん。お久しぶりです。いやその、少し気分が優れなくて。でもたいしたことはないんです」
「人混みでお疲れになってしまったのかもしれませんね。それでしたら何か飲みやすいものでもお持ち致しましょうか?」
「いえ、本当に大丈夫です。外で少し雪でも眺めれば気が紛れそうなので」
「分かりました。外は冷えますから、あまり無理なさらないでくださいね。何かあればいつでもおっしゃってください」
マリアはドラコに微笑むと、広間の扉に手をかけた。ドラコはその様子を何気なく見つめながら、先程フォーラが身に纏っていたドレスを自然と思い浮かべていた。
「マリアさん」ドラコは気付いた時には彼女を呼び止めていた。彼女が振り返ってどうしたのかと尋ねると、ドラコはほんの少しの戸惑いを覗かせた後で質問した。
「フォーラが着ていたドレスは、貴女が仕立てたのですか」
マリアはそれを聞いて誇らしそうな笑顔で頷いた。
「ええ、勿論です!今年も力作ですよ。お嬢様、とっても似合われていたでしょう」
「あー、ええ、そうですね……。それであのドレスには何か……特別な技術でも取り入れていますか?例えば―――何か魔法が掛かっていたりとか、そういうことですが」
ドラコは先程フォーラの目の前で情緒不安定になり、彼女を褒めるような思わぬ発言をしたり、心配するような言葉が口を突いて出たりした。しかしそれが自分の意思によって発されたとは考えていなかった。となると、色々と考察した結果、彼女のドレスに何か仕掛けがある可能性は捨てきれないと思ったのだ。
「まあ!よくお分かりになりましたね」
マリアが嬉しそうに手を合わせて明るい笑顔を向けてきたものだから、ドラコは一か八かの感が当たって驚いていた。
「それって、一体どのような?」
「お嬢様の魅力が最大限に引き出せるデザインにしているんです!この私の、裁縫に長けた手で!」
自信満々に胸を張るマリアに対して、ドラコの方は思わず拍子抜けしてしまった。
「えっ……と、特別な技術というのは、魔法ではなく、デザイン、ですか?」
「そうです!ですがあくまで私はお嬢様に似合うものをお作りしているだけ。みなさんがお嬢様を褒めてくださるのは、お嬢様自身が魅力的だからという他に説明のしようがありません」
「はあ、成る程」ドラコはマリアの溺愛っぷりに呆れて生返事をしたが、彼女はにこやかだった。
「ドラコ様も、お嬢様を目の前にして思わず褒めたくなったのでは?」
それを聞いて彼は思わずドキリとした。つい先程の自分がその言葉のどおりの感情をフォーラに伝えていたことや、セオドールが本当に珍しく歯の浮くような台詞を気持ちそのままに放ったこと。それ以外の来客も恐らくフォーラを本心から褒め、愛でていた。それらを思い出した上で改めて目の前のマリアを見てみると、彼女はまるでそうなることを最初から知っていたかのようだった。
「……あなたは、彼女のことを大事にしているんですね」
「ええ、勿論です。ドレスについてはお嬢様がより綺麗に見えるよう一つ一つ丁寧に気持ちを込めて作っていますから、そこには確実に私の想いが詰まっています。もしかすると知らないうちに、ドラコ様がおっしゃるような魔法の一つくらいは掛かっているのかもしれませんね」
冗談っぽくそう言ったマリアに、ドラコは根負けして思わず微笑んだ。彼女はドラコが予想したような罠めいたことなど、何一つしているつもりも無さそうだったから。
「……フォーラはいつも以上に綺麗でしたよ。口に出すつもりがなくても、うっかり褒めてしまうくらいには」
ドラコはほんの少し寂しげにそう言い残してマリアに軽く会釈をすると、その場を離れていってしまった。
(まあ。)
残されたマリアはドラコが立ち去るのを見届けながら、心の中で感嘆の声を漏らした。
(『いつも以上に』だなんて。ふふ。それは日頃もそう思っていらっしゃるということかしら。……お嬢様。どうやらドラコ様も、普段から十分お嬢様を大事に想っているようですよ。今は様々な何かの事情で上手く歯車が回っていなくても、きっと悪いようにはならない筈です。彼を見ていて、私はそんな予感がしたんです)