10. 二つの顔
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フォーラがドラコの差し出した手を取って次に瞬きをすると、今度の彼女は変わらず幼い姿のまま、ドラコの部屋の大きなベッドに二人してパジャマ姿で寝転がっていた。暗がりの中でぼんやりと隣を見やると、彼はこちらに横向きになって小さく寝息を立てていた。
「……フォーラ……、僕がついてるから、大丈夫……」
突然のドラコの声に驚いたが、それが寝言だと分かるとフォーラは思わず微笑んだ。そして彼の手と自分の手が軽く握り合っていることにホッとして、そのまま眠りに落ちた。
そこから目が覚めて辺りを見渡すと、フォーラは自宅の広間でドラコと向かい合って立っていた。今度の二人は先程よりも幾らか成長していたし、パジャマではなく普段着姿だった。フォーラの両親がお手本になってダンスを踊り、それをフォーラとドラコが真似ながら手を取り合ってステップを踏んだ。
「ふふ、私、この曲で踊るのが大好き。」
「僕もだ。もしかしなくても、僕らの息はピッタリじゃないか?」
「きっとそうだわ。でも、人前で踊るのはまだ緊張しちゃう……。」
「僕らなら大丈夫さ。こんなに上手く踊れてる」
「ええ、きっとそのとおりね。」
フォーラとドラコの繋いだ片手が高く上がり、彼女がクルッと一回転した。そして、身体が元の向きに戻ると同時に彼女の瞳に映ったのは、マルフォイ邸の庭と、ホグワーツに入学するほんの少し前の頃のドラコ、そして彼の両親と彼女の両親の姿だった。ドラコの十一歳の誕生日のお祝いとして、ささやかなガーデンパーティーが開かれていたのだ。フォーラもドラコも楽しそうに笑い合っていて、この頃にはもう二人とも、すぐ向こうにある薔薇園で幼い頃に結婚の約束をしたことなんてすっかり忘れてしまっていた。
フォーラが綺麗にラッピングされたプレゼントを照れた様子でドラコに差し出すと、彼はパッと明るい顔になって彼女の方を見た。そして嬉しさのあまりプレゼントを彼女の手ごと両手で包み込むと、「ありがとう」と満面の笑みを向けたのだった。
そこからは走馬灯のようにホグワーツに入学して以降のドラコとの思い出が流れていった。そして、そのどれもがフォーラにとってかけがえのないものばかりで、その度にいつも彼が自分の手を取ってくれていた。
フォーラは夢の中で学年を重ねていくにつれ、無意識のうちにこの夢が何処かで止まってしまえばいいと思った。しかし残念ながら意思どおりにはならなかった。
目の前の光景はいつだったか学校の中庭で見た満天の星空と、夜に輝く鮮やかな群青色の二つの瞳を映し出していた。この夢の中でこの瞬間だけは、フォーラはドラコと手を取り合うことはなかった。気が付けば彼女の肩は彼の頭の重みを感じており、彼の震える両腕は彼女をぎゅっと抱き締めていた。
フォーラがこれまで何度もこの光景を思い浮かべてきたとおり、やっぱりドラコの声はかすれていた。
「……好きだ。本当に、好きだったんだ……」
フォーラは今自分が見てきた幼い姿を含む一連の光景が、夢というよりも寧ろ過去の出来事を映していたという方がしっくりくることに自然と気付いていた。しかし次に場面が変わった時、彼女はアンブリッジが授業をする教室でドラコの手ずから防衛術を教わっていた。今まで見たものは確かに過去に起こった事のようだったが、今の彼は自分と気まずい関係にある筈なのに、杖を握っている右手に触れてくれている。こんな状況になった記憶は一切なかったし、そもそもアンブリッジの授業で杖を振るなんて言語道断だ。それに、今のドラコがこんな風にこちらを見ることだって―――。
その途端にフォーラはベッドの上で目を覚ました。彼女は真夜中の暗がりで殆ど何も見えない中、ぼんやりと自身の右手を見つめた。先程最後に見た光景が……自身の杖を持つ右手をドラコが握っていたという状況が、やはり実際に起こったことではないと理解するのにそう時間は掛からなかった。きっと、今日行われた防衛術の黙読の授業の後、廊下でドラコの前に立った際に感じた右手のよく分からない熱感のせいで、自身の願望が夢となって出てきてしまったのだろう。彼が何度も手を取ってくれていた頃を懐かしむように。
フォーラは先程見た夢をきっかけに過去を思い返せば思い返す程、本当に小さい頃からドラコは自分に手を差し伸べ一緒にいてくれたのだと実感していた。そして逆に、彼女の方から彼に手を差し伸べた時の記憶も自然と思い出された。直近の記憶で浮かんだのは昨年行われた三大魔法学校対抗試合の頃で、本来は代表選手になれない筈のハリーが選ばれてしまい、あの頃のドラコは嫉妬で心が荒れていた。しかしフォーラが寄り添ったことで彼は彼女にだけ正直な心の内を明かし、気持ちを切り替えていったのだった。
思えばあの時だけでなく、ドラコが強がって意地を張っている時はいつもフォーラが彼の気持ちをほぐしてきた。そういった彼の弱さの拠り所が彼女『だった』ことをかつての彼も認めてくれていた。
フォーラがそれらの経験からふと感じたこととして、最近のドラコが横柄 な態度で羽目を外し過ぎているのは、彼が何かに気を張って強がっている現れなのでは?と思った。それが的外れな可能性は否定できないが、彼女としては自身の心が鳴らしている警鐘に耳を傾けた方が良さそうな気がした。
(この違和感が当たっている可能性が少しでもあるのなら、やっぱり私はドラコの手を取りたいわ。だって彼は今まで何度も私の手を取ってくれていたんだもの。もしかしたら少しは彼の気分が晴れるきっかけを作れるかもしれないし……。それに、今の彼がどれだけ私を避けていたとしても、私は過去の自分たちの思い出をなかったことにはさせないわ)
ドラコの態度の根底にもし『例のあの人』が関わっているとしたら、尚更彼を放ってはおけない。フォーラはその想いを胸に、最近のドラコが周囲に振り撒く大きな態度や、彼女自身に向けてくる冷たさへの戸惑いを薙ぎ払ったのだった。
「……フォーラ……、僕がついてるから、大丈夫……」
突然のドラコの声に驚いたが、それが寝言だと分かるとフォーラは思わず微笑んだ。そして彼の手と自分の手が軽く握り合っていることにホッとして、そのまま眠りに落ちた。
そこから目が覚めて辺りを見渡すと、フォーラは自宅の広間でドラコと向かい合って立っていた。今度の二人は先程よりも幾らか成長していたし、パジャマではなく普段着姿だった。フォーラの両親がお手本になってダンスを踊り、それをフォーラとドラコが真似ながら手を取り合ってステップを踏んだ。
「ふふ、私、この曲で踊るのが大好き。」
「僕もだ。もしかしなくても、僕らの息はピッタリじゃないか?」
「きっとそうだわ。でも、人前で踊るのはまだ緊張しちゃう……。」
「僕らなら大丈夫さ。こんなに上手く踊れてる」
「ええ、きっとそのとおりね。」
フォーラとドラコの繋いだ片手が高く上がり、彼女がクルッと一回転した。そして、身体が元の向きに戻ると同時に彼女の瞳に映ったのは、マルフォイ邸の庭と、ホグワーツに入学するほんの少し前の頃のドラコ、そして彼の両親と彼女の両親の姿だった。ドラコの十一歳の誕生日のお祝いとして、ささやかなガーデンパーティーが開かれていたのだ。フォーラもドラコも楽しそうに笑い合っていて、この頃にはもう二人とも、すぐ向こうにある薔薇園で幼い頃に結婚の約束をしたことなんてすっかり忘れてしまっていた。
フォーラが綺麗にラッピングされたプレゼントを照れた様子でドラコに差し出すと、彼はパッと明るい顔になって彼女の方を見た。そして嬉しさのあまりプレゼントを彼女の手ごと両手で包み込むと、「ありがとう」と満面の笑みを向けたのだった。
そこからは走馬灯のようにホグワーツに入学して以降のドラコとの思い出が流れていった。そして、そのどれもがフォーラにとってかけがえのないものばかりで、その度にいつも彼が自分の手を取ってくれていた。
フォーラは夢の中で学年を重ねていくにつれ、無意識のうちにこの夢が何処かで止まってしまえばいいと思った。しかし残念ながら意思どおりにはならなかった。
目の前の光景はいつだったか学校の中庭で見た満天の星空と、夜に輝く鮮やかな群青色の二つの瞳を映し出していた。この夢の中でこの瞬間だけは、フォーラはドラコと手を取り合うことはなかった。気が付けば彼女の肩は彼の頭の重みを感じており、彼の震える両腕は彼女をぎゅっと抱き締めていた。
フォーラがこれまで何度もこの光景を思い浮かべてきたとおり、やっぱりドラコの声はかすれていた。
「……好きだ。本当に、好きだったんだ……」
フォーラは今自分が見てきた幼い姿を含む一連の光景が、夢というよりも寧ろ過去の出来事を映していたという方がしっくりくることに自然と気付いていた。しかし次に場面が変わった時、彼女はアンブリッジが授業をする教室でドラコの手ずから防衛術を教わっていた。今まで見たものは確かに過去に起こった事のようだったが、今の彼は自分と気まずい関係にある筈なのに、杖を握っている右手に触れてくれている。こんな状況になった記憶は一切なかったし、そもそもアンブリッジの授業で杖を振るなんて言語道断だ。それに、今のドラコがこんな風にこちらを見ることだって―――。
その途端にフォーラはベッドの上で目を覚ました。彼女は真夜中の暗がりで殆ど何も見えない中、ぼんやりと自身の右手を見つめた。先程最後に見た光景が……自身の杖を持つ右手をドラコが握っていたという状況が、やはり実際に起こったことではないと理解するのにそう時間は掛からなかった。きっと、今日行われた防衛術の黙読の授業の後、廊下でドラコの前に立った際に感じた右手のよく分からない熱感のせいで、自身の願望が夢となって出てきてしまったのだろう。彼が何度も手を取ってくれていた頃を懐かしむように。
フォーラは先程見た夢をきっかけに過去を思い返せば思い返す程、本当に小さい頃からドラコは自分に手を差し伸べ一緒にいてくれたのだと実感していた。そして逆に、彼女の方から彼に手を差し伸べた時の記憶も自然と思い出された。直近の記憶で浮かんだのは昨年行われた三大魔法学校対抗試合の頃で、本来は代表選手になれない筈のハリーが選ばれてしまい、あの頃のドラコは嫉妬で心が荒れていた。しかしフォーラが寄り添ったことで彼は彼女にだけ正直な心の内を明かし、気持ちを切り替えていったのだった。
思えばあの時だけでなく、ドラコが強がって意地を張っている時はいつもフォーラが彼の気持ちをほぐしてきた。そういった彼の弱さの拠り所が彼女『だった』ことをかつての彼も認めてくれていた。
フォーラがそれらの経験からふと感じたこととして、最近のドラコが
(この違和感が当たっている可能性が少しでもあるのなら、やっぱり私はドラコの手を取りたいわ。だって彼は今まで何度も私の手を取ってくれていたんだもの。もしかしたら少しは彼の気分が晴れるきっかけを作れるかもしれないし……。それに、今の彼がどれだけ私を避けていたとしても、私は過去の自分たちの思い出をなかったことにはさせないわ)
ドラコの態度の根底にもし『例のあの人』が関わっているとしたら、尚更彼を放ってはおけない。フォーラはその想いを胸に、最近のドラコが周囲に振り撒く大きな態度や、彼女自身に向けてくる冷たさへの戸惑いを薙ぎ払ったのだった。