18. 特別な君②
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その後ドラコは課題の難問を解く為、暫く机の上の羊皮紙に集中していた。そして三十分は経っただろうか、ようやく回答を書き終えた頃、彼の前方に背を向けて座っていた女子生徒二人が、何やら窓から外を覗き込むようにしながら小さく声を上げた。
「ねえ、見て。あのあたりだけ色が違うわ」
「本当、すごーい!誰かいるみたいだけど、あの人が何かしてるのかしら?あそこだけ春が来たみたい」
ドラコは前方の二人を見て片眉を軽く吊り上げた。恐らくフォーラのことを言っているのだろうが……。彼は『どうせ先程と同じような光景が広がっているのだろう』と思いながら、軽く視線を窓の外へ向けた。
「!?」
ドラコは思わずガタッと椅子を倒しそうになる程の勢いで立ち上がった。先程までは、フォーラがいた場所は寒さで元気のない茶色い芝生で覆われていて、彼女の足元に少しばかり何やら異なる色見が確認できる程度だった。
しかし今はどうだろう。ドラコの目に飛び込んできたのは、フォーラのいる辺りから半径五十メートル程の円を描くようにして、一面が色とりどりの鮮やかさで覆いつくされている光景だった。良く目を凝らして見ると、その鮮やかさの正体が小さな花の集まりであることが分かった。
花の円は尚もその範囲を少しずつ広げていた。そして更に花の群生が半径十メートルは広がったかと思われた時、不意にフォーラの姿が花畑の中に倒れていった。彼女の身体が地面にドサリと完全に倒れこんだのと同時に、彼女の周囲で花びらが幾つも舞い上がった。そしてようやく花の群生は増殖をストップした。
「あの人、大丈夫かな?」先程の女子生徒が言った。
「分からないわ。だけどあれだけ綺麗な場所だし、思わず飛び込んでみたくなっただけかも?」
「後で行ってみない?」
今のドラコには彼女たちの話し声など耳に入らなかった。彼は頭で考えるよりも先に身体が動き、机に広げていた羊皮紙や本、羽ペンを急いでかき集めて鞄にねじ込んでいた。そして背もたれにかけていたローブを着る間もなく引っ掴んだ。
ドラコが走って図書室を横切り出口に向かったものだから、彼の後ろで司書のマダム・ピンスの怒号が飛んできた。しかしドラコが彼女の怒りの声を聞き終えることはなかった。彼はとっくに図書室を後にしていて、廊下を駆け抜ける速さときたら、すれ違う人々が思わず彼を振り返る程だった。
その間ドラコの頭を過ったのは、以前四階の端の使われていない筈の部屋で、フォーラが一人気を失って倒れていたのをドラコが見つけた時のことだった。あの時の彼女は、確か難易度の高い変身術を練習していた様子で、倒れた原因はどう見ても無理が祟ったからなのは明らかだった。
そして今、湖のほとりにいるフォーラは、あの時のように力尽きた結果倒れてしまったのでは?そして、今日もし自分が早々にフォーラの元へ出向いていたなら、こんなことにはならなかったのでは?
そう思うとドラコは不安で胸が押しつぶされそうだったし、無意識の内に更に脚は速まった。そして、それによって自身が随分息切れしていることも、冷たい空気と呼吸の乱れのせいで喉がカラカラになっていることにも気が付かない程、慌てていた。
「―――はあっ、はあっ」
(久しぶりに晴れたとはいえ、まだこんなに寒い外で地面に横たわっているなんて。前回は直ぐに彼女を助けられたが、今回は……。急がないと、フォーラがあっという間に凍えて―――)
ドラコは動く階段を駆け下り、人気の少ない冷えた玄関ホールを抜け、樫の大扉をくぐって校庭に出た。フォーラのいる場所は大扉の前からでも十分に分かった。花の群生がすぐ視認できる場所まで広がっていたからだ。
ドラコは花畑の中心に向かって再び走り出した―――そして彼が小さな花々を踏みしめる感覚に足を取られながら突き進むと、ようやく人が倒れている姿を視認した。その横たわる人影の側でドラコは足の動きを弱め、その顔をはっきりと見たのだった。
そこに倒れていたのはやはりフォーラだった。彼女は片手に杖を握ったまま、色とりどりの背の低い花に囲まれるようにして仰向けに横たわっており、その瞳を閉じて静かに呼吸をしていた。ドラコは一先ず彼女が息をしていることにホッと胸を撫で下ろした。恐らく眠ってしまっているのだろう。それに加え、幸い敷き詰められた花のお陰で地面は柔らかく、打ちどころが悪かった可能性は低いように感じられた。
少々落ち着きを取り戻したドラコは、改めてフォーラとその周りを視界に入れた。目の前の光景は先程の図書室の女子生徒が言っていたように、まるでフォーラの周りだけ一足先に春がやって来たようだった。そして何より彼女は、何か素敵な物語に登場しそうな程に、花に囲まれるのが本当に良く似合っていた。
ドラコは自分の鞄をその場に置き捨てて フォーラの側に屈みこんだ。そして彼女の上半身を抱き起したのだった。
「……、この花」
ふとドラコは足元に咲いている花に目を留めた。彼はこの花を見たことがあると思った。
「プリムローズ……」
この花はドラコにとって、良くも悪くもフォーラとの大切な思い出を容易に呼び起こさせた。去年の春、ドラコとフォーラは二人きりでホグズミード村に出掛け、村の外れで息をのむ程に美しいプリムローズの群生を見つけたのだ。
ひとけもなくあまりにも素敵な場所だったものだから、あの時のドラコはその雰囲気に任せ、フォーラが如何に特別な存在か伝えようとした。それはハリーたちの出現で失敗に終わったものの、ドラコからすればあの時のフォーラはほぼ確実に、自分と同じ気持ちでいてくれたと感じていた。
しかし、その後暫くしてドラコはフォーラに振られることになった。それだからプリムローズの群生の中を二人で過ごした幸せな思い出は、彼の身を酷く焦がしたのだった。
「ねえ、見て。あのあたりだけ色が違うわ」
「本当、すごーい!誰かいるみたいだけど、あの人が何かしてるのかしら?あそこだけ春が来たみたい」
ドラコは前方の二人を見て片眉を軽く吊り上げた。恐らくフォーラのことを言っているのだろうが……。彼は『どうせ先程と同じような光景が広がっているのだろう』と思いながら、軽く視線を窓の外へ向けた。
「!?」
ドラコは思わずガタッと椅子を倒しそうになる程の勢いで立ち上がった。先程までは、フォーラがいた場所は寒さで元気のない茶色い芝生で覆われていて、彼女の足元に少しばかり何やら異なる色見が確認できる程度だった。
しかし今はどうだろう。ドラコの目に飛び込んできたのは、フォーラのいる辺りから半径五十メートル程の円を描くようにして、一面が色とりどりの鮮やかさで覆いつくされている光景だった。良く目を凝らして見ると、その鮮やかさの正体が小さな花の集まりであることが分かった。
花の円は尚もその範囲を少しずつ広げていた。そして更に花の群生が半径十メートルは広がったかと思われた時、不意にフォーラの姿が花畑の中に倒れていった。彼女の身体が地面にドサリと完全に倒れこんだのと同時に、彼女の周囲で花びらが幾つも舞い上がった。そしてようやく花の群生は増殖をストップした。
「あの人、大丈夫かな?」先程の女子生徒が言った。
「分からないわ。だけどあれだけ綺麗な場所だし、思わず飛び込んでみたくなっただけかも?」
「後で行ってみない?」
今のドラコには彼女たちの話し声など耳に入らなかった。彼は頭で考えるよりも先に身体が動き、机に広げていた羊皮紙や本、羽ペンを急いでかき集めて鞄にねじ込んでいた。そして背もたれにかけていたローブを着る間もなく引っ掴んだ。
ドラコが走って図書室を横切り出口に向かったものだから、彼の後ろで司書のマダム・ピンスの怒号が飛んできた。しかしドラコが彼女の怒りの声を聞き終えることはなかった。彼はとっくに図書室を後にしていて、廊下を駆け抜ける速さときたら、すれ違う人々が思わず彼を振り返る程だった。
その間ドラコの頭を過ったのは、以前四階の端の使われていない筈の部屋で、フォーラが一人気を失って倒れていたのをドラコが見つけた時のことだった。あの時の彼女は、確か難易度の高い変身術を練習していた様子で、倒れた原因はどう見ても無理が祟ったからなのは明らかだった。
そして今、湖のほとりにいるフォーラは、あの時のように力尽きた結果倒れてしまったのでは?そして、今日もし自分が早々にフォーラの元へ出向いていたなら、こんなことにはならなかったのでは?
そう思うとドラコは不安で胸が押しつぶされそうだったし、無意識の内に更に脚は速まった。そして、それによって自身が随分息切れしていることも、冷たい空気と呼吸の乱れのせいで喉がカラカラになっていることにも気が付かない程、慌てていた。
「―――はあっ、はあっ」
(久しぶりに晴れたとはいえ、まだこんなに寒い外で地面に横たわっているなんて。前回は直ぐに彼女を助けられたが、今回は……。急がないと、フォーラがあっという間に凍えて―――)
ドラコは動く階段を駆け下り、人気の少ない冷えた玄関ホールを抜け、樫の大扉をくぐって校庭に出た。フォーラのいる場所は大扉の前からでも十分に分かった。花の群生がすぐ視認できる場所まで広がっていたからだ。
ドラコは花畑の中心に向かって再び走り出した―――そして彼が小さな花々を踏みしめる感覚に足を取られながら突き進むと、ようやく人が倒れている姿を視認した。その横たわる人影の側でドラコは足の動きを弱め、その顔をはっきりと見たのだった。
そこに倒れていたのはやはりフォーラだった。彼女は片手に杖を握ったまま、色とりどりの背の低い花に囲まれるようにして仰向けに横たわっており、その瞳を閉じて静かに呼吸をしていた。ドラコは一先ず彼女が息をしていることにホッと胸を撫で下ろした。恐らく眠ってしまっているのだろう。それに加え、幸い敷き詰められた花のお陰で地面は柔らかく、打ちどころが悪かった可能性は低いように感じられた。
少々落ち着きを取り戻したドラコは、改めてフォーラとその周りを視界に入れた。目の前の光景は先程の図書室の女子生徒が言っていたように、まるでフォーラの周りだけ一足先に春がやって来たようだった。そして何より彼女は、何か素敵な物語に登場しそうな程に、花に囲まれるのが本当に良く似合っていた。
ドラコは自分の鞄をその場に置き捨てて フォーラの側に屈みこんだ。そして彼女の上半身を抱き起したのだった。
「……、この花」
ふとドラコは足元に咲いている花に目を留めた。彼はこの花を見たことがあると思った。
「プリムローズ……」
この花はドラコにとって、良くも悪くもフォーラとの大切な思い出を容易に呼び起こさせた。去年の春、ドラコとフォーラは二人きりでホグズミード村に出掛け、村の外れで息をのむ程に美しいプリムローズの群生を見つけたのだ。
ひとけもなくあまりにも素敵な場所だったものだから、あの時のドラコはその雰囲気に任せ、フォーラが如何に特別な存在か伝えようとした。それはハリーたちの出現で失敗に終わったものの、ドラコからすればあの時のフォーラはほぼ確実に、自分と同じ気持ちでいてくれたと感じていた。
しかし、その後暫くしてドラコはフォーラに振られることになった。それだからプリムローズの群生の中を二人で過ごした幸せな思い出は、彼の身を酷く焦がしたのだった。