17. 特別な君①
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ところでフォーラは先日の防衛術の教室を出てすぐの廊下で、確かにドラコが涙を流す姿を視界に捉えた。あの時彼女はその涙の理由を知らなかった。しかしその後間もなくして、例の雑誌にルシウスの名前が死喰い人として公表されたのを見て合点がいったようだった。
(ドラコはあの時既に、ルシウスさんの名があんな形で世間に知らしめられることを把握していたのかも。きっと、その手の打ちようがない状況に涙していたんだわ)
ルシウスを含む死喰い人の名が校内に広まってすぐ、フォーラは今日までの間ドラコに積極的な態度を見せるのを完全に止めていた。それは彼女が周囲の生徒のようにルシウスの噂を疑っていたからではない。何せ彼が死喰い人であることなど既に知っていたのだから。彼女は最近ドラコに好意を伝えようとしても毎回逃げられてしまう状況に頭を悩ませていた。それなら押してばかりいないで一旦引くことも必要ではないかと考えていた矢先、ザ・クィブラーが発刊されたのだ。
フォーラはあの雑誌を読んだ時、ドラコが他の生徒から疎 まれる可能性を強く感じていた。それが予想どおりになったものだから、周囲に便乗して静観する形でわざと彼から距離を置いたのだ。その後は先程のとおり、時を見計らって手を差し伸べたわけだが、彼がこちらを見る様子や態度からして、彼女は自身の取った行動に手ごたえを感じていた。
フォーラの行動は、事情を知っている人からすればわざとドラコを傷つけているようで、褒められたものではなかっただろう。しかし実際にその実状を知っているのは彼女だけだ。それに、耳も貸してくれない相手との距離を縮めるにはそうする他なかったのだ。彼女はどんな手を使ってもドラコとの仲を戻し、彼の知り得た情報や身に降りかかりそうな危険を把握できればそれでよかった。彼女が望むのはドラコを守りたいという想い、それだけだった。
変身術の授業が終わると、ドラコはようやく終業のチャイムが鳴って安堵した。そして早々に席を離れようと鞄に荷物を仕舞い込んで席から立ち上がろうとした。するとその時、隣の席のフォーラから一枚の折りたたまれたメモが差し伸べられたではないか。ドラコが驚いてパッと顔を向けると、彼女は既に荷造りを終えて椅子から立ち上がっていた。周囲の生徒たちのお喋りによる喧騒とは対照的に、彼女は一言も発することなく静かにドラコを見つめて物寂しく微笑みかけていた。
ドラコが言葉を探していると、フォーラはそのまま教室から立ち去ってしまった。ドラコは思わずその後ろ姿を追いかけようとしたが、周囲に人の目があったため次第に冷静さを取り戻した。そして自分を自制できたことに安堵のため息を吐き、机に残ったメモを拾い上げたのだった。
(一体、何だっていうんだ)
『ドラコへ
突然手紙を書いてごめんなさい。ずっと貴方に伝えたい大事な話があって、だけどいつも声を掛けると逃げられてばかりだったから、もう手紙を渡すしかないと思ったの。
今週末の土曜日、十四時に、校庭の湖のほとりに来てもらえないかしら。貴方はきっと来たくないと思うけれど、日没までの時間、貴方を待つことをどうか許して。
もしドラコが現れなければ、貴方を追いかけるのはもう諦めるわ』
ドラコは予想外の内容に何度もそのメモに視線を走らせた。これまでフォーラと距離を置かなければと思いつつも、頻繁に彼女が話し掛けてくれて心の中では相当喜んでいた。しかし避け続けていれば、そのような心地よくもつらく苦しい時間がいつか終わりを迎えるのは当然だった。そしてドラコは、とうとうその時が来たのだと思った。
『もしドラコが現れなければ、貴方を追いかけるのはもう諦めるわ。』
ドラコは無意識にその部分をじっと見つめた。
(フォーラは僕がずっと避け続けていた理由も分からずに、相当つらかっただろうに。こんなにも嫌な奴である僕に、それでも何度も気持ちを伝えようとするなんて。……『諦める』、か……。フォーラは僕が会いに行かなければ、今後完全に距離を置くつもりなんだろう。つまり、きっとこれが彼女からの好意を聞ける最後の機会だ。だけどそんな話は耳に入れない方がいいに決まっている。父上の教えを守っていれば、結果的にフォーラは『死喰い人の息子である僕』と関わらずに済むんだから。それなら僕が取る行動は一つだろう?最初から彼女の元へ行かず、その好意を受け入れないことだ。これから始まるかもしれない父上たちの戦いに彼女を巻き込みたくない。それに、いつか僕が彼女から離れるかもしれないつらさを、お互いから少しでも払拭しておきたいんだ)
「ドラコ」
「!」ドラコは不意に名前を呼ばれ、咄嗟にメモから顔を上げた。声の主はセオドールで、すぐそばにクラッブとゴイルの姿もあった。
「どうしたんだ?談話室に戻ろう」セオドールが言った。
「あ、ああ」ドラコはすぐさまフォーラからのメモをポケットに仕舞い、少々焦りつつも立ち上がった。そしてセオドールが授業前のブレーズが腹立たしかったと文句を垂れる姿をぼんやりと眺めたのだった。
(土曜まで、あと五日か……)
(ドラコはあの時既に、ルシウスさんの名があんな形で世間に知らしめられることを把握していたのかも。きっと、その手の打ちようがない状況に涙していたんだわ)
ルシウスを含む死喰い人の名が校内に広まってすぐ、フォーラは今日までの間ドラコに積極的な態度を見せるのを完全に止めていた。それは彼女が周囲の生徒のようにルシウスの噂を疑っていたからではない。何せ彼が死喰い人であることなど既に知っていたのだから。彼女は最近ドラコに好意を伝えようとしても毎回逃げられてしまう状況に頭を悩ませていた。それなら押してばかりいないで一旦引くことも必要ではないかと考えていた矢先、ザ・クィブラーが発刊されたのだ。
フォーラはあの雑誌を読んだ時、ドラコが他の生徒から
フォーラの行動は、事情を知っている人からすればわざとドラコを傷つけているようで、褒められたものではなかっただろう。しかし実際にその実状を知っているのは彼女だけだ。それに、耳も貸してくれない相手との距離を縮めるにはそうする他なかったのだ。彼女はどんな手を使ってもドラコとの仲を戻し、彼の知り得た情報や身に降りかかりそうな危険を把握できればそれでよかった。彼女が望むのはドラコを守りたいという想い、それだけだった。
変身術の授業が終わると、ドラコはようやく終業のチャイムが鳴って安堵した。そして早々に席を離れようと鞄に荷物を仕舞い込んで席から立ち上がろうとした。するとその時、隣の席のフォーラから一枚の折りたたまれたメモが差し伸べられたではないか。ドラコが驚いてパッと顔を向けると、彼女は既に荷造りを終えて椅子から立ち上がっていた。周囲の生徒たちのお喋りによる喧騒とは対照的に、彼女は一言も発することなく静かにドラコを見つめて物寂しく微笑みかけていた。
ドラコが言葉を探していると、フォーラはそのまま教室から立ち去ってしまった。ドラコは思わずその後ろ姿を追いかけようとしたが、周囲に人の目があったため次第に冷静さを取り戻した。そして自分を自制できたことに安堵のため息を吐き、机に残ったメモを拾い上げたのだった。
(一体、何だっていうんだ)
『ドラコへ
突然手紙を書いてごめんなさい。ずっと貴方に伝えたい大事な話があって、だけどいつも声を掛けると逃げられてばかりだったから、もう手紙を渡すしかないと思ったの。
今週末の土曜日、十四時に、校庭の湖のほとりに来てもらえないかしら。貴方はきっと来たくないと思うけれど、日没までの時間、貴方を待つことをどうか許して。
もしドラコが現れなければ、貴方を追いかけるのはもう諦めるわ』
ドラコは予想外の内容に何度もそのメモに視線を走らせた。これまでフォーラと距離を置かなければと思いつつも、頻繁に彼女が話し掛けてくれて心の中では相当喜んでいた。しかし避け続けていれば、そのような心地よくもつらく苦しい時間がいつか終わりを迎えるのは当然だった。そしてドラコは、とうとうその時が来たのだと思った。
『もしドラコが現れなければ、貴方を追いかけるのはもう諦めるわ。』
ドラコは無意識にその部分をじっと見つめた。
(フォーラは僕がずっと避け続けていた理由も分からずに、相当つらかっただろうに。こんなにも嫌な奴である僕に、それでも何度も気持ちを伝えようとするなんて。……『諦める』、か……。フォーラは僕が会いに行かなければ、今後完全に距離を置くつもりなんだろう。つまり、きっとこれが彼女からの好意を聞ける最後の機会だ。だけどそんな話は耳に入れない方がいいに決まっている。父上の教えを守っていれば、結果的にフォーラは『死喰い人の息子である僕』と関わらずに済むんだから。それなら僕が取る行動は一つだろう?最初から彼女の元へ行かず、その好意を受け入れないことだ。これから始まるかもしれない父上たちの戦いに彼女を巻き込みたくない。それに、いつか僕が彼女から離れるかもしれないつらさを、お互いから少しでも払拭しておきたいんだ)
「ドラコ」
「!」ドラコは不意に名前を呼ばれ、咄嗟にメモから顔を上げた。声の主はセオドールで、すぐそばにクラッブとゴイルの姿もあった。
「どうしたんだ?談話室に戻ろう」セオドールが言った。
「あ、ああ」ドラコはすぐさまフォーラからのメモをポケットに仕舞い、少々焦りつつも立ち上がった。そしてセオドールが授業前のブレーズが腹立たしかったと文句を垂れる姿をぼんやりと眺めたのだった。
(土曜まで、あと五日か……)