17. 特別な君①
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さて、バレンタイン当日にフォーラたち女子三人は揃って外出した。ホグズミード村に到着して少々驚いたのは、村の何処にもディメンターの姿がないことだった。三年生の頃にシリウス・ブラックがアズカバンから脱獄した際は、監視役であるディメンターが学校の周りや村を数多く徘徊していた。今回の集団脱獄も相当重大な事件なのにおかしな話だ。
「ディメンターって、離れたところからでも見ているだけで本当にゾッとするから、いないならそれはそれで良かったけど……」
ルニーが言葉を漏らし、それには他の二人も同意見だった。しかし学校側が外出を許可したということは別の形の警備が行われているに違いない。三人はそのように結論付け、兎に角休日を楽しむ方に意識を向けたのだった。
ところでこの日はバレンタインということで、村の散策を楽しむ生徒の中にカップルを頻繁に見かけた。その影響もあって三人の話題はパンジーの遠距離恋愛中の恋人の話になったり、ルニーが以前ホグズミードに一緒に出掛けたレイブンクローの三年生の話になったりした。そして、最近今までに増してフォーラが様々な人から好意を寄せられているという話題に移った時、三人が曲がり角を過ぎると、不意にパンジーが進行方向とは別の路地に男女が向かい合っているのを視界の端に捉えた。そしてそれがドラコとアマンダだと気付くのに時間はかからなかった。
「ちょっ……二人とも!」
パンジーは小声で叫びながら反射的にフォーラとルニーを引き留め、物陰に隠れさせた。二人がどうしたのかと尋ねると、パンジーは「シーッ!」と人差し指を二人の口元に当て、口をパクパクさせながらドラコたちの方を指差した。フォーラもルニーもその光景を目の当たりにして当然驚いた。そしてルニーが小声でパンジーに叱咤した。
「パンジー!フォーラもいるのに、わざわざこんな場面見せなくても!」
「ご、ごめんなさい!でもだって、あのまま歩いていたら私たちの存在に気付かれそうだったし、咄嗟に身体が動いて……!」
二人がそのようなことを話している間、フォーラはドラコたちの向かい合う姿を見たくない筈なのに、その状況から目を逸らすことができずにいた。視線の先にいるドラコとアマンダがその場に留まって見つめ合っていたからだ。その人気 のない空間で二人の雰囲気は何やら神妙だった。そしてフォーラが次に瞬きをした時、アマンダがドラコの肩に手を添え、つま先立ちをしたのだが、それがキスをするための動作だと瞬時に理解できた。パンジーとルニーもその光景を目の当たりにしていて、三人ともが固唾を飲んだ。
フォーラは二人の唇が触れ合う寸前のところで思わず固く目を閉じてしまった。そうしてそのまま固まっていると、不意に隣でルニーが「あれ……?」という声を漏らした。それをきっかけに瞳を開けてみると、そこには何とドラコがアマンダの肩を押さえ、彼女のキスを拒む姿があった。一方のアマンダは彼の行動にグッと下唇を噛んでいた。
「どうして……!?私たち付き合ってもう半年になるのに、まだ一度だってキスしたことがないのよ?」
つい先程までフォーラは、てっきりあの二人が恋人特有の甘い空気に包まれているものだと思っていた。しかしそうではなく、どうやら彼らは険悪な雰囲気かつ緊張感漂う状況にあるようだった。
アマンダの言葉にドラコは何も返事をしなかった。そのため彼女が不満をぶつけるようにして続けた。
「キスだけじゃないわ。スキンシップの一つもしてくれないじゃない。いつも私から手を繋いでばかり。私、貴方と恋人同士になれて嬉しかったのに、何か月もこんな調子でずっと我慢して……。私たち、本当に付き合っているの?」
アマンダが怒りをひとしきりぶつけ終えると、ようやくドラコが口を開いた。
「すまないスミス。最初から、僕は気安く君の好意を受け入れるべきじゃなかったみたいだ」
フォーラの所から見ても、その言葉にアマンダが小さく肩を震わせ、瞳に涙を浮かべているのが窺えた。
「……私、もう一つ不満があったのを思い出したわ。貴方って、未だに私をファーストネームで呼んでくれないのね」
少しの沈黙があった。アマンダはドラコが少しでも彼女の期待に沿う言葉を伝えてくれるのを待っているようだった。しかしドラコの返答はそのようなものではなく、辛辣 だった。
「ああ、僕はどうしても君を受け入れられなかったし、名前で呼ぶ努力もできない程に最低な奴だ。だから、君との関係はもうこれきりにしたい」
するとアマンダはワナワナと肩を震わせ、とうとう堪えていた涙を流した。
「ええ、本当に最低ね!気持ちが無いならもっと早くに振ってくれればよかったのに!どうして今まで先延ばしにしていたの……」
その質問にドラコは回答するのを少々躊躇っているようだったが、正直に答えた。
「もし君を好きになれれば、僕がずっと抱えていた苦しい感情を忘れられると思っていたんだ」
「そんな話、初めて聞いたわ。それが一体何なのか教えてはくれないのよね?それに、私じゃ役不足だったということ?」
「ああ」
アマンダはその短い回答にドラコの胸を押し退け、涙を拭いながら走り去ってしまった。残されたドラコは小さくため息を吐くと、彼女とは逆のフォーラたちがいる方向に歩みを進め始めた。フォーラたち三人はまさか彼がこちらに向かうとは想定しておらず、慌てふためいて間一髪のところで別の物陰に逃げ隠れた。そして彼が去って行ったのを確認すると、困惑した様子で互いに顔を見合わせたのだった。
それからの三人はホグズミードにあるパブ『三本の箒』で食事を摂りながら、先程偶然見てしまった光景について話し合った。
「あの話の流れで、ドラコが何に苦しんでいたか思い当たる事といったら」
ルニーがフォーラの方を見ながら言った。
「や、やっぱり私のことよね……?」
フォーラは少々自身なさげにパンジーとルニーを交互に見て、慎重に言葉を選びながら続けた。
「もしそうだったとして……。つまり、ドラコは私が彼の告白を断ったのを相当つらいと感じていたから、アマンダの告白を受け入れて私のことを忘れようとしていた……そういうこと?」
フォーラは言い終える頃には顔が真っ赤になっていて、自惚れのような言葉を口にしたのを後悔した。するとパンジーがその言葉を引き継いだ。
「ドラコの発言をそのまま受け取るなら、アマンダと付き合ったのはフォーラへの当てつけじゃなかったということになるわね。それにもっと言うなら、アマンダが役不足だったということは、ドラコは未だにその傷が癒えていないんだわ」
「となると」今度はルニーが続いた。「ドラコは今もフォーラを想ってるってことね?それなら、この間の談話室でフォーラにちょっかいをかけてたブレーズを魔法で追い払ったのは、やっぱりドラコだったに違いないわ」
「だけど、幾らまだ気持ちがあったとしても、彼がフォーラに日頃から八つ当たりみたいにしていた事実は消えないわ。まあ、それに関してはフォーラが以前言っていたように、ドラコに何か事情があった可能性も捨てきれないけど……」
「ディメンターって、離れたところからでも見ているだけで本当にゾッとするから、いないならそれはそれで良かったけど……」
ルニーが言葉を漏らし、それには他の二人も同意見だった。しかし学校側が外出を許可したということは別の形の警備が行われているに違いない。三人はそのように結論付け、兎に角休日を楽しむ方に意識を向けたのだった。
ところでこの日はバレンタインということで、村の散策を楽しむ生徒の中にカップルを頻繁に見かけた。その影響もあって三人の話題はパンジーの遠距離恋愛中の恋人の話になったり、ルニーが以前ホグズミードに一緒に出掛けたレイブンクローの三年生の話になったりした。そして、最近今までに増してフォーラが様々な人から好意を寄せられているという話題に移った時、三人が曲がり角を過ぎると、不意にパンジーが進行方向とは別の路地に男女が向かい合っているのを視界の端に捉えた。そしてそれがドラコとアマンダだと気付くのに時間はかからなかった。
「ちょっ……二人とも!」
パンジーは小声で叫びながら反射的にフォーラとルニーを引き留め、物陰に隠れさせた。二人がどうしたのかと尋ねると、パンジーは「シーッ!」と人差し指を二人の口元に当て、口をパクパクさせながらドラコたちの方を指差した。フォーラもルニーもその光景を目の当たりにして当然驚いた。そしてルニーが小声でパンジーに叱咤した。
「パンジー!フォーラもいるのに、わざわざこんな場面見せなくても!」
「ご、ごめんなさい!でもだって、あのまま歩いていたら私たちの存在に気付かれそうだったし、咄嗟に身体が動いて……!」
二人がそのようなことを話している間、フォーラはドラコたちの向かい合う姿を見たくない筈なのに、その状況から目を逸らすことができずにいた。視線の先にいるドラコとアマンダがその場に留まって見つめ合っていたからだ。その
フォーラは二人の唇が触れ合う寸前のところで思わず固く目を閉じてしまった。そうしてそのまま固まっていると、不意に隣でルニーが「あれ……?」という声を漏らした。それをきっかけに瞳を開けてみると、そこには何とドラコがアマンダの肩を押さえ、彼女のキスを拒む姿があった。一方のアマンダは彼の行動にグッと下唇を噛んでいた。
「どうして……!?私たち付き合ってもう半年になるのに、まだ一度だってキスしたことがないのよ?」
つい先程までフォーラは、てっきりあの二人が恋人特有の甘い空気に包まれているものだと思っていた。しかしそうではなく、どうやら彼らは険悪な雰囲気かつ緊張感漂う状況にあるようだった。
アマンダの言葉にドラコは何も返事をしなかった。そのため彼女が不満をぶつけるようにして続けた。
「キスだけじゃないわ。スキンシップの一つもしてくれないじゃない。いつも私から手を繋いでばかり。私、貴方と恋人同士になれて嬉しかったのに、何か月もこんな調子でずっと我慢して……。私たち、本当に付き合っているの?」
アマンダが怒りをひとしきりぶつけ終えると、ようやくドラコが口を開いた。
「すまないスミス。最初から、僕は気安く君の好意を受け入れるべきじゃなかったみたいだ」
フォーラの所から見ても、その言葉にアマンダが小さく肩を震わせ、瞳に涙を浮かべているのが窺えた。
「……私、もう一つ不満があったのを思い出したわ。貴方って、未だに私をファーストネームで呼んでくれないのね」
少しの沈黙があった。アマンダはドラコが少しでも彼女の期待に沿う言葉を伝えてくれるのを待っているようだった。しかしドラコの返答はそのようなものではなく、
「ああ、僕はどうしても君を受け入れられなかったし、名前で呼ぶ努力もできない程に最低な奴だ。だから、君との関係はもうこれきりにしたい」
するとアマンダはワナワナと肩を震わせ、とうとう堪えていた涙を流した。
「ええ、本当に最低ね!気持ちが無いならもっと早くに振ってくれればよかったのに!どうして今まで先延ばしにしていたの……」
その質問にドラコは回答するのを少々躊躇っているようだったが、正直に答えた。
「もし君を好きになれれば、僕がずっと抱えていた苦しい感情を忘れられると思っていたんだ」
「そんな話、初めて聞いたわ。それが一体何なのか教えてはくれないのよね?それに、私じゃ役不足だったということ?」
「ああ」
アマンダはその短い回答にドラコの胸を押し退け、涙を拭いながら走り去ってしまった。残されたドラコは小さくため息を吐くと、彼女とは逆のフォーラたちがいる方向に歩みを進め始めた。フォーラたち三人はまさか彼がこちらに向かうとは想定しておらず、慌てふためいて間一髪のところで別の物陰に逃げ隠れた。そして彼が去って行ったのを確認すると、困惑した様子で互いに顔を見合わせたのだった。
それからの三人はホグズミードにあるパブ『三本の箒』で食事を摂りながら、先程偶然見てしまった光景について話し合った。
「あの話の流れで、ドラコが何に苦しんでいたか思い当たる事といったら」
ルニーがフォーラの方を見ながら言った。
「や、やっぱり私のことよね……?」
フォーラは少々自身なさげにパンジーとルニーを交互に見て、慎重に言葉を選びながら続けた。
「もしそうだったとして……。つまり、ドラコは私が彼の告白を断ったのを相当つらいと感じていたから、アマンダの告白を受け入れて私のことを忘れようとしていた……そういうこと?」
フォーラは言い終える頃には顔が真っ赤になっていて、自惚れのような言葉を口にしたのを後悔した。するとパンジーがその言葉を引き継いだ。
「ドラコの発言をそのまま受け取るなら、アマンダと付き合ったのはフォーラへの当てつけじゃなかったということになるわね。それにもっと言うなら、アマンダが役不足だったということは、ドラコは未だにその傷が癒えていないんだわ」
「となると」今度はルニーが続いた。「ドラコは今もフォーラを想ってるってことね?それなら、この間の談話室でフォーラにちょっかいをかけてたブレーズを魔法で追い払ったのは、やっぱりドラコだったに違いないわ」
「だけど、幾らまだ気持ちがあったとしても、彼がフォーラに日頃から八つ当たりみたいにしていた事実は消えないわ。まあ、それに関してはフォーラが以前言っていたように、ドラコに何か事情があった可能性も捨てきれないけど……」