17. 特別な君①
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「悪いことをする生徒も、いたものですね……。」
フォーラが苦笑いをしながらそのように言うと、マダムは彼女を一瞥して手元の二冊を差し出した。どうやら、唯の古い雑誌を貸し出さない理由が見当たらなかった様子だ。
「貴女は大丈夫だと思いますが、本を汚したり、呪いをかけたりすることは許しません」
「はい、勿論です。」
フォーラはまだ疑わしげなマダムの視線から逃げるようにして図書室を足早に立ち去った。それにしても、何故先程のマダムの呪文でこの本は正体を現さなかったのだろう。自分が同じ呪文を唱えた時は、あんなにすんなりと本当の姿を現したというのに。
フォーラは人気のない廊下までやってくると、もう一度エメリアの本に呪文を唱えた。するとやはり先程と同様、彼女の本は白紙のページに『私の期待に応えられる魔力を持ったあなた。私を見つけてくれてありがとう。』という文字を浮かび上がらせた。そしてやはり先程同様、本当の中身を写し出したのだった。
(『私の期待に応えられる魔力を持ったあなた』……?それが少なくともマダムではないことは分かったけれど、……一先ず、私のことを言っていると思っても良い、のよね?)
この文面を見る限り、どうやら自分は今は亡きエメリアのお眼鏡に叶った内の一人らしい。理由は分からないにしろ、フォーラはこの不思議な著者の本に目を通す権利を、知らず知らずの内に得られたことを嬉しく思った。
それからのフォーラは四階の彼女の『秘密の部屋』に入るや否や、椅子に腰かけてテーブルにエメリアの本を広げた。そしてフォーラは最初のページから手早く全体のページに目を通し始めた。主に彼女が探したのは『魔法薬と同等の効果のある変身術』についてだった。より複雑な魔法薬の効果を杖だけで得られれば、自分の変身術は一層強力なものになるかもしれない。そしてそれが何か騎士団の役に立ち、最終的にドラコを『例のあの人』から引き離すことに繋げられるかもしれない。彼女はそのように考えていた。
フォーラは本に目を通す中で、エメリアの様々な変身術に関する記述が、どれも本当に斬新で魅力的であることにいたく感心していた。それだから、彼女は目当ての変身術が書かれたページを見つけるまでに随分時間がかかってしまった―――そこには、正に彼女自身が欲していた変身術があった。
フォーラが開いているページには『ポリジュース薬不要の変身』という記載があった。フォーラはその文字に思わずドキドキと心臓の鼓動を大きくさせた。彼女はポリジュース薬の材料が揃えられない状況で、これまで何度か『魔法でドラコの知っている誰かになれれば、彼と話をすることができるのに』と考えていた。その方法が恐らく目の前の書物に書かれている。そう思うと、彼女は学術的な興味も相まって期待感を高めていった。
フォーラはその内容にじっくりと視線を這わせた。まず彼女が理解したのは、この変身術はその名の通りポリジュース薬を飲まなくても、特定の誰かとそっくりに変身できる術―――それをエメリアが仮に『ポリジュースの呪文』と名付けたことだった。
次に書かれていたのは、その術を成功させるために必要な条件だった。どうやら準備として、幾つかの変身術を完璧にこなせるようになっておく必要があるようだ。
(必要なのは『目くらまし術』、『双子の呪文』、そして『人の変身』、この三つの呪文ね。目くらまし術―――身体全体を透明にするのはまだ安定しないけれど、この中なら比較的できる方だわ。
双子の呪文はまだ試したことがないのよね。確か、対象とそっくりの見た目の物を作り出す呪文だわ。
それから人の変身は、以前マクゴナガル先生に褒められたけれど……、自分をイメージ通りに変身させることがどれだけ難しいか。この呪文は変身術の中でも一・二を争うくらいに難易度が高かった筈。それを完璧にこなすとなると―――)
エメリア曰く、目くらまし術は自分の服を含めた身体全身に術をかける感覚を得る目的があり、双子の呪文は見た目を模倣する感覚を。そして人の変身は身体のパーツを変化させる感覚を得るために習得する必要があるとのことだった。
そしてそれらが完全に習得できれば、最後のステップだという。フォーラはその内容を読んで目を疑った。そこに書かれていたのは、変身したい相手の血がエスプレッソカップ一杯分も必要だということだった。変身術者はその血に呪文をかけ、そして飲み干さなければならない。あとは変身したい時に先程と同様の呪文―――『イミターティアス・セラム、模倣せよ』と唱えれば、いつでも血を提供した人物の姿になれるという。
(確かにポリジュース薬がなくても他人と全く同じになれるのは凄いことだけど、血なんて飲んだこともないし、それに……)
フォーラはエメリアの記述を読み進めていくうちに、どうして彼女の書いたこの本が忌み嫌われたのか、少しずつ理解した。
一つは『今日の変身』にもあったように、誰もこの魔法を再現できなかったということだ。習得すべき三つの変身術は、相当手練れの大人なら上手く扱えてもおかしくない筈なのに妙な話だ。
そしてもう一つは、やはり血を使わなければならない点だ。これまでフォーラは授業で学んだ魔法の中に、人の血を使うものを見た覚えが無かった。ドラゴンの血は高価な魔法薬の材料として使う例はあるが、きっと人の血を使うというのは闇の魔術に相当するに違いなかった。
そして最後に、フォーラとしてはこの魔法の最も恐ろしく魅力的な部分だと感じた点がある。それは、成りすましたい相手が死んでいようがなかろうが、その人物の血さえあれば血を採取した時の年齢のその人の姿に、いつでも変身できると謳われていることだった。しかも若かりし頃の自分の血を使うこともできるようで、魔法の効果は上手くいけば何と二~四年は持続するという。
フォーラはこの術に感心しつつも、一方で非常に危うい術だとも思った。それ程便利な術だからこそ、欲望に駆られた人間は術が成功するまで、何度でも相手や自分の血を採取するだろう。場合によっては相手を殺してまで血を得ようとするかもしれない。
加えてこの魔法には制約があり、自分が変身すれば、そのことを血の提供者も視覚的・感覚的に把握する仕掛けのようだった。そうなると、やはり悪巧みをしている魔法使いや魔女からすれば、血の提供者が生きているというのは厄介なことなのかもしれない。
フォーラはそのように読み進めていく内に、この本の記述があまりにも自分の手に余るものだと感じていった。最初こそ容易にいつでも他人になれる方法を見つけたと喜んでいた。しかし、闇の魔術と言っても過言ではない魔法に、戸惑いを隠せなかった。
フォーラが苦笑いをしながらそのように言うと、マダムは彼女を一瞥して手元の二冊を差し出した。どうやら、唯の古い雑誌を貸し出さない理由が見当たらなかった様子だ。
「貴女は大丈夫だと思いますが、本を汚したり、呪いをかけたりすることは許しません」
「はい、勿論です。」
フォーラはまだ疑わしげなマダムの視線から逃げるようにして図書室を足早に立ち去った。それにしても、何故先程のマダムの呪文でこの本は正体を現さなかったのだろう。自分が同じ呪文を唱えた時は、あんなにすんなりと本当の姿を現したというのに。
フォーラは人気のない廊下までやってくると、もう一度エメリアの本に呪文を唱えた。するとやはり先程と同様、彼女の本は白紙のページに『私の期待に応えられる魔力を持ったあなた。私を見つけてくれてありがとう。』という文字を浮かび上がらせた。そしてやはり先程同様、本当の中身を写し出したのだった。
(『私の期待に応えられる魔力を持ったあなた』……?それが少なくともマダムではないことは分かったけれど、……一先ず、私のことを言っていると思っても良い、のよね?)
この文面を見る限り、どうやら自分は今は亡きエメリアのお眼鏡に叶った内の一人らしい。理由は分からないにしろ、フォーラはこの不思議な著者の本に目を通す権利を、知らず知らずの内に得られたことを嬉しく思った。
それからのフォーラは四階の彼女の『秘密の部屋』に入るや否や、椅子に腰かけてテーブルにエメリアの本を広げた。そしてフォーラは最初のページから手早く全体のページに目を通し始めた。主に彼女が探したのは『魔法薬と同等の効果のある変身術』についてだった。より複雑な魔法薬の効果を杖だけで得られれば、自分の変身術は一層強力なものになるかもしれない。そしてそれが何か騎士団の役に立ち、最終的にドラコを『例のあの人』から引き離すことに繋げられるかもしれない。彼女はそのように考えていた。
フォーラは本に目を通す中で、エメリアの様々な変身術に関する記述が、どれも本当に斬新で魅力的であることにいたく感心していた。それだから、彼女は目当ての変身術が書かれたページを見つけるまでに随分時間がかかってしまった―――そこには、正に彼女自身が欲していた変身術があった。
フォーラが開いているページには『ポリジュース薬不要の変身』という記載があった。フォーラはその文字に思わずドキドキと心臓の鼓動を大きくさせた。彼女はポリジュース薬の材料が揃えられない状況で、これまで何度か『魔法でドラコの知っている誰かになれれば、彼と話をすることができるのに』と考えていた。その方法が恐らく目の前の書物に書かれている。そう思うと、彼女は学術的な興味も相まって期待感を高めていった。
フォーラはその内容にじっくりと視線を這わせた。まず彼女が理解したのは、この変身術はその名の通りポリジュース薬を飲まなくても、特定の誰かとそっくりに変身できる術―――それをエメリアが仮に『ポリジュースの呪文』と名付けたことだった。
次に書かれていたのは、その術を成功させるために必要な条件だった。どうやら準備として、幾つかの変身術を完璧にこなせるようになっておく必要があるようだ。
(必要なのは『目くらまし術』、『双子の呪文』、そして『人の変身』、この三つの呪文ね。目くらまし術―――身体全体を透明にするのはまだ安定しないけれど、この中なら比較的できる方だわ。
双子の呪文はまだ試したことがないのよね。確か、対象とそっくりの見た目の物を作り出す呪文だわ。
それから人の変身は、以前マクゴナガル先生に褒められたけれど……、自分をイメージ通りに変身させることがどれだけ難しいか。この呪文は変身術の中でも一・二を争うくらいに難易度が高かった筈。それを完璧にこなすとなると―――)
エメリア曰く、目くらまし術は自分の服を含めた身体全身に術をかける感覚を得る目的があり、双子の呪文は見た目を模倣する感覚を。そして人の変身は身体のパーツを変化させる感覚を得るために習得する必要があるとのことだった。
そしてそれらが完全に習得できれば、最後のステップだという。フォーラはその内容を読んで目を疑った。そこに書かれていたのは、変身したい相手の血がエスプレッソカップ一杯分も必要だということだった。変身術者はその血に呪文をかけ、そして飲み干さなければならない。あとは変身したい時に先程と同様の呪文―――『イミターティアス・セラム、模倣せよ』と唱えれば、いつでも血を提供した人物の姿になれるという。
(確かにポリジュース薬がなくても他人と全く同じになれるのは凄いことだけど、血なんて飲んだこともないし、それに……)
フォーラはエメリアの記述を読み進めていくうちに、どうして彼女の書いたこの本が忌み嫌われたのか、少しずつ理解した。
一つは『今日の変身』にもあったように、誰もこの魔法を再現できなかったということだ。習得すべき三つの変身術は、相当手練れの大人なら上手く扱えてもおかしくない筈なのに妙な話だ。
そしてもう一つは、やはり血を使わなければならない点だ。これまでフォーラは授業で学んだ魔法の中に、人の血を使うものを見た覚えが無かった。ドラゴンの血は高価な魔法薬の材料として使う例はあるが、きっと人の血を使うというのは闇の魔術に相当するに違いなかった。
そして最後に、フォーラとしてはこの魔法の最も恐ろしく魅力的な部分だと感じた点がある。それは、成りすましたい相手が死んでいようがなかろうが、その人物の血さえあれば血を採取した時の年齢のその人の姿に、いつでも変身できると謳われていることだった。しかも若かりし頃の自分の血を使うこともできるようで、魔法の効果は上手くいけば何と二~四年は持続するという。
フォーラはこの術に感心しつつも、一方で非常に危うい術だとも思った。それ程便利な術だからこそ、欲望に駆られた人間は術が成功するまで、何度でも相手や自分の血を採取するだろう。場合によっては相手を殺してまで血を得ようとするかもしれない。
加えてこの魔法には制約があり、自分が変身すれば、そのことを血の提供者も視覚的・感覚的に把握する仕掛けのようだった。そうなると、やはり悪巧みをしている魔法使いや魔女からすれば、血の提供者が生きているというのは厄介なことなのかもしれない。
フォーラはそのように読み進めていく内に、この本の記述があまりにも自分の手に余るものだと感じていった。最初こそ容易にいつでも他人になれる方法を見つけたと喜んでいた。しかし、闇の魔術と言っても過言ではない魔法に、戸惑いを隠せなかった。