17. 特別な君①
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(本が姿を変える際、『私の期待に応えられる魔力を持ったあなた』と書かれていたけれど……。それは少なくともマダムのことではなくて、私が対象に選ばれていると思ってもいい……のよね?)
あの文面を見る限り、どうやら自分は亡きエメリアのお眼鏡に叶ったうちの一人らしい。理由は分からないにしろ、フォーラはこの不思議な著者の本に目を通す権利を得られたことを嬉しく思った。
その後は四階のいつもの空き部屋に入るや否や、出現させた椅子に腰かけてテーブルにエメリアの本を広げると、最初のページから順に手早く目を通した。主に探したのは『魔法薬と同等の効果のある変身術』だった。より複雑な魔法薬の効果を杖だけで得られれば、自分の変身術は一層強力なものになるかもしれない。そしてそれが騎士団の役に立ち、最終的にドラコを『例のあの人』から引き離すことに繋げられるかもしれない。
フォーラは本に目を通す中で、エメリアの様々な変身術に関する記述が、どれも本当に斬新で魅力的であることにいたく感心していた。そのためつい目当ての変身術が書かれたページを見つけるまでに随分時間がかかってしまった。そしてとうとう正に自身が欲していた変身術を見つけたのだった。
フォーラが開いているページには『ポリジュース薬不要の変身』と記載されていた。彼女はその文字に思わずドキドキと心臓の鼓動を速く大きくさせた。というのも、ポリジュース薬の材料が揃えられない状況下で、これまで何度か『魔法でドラコの知っている誰かになれれば、彼と話ができるかもしれないのに』と考えてきたからだ。その方法が恐らく目の前の書物に書かれている。そう思うと、彼女は学術的な興味も相まって期待感を高めていった。
フォーラはその内容にじっくりと視線を這わせた。まず理解したのは、この変身術はその名のとおりポリジュース薬を飲まなくても特定の誰かとそっくりに変身でき、それをエメリアが『ポリジュースの呪文』と名付けたことだった。次に書かれていたのはその術を成功させるために必要な条件だった。どうやら準備として、幾つかの変身術を完璧にこなせるようになっておく必要があるらしい。
(必要なのは『目くらまし術』、『双子の呪文』、そして『人の変身』、この三つの呪文ね。目くらまし術で全身を透明にするのはまだ安定しない時があるけれど、この中なら比較的できる方だわ。双子の呪文はまだ試したことがないのよね。確か、対象とそっくりの見た目の偽物を作り出す呪文だわ。それから人の変身は、以前マクゴナガル先生に褒められたけれど……、まだ自分をイメージどおりに変身させるのは随分難しいわ。だって変身術の中でも一、二を争うくらいに難易度が高かった筈だもの)
エメリア曰く、目くらまし術は衣服を含めた全身に術をかける感覚を得る目的があり、双子の呪文は見た目を模倣する感覚を。そして人の変身は身体の個々のパーツを変化させる感覚を得るために習得する必要があるとのことだった。
そしてそれらが完全になれば最後のステップだという。フォーラはその内容を読んで目を疑った。そこに書かれていたのは、変身したい相手の血が大体エスプレッソカップ一杯、大体約三十ml程度も必要だということだった。変身術者はその血に呪文を掛け、そして飲み干さなければならない。あとは血に施すのと同じ呪文―――『イミターティアス・セラム、模倣せよ』を好きな時に唱えれば、いつでも血を提供した人物の姿になれるらしい。
(確かにポリジュース薬がなくても他人と全く同じになれるのは凄いことだけど、血なんて飲んだこともないし、それに……)
フォーラはエメリアの記述を読み進めていくうちに、何故彼女の書いたこの本が忌み嫌われたのか、少しずつ理解していった。一つは『今日の変身』にもあったように、誰もこの魔法を再現できなかったという点だ。習得すべき三つの変身術は手練れの大人なら上手く扱えてもおかしくない筈なのに妙な話だ。そしてもう一つは、やはり血を使わなければならない点だ。これまでフォーラは授業で学んだ魔法の中で、人の血を使うものを見た覚えがなかった。ドラゴンの血は高価な魔法薬の材料として使う例はあるが、きっと人の血を使うというのは闇の魔術に相当するに違いなかった。
そして最後に、『ポリジュースの呪文』の最も恐ろしく魅力的な部分だと感じた点がある。それは成りすましたい相手が死んでいようがなかろうが、その人物の血さえあれば、血を採取した時点での相手の年齢の姿にいつでも変身できると謳われていることだった。しかも若かりし頃の自分自身の血も使えるようで、魔法の効果は上手くいけば何と二~五年は持続するという。
フォーラはこの術に感心しつつ、一方で非常に危ういとも思った。それ程便利な術だからこそ、欲望に駆られた人間は術が成功するまで何度でも相手や自分の血を採取するだろう。場合によっては相手を殺してまで血を得ようとするかもしれない。
加えてこの術には制約もあり、自分が変身すれば、そのことを血の提供者も視覚的、感覚的に把握する仕掛けのようだった。そうなると、やはり悪巧みをしている魔法使いや魔女からすれば、血の提供者が生きているというのは厄介なことなのかもしれない。
そのように考えを巡らせるうちに、フォーラはこの本があまりにも自分の手に余るものだと感じていった。最初こそいつでも他人になれる方法を見つけられたと喜んでいたが、闇の魔術と言っても過言ではない内容に戸惑いを隠せなかった。そのため彼女は一旦それらの記述から離れて落ち着こうと、パラパラと適当に別のページを捲ってみた。『ポリジュースの呪文』以外にも幾つか血を使う術が掲載されているのをチラと目に入れながらも、一先ずそれらは見なかったことにして読み飛ばした。
あの文面を見る限り、どうやら自分は亡きエメリアのお眼鏡に叶ったうちの一人らしい。理由は分からないにしろ、フォーラはこの不思議な著者の本に目を通す権利を得られたことを嬉しく思った。
その後は四階のいつもの空き部屋に入るや否や、出現させた椅子に腰かけてテーブルにエメリアの本を広げると、最初のページから順に手早く目を通した。主に探したのは『魔法薬と同等の効果のある変身術』だった。より複雑な魔法薬の効果を杖だけで得られれば、自分の変身術は一層強力なものになるかもしれない。そしてそれが騎士団の役に立ち、最終的にドラコを『例のあの人』から引き離すことに繋げられるかもしれない。
フォーラは本に目を通す中で、エメリアの様々な変身術に関する記述が、どれも本当に斬新で魅力的であることにいたく感心していた。そのためつい目当ての変身術が書かれたページを見つけるまでに随分時間がかかってしまった。そしてとうとう正に自身が欲していた変身術を見つけたのだった。
フォーラが開いているページには『ポリジュース薬不要の変身』と記載されていた。彼女はその文字に思わずドキドキと心臓の鼓動を速く大きくさせた。というのも、ポリジュース薬の材料が揃えられない状況下で、これまで何度か『魔法でドラコの知っている誰かになれれば、彼と話ができるかもしれないのに』と考えてきたからだ。その方法が恐らく目の前の書物に書かれている。そう思うと、彼女は学術的な興味も相まって期待感を高めていった。
フォーラはその内容にじっくりと視線を這わせた。まず理解したのは、この変身術はその名のとおりポリジュース薬を飲まなくても特定の誰かとそっくりに変身でき、それをエメリアが『ポリジュースの呪文』と名付けたことだった。次に書かれていたのはその術を成功させるために必要な条件だった。どうやら準備として、幾つかの変身術を完璧にこなせるようになっておく必要があるらしい。
(必要なのは『目くらまし術』、『双子の呪文』、そして『人の変身』、この三つの呪文ね。目くらまし術で全身を透明にするのはまだ安定しない時があるけれど、この中なら比較的できる方だわ。双子の呪文はまだ試したことがないのよね。確か、対象とそっくりの見た目の偽物を作り出す呪文だわ。それから人の変身は、以前マクゴナガル先生に褒められたけれど……、まだ自分をイメージどおりに変身させるのは随分難しいわ。だって変身術の中でも一、二を争うくらいに難易度が高かった筈だもの)
エメリア曰く、目くらまし術は衣服を含めた全身に術をかける感覚を得る目的があり、双子の呪文は見た目を模倣する感覚を。そして人の変身は身体の個々のパーツを変化させる感覚を得るために習得する必要があるとのことだった。
そしてそれらが完全になれば最後のステップだという。フォーラはその内容を読んで目を疑った。そこに書かれていたのは、変身したい相手の血が大体エスプレッソカップ一杯、大体約三十ml程度も必要だということだった。変身術者はその血に呪文を掛け、そして飲み干さなければならない。あとは血に施すのと同じ呪文―――『イミターティアス・セラム、模倣せよ』を好きな時に唱えれば、いつでも血を提供した人物の姿になれるらしい。
(確かにポリジュース薬がなくても他人と全く同じになれるのは凄いことだけど、血なんて飲んだこともないし、それに……)
フォーラはエメリアの記述を読み進めていくうちに、何故彼女の書いたこの本が忌み嫌われたのか、少しずつ理解していった。一つは『今日の変身』にもあったように、誰もこの魔法を再現できなかったという点だ。習得すべき三つの変身術は手練れの大人なら上手く扱えてもおかしくない筈なのに妙な話だ。そしてもう一つは、やはり血を使わなければならない点だ。これまでフォーラは授業で学んだ魔法の中で、人の血を使うものを見た覚えがなかった。ドラゴンの血は高価な魔法薬の材料として使う例はあるが、きっと人の血を使うというのは闇の魔術に相当するに違いなかった。
そして最後に、『ポリジュースの呪文』の最も恐ろしく魅力的な部分だと感じた点がある。それは成りすましたい相手が死んでいようがなかろうが、その人物の血さえあれば、血を採取した時点での相手の年齢の姿にいつでも変身できると謳われていることだった。しかも若かりし頃の自分自身の血も使えるようで、魔法の効果は上手くいけば何と二~五年は持続するという。
フォーラはこの術に感心しつつ、一方で非常に危ういとも思った。それ程便利な術だからこそ、欲望に駆られた人間は術が成功するまで何度でも相手や自分の血を採取するだろう。場合によっては相手を殺してまで血を得ようとするかもしれない。
加えてこの術には制約もあり、自分が変身すれば、そのことを血の提供者も視覚的、感覚的に把握する仕掛けのようだった。そうなると、やはり悪巧みをしている魔法使いや魔女からすれば、血の提供者が生きているというのは厄介なことなのかもしれない。
そのように考えを巡らせるうちに、フォーラはこの本があまりにも自分の手に余るものだと感じていった。最初こそいつでも他人になれる方法を見つけられたと喜んでいたが、闇の魔術と言っても過言ではない内容に戸惑いを隠せなかった。そのため彼女は一旦それらの記述から離れて落ち着こうと、パラパラと適当に別のページを捲ってみた。『ポリジュースの呪文』以外にも幾つか血を使う術が掲載されているのをチラと目に入れながらも、一先ずそれらは見なかったことにして読み飛ばした。