17. 特別な君①
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フォーラは微かな魔力に導かれるままその根源へと確実に歩み進んだ。そして両脇の書棚に沿って半分程歩いた時、ある一冊の本に非常に心惹かれていることに気が付いた。それは周囲の本と同じく大変古い見た目をしていて、背表紙には何だか無さそうでありそうな、あまり興味のそそられないタイトルがつけられていた。まるで両隣の本のタイトルを足して二で割ったような、そんな感じだ。
フォーラは先程から感じていた魔力が正にこの本から伝わってきたものだと思った。そして恐る恐るその背表紙に手を伸ばし、思い切って触れてみた。しかし特段異変は起こらなかった。そのまま表紙や中のページを捲ってみると、そこにはびっしりと文字や図の書かれたページが続いていた。一見すると物凄い情報量に思えたのだが、幾らか目を通してみると、それは様々な単語を繋げただけの、本とは言い難い代物だと分かった。そしてどういうわけかフォーラは、まるでこの本のページ全てが『隠されている』ように感じた。つまりこういう時は大抵、本当の中身を読ませないようにするため変身術が掛けられているというわけだ。
「レべリオ、現れよ!」
フォーラは試しに本に杖をかざして呪文を唱えてみた。すると、開いていたページのでたらめな文章や図解が消え、一度白紙になったページに別の文字が浮かび上がったではないか。
『私の期待に応えられる魔力を持ったあなた。私を見つけてくれてありがとう』
そしてその文字も消えていったかと思うと、次にフォーラが見たのは今度こそしっかりと読める文章だった。驚いて他のページもパラパラと捲ってみると、その全てにれっきとした文章や図解が印字されているではないか。彼女はまさか思い付きで唱えた呪文で、すんなりとこの本の呪いを解けるとは思わなかった。そして再び背表紙を確認してみると、そこには先程とは別のタイトルが印字されていた。
『真の変身術師のための変身術 エメリア・スイッチ著』
(エメリア・スイッチ……。まさかこれが『今日の変身』に書いてあった絶版本なのかしら?本当に?)
フォーラは探し求めていた名前が目の前にあるのが俄 かには信じられず、一先ず表紙を開いてみた。すると一ページ目にだけ直筆の文字が綴られていた。
『センスの欠片もない魔法使いたちに、善良な目的で開発された私の本を根絶やしにされる覚えはありません。私の完璧な術によって、この本はこの図書室に存続し続けます。秘密を暴いたあなたは、きっとそれを理解したことでしょう』
フォーラはこの走り書きのメッセージを読んで、この本こそが雑誌に記載されていた本で間違いないと思った。この著者は自身の書いた本が信用されなかったこと、そして虚言だと罵られて絶版や廃却に追い込まれたことを随分怒っているようだった。
できれば最初に手に取った雑誌とこの本を借りたかったが、禁書棚の本は内容によっては持ち出しが禁じられている。そのためフォーラはどうしようかと迷いながら、偶然その二冊を重ねて持った。するとどういうわけかエメリアの本がたちまちその姿を変えたではないか。何と表紙からタイトルや著者名が消え、ひとりでに姿形を『今日の変身』とそっくりなものに変化させたのだ。しかもご丁寧にも、雑誌の号数や表紙の絵柄は違うものになっていた。
(!?嘘……これ、さっきの本よね?)
フォーラが恐る恐る偽の『今日の変身』を開いてみると、今度はパッと見た感じではいかにも雑誌らしい、まるで本物の雑誌を真似て作られたような文字の羅列や、一見意味のありそうな写真で埋まっていた。その時フォーラは、先程のエメリアの殴り書きが何を意味するのか何となく理解した。
この本が本棚に収まっていた時は、まるで両隣の本のタイトルを足して二で割ったような名前が背表紙に書かれていた。そしてたった今雑誌に触れさせると、今度は途端にそれと同じような見た目に変化した。もしかするとこれは、エメリアが後付けで自身の著書に掛けた魔法なのかもしれない。そうして触れさせた本に近い姿に変わることで、この本はこれまで廃却されるのを免れてきたのかもしれない。フォーラはそのように思うと同時に、今まで見たことがないくらい高等なテクニックに感嘆しないわけがなかった。
さて、その後のフォーラは手に持っていた二冊を借りようと、マダム・ピンスに禁書の鍵と一緒にそれらの本を手渡した。マダムはその二冊のタイトルにサッと目を通し、おもむろに口を開いた。
「この間、禁書の棚から本を借りようとした生徒が、貸出対象外の本の見た目を変えて持ち出そうとしていたことがありました」
その言葉にフォーラはドキリと心臓を高鳴らせた。いや、そもそも厳密にいえば自分では何も悪いことはしておらず、本が勝手に変化しただけなのだが、内心焦ってしまうのは当然だった。マダムは訝しげな表情をフォーラに向けた後、杖を取り出して先程と同じように二冊とも目掛けて「レべリオ」と唱えた。
てっきりフォーラはマダムの呪文によってエメリアの本の真の姿が現れるだろうと思ったが、偽りの『今日の変身』はうんともすんとも言わなかった。驚きと安堵の入り混じった感情を悟られまいと、フォーラはマダムに相槌を打った。
「悪いことをする生徒も、いたものですね……。」
フォーラが苦笑いをしながら言うと、マダムは彼女を一瞥して手元の二冊を差し出した。どうやら唯の古い雑誌を貸し出さない理由が見当たらなかったようだ。
「貴女は大丈夫だと思いますが、本を汚したり、呪いを掛けたりすることは許しません」
「はい、勿論です。」
フォーラはまだ疑わしげなマダムの視線から逃げるようにして、図書室を足早に立ち去った。それにしても、何故先程のマダムの呪文でこの本は正体を現さなかったのだろう。自分が同じ呪文を唱えた時はあんなにもすんなりと変化したというのに。そう思いながら彼女は人気のない廊下までやってくると、もう一度試しにエメリアの本に呪文を唱えてみた。するとやはりそれは禁書の棚で見た時と同様に姿を変化させた。
フォーラは先程から感じていた魔力が正にこの本から伝わってきたものだと思った。そして恐る恐るその背表紙に手を伸ばし、思い切って触れてみた。しかし特段異変は起こらなかった。そのまま表紙や中のページを捲ってみると、そこにはびっしりと文字や図の書かれたページが続いていた。一見すると物凄い情報量に思えたのだが、幾らか目を通してみると、それは様々な単語を繋げただけの、本とは言い難い代物だと分かった。そしてどういうわけかフォーラは、まるでこの本のページ全てが『隠されている』ように感じた。つまりこういう時は大抵、本当の中身を読ませないようにするため変身術が掛けられているというわけだ。
「レべリオ、現れよ!」
フォーラは試しに本に杖をかざして呪文を唱えてみた。すると、開いていたページのでたらめな文章や図解が消え、一度白紙になったページに別の文字が浮かび上がったではないか。
『私の期待に応えられる魔力を持ったあなた。私を見つけてくれてありがとう』
そしてその文字も消えていったかと思うと、次にフォーラが見たのは今度こそしっかりと読める文章だった。驚いて他のページもパラパラと捲ってみると、その全てにれっきとした文章や図解が印字されているではないか。彼女はまさか思い付きで唱えた呪文で、すんなりとこの本の呪いを解けるとは思わなかった。そして再び背表紙を確認してみると、そこには先程とは別のタイトルが印字されていた。
『真の変身術師のための変身術 エメリア・スイッチ著』
(エメリア・スイッチ……。まさかこれが『今日の変身』に書いてあった絶版本なのかしら?本当に?)
フォーラは探し求めていた名前が目の前にあるのが
『センスの欠片もない魔法使いたちに、善良な目的で開発された私の本を根絶やしにされる覚えはありません。私の完璧な術によって、この本はこの図書室に存続し続けます。秘密を暴いたあなたは、きっとそれを理解したことでしょう』
フォーラはこの走り書きのメッセージを読んで、この本こそが雑誌に記載されていた本で間違いないと思った。この著者は自身の書いた本が信用されなかったこと、そして虚言だと罵られて絶版や廃却に追い込まれたことを随分怒っているようだった。
できれば最初に手に取った雑誌とこの本を借りたかったが、禁書棚の本は内容によっては持ち出しが禁じられている。そのためフォーラはどうしようかと迷いながら、偶然その二冊を重ねて持った。するとどういうわけかエメリアの本がたちまちその姿を変えたではないか。何と表紙からタイトルや著者名が消え、ひとりでに姿形を『今日の変身』とそっくりなものに変化させたのだ。しかもご丁寧にも、雑誌の号数や表紙の絵柄は違うものになっていた。
(!?嘘……これ、さっきの本よね?)
フォーラが恐る恐る偽の『今日の変身』を開いてみると、今度はパッと見た感じではいかにも雑誌らしい、まるで本物の雑誌を真似て作られたような文字の羅列や、一見意味のありそうな写真で埋まっていた。その時フォーラは、先程のエメリアの殴り書きが何を意味するのか何となく理解した。
この本が本棚に収まっていた時は、まるで両隣の本のタイトルを足して二で割ったような名前が背表紙に書かれていた。そしてたった今雑誌に触れさせると、今度は途端にそれと同じような見た目に変化した。もしかするとこれは、エメリアが後付けで自身の著書に掛けた魔法なのかもしれない。そうして触れさせた本に近い姿に変わることで、この本はこれまで廃却されるのを免れてきたのかもしれない。フォーラはそのように思うと同時に、今まで見たことがないくらい高等なテクニックに感嘆しないわけがなかった。
さて、その後のフォーラは手に持っていた二冊を借りようと、マダム・ピンスに禁書の鍵と一緒にそれらの本を手渡した。マダムはその二冊のタイトルにサッと目を通し、おもむろに口を開いた。
「この間、禁書の棚から本を借りようとした生徒が、貸出対象外の本の見た目を変えて持ち出そうとしていたことがありました」
その言葉にフォーラはドキリと心臓を高鳴らせた。いや、そもそも厳密にいえば自分では何も悪いことはしておらず、本が勝手に変化しただけなのだが、内心焦ってしまうのは当然だった。マダムは訝しげな表情をフォーラに向けた後、杖を取り出して先程と同じように二冊とも目掛けて「レべリオ」と唱えた。
てっきりフォーラはマダムの呪文によってエメリアの本の真の姿が現れるだろうと思ったが、偽りの『今日の変身』はうんともすんとも言わなかった。驚きと安堵の入り混じった感情を悟られまいと、フォーラはマダムに相槌を打った。
「悪いことをする生徒も、いたものですね……。」
フォーラが苦笑いをしながら言うと、マダムは彼女を一瞥して手元の二冊を差し出した。どうやら唯の古い雑誌を貸し出さない理由が見当たらなかったようだ。
「貴女は大丈夫だと思いますが、本を汚したり、呪いを掛けたりすることは許しません」
「はい、勿論です。」
フォーラはまだ疑わしげなマダムの視線から逃げるようにして、図書室を足早に立ち去った。それにしても、何故先程のマダムの呪文でこの本は正体を現さなかったのだろう。自分が同じ呪文を唱えた時はあんなにもすんなりと変化したというのに。そう思いながら彼女は人気のない廊下までやってくると、もう一度試しにエメリアの本に呪文を唱えてみた。するとやはりそれは禁書の棚で見た時と同様に姿を変化させた。