16. ドラコの意志
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「誰から贈られようと、この花の力でドラコが少しでも私を気にかけてくれるなら、それでいいわ。」
セオドールは不意にフォーラが耳元で囁いたものだから驚いてすぐに彼女から離れた。自身の心臓の鼓動の速さに狼狽えたものの、その時ふと、先程から自分がすっかり彼女に心をかき乱されている理由を察した。
「君が最近、前よりも色んな人に目に見えて好かれてるのって」
その花のせいなのか?セオドールは最後まで言わなかったが、その質問にフォーラは優しく微笑んでいて、まるで肯定しているようだった。
「もし、以前よりも私がみんなに好意を抱いてもらえているなら……ドラコは、私が他の男の子と仲良くしていたり好意を向けられたりしている状況を、嫌だと感じていると思う?」
フォーラはしたたかさの中に不安を混ぜたような笑みを向けていた。一方セオドールは彼女の魂胆が分かって思わず盛大なため息を吐いた。自分のこの降って湧いたような彼女への焦りや緊張は、全部あの花のせいなのだろう。きっとそうだ。絶対に、何が何でもそうに違いない。そして、彼女は存分にその力を利用してドラコを振り向かせようとしているのだろう。彼はそう結論付けた。
「残念だけど、僕はドラコじゃないから分からないよ。それにしても君がそんなに狡賢いタイプだったとは意外だね」
「だって、忘れているかもしれないから伝えておくけれど、私だってスリザリン生だもの。」
セオドールは思わず面食らった。これまでの彼女の雰囲気が柔らかすぎて、同じ寮ではあるが何故かそのことをすっかり忘れていたのだ。そうだ、彼女も狡猾と揶揄されるスリザリン生の一員だ。今この瞬間だって、彼女は自分と仲良さげに話しているさまをドラコに見せつけているのかもしれない。それが意味を成すか否かは別として。
セオドールにとっては普段よりも随分疲労感のある授業がようやく終わった。彼はさっさとフォーラから逃げるように席を離れて教室を出た。彼女との会話に疲れたのは勿論のこと、相変わらず周囲から羨みに似た視線を浴びている気がしたのだ。すると彼の後ろから自身の名前を呼ぶ声とこちらに駆けてくる足音が聞こえた。彼は振り返らずとも声の主がブレーズであるとすぐに分かった。
「おいセオドール。今日は随分フォーラと楽しそうにしていたじゃないか。警告しておくが、僕が昨日振られたばかりだからってあまり調子に乗るなよ」
「ああ、君、やっと振られたのか。知らなかった」
セオドールは純粋に言葉どおりの意味で発言したつもりだったが、ブレーズは嫌味を言われたと受け取ったため、表情が苛立ちで歪んだ。
「そういう話をしてるんじゃない。お前もフォーラに気があるんだったら―――」
するとセオドールはため息と共にブレーズの話を遮るようにして否定した。
「悪いけど、僕はファントムにそんな気は一切持ってないよ。会話のタイミングや話の馬もそんなに合わないし。あと、君の好みは特別美人な女子だろ?僕からすれば彼女含め、そういう人と一緒になるのは気おくれするし、特に彼女といるとすっごく疲れるんだ」
セオドールはそのように感じたままを伝え、しつこく迫るブレーズを撒いた。すると程なくして今度はドラコが隣にやって来て声を掛けた。
「やあ、今日の授業はどうだった」
「ああ。君もファントムの話を聞きにきたのか」
「は!?……いや、そんなつもりはなかったんだが。カエルは消せたか尋ねようとしただけだ。因みに僕は上手くいった」
「ふうん、そう。それなら僕も消せたよ。途中まで失敗してたんだけど、ファントムにアドバイスを貰ったら成功したんだ」
セオドールはドラコがどんなリアクションを見せるだろうかと、わざとフォーラの名前を出した。しかしドラコは平然としていた。
「良かったじゃないか。だが、次は彼女の世話にならずに済むようにするんだな」
ドラコの反応が予想以上に落ち着いていてセオドールはあまり面白くなかった。とはいえフォーラがドラコの気を惹こうとして取った行動が、本当に全く意味を成さないかどうかはまだ分からないと思った。
「彼女の世話にならないようにだなんて、どうして?僕に嫉妬でもした?」
「……違う。特に深い意味はないさ。僕が彼女を嫌っているのは君も知っているだろう。だからつい嫌味が漏れただけだ」
「なんだ。だけど随分前にも言ったように、そんなに嫌わなくてもいいと思うけどな。君が彼女を避けてる理由は、振られたことも含めて色々あるんだろうけど。……ちなみに今日彼女と話していて思ったんだけど、君にあれだけ冷たくされているのに、どういうわけか彼女は幾らか君に気がある様子だったよ」
その時、先程まで至極冷静だったドラコの表情が、初めてほんの少しだけ強張るのをセオドールは見た。しかしドラコはすぐに落ち着きを取り戻した。
「そんな筈ないだろう。君も冗談を言うんだな。仮にそれが本当だったとしても、僕に恋人がいるのを忘れたわけじゃないだろう」
ドラコはそう呟くと、セオドールを追い越してスタスタと廊下を進んでいってしまった。セオドールはそんな彼の姿に幾らか違和感を覚えていた。
(今のはあまりにも無表情すぎる。恋人がいるなら、他人の好意に対してもう少し迷惑がるか、調子に乗るかのどっちかだと思ったけど)
そこまで考えて、セオドールは何故自分がこんなにもドラコの本音を探ろうとしているのかと我に返った。
(こんなの、まるでファントムのためにやってるみたいじゃないか。……僕らしくなさすぎて、自分でも気味が悪い)
その頃、ドラコは何処に向かうでもなくひたすら足早に廊下を進んでいた。頭の中がごちゃごちゃとして落ち着かない。つい先程までは授業中のフォーラとセオドールの距離の近さに気分を害していた。だからそれとなく授業終わりにあの時の様子を尋ねようとしただけだったのに、まさかセオドールにあんなことを言われるとは思わなかった。本当にフォーラは自分を気に掛けるようなことを話していたのだろうか?しかも仲直りしたいとかいう程度ではなく、気があるだって?
(クリスマスパーティーでのフォーラが、僕に随分好意的な姿を見せていたのはよく覚えている。それに、アンブリッジの部屋の近くで話した時だって……。確かに僕のことを特別な目で見てくれている気はしたけど、気のせいだろうと思っていたのに。……いや、セオドールが勘違いしただけなんじゃないか?それとも僕をからかっていただけかもしれない)
ドラコは今学年に入ってからずっとフォーラに嫌われようと努めてきたが、それなのに最近になって彼の心を揺さぶる出来事が度々起こった。フォーラやセオドールの言動だけではない。ドラコの頭の中には、先日スネイプから言われた言葉が再三思い出されていた。
『もし自分の行動に少しでも躊躇いがあるのなら、その時は自分の意志を尊重しなさい』
(僕の意志は……僕が望んでいるのは、彼女を僕に関わらせないことの筈だ)
ただ、自分の意志を尊重するという意味では一つだけ確実なことがあった。ドラコは最早、フォーラを嫌うことも、忘れることもできないということだった。
セオドールは不意にフォーラが耳元で囁いたものだから驚いてすぐに彼女から離れた。自身の心臓の鼓動の速さに狼狽えたものの、その時ふと、先程から自分がすっかり彼女に心をかき乱されている理由を察した。
「君が最近、前よりも色んな人に目に見えて好かれてるのって」
その花のせいなのか?セオドールは最後まで言わなかったが、その質問にフォーラは優しく微笑んでいて、まるで肯定しているようだった。
「もし、以前よりも私がみんなに好意を抱いてもらえているなら……ドラコは、私が他の男の子と仲良くしていたり好意を向けられたりしている状況を、嫌だと感じていると思う?」
フォーラはしたたかさの中に不安を混ぜたような笑みを向けていた。一方セオドールは彼女の魂胆が分かって思わず盛大なため息を吐いた。自分のこの降って湧いたような彼女への焦りや緊張は、全部あの花のせいなのだろう。きっとそうだ。絶対に、何が何でもそうに違いない。そして、彼女は存分にその力を利用してドラコを振り向かせようとしているのだろう。彼はそう結論付けた。
「残念だけど、僕はドラコじゃないから分からないよ。それにしても君がそんなに狡賢いタイプだったとは意外だね」
「だって、忘れているかもしれないから伝えておくけれど、私だってスリザリン生だもの。」
セオドールは思わず面食らった。これまでの彼女の雰囲気が柔らかすぎて、同じ寮ではあるが何故かそのことをすっかり忘れていたのだ。そうだ、彼女も狡猾と揶揄されるスリザリン生の一員だ。今この瞬間だって、彼女は自分と仲良さげに話しているさまをドラコに見せつけているのかもしれない。それが意味を成すか否かは別として。
セオドールにとっては普段よりも随分疲労感のある授業がようやく終わった。彼はさっさとフォーラから逃げるように席を離れて教室を出た。彼女との会話に疲れたのは勿論のこと、相変わらず周囲から羨みに似た視線を浴びている気がしたのだ。すると彼の後ろから自身の名前を呼ぶ声とこちらに駆けてくる足音が聞こえた。彼は振り返らずとも声の主がブレーズであるとすぐに分かった。
「おいセオドール。今日は随分フォーラと楽しそうにしていたじゃないか。警告しておくが、僕が昨日振られたばかりだからってあまり調子に乗るなよ」
「ああ、君、やっと振られたのか。知らなかった」
セオドールは純粋に言葉どおりの意味で発言したつもりだったが、ブレーズは嫌味を言われたと受け取ったため、表情が苛立ちで歪んだ。
「そういう話をしてるんじゃない。お前もフォーラに気があるんだったら―――」
するとセオドールはため息と共にブレーズの話を遮るようにして否定した。
「悪いけど、僕はファントムにそんな気は一切持ってないよ。会話のタイミングや話の馬もそんなに合わないし。あと、君の好みは特別美人な女子だろ?僕からすれば彼女含め、そういう人と一緒になるのは気おくれするし、特に彼女といるとすっごく疲れるんだ」
セオドールはそのように感じたままを伝え、しつこく迫るブレーズを撒いた。すると程なくして今度はドラコが隣にやって来て声を掛けた。
「やあ、今日の授業はどうだった」
「ああ。君もファントムの話を聞きにきたのか」
「は!?……いや、そんなつもりはなかったんだが。カエルは消せたか尋ねようとしただけだ。因みに僕は上手くいった」
「ふうん、そう。それなら僕も消せたよ。途中まで失敗してたんだけど、ファントムにアドバイスを貰ったら成功したんだ」
セオドールはドラコがどんなリアクションを見せるだろうかと、わざとフォーラの名前を出した。しかしドラコは平然としていた。
「良かったじゃないか。だが、次は彼女の世話にならずに済むようにするんだな」
ドラコの反応が予想以上に落ち着いていてセオドールはあまり面白くなかった。とはいえフォーラがドラコの気を惹こうとして取った行動が、本当に全く意味を成さないかどうかはまだ分からないと思った。
「彼女の世話にならないようにだなんて、どうして?僕に嫉妬でもした?」
「……違う。特に深い意味はないさ。僕が彼女を嫌っているのは君も知っているだろう。だからつい嫌味が漏れただけだ」
「なんだ。だけど随分前にも言ったように、そんなに嫌わなくてもいいと思うけどな。君が彼女を避けてる理由は、振られたことも含めて色々あるんだろうけど。……ちなみに今日彼女と話していて思ったんだけど、君にあれだけ冷たくされているのに、どういうわけか彼女は幾らか君に気がある様子だったよ」
その時、先程まで至極冷静だったドラコの表情が、初めてほんの少しだけ強張るのをセオドールは見た。しかしドラコはすぐに落ち着きを取り戻した。
「そんな筈ないだろう。君も冗談を言うんだな。仮にそれが本当だったとしても、僕に恋人がいるのを忘れたわけじゃないだろう」
ドラコはそう呟くと、セオドールを追い越してスタスタと廊下を進んでいってしまった。セオドールはそんな彼の姿に幾らか違和感を覚えていた。
(今のはあまりにも無表情すぎる。恋人がいるなら、他人の好意に対してもう少し迷惑がるか、調子に乗るかのどっちかだと思ったけど)
そこまで考えて、セオドールは何故自分がこんなにもドラコの本音を探ろうとしているのかと我に返った。
(こんなの、まるでファントムのためにやってるみたいじゃないか。……僕らしくなさすぎて、自分でも気味が悪い)
その頃、ドラコは何処に向かうでもなくひたすら足早に廊下を進んでいた。頭の中がごちゃごちゃとして落ち着かない。つい先程までは授業中のフォーラとセオドールの距離の近さに気分を害していた。だからそれとなく授業終わりにあの時の様子を尋ねようとしただけだったのに、まさかセオドールにあんなことを言われるとは思わなかった。本当にフォーラは自分を気に掛けるようなことを話していたのだろうか?しかも仲直りしたいとかいう程度ではなく、気があるだって?
(クリスマスパーティーでのフォーラが、僕に随分好意的な姿を見せていたのはよく覚えている。それに、アンブリッジの部屋の近くで話した時だって……。確かに僕のことを特別な目で見てくれている気はしたけど、気のせいだろうと思っていたのに。……いや、セオドールが勘違いしただけなんじゃないか?それとも僕をからかっていただけかもしれない)
ドラコは今学年に入ってからずっとフォーラに嫌われようと努めてきたが、それなのに最近になって彼の心を揺さぶる出来事が度々起こった。フォーラやセオドールの言動だけではない。ドラコの頭の中には、先日スネイプから言われた言葉が再三思い出されていた。
『もし自分の行動に少しでも躊躇いがあるのなら、その時は自分の意志を尊重しなさい』
(僕の意志は……僕が望んでいるのは、彼女を僕に関わらせないことの筈だ)
ただ、自分の意志を尊重するという意味では一つだけ確実なことがあった。ドラコは最早、フォーラを嫌うことも、忘れることもできないということだった。