16. ドラコの意志
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この日の変身術の授業は、クリスマス休暇前よりも高度な消失呪文に取り掛かっていた。ふくろう試験の本番では哺乳類か大きな爬虫類を消すことになるだろうとマクゴナガルは予想しており、今日は彼女が魔法で作りだしたカエルなどの両生類を消失させるという内容だった。フォーラは日頃の練習の甲斐あって、見事一発で消失に成功した。マクゴナガルは大満足でスリザリンに二十点を与えたのだった。
一方、彼女の隣のセオドールは、一度消失したカエルがすぐに再び現れてしまうという状況に陥っていた。それを見たフォーラが幾らかアドバイスを提言してみると、何度目かの際に無事、カエルの消失に成功したのだった。
「やったわセオドール!」
「ありがとう、君のおかげだ」
セオドールがフォーラを見やると、術の成功を心から喜ぶ姿が目に入った。その様子に彼は何だか言葉に詰まってしまい、始業ベルが鳴る前も同じ感覚に襲われていたのを思い出した。すると前の席に座っているパンジーがこちらを振り返った。
「セオドール、いいなあ。フォーラ、私も上手くいかなくて。ルニーの方が消えているのよ。悔しいからどうか助言を頂戴?」
「パンジー、私を先にしてもらわないと、残りの目玉が消えないの!気持ち悪くて仕方ないんだから!」
それからは二人も交えてひとしきり練習した。そして最終的にパンジーの方は小さいカエルに選び直したことで先ずは成功を収めたし、ルニーも一匹丸々でやり直して今度こそ上手くいった。そんな中、セオドールは二人に助け舟を出すフォーラの姿から一つ気付いたことがあった。
「ファントム、君は人に教えるのが上手いんだな。てっきり天才肌特有の感覚で話す説明下手なタイプかと思ってたけど。教師とか向いてるんじゃないか」
フォーラはパンジーとルニーが自机の方を向いて練習に夢中になっているのを眺めていたが、セオドールの発言を受けて彼の方を向いた。
「教師?初めて言われたわ。それに考えてみたこともなかった……。将来就きたい職業をまだ決めていなかったから、候補にしてみようかしら。それにしても、セオドールに褒められると妙な感じね。」
「あのさ、僕だって他人への関心が薄いのは自覚してるけど、お礼も言えるし褒めることだってできるさ」
フォーラはクリスマスパーティーの際、彼に『他人への関心が薄い』と発言していたことを思い出した。
「そんなつもりじゃないのよ。気に障ることを言ってごめんなさい。普段あまりお世辞を言わない人から突然素直な意見を伝えられて、戸惑ってしまっただけなの。とっても嬉しいわ。だからどうか拗ねないで。」
セオドールはフォーラがあえて冗談で発した『拗ねる』という言葉に多少の苛立ちを覚え、「そういうところだぞ」と文句の一つでも言おうとした。しかし、彼の返答はまたもや何処かに霧散してしまった。
それというのもフォーラからはまるで子供をあやすような優しい笑みを向けられていて、その表情が何というか、クリスマス以前の彼女と随分印象が違っていたのだ。それこそ彼女にそこまで関心がなかった筈のセオドールですら、新学期に入ってから幾らか魅力的だと思ってしまう程には違っていた。そして、こうして至近距離で話をしていると、以前は感じなかった喉の詰まりが度々起こる気がした。そんな彼は手元に新たに用意したカエルの鳴き声で我に返った。
「拗ねてるとか別に、そういうんじゃない。兎に角、僕の話はいいんだ」
セオドールは一瞬でもカッとなってしまった自分を恥じて、その場を取り繕うように杖を弄びながらカエルに消失呪文を掛けるか迷っているふりをした。そして突然話を終わらせてしまったことに何だか申し訳なさを感じてしまい、『どうして僕がこんなに気を遣ってるんだ』と思いながらも、会話の続きを探した。
「……そういえば君、学期が始まってからは、ずっとその花を髪に着けてるよね。イブの日に誰かから貰ったっていう」
話題を見つけてセオドールが再びフォーラの方を向くと、彼女は彼が杖を弄んでいる間に、先程までは手元になかったカメレオンに消失呪文を掛けている最中だった。会話が終わったと思っていた彼女はその声に驚いてカメレオンの尻尾だけを消し損ねた。セオドールはタイミングの悪さと、会話を繋ごうと気を遣っていたのが自分だけだということに羞恥心が襲った。やはり彼女が言うとおり慣れないことをするものではない。普段なら誰かに自分から積極的に話すことも少ないからこんな失態など殆どないのに、今日はどうも調子が狂っている。
「あ、ごめん」
「ううん、いいの!大丈夫よ。私こそごめんなさい。先生が丁度、偽のカメレオンを持ってきてくださって。」フォーラは残りの尻尾も消失して続けた。
「それで、この花だけど……結局どなたからの贈り物なのか分かっていないの。だけど、とっても可愛くてお気に入りなのよ。」
「そう。でも誰からの物かも分からないのに、よく身に着けていられるね。僕なら嫌厭 してしまうな」
セオドールは先程自分が感じた羞恥心を掻き消すように、思わずフォーラに嫌な態度を取った。しかし彼女はそんなことはどこ吹く風といった様子だ。
「私も最初はどうしようかと思ったわ。だけど、この花にはとっても素敵な想いと魔法が込められていたの。私のことを想ってくれている誰かが贈ってくれたのなら、大切にしたいと思ったわ。」
教室は呪文を唱える声などで全体的にざわついていたが、セオドールは周りに聞こえないように声のトーンを落とし、咎 めるように囁いた。
「想い?どんなのか知らないけど気持ち悪いと思わないの?何度も言うけど、誰から貰ったのか分からないんだろ?差出人がよく知らないおじさんの可能性だってある」
「仮にそうだったとしても、父様か母様のお知り合いからの贈り物だわ。それに、別に誰からの物でもいいの。大切にするわ。」
セオドールは呆れた様子でフォーラを見た。彼女は人の好意が全て善意でできていると勘違いしているのではないか?
「……君、危機管理能力がなさすぎるよ。贈り主が何かの拍子に偶然その花を着けた今の君に出会ったら、色々と勘違いしてややこしいことになるかもしれない」
「セオドール、心配してくれているのね。ありがとう。」
「心配というか、僕は思ったことを言ったまでだよ。君がその花に固執する理由も分からないし」
すると、フォーラはセオドールの腕を自分の方に軽く引いて耳打ちした。
一方、彼女の隣のセオドールは、一度消失したカエルがすぐに再び現れてしまうという状況に陥っていた。それを見たフォーラが幾らかアドバイスを提言してみると、何度目かの際に無事、カエルの消失に成功したのだった。
「やったわセオドール!」
「ありがとう、君のおかげだ」
セオドールがフォーラを見やると、術の成功を心から喜ぶ姿が目に入った。その様子に彼は何だか言葉に詰まってしまい、始業ベルが鳴る前も同じ感覚に襲われていたのを思い出した。すると前の席に座っているパンジーがこちらを振り返った。
「セオドール、いいなあ。フォーラ、私も上手くいかなくて。ルニーの方が消えているのよ。悔しいからどうか助言を頂戴?」
「パンジー、私を先にしてもらわないと、残りの目玉が消えないの!気持ち悪くて仕方ないんだから!」
それからは二人も交えてひとしきり練習した。そして最終的にパンジーの方は小さいカエルに選び直したことで先ずは成功を収めたし、ルニーも一匹丸々でやり直して今度こそ上手くいった。そんな中、セオドールは二人に助け舟を出すフォーラの姿から一つ気付いたことがあった。
「ファントム、君は人に教えるのが上手いんだな。てっきり天才肌特有の感覚で話す説明下手なタイプかと思ってたけど。教師とか向いてるんじゃないか」
フォーラはパンジーとルニーが自机の方を向いて練習に夢中になっているのを眺めていたが、セオドールの発言を受けて彼の方を向いた。
「教師?初めて言われたわ。それに考えてみたこともなかった……。将来就きたい職業をまだ決めていなかったから、候補にしてみようかしら。それにしても、セオドールに褒められると妙な感じね。」
「あのさ、僕だって他人への関心が薄いのは自覚してるけど、お礼も言えるし褒めることだってできるさ」
フォーラはクリスマスパーティーの際、彼に『他人への関心が薄い』と発言していたことを思い出した。
「そんなつもりじゃないのよ。気に障ることを言ってごめんなさい。普段あまりお世辞を言わない人から突然素直な意見を伝えられて、戸惑ってしまっただけなの。とっても嬉しいわ。だからどうか拗ねないで。」
セオドールはフォーラがあえて冗談で発した『拗ねる』という言葉に多少の苛立ちを覚え、「そういうところだぞ」と文句の一つでも言おうとした。しかし、彼の返答はまたもや何処かに霧散してしまった。
それというのもフォーラからはまるで子供をあやすような優しい笑みを向けられていて、その表情が何というか、クリスマス以前の彼女と随分印象が違っていたのだ。それこそ彼女にそこまで関心がなかった筈のセオドールですら、新学期に入ってから幾らか魅力的だと思ってしまう程には違っていた。そして、こうして至近距離で話をしていると、以前は感じなかった喉の詰まりが度々起こる気がした。そんな彼は手元に新たに用意したカエルの鳴き声で我に返った。
「拗ねてるとか別に、そういうんじゃない。兎に角、僕の話はいいんだ」
セオドールは一瞬でもカッとなってしまった自分を恥じて、その場を取り繕うように杖を弄びながらカエルに消失呪文を掛けるか迷っているふりをした。そして突然話を終わらせてしまったことに何だか申し訳なさを感じてしまい、『どうして僕がこんなに気を遣ってるんだ』と思いながらも、会話の続きを探した。
「……そういえば君、学期が始まってからは、ずっとその花を髪に着けてるよね。イブの日に誰かから貰ったっていう」
話題を見つけてセオドールが再びフォーラの方を向くと、彼女は彼が杖を弄んでいる間に、先程までは手元になかったカメレオンに消失呪文を掛けている最中だった。会話が終わったと思っていた彼女はその声に驚いてカメレオンの尻尾だけを消し損ねた。セオドールはタイミングの悪さと、会話を繋ごうと気を遣っていたのが自分だけだということに羞恥心が襲った。やはり彼女が言うとおり慣れないことをするものではない。普段なら誰かに自分から積極的に話すことも少ないからこんな失態など殆どないのに、今日はどうも調子が狂っている。
「あ、ごめん」
「ううん、いいの!大丈夫よ。私こそごめんなさい。先生が丁度、偽のカメレオンを持ってきてくださって。」フォーラは残りの尻尾も消失して続けた。
「それで、この花だけど……結局どなたからの贈り物なのか分かっていないの。だけど、とっても可愛くてお気に入りなのよ。」
「そう。でも誰からの物かも分からないのに、よく身に着けていられるね。僕なら
セオドールは先程自分が感じた羞恥心を掻き消すように、思わずフォーラに嫌な態度を取った。しかし彼女はそんなことはどこ吹く風といった様子だ。
「私も最初はどうしようかと思ったわ。だけど、この花にはとっても素敵な想いと魔法が込められていたの。私のことを想ってくれている誰かが贈ってくれたのなら、大切にしたいと思ったわ。」
教室は呪文を唱える声などで全体的にざわついていたが、セオドールは周りに聞こえないように声のトーンを落とし、
「想い?どんなのか知らないけど気持ち悪いと思わないの?何度も言うけど、誰から貰ったのか分からないんだろ?差出人がよく知らないおじさんの可能性だってある」
「仮にそうだったとしても、父様か母様のお知り合いからの贈り物だわ。それに、別に誰からの物でもいいの。大切にするわ。」
セオドールは呆れた様子でフォーラを見た。彼女は人の好意が全て善意でできていると勘違いしているのではないか?
「……君、危機管理能力がなさすぎるよ。贈り主が何かの拍子に偶然その花を着けた今の君に出会ったら、色々と勘違いしてややこしいことになるかもしれない」
「セオドール、心配してくれているのね。ありがとう。」
「心配というか、僕は思ったことを言ったまでだよ。君がその花に固執する理由も分からないし」
すると、フォーラはセオドールの腕を自分の方に軽く引いて耳打ちした。