16. ドラコの意志
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こんな考え、ただの僻 みだということは十分に承知していた。それなのに性懲りもなくフォーラに言い寄るブレーズへの怒りが収まらない。これだけドラコが彼女に対する諦めの悪さを抱いているのには理由があった。その一つはこの間彼女から向けられた、動悸がしそうな程に熱い好意を孕んだ瞳のせいだった。
『私ね、いつか時が来たら貴方に伝えたいことがあるの。』
フォーラが何を伝えたいのかは定かではないが、そう言った時の彼女は愛の告白でもしてきそうな程に熱っぽかった。いや、それ自体が気のせいである可能性の方が大きいのだが。
そしてもう一つは、クリスマスパーティーでドラコがフォーラとダンスを踊った際、彼女がドラコの腕の中で伝えてきた言葉たちだった。
『本当はもう少しドラコとこうしていられたら、とっても嬉しいのだけど……。』
あの時のフォーラはいじらしく、それを見たドラコは眉間にぎゅっと皺を寄せて視線を逸らし、わざと冷たい言葉を伝えた。あんなにも思わせぶりで心躍る状況に耐えるのは相当な固い意志が必要だった。
(間違いなくフォーラは僕の告白を断った筈なのに、あの時だって……どうしてまるで僕のことを特別な意味で好きなのかと思わせるような表情や言葉を向けてきたんだ?)
しかも屋敷でのフォーラは使用人お手製のドレスを着ていて、それがまた厄介だった。魔法というのは時に杖や呪文を使わずとも力を発揮する場合がある。ドラコが察するに、あのドレスにはメイドのマリアがフォーラに向ける愛情が詰まっていて、それが自然と良い影響を与える魔法に置換されていたのだろう。実際、フォーラと話した人たちは自分を含め、無意識のうちに心地よい本音を伝えたくなっていた筈だ。
そのせいでパーティーの時のドラコはフォーラからのいじらしい言動に耐えるため、必要以上に本音を隠そうと眉間に皺を寄せたり、できるだけ視線を合わせないよう努めたりしなければならなかった。しかしそのように意識しても咄嗟に彼女と目を合わせてしまえば、思わず肯定するような本音を漏らしてしまうのを避けられなかった。
(ドレスが似合うかとフォーラから尋ねられた時だって、少し気を抜いただけで同意してしまった。それにダンス中に転びそうになった彼女を抱きかかえた拍子に、僕は彼女を心配するような言葉を殆ど言いかけていたじゃないか)
『私、まだドラコに褒められたり、心配してもらえたりしているわ……。』
その今にも泣き出しそうな顔で喜ぶ姿を受け、その後のドラコはまたもや正直な感情を曝け出していた。
『そんなの、心配するに決まっているだろう……』
(あんなこと、一切言うつもりなんてなかったのに)
しかしこれ以上フォーラに本音を伝えるつもりはない。ドラコは彼女の前ではこれまでどおり冷たく接すると決めていた。その決心の裏には当然ルシウスの言葉があった。
『来るべき時に備え、今周りにいる友人からいつか離れなければならない覚悟を持っておきなさい。そして、決して心から大切だと思える人を作ってはいけない』
とはいえ、ルシウスからはこれまでドラコが仲良くしていた友人に冷たい態度を取れとは一切指示されていない。しかしドラコからすれば、フォーラにだけはここまでしておかないと、彼女と一線を画せる自信も、言いつけを守れる自信もなかったのだ。
ドラコは再び視界の端にチラつくブレーズとフォーラの姿を盗み見た。相変わらずブレーズが妙に彼女に近い。やはりドラコはそれが心の底から気に入らず、無意識に利き手がベルトに挟んである杖に触れていた。そしてそれに気付くとハッとその手を引っ込めた。
(これ以上フォーラに露呈するような行動をしたって、何も良いことはない)
しかしその直後に再び脳裏に浮かんだのは、スネイプの言葉だった。
『もし自分の行動に少しでも躊躇いがあるのなら、その時は自分の意志を尊重しなさい』
ドラコは押し黙ったまま身動きせずに考えを巡らせた。そして無言で軽く周囲に視線を走らせ、誰もこちらを見ていないのを確認した。その途端に彼はサッと杖を抜き取り、周囲に見つからないように小さく振って小声で呪文を唱えたのだ。するとブレーズが以前同様にその場に浮遊して、軽く後ろに飛ばされたではないか。彼が慌てふためいて「まただ!」とわけも分からず怒るのをドラコはいい気味だと一瞥した。
とはいえ、フォーラがブレーズに近付いて手を差し出し、助け起こしたのは想定外だった。目の前であのような仕打ちを受けた人がいればそうするのが普通なのかもしれない。ドラコはそれが気に入らず軽くフンと鼻を鳴らすと、二人の様子を最後まで見届けることなく男子寮へと向かっていったのだった。
(今の浮遊呪文、前にも……)
フォーラはブレーズの手を取って起き上がらせながら既視感を覚えていた。以前は誰か分からないながらも浮遊呪文の主を追いかけ、その人が恐らくスリザリン生だろうという予想は立てた。他の手掛かりとしては、その残り香がどこか慣れ親しんだシトラスのような匂いだったのだが、彼女はそれが誰のものなのか全く分からないわけではなかった。それこそドラコのものだという確信こそなかったが、心のどこかでそうかもしれないと思うくらいには期待していた。
そのためフォーラはこの談話室にたった今呪文を掛けた誰かがいないか見渡した。すると、彼女の視界には丁度男子寮に向かうドラコの後ろ姿が目に入ったのだ。
(どうしてこのタイミングで立ち去っているの?さっきまで向こうで寛いでいたと思ったのだけど。あまりにもタイミングが良すぎて、こんなのまるで、彼が魔法を掛けたみたいに感じてしまうじゃない)
『私ね、いつか時が来たら貴方に伝えたいことがあるの。』
フォーラが何を伝えたいのかは定かではないが、そう言った時の彼女は愛の告白でもしてきそうな程に熱っぽかった。いや、それ自体が気のせいである可能性の方が大きいのだが。
そしてもう一つは、クリスマスパーティーでドラコがフォーラとダンスを踊った際、彼女がドラコの腕の中で伝えてきた言葉たちだった。
『本当はもう少しドラコとこうしていられたら、とっても嬉しいのだけど……。』
あの時のフォーラはいじらしく、それを見たドラコは眉間にぎゅっと皺を寄せて視線を逸らし、わざと冷たい言葉を伝えた。あんなにも思わせぶりで心躍る状況に耐えるのは相当な固い意志が必要だった。
(間違いなくフォーラは僕の告白を断った筈なのに、あの時だって……どうしてまるで僕のことを特別な意味で好きなのかと思わせるような表情や言葉を向けてきたんだ?)
しかも屋敷でのフォーラは使用人お手製のドレスを着ていて、それがまた厄介だった。魔法というのは時に杖や呪文を使わずとも力を発揮する場合がある。ドラコが察するに、あのドレスにはメイドのマリアがフォーラに向ける愛情が詰まっていて、それが自然と良い影響を与える魔法に置換されていたのだろう。実際、フォーラと話した人たちは自分を含め、無意識のうちに心地よい本音を伝えたくなっていた筈だ。
そのせいでパーティーの時のドラコはフォーラからのいじらしい言動に耐えるため、必要以上に本音を隠そうと眉間に皺を寄せたり、できるだけ視線を合わせないよう努めたりしなければならなかった。しかしそのように意識しても咄嗟に彼女と目を合わせてしまえば、思わず肯定するような本音を漏らしてしまうのを避けられなかった。
(ドレスが似合うかとフォーラから尋ねられた時だって、少し気を抜いただけで同意してしまった。それにダンス中に転びそうになった彼女を抱きかかえた拍子に、僕は彼女を心配するような言葉を殆ど言いかけていたじゃないか)
『私、まだドラコに褒められたり、心配してもらえたりしているわ……。』
その今にも泣き出しそうな顔で喜ぶ姿を受け、その後のドラコはまたもや正直な感情を曝け出していた。
『そんなの、心配するに決まっているだろう……』
(あんなこと、一切言うつもりなんてなかったのに)
しかしこれ以上フォーラに本音を伝えるつもりはない。ドラコは彼女の前ではこれまでどおり冷たく接すると決めていた。その決心の裏には当然ルシウスの言葉があった。
『来るべき時に備え、今周りにいる友人からいつか離れなければならない覚悟を持っておきなさい。そして、決して心から大切だと思える人を作ってはいけない』
とはいえ、ルシウスからはこれまでドラコが仲良くしていた友人に冷たい態度を取れとは一切指示されていない。しかしドラコからすれば、フォーラにだけはここまでしておかないと、彼女と一線を画せる自信も、言いつけを守れる自信もなかったのだ。
ドラコは再び視界の端にチラつくブレーズとフォーラの姿を盗み見た。相変わらずブレーズが妙に彼女に近い。やはりドラコはそれが心の底から気に入らず、無意識に利き手がベルトに挟んである杖に触れていた。そしてそれに気付くとハッとその手を引っ込めた。
(これ以上フォーラに露呈するような行動をしたって、何も良いことはない)
しかしその直後に再び脳裏に浮かんだのは、スネイプの言葉だった。
『もし自分の行動に少しでも躊躇いがあるのなら、その時は自分の意志を尊重しなさい』
ドラコは押し黙ったまま身動きせずに考えを巡らせた。そして無言で軽く周囲に視線を走らせ、誰もこちらを見ていないのを確認した。その途端に彼はサッと杖を抜き取り、周囲に見つからないように小さく振って小声で呪文を唱えたのだ。するとブレーズが以前同様にその場に浮遊して、軽く後ろに飛ばされたではないか。彼が慌てふためいて「まただ!」とわけも分からず怒るのをドラコはいい気味だと一瞥した。
とはいえ、フォーラがブレーズに近付いて手を差し出し、助け起こしたのは想定外だった。目の前であのような仕打ちを受けた人がいればそうするのが普通なのかもしれない。ドラコはそれが気に入らず軽くフンと鼻を鳴らすと、二人の様子を最後まで見届けることなく男子寮へと向かっていったのだった。
(今の浮遊呪文、前にも……)
フォーラはブレーズの手を取って起き上がらせながら既視感を覚えていた。以前は誰か分からないながらも浮遊呪文の主を追いかけ、その人が恐らくスリザリン生だろうという予想は立てた。他の手掛かりとしては、その残り香がどこか慣れ親しんだシトラスのような匂いだったのだが、彼女はそれが誰のものなのか全く分からないわけではなかった。それこそドラコのものだという確信こそなかったが、心のどこかでそうかもしれないと思うくらいには期待していた。
そのためフォーラはこの談話室にたった今呪文を掛けた誰かがいないか見渡した。すると、彼女の視界には丁度男子寮に向かうドラコの後ろ姿が目に入ったのだ。
(どうしてこのタイミングで立ち去っているの?さっきまで向こうで寛いでいたと思ったのだけど。あまりにもタイミングが良すぎて、こんなのまるで、彼が魔法を掛けたみたいに感じてしまうじゃない)